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神様が支配する〜俺がお前の神様〜
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~1~
隣の席の西尾の呼吸が荒い。
日本史の授業中、しゃくりあげるようなしぐさをするそれは、多分いつもの発作だ。
「先生、西尾が」
吉良は手を挙げた。
老齢の日本史教師は「あ~、またか」と、教卓から茶色の紙袋を出すと、吉良に投げて寄越す。
「渡しとけ。さあ、ここからテストに出るぞ」
南側窓際一番後ろの席の西尾が、息苦しそうに震えながら紙袋を貰うが、手が震えて開けないでいて、吉良は慌てて席を立ち、紙袋と西尾を抱え席を立たせた。
「吉良、どうしただ?」
無関心
無反応
冷めた表情
それは苦しんでいる西尾に向けられたもので、転校生の吉良には馴染めないものだった。
「お、俺、西尾を保健室に連れていきます」
教師もクラスメイトも、今日幾度目かの授業中断にうんざりしている表情だ。
「あ~、別に行かなくていい。そのうち治まる」
こんなのは病気じゃないと、鼻で笑う日本史教師はこのクラスの担任で、吉良は自分より二十センチ程長身の西尾を教室から連れ出す。
「また、西尾かよ。転校生、お前さ、今日何回目連れてくだ?」
全身が震え始める西尾を抱え廊下を歩くと、隣のクラスから声が聞こえた。
「うるさい。ほっとけへんやろ」
保健室に入っても、中年期に差し掛かる養護女教諭が肩を竦める。
「またか。四回目だぞ。吉良、あのな、過呼吸は……」
「でも、めちゃ、苦しそうだし」
は~っと盛大にため息を着いた養護教諭は、西尾をベッドに寝かせるように指示をしてきて、吉良は西尾を寝かせて紙袋を渡した。
「先生、また、紙袋をくれたのん?今はペーパーバック法はやんないんだよね。さあ、西尾、落ち着いて、ゆっくり呼吸するよ。吸って、吐いて、吐いて。ほら、吉良、つきあってやんな。十分もあれば落ち着く」
全身に力が入り強張るのか、息を吐けない西尾の左手を、吉良は両手で握りしめ、
「吸って、吐いて、吐いて。西尾、大丈夫だから、吸って、吐いて、吐いて……」
と繰り返す。
「きーちゃん、ご…ごめっ…」
「いいから、呼吸」
「う……うんっ……」
クリーム色のパーテーションカーテンの中で次第に落ち着いていく西尾が、黄色みの強いブルーライト軽減眼鏡の下で涙を流したようで、それが耳元に伝っているのを見て吉良はそれを指でぬぐった。
「蚤の夫婦みたいだな、仲良しかお前ら。西尾も落ちつい……寝たんか。発作、二十分か、少し長かったんだな。眼鏡外してやれ」
誰もいない午後の保健室に、梅雨特有の少し粘っこい風が流れてくる。
西尾乃高校は私学高校なのにクーラーがないのは不条理だと、吉良は西尾の眼鏡を外して、やっと規則正しく呼吸をする横顔をぼんやりと眺めた。
色素の薄い髪は長めに目元を隠していて、その下の長い睫毛の下には、縁の緑がかる薄い茶色のビー玉みたいな虹彩があり、抜けるように白い肌はまるで日焼けをしたことがないみたいだ。
東京のテレビや街にいるモデルみたいに綺麗だもんなと、目下背が伸び悩んでいる吉良は、幼馴染みの素晴らしい成長力にただ感嘆した。
ひょろりと背だけが伸び首筋が痩せていて痛々しい程で、西尾の形のいい眉がしかめられ、吉良は慌てて拳法潰れの節くれだつ手で西尾の手を握りしめる。
「もう授業も終わるな。少し見ていてくれ。西尾んとこは婆さんだけだったな。先生、迎えに来れるか電話してくるで」
「あ、はい」
養護教諭が保健室から職員室に行ってしまうと、吉良はパイプ椅子に腰かけて、ぼんやりと西尾の顔を見つめた。
「寝てる顔はちっこい時のまんまだよな」
保育園まで一緒だった吉良を、西尾は覚えていてくれて、転校してきた今日、廊下で会った時吉良も勿論西尾を覚えていて。
ただ……やったらでかくなっていた。
そして……。
びく……と、西尾が身体を震わせ、頭を繰り返し横に振る。寝ているのに過呼吸が起きるのかと、吉良は身構えた。
ひっ……ひっ……と息を吸い込み、過呼吸の発作的様相を見せた西尾が、吉良の手をきつく握りしめたまま唇を開いた。
「お……お姉さん、もう……もうやめて。痛いよ……」
腰を浮かすようにして悶える西尾の薄い毛布の中で、ありありと分かる下肢の変化を見てしまった吉良は、そのまま目を離せないでいる。
「お母さん……お母さん……ごめんなさい……ごめ……」
そこからそれ以上何かが起こることはなかったが、息を不規則に吐き、謝りながら眠る西尾の涙の溜まった眦に、吉良は指をつけ涙をぬぐった。
その指を無意識に自分の口に運んで舐めてしまった。
「甘い……」
その甘さを確かめたくて、吉良は思わず西尾の目元に唇をつける。
「やっぱり……甘い」
保育園の卒園式の時と同じだった。
「なー、母ちゃん。西尾って、姉ちゃんいたっけ?」
なかなか起きない西尾をそのままにするよう言われ、吉良の転校初日は終わった。
中学を併設する私学西尾乃高校は、自宅から歩いて一時間程で、吉良は走って通うためのリュックを降ろすと、リビングで薬を飲んでいた母ちゃんに聞く。
「いるわけないじゃん。圭ちゃんは一人っ子だがね。ママのさ……咲希ちゃんもさ……事故で早かったんだよね」
「母ちゃん、調子悪いなら……」
吉良は学生服のボタンを外して、カッターシャツの腕をまくりあげた。
「うん。今日も里香もおるしね。夜ご飯作ってくれとるで、台所、見てみりん。母ちゃん、風呂行ってくるわ」
母ちゃんが末期の子宮癌だと知ったのは、つい最近だ。
手術を諦めた母ちゃんが選択したのは治療ではなく、癌と共に生きること。延命も治療もせず痛み止だけで生活している母ちゃんは東京郊外のアパートから、田舎に残してきた自宅に十年振りに家に帰った。父ちゃんを東京に置いてだが。父ちゃんは単身赴任になってしまったのだ。
「姉ちゃん、健人兄ちゃんは?」
台所には首を傾けて寝こける二歳になったばかりの息子をおぶり、夕飯を作る姉ちゃんがいて
「お帰り、怜」
と声をかけて来た。
「旦那ちゃんは二泊三日の東京。お父ちゃんのアパートに寄らせてもらうって。あんたさ楽だからって鍋ばっかりはやめなよね」
引っ越してきて、晩御飯の仕度は吉良の仕事になった。
県の子育てネットワーカーである母ちゃんは、東京に行くまで西尾の母ちゃんと一緒に子育てサロンをやっていて、死ぬ前にもう一度活動を始めたいと、短い命を燃やし続けている。
昼中は看護師である姉ちゃんが仕事をしながら母ちゃんのサポートをし、夜には疲れやすく動けなくなる母ちゃんを吉良が補助をしていた。
死ぬまで母ちゃんの好きにさせてやりたい。
姉ちゃんも吉良も離れて暮らす父ちゃんも、同意件だった。
そんな母ちゃんを支える生活にも慣れ、三歳から始めている空手道場にも通えるかなと思っていた矢先の、高校で幼馴染みの西尾の体調不良に首をかしげている吉良は、思わず姉ちゃんに聞く。
「なー、姉ちゃんは俺らが東京行っとる時、ここにいたやん。西尾のこと何か知らん?」
自宅から大きな国道を挟んだ新興住宅街に西尾の家はあり、昔からの田舎町の旧道にある吉良の家とは歩道橋を挟んで少しあるが、母親同士が仲良くなったこともあったし、保育園までは一緒だったから頻繁に行き来があった。
姉ちゃんである里香のことも、「怜くんお姉さん」となついていたから、もしかして「お姉さん」とは、自分の姉を指していたのかもしれないという、とんでもなくとてつもなく恐ろしい考えが浮かんだのだ。
「たまに遊びに来てたよ。あんたのアルバムとか引っ張り出してきてさ。ただ、圭ちゃんおばさんが交通事故で亡くなってからは、来てないかな」
姉ちゃんはおぶった息子をヨイヨイと揺らしながら笑っているから、気軽に聞いた。
「姉ちゃん、西尾になんかしたんか?」
「は?」
「西尾のちんこおっ勃てるような……」
その瞬間、いや、一瞬で、吉良は台所のカレンダーが貼ってあるだけの壁にすっ飛ぶ。
「ってぇ……」
受け身を取ったのは、多分、本能で、頭を打たなかったのは、奇跡、だ。
姉ちゃんは片足蹴りをして「ふっ」と息を吐き流れるような動きで足を戻す。空手師範代の姉ちゃんは、静かに怒り狂っていた。
「お前がでかくなったのは、ちんこだけか?ああん?脳みそも背も小さいままか?うちの旦那ちゃんよりでっかいちんこしやがってさあ」
「いつ見たんだよ!」
「晴樹を風呂に入れてくれたでしょ?そんときだわ。ったく、圭ちゃんなんか、あんたより弟みたいなもんだわ。だのに、言うに事欠いて」
背中の甥っ子がふにゃふにゃ泣き出して、姉ちゃんはヨイヨイと揺らした。
「あいつ『お姉さんって、許して』って泣いたんだ」
「だからって、姉ちゃんを疑うんか?」
「ごめん。でも、なんか、俺、ショックでさあ。なんで西尾あんなんなっちゃったんかなあ。ちんこ勃つ過呼吸ってなんだよ、もう」
吉良はうずくまったまま、硬く跳ね返る髪をかきむしるように、頭を抱える。
姉ちゃんはその頭をわしわしと撫でて、母ちゃん仕込みの肉じゃがを箸に差して吉良の口の中に入れてきた。
「もが」
「『お姉さん』ってのは、よくわからんけど、過呼吸はストレス症だよ。圭ちゃんはお婆さんと二人きりで暮らしてる。大好きなお母さんが交通事故で死んじゃってさ、お父さんはアメリカに単身赴任でさ。あの子は一人で闘ってるんだよ。あたしたちだってお母ちゃんが死んじゃったら分かんないじゃん。でも、あたしには怜がいて、怜と二人でお母ちゃんの思い出を話せるやん?圭ちゃんは一人でずっと抱え込んでるんだ」
「西尾は、一人なんかじゃねーし」
「お婆ちゃんじゃだめなんだよ。だからさ、幼馴染みで親友のあんたが支えてやんな」
~2~
転校してきた高校までは、西尾のお母さんが交通事故にあった国道を越えて、西尾のうちの近くを通って行く。その間に公立高校があるが、それを通りすぎて行かなくてはならず、地域の高校生はほとんどそちらに向かい、吉良は靴紐を直すと再び走り出そうとした。
「吉良?きーちゃんじゃね?」
通りすぎたブレザーに呼び止められ、吉良は振り反る。
短めに刈ったサイドと、前下がりの前髪がチャラさを感じたが、人の良さそうな表情と笑い顔に
「矢田じゃん。おーい、ヤッターマン」
