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本編
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窮屈なジャケットの袖に腕をはめると、俺は大きくため息を漏らした。
着なれない硬っ苦しい真っ黒のスーツは、後にも先にも今しか着ないだろう。
「おい、助っ人! そんなボサボサの頭でホールに立つなよ?」
先輩従業員から早速お叱りを受けた。
鏡に映った自分の顔はいまだ見慣れない。
異世界に転生したのが……二ヶ月? 三ヶ月? まあ、数ヶ月ほど前に遡る。
前世の記憶はあるものの、外見は全く違っていた。
前世の俺はこんな金髪の髪ではなかった。カラーリングもしたことがない真っ黒のサラサラショートヘアーを、無理矢理オールバックに固めていた。でも転生した今、髪の長さは肩くらいまである、金髪ストレートヘアーになっていた。目はブルー……というより水色と言った方が良さそうだ。
その上体が華奢なものだから、大体は年相応に見られない。
二十六歳で転生したからこっちの世界でも二十六歳で通しているが、見た目だけだと、成人しているようには見えない。その辺を歩いている学生のほうがよほど大人びて見える。
普段はこのホテルの厨房で下準備や皿洗いを任されている。転生した後、数日街を彷徨ったあげく、野垂れ死にそうになったところを助けてくれたオッサンがいた。その人の伝手で紹介してもらったのがこの仕事だった。
忙しい厨房の雑用係で、ラフな服装しかしたことがない。
こんな高級なホテルの厨房で、綺麗に身なりを整えているのは厨房長くらいのものだ。後は忙しく動き回れるような、着なれたラフな服装をしている料理人が殆どである。
そんな俺がなぜ、今こんな真っ黒なスーツを着ているかというと、ホール係に欠員が出てしまったからだ。
それで下っ端である俺を、厨房長が差し出したというわけ。
「こんなサラサラ金髪のどこがボサボサなんだよ」
サラサラだけは前世から変わっていない。仕方なく手首に嵌めていたヘアゴムで髪を一つに束ねる。
言われていた集合場所は今日のパーティー会場であった。
このホテルに来てから、従業員用の部屋と厨房の行き来しかなかったから、こんな豪華なホールに入っただけで緊張してしまう。
他の従業員に紛れて列に並んだのに、早速、姿勢を正せ! と怒鳴られた。
(おお、怖っ)
「今夜の騎士団員のパーティーはリアム・ラミレス騎士団長も参加される! 要するに、街中の女性が訪れるくらいの覚悟をしておいて丁度いい。今日は特別に、女性の入場は時間予約制になっている。チケットの確認を間違えないように!」
「「「はいっ!!」」」
従業員が揃って返事をすると、各持ち場へと散っていく。
「君、見ない顔だね。名前はなんていうの?」
隣に並んでいた、すらりと背の高い男性に声を掛けられた。
「タチバナマヒロ。マヒロでいいよ。普段は厨房にいるんだけど、今日は欠員が出たからってこっちに回されて……」
「ああ、助っ人に来てくれたのは君だったのか。俺はジェイク。よろしくね」
ジェイクは見た目からして人の良さが伝わってくる。斜め分けされた黒髪はウェーブさせてサイドに流している。襟足は短く切り揃えられていて、清潔感もある。普通に話していても口角が上がり、笑えば目尻が下がる。その上人見知りもしない。
ここの従業員はβしかいないはずなのに、ジェイクはどう見てもαにしか見えなかった。
とにもかくにも、ジェイクが話しかけてくれたおかげで、俺はなんとか今夜のパーティーを切り抜けようという気持ちになれたのだった。
着なれない硬っ苦しい真っ黒のスーツは、後にも先にも今しか着ないだろう。
「おい、助っ人! そんなボサボサの頭でホールに立つなよ?」
先輩従業員から早速お叱りを受けた。
鏡に映った自分の顔はいまだ見慣れない。
異世界に転生したのが……二ヶ月? 三ヶ月? まあ、数ヶ月ほど前に遡る。
前世の記憶はあるものの、外見は全く違っていた。
前世の俺はこんな金髪の髪ではなかった。カラーリングもしたことがない真っ黒のサラサラショートヘアーを、無理矢理オールバックに固めていた。でも転生した今、髪の長さは肩くらいまである、金髪ストレートヘアーになっていた。目はブルー……というより水色と言った方が良さそうだ。
その上体が華奢なものだから、大体は年相応に見られない。
二十六歳で転生したからこっちの世界でも二十六歳で通しているが、見た目だけだと、成人しているようには見えない。その辺を歩いている学生のほうがよほど大人びて見える。
普段はこのホテルの厨房で下準備や皿洗いを任されている。転生した後、数日街を彷徨ったあげく、野垂れ死にそうになったところを助けてくれたオッサンがいた。その人の伝手で紹介してもらったのがこの仕事だった。
忙しい厨房の雑用係で、ラフな服装しかしたことがない。
こんな高級なホテルの厨房で、綺麗に身なりを整えているのは厨房長くらいのものだ。後は忙しく動き回れるような、着なれたラフな服装をしている料理人が殆どである。
そんな俺がなぜ、今こんな真っ黒なスーツを着ているかというと、ホール係に欠員が出てしまったからだ。
それで下っ端である俺を、厨房長が差し出したというわけ。
「こんなサラサラ金髪のどこがボサボサなんだよ」
サラサラだけは前世から変わっていない。仕方なく手首に嵌めていたヘアゴムで髪を一つに束ねる。
言われていた集合場所は今日のパーティー会場であった。
このホテルに来てから、従業員用の部屋と厨房の行き来しかなかったから、こんな豪華なホールに入っただけで緊張してしまう。
他の従業員に紛れて列に並んだのに、早速、姿勢を正せ! と怒鳴られた。
(おお、怖っ)
「今夜の騎士団員のパーティーはリアム・ラミレス騎士団長も参加される! 要するに、街中の女性が訪れるくらいの覚悟をしておいて丁度いい。今日は特別に、女性の入場は時間予約制になっている。チケットの確認を間違えないように!」
「「「はいっ!!」」」
従業員が揃って返事をすると、各持ち場へと散っていく。
「君、見ない顔だね。名前はなんていうの?」
隣に並んでいた、すらりと背の高い男性に声を掛けられた。
「タチバナマヒロ。マヒロでいいよ。普段は厨房にいるんだけど、今日は欠員が出たからってこっちに回されて……」
「ああ、助っ人に来てくれたのは君だったのか。俺はジェイク。よろしくね」
ジェイクは見た目からして人の良さが伝わってくる。斜め分けされた黒髪はウェーブさせてサイドに流している。襟足は短く切り揃えられていて、清潔感もある。普通に話していても口角が上がり、笑えば目尻が下がる。その上人見知りもしない。
ここの従業員はβしかいないはずなのに、ジェイクはどう見てもαにしか見えなかった。
とにもかくにも、ジェイクが話しかけてくれたおかげで、俺はなんとか今夜のパーティーを切り抜けようという気持ちになれたのだった。
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