婚約破棄王子は魔獣の子を孕む〜愛でて愛でられ〜《完結》

クリム

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39 王宮の大広間にて

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 僕としかもジェスを待っていたのはハンロックで、ハンロックは王族の階段の前にいた。

「サリオン、ジェス。既に謁見は始まっている。王族の列につくぞ」

「俺も?なんでだよ」

 ジェスと手を繋ぎながら階段を上がり、王族非常用の通路から謁見の間に入った。セシル兄様が手招きをして、僕は壇上の隅に滑り込む。

「アーロン……」

 段下にはアーロンとマリアナ嬢が赤いカーペットの真ん中に片膝をついて、父様に礼をしている。爵位一番高い大公は、階段すぐ下のカーペットの縁にいる。その背後四方にはずらりと並んだ近衛隊がいる。側仕え騎士もこの中には入ることが許されないのだ。

 爵位が一番低い男爵は王族から最も遠くなる。その遠いところにドナムンドが見えた。

「発言を許可する。アーロン、今一度問うが……」

 父様の声に被すようなアーロンの声。それ、不敬罪になるよ、アーロン。

「僕は殿下を愛しています。ただただ僕は、婚約者である殿下の無実を証明したかったのです。殿下は確かに獣に変化しました。殿下の無実を証明した僕こそが、殿下の伴侶にふさわしいと思います。殿下から婚約破棄を申し渡されましたが、国王陛下からお取りなしを」

 アーロンの言葉にジェスが手をぎゅっと握ってくる。僕はジェスの腕を抱きしめた。あまり聞かせたくない話だから。ジェスは優しくて、きっと僕より怒って悲しむだろう。

「王息を全裸にし檻に閉じ込める。貴族子弟子女とはいえ大衆の目に晒すことを不敬罪とは思わなかったらしい」

 父様の言葉に、アーロンは顔を上げた。

「殿下の無実を証明するために最善の策でした。こちらのマリアナが殿下の全き姿を伝えてくれたからこそ、殿下の真実を周知し、僕だけが魔獣である殿下の伴侶たる人物だと知らしめたのです。真実こそ尊いのです。国王陛下、婚約破棄をお取りなしを」

 セシル兄様が立ち上がり、僕とジェスを促して父様の横に出た。

「殿下!僕は殿下を心から愛しています。指先への接吻を許していただけたではありませんか。殿下が獣でも構いません。夜はこちらのマリアナが勤めます」

 マリアナ嬢はアーロンの横でうっとりとしている。もしかするとジェスを見ている僕も、あんな風にうっとりと見ているのかなと考えた。

「ふむ……マリアナ嬢、獣とは、こちらかな。発言を許可しよう」

 父様、何を。父様の背後から魔獣化した僕の姿が出てきて驚いた。セシル兄様が唇に人差し指をつけて、僕に沈黙を促す。ジェスも驚いた顔をしていて、何も知らなかったようだ。

「は、はい。間違いなく殿下で……え、え、どうして?殿下は壇上にいらっしゃるのに」

 僕は壇上に立っていて、鈍色の魔獣はハンロックの横にやってきた。ハンロックはセシル兄様の伴侶だから、壇上にいて帯刀すら許されている王族以外の人になる。

「王」

「うむ、発言を許す」

 ハンロックは壇上横に出て来た。

「この魔獣は我が変幻可能のガルーダだ。サリオンから相談を受け、王に持ちかけ替え玉にした。そもそも王族を全裸に剥き見せ物にするなど万死に値する!」

 ハンロックの唸るような低い声が謁見の間に響き渡る。アーロンとマリアナ嬢は肩を竦めたように見えた。

 でもガルーダにはそんな風な変幻能力はないはずだ。僕は壇上奥からガルーダを見つめていた。すると宰相であるクロルがいつもは細い目を少し開き、小さく口の中で呟いた。すると鈍色の魔獣は、ガウンを着た僕に変わる。城内がざわめいた。

「我が伴侶である王太子が、帰りが遅いサリオンにハーピーを遣わしたところ、この顛末だ。転移陣で帰宮させ、このガルーダを寄越したのだ。サリオンがアーロンの顔を潰したくないと言うからだ」

 アーロンは僕と僕に変幻したガルーダを繰り返し見ている。無茶苦茶だ。ガルーダは喋ることが出来ないのは周知の事実なのだ。だけど、ガルーダの肩にハーピーが乗り、僕の声で話し始めた。それを見てアーロンが納得したように頷いた。

「ああ、だから殿下らしくなかったのですね。いつもの殿下なら短慮にものを言うはずもなく、ましてやこの僕に婚約破棄を申し出るわけはありません。僕らは互いに惹かれています。僕の横には殿下、僕の後ろにはマリアナ、その幸福な布陣こそあるべき姿なのです」

 アーロンの自信が僕を潰してしまいそうだ。僕は……

「 あいつ、気持ち悪い。あいつは自分のことばっかりだ」

 ジェスが僕の手を握りながら、僕の肩に頭を寄せる。

「不安になるな、腹の子が不安になるからな」

 父様が首を横に振ると、肘付き椅子に頬杖をついた。

「アーロンよ。サリオンとの婚約破棄を、王として申し渡す。アーロンよ、サリオンは皆を混乱させた罪がある。王として許すわけにはいなかない。そこでレムリカント王国から出すことに決めた。サリオンをラメタル王国メーテル女王に託したいと思うのだ」

 後ろから黒いドレスのメーテルが現れて、父様に礼を取る。頭には華奢な王冠を被るメーテルはいつも以上に威厳があった。他国のメーテルの登場にどよめきが起こったのは若い子爵以下の爵位で、既に根回しが済んでいたのだろう。大公である叔父様が頷いて下を向く。遠くに見えるドナムンドが少し口を開き、それから黙ってしまう。

「ラメタル王国再建国はパールバルト王国とレムリカント王国が後ろ盾になる。サリオンにはラメタル王国にてメーテル女王の片腕となり国を治めさせよう。サリオンを支える配偶者(コンソート)をこちらのジェスとする」

 ジェスは知っていたように礼をする。父様はガルーダを元の姿に戻すようにハンロックに告げると、月明かりが差し込み始めた大広間から出て行き、僕たち王族もそれに習った。

 アーロンは呆然と父様を目で追い、それから大公に詰め寄っていた。アーロンとマリアナ嬢への罪は問わず、僕の追放と言う結果になったのだ。

 僕の王族としての日々が終わる。王族のみが許される通路を渡る時、セシル兄様がふうと息を吐いてハンロックにもたれかかった。

「大丈夫か?」

 え?

「……広間全域に精神感応系の陣は辛い。目の奥が痛い」

 ハンロックはセシル兄様に肩を貸して歩いていきながら、

「子爵のサポートがあってよかったな。サリオン、魔法学舎の友人に感謝しろよ」

と僕に振り向いた。

「殿下、幻視、幻聴、洗脳と陣を重ねて、すんなりと納得するようにじわじわと展開する。それが大切なのですよ。あの人も無茶を要求なさる」

 クロルも顔色が悪い。多分、クロルも陣を展開していたようだ。

「陣を展開したことを気づかせない陣も存在します。精神間感応を扱える術者は貴重です。ドナムンド殿は若いながら、王太子殿下の良き片腕となるでしょう」

 クロルがかすかに笑って歩いていく。僕は僕のせいで王国全体に向けて、王族が嘘をついたことに身震いをした。
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