と、叫んだ。
「ヤッターマンは止めてくれよ~」
「俺がきーちゃんなら、お前はヤッターマンやんか」
「糟 矢田っつってんやん。吉良、いつ帰ってきたん?」
保育園の時も背が一番高い方だった矢田は、西尾よりも少し低いくらいの長身で、吉良は見上げながら笑う。
「先週。昨日から高校行ってる。私学のな」
「ケッタやなくて?」
「体力面強化で走り」
「すっげ。久しぶりだよな。な、今日夕方暇か?ファミレス行かん?俺、部活休みなんだよ」
部活に入っていない吉良は二つ返事で頷き、手を振って矢田と別れた。走りながら母ちゃんにメールすると、笑いの顔文字が返ってくる。今日は姉ちゃんの仕事が休みで、孫と一日中遊ぶらしい。
夜には帰るとメールを返し、スピードを上げる。姉ちゃんには、西尾を支えてやれと言われたが、一体どうしたらいいか分からない。うだうだと考えていると、転校二日目にして遅刻ギリギリとなり、教室に滑り込んだ。
「あれ、西尾いないじゃん」
隣の席の西尾は来ていなくて、しかし、教室はそれが通常であるように普通に回り、なんだか気味が悪かった。
昼休みに姉ちゃんが作ってくれた弁当を開けていると、前の席の小柄な学生が…自分も小柄なのだが……さておいて……振り向いて来る。
「一緒に食べてもいいかな?」
一瞬女子かと思う可愛い笑顔で、コンビニのサンドイッチを持っていた。
「いいけど」
「ありがと。僕は星野。クラスにはまだ馴れないと思うけど。とりあえず学級委員をやってるんで、よろしく。あ、一緒に食べよは、別に深い意味なくって」
「学級委員?」
意外な感じがした。星野はどちらかというと、クラスを仕切るようなタイプにみえなかったからだ。
「あはは、私学の学級委員なんて押しつけに決まってるじゃん。僕は市外からの入学組だからね」
サンドイッチを口に頬張りながら喋る星野が、細い肩をすくめる。なんとも学生服が似合っていなくて笑ってしまった。
「市外なんて珍しいじゃね?」
「なんとなく、市内の高校に行きたくなくて。えっと、吉良くんは……」
「十年前までこっちにいたからな。帰って来て、入れたのが私学しかないってやつで。まあ、あと二年じゃん、就職まで」
とりあえず就職を視野にいれている吉良にとっては高校卒業が一番のキーワードで、問題なく過ごせればいいのだ。
「そだね、ここ就職高校だし。まあ、そうなると西尾くん、出席日数がね…」
「西尾、そんなに休むんか?」
サンドイッチを食べ終わった星野が、甘そうなコーヒー牛乳のペットボトルを傾け、ごくごくと飲んで彼の昼御飯が終了したらしい。
緑川も人参ご飯をかっ食らい、お茶を飲み干す。
「ほとんど休んでるかな。二年では、昨日が初めて来たよ」
「え、保育園皆勤賞のやつが?過呼吸とかも、なんなんだよ。わかんねえなあ」
「十年間に色々あったんだよ、吉良くんが知らないとこでね、きっと」
星野の言葉の静かな重みに、吉良は男らしい太い眉をしかめた。星野はそれ以上はなにも言ってこず、吉良は弁当箱を閉じる。
「なあ、お前はなんかあったんか?」
「話しても面白くない話だから」
星野がにっこりと笑って言い捨て、終わってしまった。
自宅の近くの唯一あるファミリーレストランに入ると、矢田が既におり、ふざけた色のジュースカクテルを飲んでいる。
「矢田ぁ、なんだよ、それ」
「ブラックカルピス!お前もやったこと、あるやんけ」
矢田はムッとして創作ブラックカルピスを手に、別のドリンクを作り出した。
「俺のも作るんか?」
矢田がグラスを落としそうになり、吉良が「おっと…」と取り上げる。
「お前は自分で注文しりん。俺はあと四個作る」
「まじか?」
ここらへんが小さい頃から変わらない矢田なのだと苦笑しまった。小さい頃から欲張りで、おやつは口に頬張り、なおかつ両手でもらう。
「ほな、俺も作るわ」
ドリンクバーは混ぜて味を作りオリジナルドリンクを飲むものだと、地域唯一のファミリーレストランが出来た頃からの癖で、吉良もホワイトオレンジを作り矢田が大笑いし、テーブルで談笑した後意外にも矢田から切り出してきた。
「そっちにさ、西尾いるだろ?あいつ、大丈夫か?」
吉良が太い眉を寄せると、矢田が「やっぱり…」と顔をしかめる。
「うちの親父『千年樹の里』って介護施設長やっててさ、西尾のばーさんちょっとやばいんだよ」
「は?」
吉良が考えていたのとは少し違っていたが、休みの大半はばーさんの奇行に付き合ってると聞き、西尾の追い詰められている生活の一端に驚いた。
「それって、俺に言っていいことなのか?介護施設には守秘義務があってさあ」
姉ちゃんから聞いたことのある言葉を吐いてみると、
「わかってんだけどさぁっ!」
矢田が机を勢い叩く。
一瞬店内が静まり返った気がするが、ざわめきはすぐに戻り、糟谷が視線をそらして頬杖を付きながら、ブラックカルピスを飲み干した。
「お袋がめっちゃ心配してる。だってさ、ガキン頃から俺ら仲間なんだぜ。親子サロンでお袋もスタッフだったし、ずっと一緒だったやん?吉良いなくなってからも、結構遊んだし。俺、四年生クラス一緒だったし」
沈黙したあと、
「俺が遊び、断ったから西尾のやつ居なくなったんだ」
と、矢田が呟いた。
「居なくなった?」
吉良が聞いたことのない言葉に驚く。
二杯目のドリンクを飲み干すと、糟谷がふーとため息をついた。
「あの日さ、俺さ塾あるの忘れてて、西尾と遊ぶ約束してさあ。んでお袋に言われて遊べんくなったから、西尾は西尾んちに一人で帰ったわけ。そしたら夕方、西尾の母さんから電話かかってきてよ」
「ほんで、西尾母ちゃんは事故にあったんか」
「うん。西尾はそのあと国道の脇の倉庫で裸で泣いとるのを見つかって、そっから学校に来んくなった」
西尾は母ちゃんが事故にあった頃……何された?しかし、考えても過去なのだ。
「なあ、矢田。俺らに出来ること、やってみいひん?犯人探しとかじゃなくてさ」
本当は犯人を探して、ぶっ飛ばしてと思っていた吉良は、自分に言い聞かせるように、矢田に話した。
「ほうだな仲間だしな」
矢田は何度も頷いた。
次の日も、西尾は休んだ。
星野に矢田の話しをすると、
「とりあえずさ、西尾くんちに行ってみいひん?」
と言われ、星野の提案に吉良は頷き放課後、星野と一緒に西尾のうちに行くことにした。
一本道を曲がり、住宅街に入ると、微かな異臭がする。
「なんか、臭くないか?」
「だから、ごみの臭いでさ」
「吉良くん、焦げ臭い!」
星野が自転車を捨てた。二人分の鞄もアスファルトに落ちたが、吉良も昔遊びに来て知っている古民家に走る。古い屋敷の多い旧道は道が細く、歩道は申し訳ない程度で、その細いラインを完全に潰すように、ごみが散乱していた。
「なんだよ、これっ!」
市指定のごみ袋が庭先を埋めつくし、なおかつ家の中まである。
開けっ放しの居間からはみ出している、明らかに拾ってきたようなブラウン管テレビが何台かあり、そこから発火していた。
「西尾っ!」
吉良は慌てて中に入ろうとするが星野に止められ、では先にと火をジャケットで風を作り消そうとしても止められる。
「なんでっ?星野っ」
「いいからっ!」
意外にも星野が柔和で女子っぽい容貌に似合わず低く切り返してきて、その様子に吉良は制止した。
「考えがあんだな?」
星野が頷いた。
「事を動かそう。僕は消防車を呼んでから、吉良くんは中に入る」
大したことはないボヤで、夕刻の人通りの少ないからか、まだ、周囲に気づかれていない。
叫べば周囲から人が来るが、星野はそれでは駄目だと言い放った。
「幸い、僕らはシャイな高校生で、自分たちで何とかしようと過信している若さも持ち合わせている」
星野はどうやら策士のようで、煙が家の中に充満し、臭い以外他に漏れていない風向きなのを確かめていた。
「わかった」
吉良は体育で使ったあとのフェイスタオルを顔に当てて縛ると、電話をしている星野からアイコンタクトを受けて、ゴミを踏み越えてゴミが少ない玄関から室内に入る。
テレビのワイドショーでゴミ屋敷の映像を見たことはあるが、背の高さまであるわけではなく、人間がなんとか通れるようにしてあった。
平屋の古い屋敷は、小さい頃何度も遊びに来た。入ってすぐ左の仏間に小さくなったばあちゃんがいて、どこか焦点が合わない感じで、じいちゃんと西尾の母ちゃんの写真立てに呪文のようにお経を唱えていた。
火災に全く気づく様子はなく、ゴミの中に埋まって数珠を握りしめ、後から入ってきた星野にも気づかないようだ。
「お待たせ。病状は進行しているね。お婆さんは僕が見ているから、吉良くんは西尾くんを探して」
喋れば煙を吸い込むから頷いて、キッチンを覗きいないのを確認すると、右側の煙が充満している居間に入る。
煙から逃れるように部屋の端に倒れ込んだ西尾が小さく丸まって、痙攣するように身体を震わせていた。
「西尾!しっかりしろっ!」
黄色いレンズ眼鏡が飛んでいて、火の中にある。火を消そうとして、過呼吸の発作が起きたのかもしれない。
咳き込む西尾を起こそうとすると力なく払いのけ、過呼吸特有の吸い込みをして、苦しそうにもがく。
「西尾、逃げるぞっ、立て!」
「……死にたい……もう……つらい……いやだ……」
過呼吸の発作が続く西尾が荒い息の中呟いたのを聞いて、吉良は爆発的な怒りを感じた。
それは多分、必死で生きている母ちゃんと重なり怒りを感じだのだ。
吉良は制服姿で倒れている西尾の腹に乗って、仰向けに羽交い締めにする。下肢に過呼吸の時に何故か高ぶる西尾の屹立が当たるが、それすら押し潰した。
音がしてテレビが発火し火花が散り、真っ黒な煙の中、顔からタオルを剥ぎ取り、西尾の胸ぐらを掴み顔を引き寄せた。
「死ぬことも、息を止めることも、この俺が許さない!」
「きーちゃ……」
吉良は噛みつくように、西尾の眦に唇をつけた。西尾を泣かせるものも、許せない。甘い涙は、泣き顔は、吉良の為でなければ許せないと腹の中から爆発的に思ったら、口からついて言葉が出た。
「今から、俺が、西尾の神だ」
西尾が目を丸くして息をするのも忘れたように、吉良を見つめる。
吉良は静かに怒りながら言い放つ。
「神である俺は、今死ぬことを絶対に許さない。正しい呼吸をしろ、西尾」
西尾が泣きながら怯えつつ何度も頷き、近くなってきた消防車と救急車のサイレンの音に、吉良は我に返る。
今、俺、何を……。
「消防車、来た!西尾くんと早く出て!」
吉良は西尾の腹から退くと、黒い煙に変わった部屋から西尾を連れ出し、部屋から動かないばあちゃんを近所の人と引き摺り出した星野を見て、脱力感にアスファルトへ座り込んだ。
~3~
吉良は頬杖をついて窓から外を見ていた。二階の窓からは、背の高い西尾がいないと、正門から通行人がよく見える。こんな風景を毎日見ていたのかと、吉良は西尾の事を思い出した。
「はあ……」
警察には怒られたものの感謝状を貰ってしまうという、理不尽つつ照れ臭い状態に陥った昨日、見舞いに行くと、病院で過呼吸の発作を起こしていた西尾を叱りつけてしまったのだ。
過呼吸の発作時に、はっきりと分かる下半身の劣情に苛ついて、自分でもよく分からない感情となり、母ちゃんの目の前で怒鳴り散らした吉良に、西尾は驚いた表情をし息を止めてから、自分で呼吸を意識してコントロールした。
「なんだ、治まるじゃん、過呼吸」
何の気なしにふて腐れて呟いた吉良に、
「だ……だって、きーちゃんが居てくれるから」
と、じっと見つめ返してきて、居心地が悪くなって病室から逃げ出したのが、昨日だ。
「気落ちしてるじゃない、『神様』」
「やな奴だな。俺が神様なら、お前は天使だな、星野。あ、堕天使の方な。なんなん、あの策士っぷり。警察へわざわざ泣きついたやろ?なんなん、お前、二重人格ぱねえよ」
前の席の星野が当たり前のように後ろを向いて、サンドイッチを広げてきた。吉良は爆弾おにぎりを出すと、無言で口に運ぶ。
「おっきいね、それ。花火の玉みたい」
「周囲36センチあるからな。うちにあるもんぶっ込んで、飯でだんごにしてのり巻いた」
具がすぐに口にはいるから、大成功だ。
しばらく飽きるまで爆弾おにぎりにしよう、西尾にも食わしてやろうと考えた。
「西尾くん、おばあさんの監視ストレスによる過呼吸だって?」
昨晩、救急車で市民病院に連れていかれた西尾は、精神的に不安定で吉良の手を握ったまま離せなくて、処置室内にまで付き合った時に、自分から煙を見て過呼吸で倒れてしまったと話をしていた。
過去に市民病院の小児科に受診していた西尾のカルテでは十歳の時は通院していたと、姉ちゃんの友達の看護師さんが……迎えのために駆けつけた……昔馴染みの姉ちゃんにひそひそ話しをしていたのを、星野とこっそり聞いていた。
警察官の話しでは、ばあちゃんがゴミの収集を始めたのは半年ほど前からで、徘徊が酷かったらしい。西尾はばあちゃんが疲れて寝たら、ゴミを片付け棄てて、ばあちゃんが徘徊しないように見張る日々が続いていたらしい。
それではあの過呼吸の根本的原因にはならない。
「星野、お前さ、結構物知りだよな。な、過呼吸ってちんこ勃つんか?」
食後にざわつく教室の中で小声で話すと、星野が目を丸くする。
「……息苦しい時に?普通はないねえ」
「だよな……」
普通じゃない……では、西尾はなんで……。
吉良は考えがまとまらなくなり、唸りながらおにぎりを頬張った。
部活に入っていない吉良は学校が終わると、リュックを背中に自宅へ走る。徒歩一時間の距離も、脚力もそこそこあるから、大したことはない。
大抵、癌が転移して腕が上がりにくくなっているから、洗濯物をしまえない母ちゃんの代わりに、なるべく早く洗濯物を取り込んでしまいたい吉良は、梅雨の曇天を振り払うように頭を振った。
どちらかというと新しい二階家が多い地域に住んでいる吉良は、庭先の門をくぐって母ちゃんのボランティア畑の芋の苗を確認した。
親子サロンに来る親子が秋に芋掘り出来るように、吉良と姉ちゃんとで畝を作り、苗を植えたのだ。秋まで母ちゃんが持つかは分からないが。
「根がついたな、良かった」
洗濯物を取り込もうと、その先の軒先に目を向けると、「へ?」とすっとんきょうな声が出てしまう。
軒先を頭で破りそうなひょろっとした長身が、母ちゃんのでかいショーツを取り込んでいるのだから。
「わー、西尾!それ、オバハンパンツだぞ!」
西尾が色素の薄い長い前髪を少し持ち上げ、
「お帰り、きーちゃん」
と、続いて吉良のトランクスを取り込んでいく。
「いやいやいやいや、まてまてまてまて!」
「早く取り込まんと、雨が降って来そうやん」
首を傾げる仕草は小さい頃のままで、そうではなくて、西尾が吉良家の洗濯物を取り込んでいるのはさておき、一週間は入院すると聞いていたのに。
「母ちゃん、なんで」
母ちゃんは親子サロンで使う七夕の切り紙をしていて、
「圭ちゃん、うちで預かるから。圭ちゃんパパにも国際電話で話したし、父ちゃんも許可したよ」
と笑った。
父ちゃんは母ちゃんが何したって反対しない。
『俺の嫁さんになってもらったこと自体、母ちゃん最大ボランティア』だと、酒を呑むたびに語るくらいだし、母ちゃんの癌がわかってからは、特にだ。
「圭ちゃんと圭ちゃんちに行って、置いてある軽トラに燃えんごみ積んどいて。時間見て捨てにいくし。あと、圭ちゃんが使えそうなもん持っといでん」
西尾ばあちゃんは、矢田のとこの特別養護老人施設に緊急措置で入ったらしい。西尾は一人になってしまったのだ。そんな西尾を放っておける母ちゃんではない。
「西尾~、お前んち行くがや」
「う、うん。待ってよ、きーちゃん」
人生全てボランティアな母ちゃんの意見には逆らえず、吉良は西尾と歩道橋を渡る。
軍手をはめると、煤で黒くなった西尾の家の庭で水浸しになった、発火の原因のテレビを白の軽トラックに積んだ。
「西尾、服とか、お前使うやつ持って来りん」
「きーちゃんは?」
つるの少し焦げた眼鏡を拾い上げて、眉をしかめていた顔にかけた西尾が、不安そうに下を向く。サングラスかと思っていたが、パソコングラスに度を入れた眼鏡で、これがないとあまり見えないと苦笑いをしていて、安っぽいプラスティックのつるがあまり似合ってないなと、吉良は思った。
「俺は外片付けるし。はよ、やろうぜ、腹へった」
「うん」
中に入っていく痩せた背中を見ると、十年前、姉ちゃんとこっちに残っていたらと、考えずにはいられない。
「いや、やめとけし、俺」
考えを振り払い、古いブラウン管テレビをトラックに押し込むと、不燃物をまとめて押し込み、山まで走っても飛ばないようにロープで固定する。
「兄ちゃん、こないだの子かん?お手柄だったのん。ここ、片付けるんかん?ごみステーション、特別に開けたるわ。目一杯詰め込んでもいいがん」
片付けをしていると区長の奥さんが斜め前の広場にある箱形の扉の南京錠を開けてくれ、管理当番のおばちゃんが一緒になって市指定のごみ袋を並べていく。
「おばあちゃんもさ一人娘交通事故に合わしゃしてから、お孫さん女手で育てらしゃったがん、疲れてボケたんかのん」
「はあ」
相づちを打ちながら、運んでいると、近所からおばちゃんと中学の制服の女の子が出てきて、バケツリレーのようにごみが運び込まれる。
「お孫さんが必死で片付けるの知っとったけど、敷地内は私ら片付けられへんもん」
ごみステーション半分が埋まった辺りで、とりあえず片付けを終えて、あとは別の日にごみステーションを開けてくれることになり、西尾に声を掛けるため、吉良は室内に入った。
「西尾、挨拶しりん……」
西尾が少なくなったおばちゃんたちに頭を下げたが、髪の長い中学生が西尾を見て頭を下げたのを見て、西尾の表情が変わる。
誰もいなくなった道を見つめていた西尾の体の力が抜けて、煤と水にまみれた床に座り込み、息を吸い始め、過呼吸の症状が現れた。吉良は西尾の顔をつかんで引き上げる。
「西尾、俺を見ろ!」
「きーちゃっ……」
吉良が目を見開いたまま息を吸い続ける西尾の唇を、自分のそれで塞いだ。
舌に感じる唾液が甘い。
信じられなくて舌を差し込むと、唾液を絡めとる。
「……はっ……」
垂れていた西尾の腕が、吉良の手に添えられ深く息を吐いた。
「ぅわっ……!」
発作が治まった西尾が吉良にしがみついてきて、吉良は咄嗟のことに踏ん張りが効かず、無様に倒れ混み、背中をしたたかに打ちながら西尾を抱き止める。
嗚咽が漏れていて西尾が泣いているのがわかり、きつく抱き締めてやった。
~4~
多分、髪の長い女が『お姉さん』だ。ねえちゃんは、昔からショートカットだから、違う。
吉良はまだしゃくりあげる西尾の手を引いて、荷物を持ちながら歩道橋を下り、卒園した保育園の横を通りすぎ自宅へ帰る。
無意識下にある『お姉さん』が、西尾の過呼吸の一因になっているのには間違いない。西尾に聞いてみると、西尾は西尾の母ちゃんの事故った辺りの記憶が飛んでいて、分からないのだから。
これは、博識そうな星野に聞いてみるのがいいかもしれない。吉良が園児みたいにべそべそ泣いている西尾の手を強く握り、来るべく母ちゃんのカミナリに備えた。
「ただいま、母ちゃん」
「おかえ…くさっ…風呂!」
料理用お玉を持った母ちゃんのゲキが飛ぶ。
「シャワー浴びといで!何やっとったん?ごみ臭いし、煤だらけで。いい?入ったら洗濯機回しんよ!」
言い訳をしようとしたが、母ちゃんは西尾の荷物を鷲掴みにすると、吉良と西尾を風呂に追いやって乾いてまだたたんでいないバスタオルを二枚投げて寄越した。
「早よ、まとめて入りん。ついでに風呂洗って」
「は~?二人で入れとか言うん?」
「汚いのもはまとめる!はい、文句言わないよ。母ちゃんが久々にご飯作るんだからね」
背の高い西尾を連れて、吉良は脱衣室で制服を脱ぐ。今日洗って干さないと、明日着ていく制服がない。
「西尾、早よ、脱げ」
「う、うん」
吉良が脱いでから、シャワーのカランをひねる。頭から熱い湯を浴びていると、痩せてあばら骨が浮き出た西尾が、そろそろと入ってきた。
「お前、ガリガリじゃねえか。うわ、背中も肋骨でてるやん。で、なんで前押さえてんの?」
西尾の腕も足も白く細くて、空手をして筋肉のついた体躯の吉良はひょいと、西尾の両手首を掴み、万歳をさせるように開く。
「やっ……きーちゃん……やだよ」
「勃っ……てんじゃん」
「お……治まんなくて……」
過呼吸の発作が落ちついたのに、まるで副反応のような屹立を見て、吉良は手を添えた。
「きーちゃんやだっ」
「うるっせえ。触りっこしたことあんじゃん。チビの頃」
西尾が痩せた尻を引いたがそこは壁で、吉良は熱い湯の雨の中、手についた先走りを舐める。
それはやっぱり甘くて、確かめようと膝をつき切っ先を口に含んだ。
じわりと甘味が広がり、舌で扱くと溢れ出す甘露を舐め取る。
「やっ……離し……ひっ……出るからっ……」
吸いながら数回唇を動かしただけで追い詰められてしまったらしい西尾が、必死で腰を退きながら逃れようとするのを、腰を掴んで止めて啜ってやった。
「……っん……あ……あ!」
息を止めて吐き出す西尾の吐露は、濃厚で信じられない程甘くて、嚥下したあと吉良は半泣きで口を押さえ見下ろす西尾に、真面目に聞いたのだ。
「西尾、お前、糖尿病か?ネクターの味がする」
「馬鹿だよね、吉良くんって」
屋上で糖度計を持つ星野が、吉良に視線を寄越しながら、その測定器に、指につけた液体を乗せるように顎を向けた。
「馬鹿って言う奴が馬鹿やーん?」
「じゃあ、考えなし」
地震津波用にフェンスを張り巡らせた屋上は、雨が降りそうな曇天模様で、当然だがここで弁当を食べようなんて考える無駄体力を使う男子高校生はいない。
西尾はわざわざ見なければ、道が見えない屋上で昼食を食べるようにしていたらしく、吉良は思い付いた事案を試すべく、星野を呼びつけた。
「大体、人間の精液が甘いわけないじゃん。ほら、ゼロ数値」
西尾はフェンスの隅っこで膝を抱えて、曇天空より心中曇天模様で半泣きだが、吉良にとっては西尾の体液そこかしこが甘いことが大問題で、何かしらの病気だと考えていたところ、星野が科学部で果物の糖分を測る実験をしていると聞いたから、渡りに船というわけだ。
「おっかしーな、俺のは甘くないのに、西尾のは甘いんだぜ?」
「……君、自分の舐めたの?」
「朝勃ちのやつ、少しな。お前のはどうなんだ?」
真顔である緑川に、星野が糖度計をアルコールで丁寧にそれは丁寧に拭ってしまう。
「提供せんて。ねえ、西尾くん、屋上のトイレ、行ってきたら?治まらないでしょ、ちんこ」
星野に言われて西尾がよろよろと立ち上がり、学生ズボンのベルトを押さえて歩いて行く。
吉良が見送りながら弁当を掻き込んでいると、ちら……と恨めしそうな表情をしてきたが、震災用トイレに入って行った。
「西尾くんの体液が甘く感じるんのは、吉良くんの主観やん」
「科学的に分かりゃそうなる」
「君の味覚おかしくない?まあ、害ないんなら、いいんだ。精液ネクターは笑けるけど。問題は西尾くんが『神様』に精神的に支配されていても、あれだってことやん」
「勃っちまうってことか?」
「そう。過呼吸にかかわる性的衝動。浅はかな考えだと、『お姉さん』に悪戯されて、童貞をいただかれたと」
「発作スタートが十歳やん?童貞捨てんの早すぎないか?」
「お母さんが亡くなって、傷心の西尾少年を癒したのは、家庭教師の『お姉さん』の柔肌。いた、なんで叩くんだよ!」
「なんとなくだ!だいたいな、柔肌うんちゃらが、ストレスとか過呼吸になるかよ!」
「普通はごほうびだよね。じゃあ、西尾くんはレイプされた。強姦されたのほうがしっくりくる」
「男が、女にか?」
「男女問わず、強制的ならそうなるやん」
西尾圭の過呼吸の発作が起きた時に、勃起する反応を学校の女子で首実験して調べていくと、発作の原因の『お姉さんの形状』は、どうやら髪の長い瓜ざね顔の女性らしい。
過呼吸の発作は吉良の声でコントロール出来るようになってきたが、勃起衝動は治まらない。今もわざわざ下を見せて、通りすがった女を直視させ、西尾に発作を起こさせたのだ。
「……肉体の支配をするべきだよ」
「は?」
弁当をしまっていた吉良は、星野が投げて寄越した手の平大のプラボトルを片手で掴み、中のとろみのある液体を見つめる。
「神様無しでは生きられない、みたいな?『お姉さん』の上書きみたいな?エコー用の医療ジェルだけど、まあ、使えるんじゃない?無いよりはましだもんね」
「は?俺に西尾を強姦しろってか?それとも俺が西尾にやられろってか?やめやめ、ないない」
「見ず知らずの女性に西尾くんはとられっぱなしじゃん?」
「うぐっ!」
吉良はそれを弁当ポーチにしまい、立ち上がった。
「ちょっと、西尾を見てくるし。先、戻っとって」
星野がサンドイッチを片付けて立ち上がると、屋上の扉を開け階下に降りていくのを確認して、屋上トイレの扉を叩く。
返事もなければ鍵のあく気配もないから、嫌がらせのように園児用の掛け声をかけた。
「けーいちゃーん、いーれーて。けーいちゃーん」
ガチャと鍵があき恨めし目の… …綺麗なビー玉みたいな瞳は度入りのパソコン眼鏡に隠されているが……西尾が上から見下ろして来る。
「な、何、きーちゃん」
扉を閉めると、学生ズボンの前立てに触れジッパーを下ろしてやると、少量の体液採取のため、吉良に手を突っ込まれ揉まれて中途半端に膨らんでいるそこに、吉良はそっと指を這わした。
「あっ!」
「デザート食いに来た」
グレーのボクサーパンツを引き下げると、黒い染みを作った切っ先はまだ皮に隠れていて、吉良はそっと甘皮を上に持ち上げ、仮性包茎の桃色の先を出してやり舌で舐める。
「んっ!」
母ちゃんの書いた育児ペーパーには、『むきむき体操』などをしていなかったり、罪悪羞恥の為極力触らないでいた男性器は、トラブルを起こしやすいとあった。
実際、星野の先程の推測が邪推でない可能性が、目の前にある。
風呂で剥いて洗うのすら躊躇う西尾には『お姉さん』トラブルがあって、そいつが過呼吸の原因なのだと思うと、なんだか腹が立ってたまらない。
「がっ、学校で、やだ!」
「出さねーと、授業集中して受けらんねだろーが」
今までもそうやって治まるまで保健室にいたり、逃げるように早退していたらしい。
発作が怖くて恥ずかしくて苦しくて、小学校にも中学には行けていなかったと、夜、ぼそぼそと話していた。
鈴口を舌でねぶるとかわいそうな位膝を震わせて悶え、西尾が腰を引くがそれを掴んで唇で扱いてやると、指が尻の狭間に当たり西尾が息を詰める。
「はっ、離し……あっ……あ……ぅっ!」
布越しに尻の穴を指で押してやると掠れた声が漏れ、精液が止めどなく溢れて、西尾を上目遣いに見上げると、泣きそうに眉をひそめた西尾と目が合い一気に濃厚な吐露がやって来た。
「はっ、はあっ、は、ごめ、きーちゃんっ…」
吉良にとっては甘い液体を飲み下し綺麗な桃色の鈴口を舐めると、真っ赤になる西尾の下着と学生ズボンを引き上げてやる。やっと星野の発言と贈り物を理解した吉良は、西尾の明るい柔らかな髪を掴み下を向かせる。
「今夜、お前の身体を支配してやる」
「え?」
腰をかがめている西尾の耳元で囁き、耳朶を甘噛みしてトイレの扉を開けた。
「予鈴が鳴った。急ごうぜ?」
吉良はにやりと笑った。
~5~
母ちゃんは夜しっかりした睡眠を取るために、痛み止と睡眠薬を飲む。梅雨の天候は母ちゃんの病状を一進一退させ、吉良は早くから眠る母ちゃんの為に、早目に晩飯を作る。
洗濯物はなんとなく西尾の仕事になっていたし、掃除もしてくれるが、料理はからっきしで、ばあちゃんが認知症になってからは、コンビニ弁当などで過ごしてきたらしい。そのばあちゃんは矢田の両親が経営する老人ホームで生活してて、毎日西尾と見舞いに顔を出している。見ているだけでは病状は落ち着いているようだが、西尾の保護者にはなり得ないらしい。
「ほい、味見しん」
料理は才能ではないが、西尾はどうにも苦手なようで、焦がすし生焼けだし不思議な味だしで、食材の為にも早々にリタイアしてもらい、吉良の仕事に落ち着いた。それでもうろうろと台所にいるもんだから、皿出しや片付けなど手伝わせてやると、横にくっついて一生懸命になる。
背の高い西尾が背の小さい吉良に雛のようにくっつていているそれが
「爆笑問題みたい」
と母ちゃんの笑いを誘い、母ちゃんが笑う顔を見て西尾も嬉しそうで、吉良は西尾を可愛く思う反面西尾の心に巣くう『お姉さん』の影に、腸が煮えくり返るような怒りを感じていた。
風呂上がりの吉良は、一階の電気を消して二階に上がる。姉ちゃんの部屋に住み着くのは躊躇われたようで、吉良の部屋に小さな座卓を置いて、そこにノートパソコン二台を同時に操る西尾は、どうやら何かのプログラミングをしていた。
「また、パソコンか?」
「う、うん。プログラムのバイト、も、もう、終わるから……」
西尾の新品のパジャマは吉良と色違いで、姉ちゃんからのプレゼントだ。
『お姉さん』に悪しかれど反応する西尾は、年上の『お姉さん』と何かしらあって、背が高かったとは言え十歳の小学生である西尾が弄ばれたにしろ、性的に経験がある。
それを精神的に引きずっているとはいえ、西尾の脳内には『存在』しているのが、吉良には許せないでいた。
経験も記憶すらも支配したい。
『執着』という間違っている感情だと吉良も理解していて、しかし、分かっているが腹が立ち、ふつふつと煮える感情は、西尾を支配したいがための欲望に変質していた。
だから、行動する。
「きーちゃん、終わった、わあっ!」
吉良は背後から首に腕をかけて軽く体重をかけ、引いてある布団に首投げをする。
「きーちゃんっ」
「黙ってろ」
仰向けに引き倒した西尾の眼鏡を外し唇を割ると、歯みがき粉のミントと甘い唾液を舐めて、舌を甘噛みした。パジャマのズボンに手を突っ込むと、すぐに膨らみ始めていて、吉良は力を込めて握り込む。
「い……っ」
痛みに腰を浮かした西尾のズボンと下着を引き下ろし、足の合間に入り込んで、まだ甘皮の中にいる桃色の肉芽を剥き出しにすると、口に含んだ。
「あっ……きーちゃん……」
甘いさらさらとした液体が口の中にすぐに溢れ吉良はそれを軽く飲み下すと、抵抗らしい抵抗をしない西尾の身体を折り曲げ、膝に尻を乗せる。
「でかい身体のわりにちっせえ尻だな」
ポケットで温めたボトルの液体を痩せた尻の合間に塗ると、びくと身体を硬直させた。
怒りに昂りはしていても、吉良はどこか冷静だった。
『お姉さん』から受けただろう『行為』がトラウマとなり、過呼吸の発作を起こさせる。
ならば上書きをすればいい。
しかも意識下の『行為』以上の刺激として。
すぼまる尻の狭間に指を入れるが、無抵抗をいいことに二本の指で襞を拡げてやる。
「結構伸びるんだな」
蛍光灯の下で見る西尾はいやに白くて、少なく薄い下生えからまるで子どものような屹立が腹につくように震え、双珠の膨らみの下の尻襞に医療ジェルを塗った猛る張り出しをくっつけた。
「ぼんやりしてんじゃねぇ、西尾」
尻肉を拡げて襞を伸ばすと、二三回突いてから無理矢理切っ先を捩じ込む。
「ひっ、あっ!痛っ……」
受け入れることに馴れていない尻襞破瓜の固さに、吉良の切っ先は絞るような痛みと抵抗を受けたが強引に腰を進め、動揺と痛みのためか小刻みに呼吸を吸う西尾を深々と貫いて体重を掛けると唇を塞いだ。
尻襞が締まり異物である吉良の存在を排出しようと、内壁が動いている。
「くっ」
吉良は押し退けようとして震える手を伸ばして来たから、その腕を自分の背中に回してやって、唇を触れたまま声をかけた。
「いいか、西尾。お前を支配してるのは、俺だ」
「き、きーちゃん、痛いよぉ」
甘い唾液をすすり上げ、唇を塞いで腰を引くと、星野に図解つきで教えてもらった箇所を勢い突く。
「ひっ、あ!あーっ!」
尻襞が締まり下腹が硬直して、吉良の腹が生暖かい液体で濡れた。
「きーちゃん、やめっ……!」
そこだけを突き続けると唇を離して逃れようと、必死でもがく西尾が、下肢をひきつらせて涙を流す。
「も……やっ……出ないっ……やだからっ!」
逃げようとする腰を掴んで、汗だくの吉良はパタパタと顎から汗を溢し、さらに奥を穿ち尻襞を拡げては最奥を犯し抜き差しを繰り返した。
「きーちゃんっ…もうやめっ……ひ……あああっ!」
襞が締まり吉良は気が遠くなりそうな締め付けの中で、白濁を西尾の体内に排出する。
どくり…どくりとしゃくりあげるような排出の快楽に吉良はため息をつき、しばらく動きを止めた。
「はっ、はあっ、はっ」
楔を打ち込んだまま息の荒い西尾の身体から上半身を引き上げると、暑くてパジャマを脱ぎ、西尾のパジャマのボタンをはずして、真っ白で薄い胸を触る。
「これで終わると思うなよ、西尾」
唯一胸に色づく突起を捻り上げ、吉良は西尾の悲鳴を聞き入れ、腰を進めた。
自分が止められんことってあるんだなと、吉良は裸のまま布団にあぐらをかき、妙に冷静に西尾のうつ伏せの背中を見ていた。
タオルケットを剥ぐと、明け方の青い月明かりにそれよりも青白く痩せた全裸の背中に、伏して小さな尻がある。
先程まで蹂躙した狭間だ。
吉良の切っ先は擦りすぎで赤く腫れていて、トランクスをはきたくなくなるほどだ。
疲れ果ててうつ伏せのまま眠りについている西尾の横顔は涙の筋が白く残り、尻の狭間の会陰から双珠にかけて溢れだした吉良の精液で濡れている。
尻肉を左右に開くと、尻の穴の襞が無惨にも膨らみ充血し血が滲んでいて、吉良は身体をずらして机からオロナインを出すと、指につけて腫れた襞に塗ってやった。
軟らかくほどけてしまう襞の中に指が入ってしまい、中から白濁が溢れ出し、シーツに染みを作り出す。薬を塗るという名目で指を抜き差しすると、何時間も抱き続けていたのに、再び体内に埋めたくなる。
これが執着なのかと苦笑しつつ、徹夜になった窓の外を眺めた。
「もう、やめて!やめて下さいっ。もうやだあ」
何度も泣き叫んだ西尾が混乱して敬語になり懇願したが、許すはずもなくうつ伏せにして、背後から貫くと何度も当たる前立腺が痙攣したのか、膝が崩れて突っ伏したまま、発作に逃げようとする西尾を叱咤し現実に引き戻して、体内に吉良の白濁を注ぎ続けた。
「誰に謝ってる?お前を支配しているのは、俺だ」
何度も何度も繰り返し刷り込む、吉良怜という『神』の存在感。
「きーちゃん!やめて!もう、お願いっ!出ないから、助けてっ!いや、いやだよぉ!出ない~~っ!」
泣きながら無意識に叫び、びくびく震えて意識を失ったのは、疲れはてて寝てしまったのか、過ぎた快楽に擦り切れたのたわからないが、吉良が姉ちゃんのいう人並み以上に太く張り出した屹立で尻を突くたびに西尾の屹立から溢れ出した白濁でシーツは湿っている。
一つだけはっきりしたことがある。
西尾を動揺させたのは挿入行為で、つまり、十歳の時はそれはなかったと言うことだ。『お姉さん』に騎乗位で攻められたのか、仰向けにすると硬直して過呼吸を起こすのだ。
「ん?俺、西尾で童貞捨てたんか」
西尾は『お姉さん』と言う『女』で捨てたというのに、吉良は『幼馴染み』と言う『男』で童貞を捨てた。だが、それは不快ではなく、いや、西尾の相手には不快さを隠せないが、自分が西尾で捨てたと言う事実はむしろ悦びでもあり、ただ西尾の甘い精液を堪能できなかった未練だけが渦巻いているから、西尾の尻の中に入れてかき混ぜていた指を引き抜き、ぺろりと舐めた。
「……苦げぇよ。あれ?でも……」
たんぱく質が空気に触れた瞬間から臭みと独特な苦みが出るのが精液だと、星野が言っていた。
確かに自分が出した精液なのだから、臭くてまずい。しかもオロナインの味が混ざり、もはや渋い。なのに舌に残る微かな甘さは、なんだろう。
もう一度かき混ぜてから舐めると、やはり微かな甘さがあり、西尾の腸液が混ざっているからなのかと、吉良は繰り返してしまう。
「きーちゃん。ゆ、指。は、恥ずかしい……」
「あ、起きたん?」
指を抜くと気だるそうに起き上がった西尾は、うつむいたまま頷いた。
「うん。あの、シャワー、浴びたいんだけど」
腹にも尻にも精液がこびりついた西尾にしてみたらそりゃあそうだろうと吉良は思い、そろっとトランクスをはいて、西尾に剥ぎ捨てたボクサーパンツを寄越し立ち上がる。
「母ちゃんはまだ起きてこねえし、風呂行こうぜ」
階下の風呂場に行くのは少し面倒だが、身体を洗わないとべたべたするから仕方がない。
今後も西尾を組み伏す度にこんな風なんかなと吉良は考えたが、まあ、何とかなるだろうと思う。
「きーちゃん、立てない……」
西尾が膝立ちのまま立てずに、半泣きのまま震えていて、下肢を吉良の出した体液が伝い布団に新たな染みを作っていく。
「は?腰が抜けたんか?けつに力をいれろよ、布団びしゃんこじゃん」
布団にだらだらと垂れる白濁に、西尾がしゃくりあげるように肩を震わせた。
「む、無理っ。きーちゃんがひどいことしたから。あんなおっきいおちんちんを俺の、し、尻の穴に無理矢理、い、入れてきて。ち、力入らない……」
「しっかたねーな。昨日も西尾がじゃーじゃー出したしなあ。シーツも洗うか」
布団にかかるシーツを剥ぐと、西尾の下肢にぐるぐる巻いて、ひょいと抱き上げる。二十センチ程の身長差だから階段が不安になって、
「首につかまっとって」
と、俗に言う姫抱きに西尾が真っ赤になった。
「君たち、けんかでもしたの?」
星野の言葉に、吉良は苦笑いをした。
「まあ……な」
下を向いたままトイレから歩いて来た西尾が、椅子に座る時にびく……と腰を引きそろりと座り直す。
「あれ、いたしたの?」
「おかげさんで」
星野が「ふうん」と呟くのを聞いて、西尾が黄色いフィルターレンズ越しにもわかる程真っ赤になって、吉良を睨んできた。
「西尾、悪かったって」
吉良は真っ赤になったままだるそうに窓側に顔を向けた西尾をちらりと見る。
早朝、風呂に行ったまでは良かったのだ。
西尾の尻襞から漏れ出す白濁を掻き出すのは、立っているのが精一杯の西尾を壁に掴まらせシャワーの中で吉良が手伝った。
指を入れるその刺激で屹立した西尾の甘皮を剥いて、口に含んで舐め扱き勢い薄い体液を採取してしまい、再びストンと腰が抜けたように座り込んでしまった要因を作ったのは吉良だ。
尻襞に傷があり痛みに耐えながら自転車に乗り、繰り返された排出に体力のない西尾は、寝不足も合間って学校でぐったりとしている。それ以上に不機嫌なのは、西尾の布団だけ二階から干して来たことだろう。
まあ、吉良だって初めての行為での擦りすぎで先っぽが痛しいし、全くもって一睡もしていないのだから、おあいこだろうと吉良は勝手に思っているのだが。
「星野、なんであんな詳しいん?」
「好きな子いたから」
「誰?」
「一組の赤羽くん。去年同じクラスだったんだよねー。仲良かったし、林間学校実行委員同士だし、林間で告白しようとか思ってて」
あの浅黒い奴か……と、自分より背が小さい赤羽の顔を思い出す。隣の一組は、女子がうるさいから気の毒だ。
「ね、吉良くん」
前の席から振り向いて話していた星野がひそと声を細めた。
「外」
窓の外を眺め入る西尾の目下、自転車に乗った長髪の女性が見える。しかし、西尾は反応することなく、ぼんやりと……いや……ぐったりと頬杖を付いていた。気づいていないから過呼吸の発作も起きないのか、試しに吉良は隣の席の西尾をつつく。
「下、見てみん」
「なに、きーちゃん」
二人目は遅刻している女子高校生らしい女の子が自転車で走っていき、西尾はそれを見て、
「遅刻かな。あ、あの人」
と、吉良を覗き込んで来た。
「発作、起きないのか?」
吉良は西尾をまじまじと見上げる。
「あ……。き、きーちゃんの守り……あるからかな」
西尾がポケットから手を出して、青色の御守りを握っているのを見せてきた。
それに対して、吉良が少しだけ赤くなる。
朝、学校に行く前に渡した御守りには、とあるアニメを模して、吉良の引っこ抜いた陰毛が数本入っていて、吉良が近くにいなくても発作が起きないようにと渡したのだ。
「見せんな、しまっとけ」
「うん」
ホームルームが始まる前、久々に登校した西尾が、教師に呼ばれて立ち上がる。
「ねえ、吉良くん」
星野が吉良に向き直った。
「君は西尾くんの『神』になった」
「……おう」
「君次第で、西尾くんはどうとでもなる」
「まあな」
「どんな気持ち?」
改めて聞かれるとよくわからなかったが、ただの友達でなくなった感じがする。
「分かるかよ、そんなの。これからだって、分かんねえのに」
「そうだね。まあ、そんなお馬鹿な君だから『神様』になれるんかもね。僕も君みたいになりたい。赤羽くんの『神様』に。彼も大変だし」
「お馬鹿いうなし」
星野は不満そうだったが、ただ、近い将来、母ちゃんが死んだときにこっそり一緒に泣けるのは、多分、西尾とだろうと思った。
隣の席の西尾の呼吸が荒い。
日本史の授業中、しゃくりあげるようなしぐさをするそれは、多分いつもの発作だ。
「先生、西尾が」
吉良は手を挙げた。
老齢の日本史教師は「あ~、またか」と、教卓から茶色の紙袋を出すと、吉良に投げて寄越す。
「渡しとけ。さあ、ここからテストに出るぞ」
南側窓際一番後ろの席の西尾が、息苦しそうに震えながら紙袋を貰うが、手が震えて開けないでいて、吉良は慌てて席を立ち、紙袋と西尾を抱え席を立たせた。
「吉良、どうしただ?」
無関心
無反応
冷めた表情
それは苦しんでいる西尾に向けられたもので、転校生の吉良には馴染めないものだった。
「お、俺、西尾を保健室に連れていきます」
教師もクラスメイトも、今日幾度目かの授業中断にうんざりしている表情だ。
「あ~、別に行かなくていい。そのうち治まる」
こんなのは病気じゃないと、鼻で笑う日本史教師はこのクラスの担任で、吉良は自分より二十センチ程長身の西尾を教室から連れ出す。
「また、西尾かよ。転校生、お前さ、今日何回目連れてくだ?」
全身が震え始める西尾を抱え廊下を歩くと、隣のクラスから声が聞こえた。
「うるさい。ほっとけへんやろ」
保健室に入っても、中年期に差し掛かる養護女教諭が肩を竦める。
「またか。四回目だぞ。吉良、あのな、過呼吸は……」
「でも、めちゃ、苦しそうだし」
は~っと盛大にため息を着いた養護教諭は、西尾をベッドに寝かせるように指示をしてきて、吉良は西尾を寝かせて紙袋を渡した。
「先生、また、紙袋をくれたのん?今はペーパーバック法はやんないんだよね。さあ、西尾、落ち着いて、ゆっくり呼吸するよ。吸って、吐いて、吐いて。ほら、吉良、つきあってやんな。十分もあれば落ち着く」
全身に力が入り強張るのか、息を吐けない西尾の左手を、吉良は両手で握りしめ、
「吸って、吐いて、吐いて。西尾、大丈夫だから、吸って、吐いて、吐いて……」
と繰り返す。
「きーちゃん、ご…ごめっ…」
「いいから、呼吸」
「う……うんっ……」
クリーム色のパーテーションカーテンの中で次第に落ち着いていく西尾が、黄色みの強いブルーライト軽減眼鏡の下で涙を流したようで、それが耳元に伝っているのを見て吉良はそれを指でぬぐった。
「蚤の夫婦みたいだな、仲良しかお前ら。西尾も落ちつい……寝たんか。発作、二十分か、少し長かったんだな。眼鏡外してやれ」
誰もいない午後の保健室に、梅雨特有の少し粘っこい風が流れてくる。
西尾乃高校は私学高校なのにクーラーがないのは不条理だと、吉良は西尾の眼鏡を外して、やっと規則正しく呼吸をする横顔をぼんやりと眺めた。
色素の薄い髪は長めに目元を隠していて、その下の長い睫毛の下には、縁の緑がかる薄い茶色のビー玉みたいな虹彩があり、抜けるように白い肌はまるで日焼けをしたことがないみたいだ。
東京のテレビや街にいるモデルみたいに綺麗だもんなと、目下背が伸び悩んでいる吉良は、幼馴染みの素晴らしい成長力にただ感嘆した。
ひょろりと背だけが伸び首筋が痩せていて痛々しい程で、西尾の形のいい眉がしかめられ、吉良は慌てて拳法潰れの節くれだつ手で西尾の手を握りしめる。
「もう授業も終わるな。少し見ていてくれ。西尾んとこは婆さんだけだったな。先生、迎えに来れるか電話してくるで」
「あ、はい」
養護教諭が保健室から職員室に行ってしまうと、吉良はパイプ椅子に腰かけて、ぼんやりと西尾の顔を見つめた。
「寝てる顔はちっこい時のまんまだよな」
保育園まで一緒だった吉良を、西尾は覚えていてくれて、転校してきた今日、廊下で会った時吉良も勿論西尾を覚えていて。
ただ……やったらでかくなっていた。
そして……。
びく……と、西尾が身体を震わせ、頭を繰り返し横に振る。寝ているのに過呼吸が起きるのかと、吉良は身構えた。
ひっ……ひっ……と息を吸い込み、過呼吸の発作的様相を見せた西尾が、吉良の手をきつく握りしめたまま唇を開いた。
「お……お姉さん、もう……もうやめて。痛いよ……」
腰を浮かすようにして悶える西尾の薄い毛布の中で、ありありと分かる下肢の変化を見てしまった吉良は、そのまま目を離せないでいる。
「お母さん……お母さん……ごめんなさい……ごめ……」
そこからそれ以上何かが起こることはなかったが、息を不規則に吐き、謝りながら眠る西尾の涙の溜まった眦に、吉良は指をつけ涙をぬぐった。
その指を無意識に自分の口に運んで舐めてしまった。
「甘い……」
その甘さを確かめたくて、吉良は思わず西尾の目元に唇をつける。
「やっぱり……甘い」
保育園の卒園式の時と同じだった。
「なー、母ちゃん。西尾って、姉ちゃんいたっけ?」
なかなか起きない西尾をそのままにするよう言われ、吉良の転校初日は終わった。
中学を併設する私学西尾乃高校は、自宅から歩いて一時間程で、吉良は走って通うためのリュックを降ろすと、リビングで薬を飲んでいた母ちゃんに聞く。
「いるわけないじゃん。圭ちゃんは一人っ子だがね。ママのさ……咲希ちゃんもさ……事故で早かったんだよね」
「母ちゃん、調子悪いなら……」
吉良は学生服のボタンを外して、カッターシャツの腕をまくりあげた。
「うん。今日も里香もおるしね。夜ご飯作ってくれとるで、台所、見てみりん。母ちゃん、風呂行ってくるわ」
母ちゃんが末期の子宮癌だと知ったのは、つい最近だ。
手術を諦めた母ちゃんが選択したのは治療ではなく、癌と共に生きること。延命も治療もせず痛み止だけで生活している母ちゃんは東京郊外のアパートから、田舎に残してきた自宅に十年振りに家に帰った。父ちゃんを東京に置いてだが。父ちゃんは単身赴任になってしまったのだ。
「姉ちゃん、健人兄ちゃんは?」
台所には首を傾けて寝こける二歳になったばかりの息子をおぶり、夕飯を作る姉ちゃんがいて
「お帰り、怜」
と声をかけて来た。
「旦那ちゃんは二泊三日の東京。お父ちゃんのアパートに寄らせてもらうって。あんたさ楽だからって鍋ばっかりはやめなよね」
引っ越してきて、晩御飯の仕度は吉良の仕事になった。
県の子育てネットワーカーである母ちゃんは、東京に行くまで西尾の母ちゃんと一緒に子育てサロンをやっていて、死ぬ前にもう一度活動を始めたいと、短い命を燃やし続けている。
昼中は看護師である姉ちゃんが仕事をしながら母ちゃんのサポートをし、夜には疲れやすく動けなくなる母ちゃんを吉良が補助をしていた。
死ぬまで母ちゃんの好きにさせてやりたい。
姉ちゃんも吉良も離れて暮らす父ちゃんも、同意件だった。
そんな母ちゃんを支える生活にも慣れ、三歳から始めている空手道場にも通えるかなと思っていた矢先の、高校で幼馴染みの西尾の体調不良に首をかしげている吉良は、思わず姉ちゃんに聞く。
「なー、姉ちゃんは俺らが東京行っとる時、ここにいたやん。西尾のこと何か知らん?」
自宅から大きな国道を挟んだ新興住宅街に西尾の家はあり、昔からの田舎町の旧道にある吉良の家とは歩道橋を挟んで少しあるが、母親同士が仲良くなったこともあったし、保育園までは一緒だったから頻繁に行き来があった。
姉ちゃんである里香のことも、「怜くんお姉さん」となついていたから、もしかして「お姉さん」とは、自分の姉を指していたのかもしれないという、とんでもなくとてつもなく恐ろしい考えが浮かんだのだ。
「たまに遊びに来てたよ。あんたのアルバムとか引っ張り出してきてさ。ただ、圭ちゃんおばさんが交通事故で亡くなってからは、来てないかな」
姉ちゃんはおぶった息子をヨイヨイと揺らしながら笑っているから、気軽に聞いた。
「姉ちゃん、西尾になんかしたんか?」
「は?」
「西尾のちんこおっ勃てるような……」
その瞬間、いや、一瞬で、吉良は台所のカレンダーが貼ってあるだけの壁にすっ飛ぶ。
「ってぇ……」
受け身を取ったのは、多分、本能で、頭を打たなかったのは、奇跡、だ。
姉ちゃんは片足蹴りをして「ふっ」と息を吐き流れるような動きで足を戻す。空手師範代の姉ちゃんは、静かに怒り狂っていた。
「お前がでかくなったのは、ちんこだけか?ああん?脳みそも背も小さいままか?うちの旦那ちゃんよりでっかいちんこしやがってさあ」
「いつ見たんだよ!」
「晴樹を風呂に入れてくれたでしょ?そんときだわ。ったく、圭ちゃんなんか、あんたより弟みたいなもんだわ。だのに、言うに事欠いて」
背中の甥っ子がふにゃふにゃ泣き出して、姉ちゃんはヨイヨイと揺らした。
「あいつ『お姉さんって、許して』って泣いたんだ」
「だからって、姉ちゃんを疑うんか?」
「ごめん。でも、なんか、俺、ショックでさあ。なんで西尾あんなんなっちゃったんかなあ。ちんこ勃つ過呼吸ってなんだよ、もう」
吉良はうずくまったまま、硬く跳ね返る髪をかきむしるように、頭を抱える。
姉ちゃんはその頭をわしわしと撫でて、母ちゃん仕込みの肉じゃがを箸に差して吉良の口の中に入れてきた。
「もが」
「『お姉さん』ってのは、よくわからんけど、過呼吸はストレス症だよ。圭ちゃんはお婆さんと二人きりで暮らしてる。大好きなお母さんが交通事故で死んじゃってさ、お父さんはアメリカに単身赴任でさ。あの子は一人で闘ってるんだよ。あたしたちだってお母ちゃんが死んじゃったら分かんないじゃん。でも、あたしには怜がいて、怜と二人でお母ちゃんの思い出を話せるやん?圭ちゃんは一人でずっと抱え込んでるんだ」
「西尾は、一人なんかじゃねーし」
「お婆ちゃんじゃだめなんだよ。だからさ、幼馴染みで親友のあんたが支えてやんな」
~2~
転校してきた高校までは、西尾のお母さんが交通事故にあった国道を越えて、西尾のうちの近くを通って行く。その間に公立高校があるが、それを通りすぎて行かなくてはならず、地域の高校生はほとんどそちらに向かい、吉良は靴紐を直すと再び走り出そうとした。
「吉良?きーちゃんじゃね?」
通りすぎたブレザーに呼び止められ、吉良は振り反る。
短めに刈ったサイドと、前下がりの前髪がチャラさを感じたが、人の良さそうな表情と笑い顔に
「矢田じゃん。おーい、ヤッターマン」
と、叫んだ。
「ヤッターマンは止めてくれよ~」
「俺がきーちゃんなら、お前はヤッターマンやんか」
「糟 矢田っつってんやん。吉良、いつ帰ってきたん?」
保育園の時も背が一番高い方だった矢田は、西尾よりも少し低いくらいの長身で、吉良は見上げながら笑う。
「先週。昨日から高校行ってる。私学のな」
「ケッタやなくて?」
「体力面強化で走り」
「すっげ。久しぶりだよな。な、今日夕方暇か?ファミレス行かん?俺、部活休みなんだよ」
部活に入っていない吉良は二つ返事で頷き、手を振って矢田と別れた。走りながら母ちゃんにメールすると、笑いの顔文字が返ってくる。今日は姉ちゃんの仕事が休みで、孫と一日中遊ぶらしい。
夜には帰るとメールを返し、スピードを上げる。姉ちゃんには、西尾を支えてやれと言われたが、一体どうしたらいいか分からない。うだうだと考えていると、転校二日目にして遅刻ギリギリとなり、教室に滑り込んだ。
「あれ、西尾いないじゃん」
隣の席の西尾は来ていなくて、しかし、教室はそれが通常であるように普通に回り、なんだか気味が悪かった。
昼休みに姉ちゃんが作ってくれた弁当を開けていると、前の席の小柄な学生が…自分も小柄なのだが……さておいて……振り向いて来る。
「一緒に食べてもいいかな?」
一瞬女子かと思う可愛い笑顔で、コンビニのサンドイッチを持っていた。
「いいけど」
「ありがと。僕は星野。クラスにはまだ馴れないと思うけど。とりあえず学級委員をやってるんで、よろしく。あ、一緒に食べよは、別に深い意味なくって」
「学級委員?」
意外な感じがした。星野はどちらかというと、クラスを仕切るようなタイプにみえなかったからだ。
「あはは、私学の学級委員なんて押しつけに決まってるじゃん。僕は市外からの入学組だからね」
サンドイッチを口に頬張りながら喋る星野が、細い肩をすくめる。なんとも学生服が似合っていなくて笑ってしまった。
「市外なんて珍しいじゃね?」
「なんとなく、市内の高校に行きたくなくて。えっと、吉良くんは……」
「十年前までこっちにいたからな。帰って来て、入れたのが私学しかないってやつで。まあ、あと二年じゃん、就職まで」
とりあえず就職を視野にいれている吉良にとっては高校卒業が一番のキーワードで、問題なく過ごせればいいのだ。
「そだね、ここ就職高校だし。まあ、そうなると西尾くん、出席日数がね…」
「西尾、そんなに休むんか?」
サンドイッチを食べ終わった星野が、甘そうなコーヒー牛乳のペットボトルを傾け、ごくごくと飲んで彼の昼御飯が終了したらしい。
緑川も人参ご飯をかっ食らい、お茶を飲み干す。
「ほとんど休んでるかな。二年では、昨日が初めて来たよ」
「え、保育園皆勤賞のやつが?過呼吸とかも、なんなんだよ。わかんねえなあ」
「十年間に色々あったんだよ、吉良くんが知らないとこでね、きっと」
星野の言葉の静かな重みに、吉良は男らしい太い眉をしかめた。星野はそれ以上はなにも言ってこず、吉良は弁当箱を閉じる。
「なあ、お前はなんかあったんか?」
「話しても面白くない話だから」
星野がにっこりと笑って言い捨て、終わってしまった。
自宅の近くの唯一あるファミリーレストランに入ると、矢田が既におり、ふざけた色のジュースカクテルを飲んでいる。
「矢田ぁ、なんだよ、それ」
「ブラックカルピス!お前もやったこと、あるやんけ」
矢田はムッとして創作ブラックカルピスを手に、別のドリンクを作り出した。
「俺のも作るんか?」
矢田がグラスを落としそうになり、吉良が「おっと…」と取り上げる。
「お前は自分で注文しりん。俺はあと四個作る」
「まじか?」
ここらへんが小さい頃から変わらない矢田なのだと苦笑しまった。小さい頃から欲張りで、おやつは口に頬張り、なおかつ両手でもらう。
「ほな、俺も作るわ」
ドリンクバーは混ぜて味を作りオリジナルドリンクを飲むものだと、地域唯一のファミリーレストランが出来た頃からの癖で、吉良もホワイトオレンジを作り矢田が大笑いし、テーブルで談笑した後意外にも矢田から切り出してきた。
「そっちにさ、西尾いるだろ?あいつ、大丈夫か?」
吉良が太い眉を寄せると、矢田が「やっぱり…」と顔をしかめる。
「うちの親父『千年樹の里』って介護施設長やっててさ、西尾のばーさんちょっとやばいんだよ」
「は?」
吉良が考えていたのとは少し違っていたが、休みの大半はばーさんの奇行に付き合ってると聞き、西尾の追い詰められている生活の一端に驚いた。
「それって、俺に言っていいことなのか?介護施設には守秘義務があってさあ」
姉ちゃんから聞いたことのある言葉を吐いてみると、
「わかってんだけどさぁっ!」
矢田が机を勢い叩く。
一瞬店内が静まり返った気がするが、ざわめきはすぐに戻り、糟谷が視線をそらして頬杖を付きながら、ブラックカルピスを飲み干した。
「お袋がめっちゃ心配してる。だってさ、ガキン頃から俺ら仲間なんだぜ。親子サロンでお袋もスタッフだったし、ずっと一緒だったやん?吉良いなくなってからも、結構遊んだし。俺、四年生クラス一緒だったし」
沈黙したあと、
「俺が遊び、断ったから西尾のやつ居なくなったんだ」
と、矢田が呟いた。
「居なくなった?」
吉良が聞いたことのない言葉に驚く。
二杯目のドリンクを飲み干すと、糟谷がふーとため息をついた。
「あの日さ、俺さ塾あるの忘れてて、西尾と遊ぶ約束してさあ。んでお袋に言われて遊べんくなったから、西尾は西尾んちに一人で帰ったわけ。そしたら夕方、西尾の母さんから電話かかってきてよ」
「ほんで、西尾母ちゃんは事故にあったんか」
「うん。西尾はそのあと国道の脇の倉庫で裸で泣いとるのを見つかって、そっから学校に来んくなった」
西尾は母ちゃんが事故にあった頃……何された?しかし、考えても過去なのだ。
「なあ、矢田。俺らに出来ること、やってみいひん?犯人探しとかじゃなくてさ」
本当は犯人を探して、ぶっ飛ばしてと思っていた吉良は、自分に言い聞かせるように、矢田に話した。
「ほうだな仲間だしな」
矢田は何度も頷いた。
次の日も、西尾は休んだ。
星野に矢田の話しをすると、
「とりあえずさ、西尾くんちに行ってみいひん?」
と言われ、星野の提案に吉良は頷き放課後、星野と一緒に西尾のうちに行くことにした。
一本道を曲がり、住宅街に入ると、微かな異臭がする。
「なんか、臭くないか?」
「だから、ごみの臭いでさ」
「吉良くん、焦げ臭い!」
星野が自転車を捨てた。二人分の鞄もアスファルトに落ちたが、吉良も昔遊びに来て知っている古民家に走る。古い屋敷の多い旧道は道が細く、歩道は申し訳ない程度で、その細いラインを完全に潰すように、ごみが散乱していた。
「なんだよ、これっ!」
市指定のごみ袋が庭先を埋めつくし、なおかつ家の中まである。
開けっ放しの居間からはみ出している、明らかに拾ってきたようなブラウン管テレビが何台かあり、そこから発火していた。
「西尾っ!」
吉良は慌てて中に入ろうとするが星野に止められ、では先にと火をジャケットで風を作り消そうとしても止められる。
「なんでっ?星野っ」
「いいからっ!」
意外にも星野が柔和で女子っぽい容貌に似合わず低く切り返してきて、その様子に吉良は制止した。
「考えがあんだな?」
星野が頷いた。
「事を動かそう。僕は消防車を呼んでから、吉良くんは中に入る」
大したことはないボヤで、夕刻の人通りの少ないからか、まだ、周囲に気づかれていない。
叫べば周囲から人が来るが、星野はそれでは駄目だと言い放った。
「幸い、僕らはシャイな高校生で、自分たちで何とかしようと過信している若さも持ち合わせている」
星野はどうやら策士のようで、煙が家の中に充満し、臭い以外他に漏れていない風向きなのを確かめていた。
「わかった」
吉良は体育で使ったあとのフェイスタオルを顔に当てて縛ると、電話をしている星野からアイコンタクトを受けて、ゴミを踏み越えてゴミが少ない玄関から室内に入る。
テレビのワイドショーでゴミ屋敷の映像を見たことはあるが、背の高さまであるわけではなく、人間がなんとか通れるようにしてあった。
平屋の古い屋敷は、小さい頃何度も遊びに来た。入ってすぐ左の仏間に小さくなったばあちゃんがいて、どこか焦点が合わない感じで、じいちゃんと西尾の母ちゃんの写真立てに呪文のようにお経を唱えていた。
火災に全く気づく様子はなく、ゴミの中に埋まって数珠を握りしめ、後から入ってきた星野にも気づかないようだ。
「お待たせ。病状は進行しているね。お婆さんは僕が見ているから、吉良くんは西尾くんを探して」
喋れば煙を吸い込むから頷いて、キッチンを覗きいないのを確認すると、右側の煙が充満している居間に入る。
煙から逃れるように部屋の端に倒れ込んだ西尾が小さく丸まって、痙攣するように身体を震わせていた。
「西尾!しっかりしろっ!」
黄色いレンズ眼鏡が飛んでいて、火の中にある。火を消そうとして、過呼吸の発作が起きたのかもしれない。
咳き込む西尾を起こそうとすると力なく払いのけ、過呼吸特有の吸い込みをして、苦しそうにもがく。
「西尾、逃げるぞっ、立て!」
「……死にたい……もう……つらい……いやだ……」
過呼吸の発作が続く西尾が荒い息の中呟いたのを聞いて、吉良は爆発的な怒りを感じた。
それは多分、必死で生きている母ちゃんと重なり怒りを感じだのだ。
吉良は制服姿で倒れている西尾の腹に乗って、仰向けに羽交い締めにする。下肢に過呼吸の時に何故か高ぶる西尾の屹立が当たるが、それすら押し潰した。
音がしてテレビが発火し火花が散り、真っ黒な煙の中、顔からタオルを剥ぎ取り、西尾の胸ぐらを掴み顔を引き寄せた。
「死ぬことも、息を止めることも、この俺が許さない!」
「きーちゃ……」
吉良は噛みつくように、西尾の眦に唇をつけた。西尾を泣かせるものも、許せない。甘い涙は、泣き顔は、吉良の為でなければ許せないと腹の中から爆発的に思ったら、口からついて言葉が出た。
「今から、俺が、西尾の神だ」
西尾が目を丸くして息をするのも忘れたように、吉良を見つめる。
吉良は静かに怒りながら言い放つ。
「神である俺は、今死ぬことを絶対に許さない。正しい呼吸をしろ、西尾」
西尾が泣きながら怯えつつ何度も頷き、近くなってきた消防車と救急車のサイレンの音に、吉良は我に返る。
今、俺、何を……。
「消防車、来た!西尾くんと早く出て!」
吉良は西尾の腹から退くと、黒い煙に変わった部屋から西尾を連れ出し、部屋から動かないばあちゃんを近所の人と引き摺り出した星野を見て、脱力感にアスファルトへ座り込んだ。
~3~
吉良は頬杖をついて窓から外を見ていた。二階の窓からは、背の高い西尾がいないと、正門から通行人がよく見える。こんな風景を毎日見ていたのかと、吉良は西尾の事を思い出した。
「はあ……」
警察には怒られたものの感謝状を貰ってしまうという、理不尽つつ照れ臭い状態に陥った昨日、見舞いに行くと、病院で過呼吸の発作を起こしていた西尾を叱りつけてしまったのだ。
過呼吸の発作時に、はっきりと分かる下半身の劣情に苛ついて、自分でもよく分からない感情となり、母ちゃんの目の前で怒鳴り散らした吉良に、西尾は驚いた表情をし息を止めてから、自分で呼吸を意識してコントロールした。
「なんだ、治まるじゃん、過呼吸」
何の気なしにふて腐れて呟いた吉良に、
「だ……だって、きーちゃんが居てくれるから」
と、じっと見つめ返してきて、居心地が悪くなって病室から逃げ出したのが、昨日だ。
「気落ちしてるじゃない、『神様』」
「やな奴だな。俺が神様なら、お前は天使だな、星野。あ、堕天使の方な。なんなん、あの策士っぷり。警察へわざわざ泣きついたやろ?なんなん、お前、二重人格ぱねえよ」
前の席の星野が当たり前のように後ろを向いて、サンドイッチを広げてきた。吉良は爆弾おにぎりを出すと、無言で口に運ぶ。
「おっきいね、それ。花火の玉みたい」
「周囲36センチあるからな。うちにあるもんぶっ込んで、飯でだんごにしてのり巻いた」
具がすぐに口にはいるから、大成功だ。
しばらく飽きるまで爆弾おにぎりにしよう、西尾にも食わしてやろうと考えた。
「西尾くん、おばあさんの監視ストレスによる過呼吸だって?」
昨晩、救急車で市民病院に連れていかれた西尾は、精神的に不安定で吉良の手を握ったまま離せなくて、処置室内にまで付き合った時に、自分から煙を見て過呼吸で倒れてしまったと話をしていた。
過去に市民病院の小児科に受診していた西尾のカルテでは十歳の時は通院していたと、姉ちゃんの友達の看護師さんが……迎えのために駆けつけた……昔馴染みの姉ちゃんにひそひそ話しをしていたのを、星野とこっそり聞いていた。
警察官の話しでは、ばあちゃんがゴミの収集を始めたのは半年ほど前からで、徘徊が酷かったらしい。西尾はばあちゃんが疲れて寝たら、ゴミを片付け棄てて、ばあちゃんが徘徊しないように見張る日々が続いていたらしい。
それではあの過呼吸の根本的原因にはならない。
「星野、お前さ、結構物知りだよな。な、過呼吸ってちんこ勃つんか?」
食後にざわつく教室の中で小声で話すと、星野が目を丸くする。
「……息苦しい時に?普通はないねえ」
「だよな……」
普通じゃない……では、西尾はなんで……。
吉良は考えがまとまらなくなり、唸りながらおにぎりを頬張った。
部活に入っていない吉良は学校が終わると、リュックを背中に自宅へ走る。徒歩一時間の距離も、脚力もそこそこあるから、大したことはない。
大抵、癌が転移して腕が上がりにくくなっているから、洗濯物をしまえない母ちゃんの代わりに、なるべく早く洗濯物を取り込んでしまいたい吉良は、梅雨の曇天を振り払うように頭を振った。
どちらかというと新しい二階家が多い地域に住んでいる吉良は、庭先の門をくぐって母ちゃんのボランティア畑の芋の苗を確認した。
親子サロンに来る親子が秋に芋掘り出来るように、吉良と姉ちゃんとで畝を作り、苗を植えたのだ。秋まで母ちゃんが持つかは分からないが。
「根がついたな、良かった」
洗濯物を取り込もうと、その先の軒先に目を向けると、「へ?」とすっとんきょうな声が出てしまう。
軒先を頭で破りそうなひょろっとした長身が、母ちゃんのでかいショーツを取り込んでいるのだから。
「わー、西尾!それ、オバハンパンツだぞ!」
西尾が色素の薄い長い前髪を少し持ち上げ、
「お帰り、きーちゃん」
と、続いて吉良のトランクスを取り込んでいく。
「いやいやいやいや、まてまてまてまて!」
「早く取り込まんと、雨が降って来そうやん」
首を傾げる仕草は小さい頃のままで、そうではなくて、西尾が吉良家の洗濯物を取り込んでいるのはさておき、一週間は入院すると聞いていたのに。
「母ちゃん、なんで」
母ちゃんは親子サロンで使う七夕の切り紙をしていて、
「圭ちゃん、うちで預かるから。圭ちゃんパパにも国際電話で話したし、父ちゃんも許可したよ」
と笑った。
父ちゃんは母ちゃんが何したって反対しない。
『俺の嫁さんになってもらったこと自体、母ちゃん最大ボランティア』だと、酒を呑むたびに語るくらいだし、母ちゃんの癌がわかってからは、特にだ。
「圭ちゃんと圭ちゃんちに行って、置いてある軽トラに燃えんごみ積んどいて。時間見て捨てにいくし。あと、圭ちゃんが使えそうなもん持っといでん」
西尾ばあちゃんは、矢田のとこの特別養護老人施設に緊急措置で入ったらしい。西尾は一人になってしまったのだ。そんな西尾を放っておける母ちゃんではない。
「西尾~、お前んち行くがや」
「う、うん。待ってよ、きーちゃん」
人生全てボランティアな母ちゃんの意見には逆らえず、吉良は西尾と歩道橋を渡る。
軍手をはめると、煤で黒くなった西尾の家の庭で水浸しになった、発火の原因のテレビを白の軽トラックに積んだ。
「西尾、服とか、お前使うやつ持って来りん」
「きーちゃんは?」
つるの少し焦げた眼鏡を拾い上げて、眉をしかめていた顔にかけた西尾が、不安そうに下を向く。サングラスかと思っていたが、パソコングラスに度を入れた眼鏡で、これがないとあまり見えないと苦笑いをしていて、安っぽいプラスティックのつるがあまり似合ってないなと、吉良は思った。
「俺は外片付けるし。はよ、やろうぜ、腹へった」
「うん」
中に入っていく痩せた背中を見ると、十年前、姉ちゃんとこっちに残っていたらと、考えずにはいられない。
「いや、やめとけし、俺」
考えを振り払い、古いブラウン管テレビをトラックに押し込むと、不燃物をまとめて押し込み、山まで走っても飛ばないようにロープで固定する。
「兄ちゃん、こないだの子かん?お手柄だったのん。ここ、片付けるんかん?ごみステーション、特別に開けたるわ。目一杯詰め込んでもいいがん」
片付けをしていると区長の奥さんが斜め前の広場にある箱形の扉の南京錠を開けてくれ、管理当番のおばちゃんが一緒になって市指定のごみ袋を並べていく。
「おばあちゃんもさ一人娘交通事故に合わしゃしてから、お孫さん女手で育てらしゃったがん、疲れてボケたんかのん」
「はあ」
相づちを打ちながら、運んでいると、近所からおばちゃんと中学の制服の女の子が出てきて、バケツリレーのようにごみが運び込まれる。
「お孫さんが必死で片付けるの知っとったけど、敷地内は私ら片付けられへんもん」
ごみステーション半分が埋まった辺りで、とりあえず片付けを終えて、あとは別の日にごみステーションを開けてくれることになり、西尾に声を掛けるため、吉良は室内に入った。
「西尾、挨拶しりん……」
西尾が少なくなったおばちゃんたちに頭を下げたが、髪の長い中学生が西尾を見て頭を下げたのを見て、西尾の表情が変わる。
誰もいなくなった道を見つめていた西尾の体の力が抜けて、煤と水にまみれた床に座り込み、息を吸い始め、過呼吸の症状が現れた。吉良は西尾の顔をつかんで引き上げる。
「西尾、俺を見ろ!」
「きーちゃっ……」
吉良が目を見開いたまま息を吸い続ける西尾の唇を、自分のそれで塞いだ。
舌に感じる唾液が甘い。
信じられなくて舌を差し込むと、唾液を絡めとる。
「……はっ……」
垂れていた西尾の腕が、吉良の手に添えられ深く息を吐いた。
「ぅわっ……!」
発作が治まった西尾が吉良にしがみついてきて、吉良は咄嗟のことに踏ん張りが効かず、無様に倒れ混み、背中をしたたかに打ちながら西尾を抱き止める。
嗚咽が漏れていて西尾が泣いているのがわかり、きつく抱き締めてやった。
~4~
多分、髪の長い女が『お姉さん』だ。ねえちゃんは、昔からショートカットだから、違う。
吉良はまだしゃくりあげる西尾の手を引いて、荷物を持ちながら歩道橋を下り、卒園した保育園の横を通りすぎ自宅へ帰る。
無意識下にある『お姉さん』が、西尾の過呼吸の一因になっているのには間違いない。西尾に聞いてみると、西尾は西尾の母ちゃんの事故った辺りの記憶が飛んでいて、分からないのだから。
これは、博識そうな星野に聞いてみるのがいいかもしれない。吉良が園児みたいにべそべそ泣いている西尾の手を強く握り、来るべく母ちゃんのカミナリに備えた。
「ただいま、母ちゃん」
「おかえ…くさっ…風呂!」
料理用お玉を持った母ちゃんのゲキが飛ぶ。
「シャワー浴びといで!何やっとったん?ごみ臭いし、煤だらけで。いい?入ったら洗濯機回しんよ!」
言い訳をしようとしたが、母ちゃんは西尾の荷物を鷲掴みにすると、吉良と西尾を風呂に追いやって乾いてまだたたんでいないバスタオルを二枚投げて寄越した。
「早よ、まとめて入りん。ついでに風呂洗って」
「は~?二人で入れとか言うん?」
「汚いのもはまとめる!はい、文句言わないよ。母ちゃんが久々にご飯作るんだからね」
背の高い西尾を連れて、吉良は脱衣室で制服を脱ぐ。今日洗って干さないと、明日着ていく制服がない。
「西尾、早よ、脱げ」
「う、うん」
吉良が脱いでから、シャワーのカランをひねる。頭から熱い湯を浴びていると、痩せてあばら骨が浮き出た西尾が、そろそろと入ってきた。
「お前、ガリガリじゃねえか。うわ、背中も肋骨でてるやん。で、なんで前押さえてんの?」
西尾の腕も足も白く細くて、空手をして筋肉のついた体躯の吉良はひょいと、西尾の両手首を掴み、万歳をさせるように開く。
「やっ……きーちゃん……やだよ」
「勃っ……てんじゃん」
「お……治まんなくて……」
過呼吸の発作が落ちついたのに、まるで副反応のような屹立を見て、吉良は手を添えた。
「きーちゃんやだっ」
「うるっせえ。触りっこしたことあんじゃん。チビの頃」
西尾が痩せた尻を引いたがそこは壁で、吉良は熱い湯の雨の中、手についた先走りを舐める。
それはやっぱり甘くて、確かめようと膝をつき切っ先を口に含んだ。
じわりと甘味が広がり、舌で扱くと溢れ出す甘露を舐め取る。
「やっ……離し……ひっ……出るからっ……」
吸いながら数回唇を動かしただけで追い詰められてしまったらしい西尾が、必死で腰を退きながら逃れようとするのを、腰を掴んで止めて啜ってやった。
「……っん……あ……あ!」
息を止めて吐き出す西尾の吐露は、濃厚で信じられない程甘くて、嚥下したあと吉良は半泣きで口を押さえ見下ろす西尾に、真面目に聞いたのだ。
「西尾、お前、糖尿病か?ネクターの味がする」
「馬鹿だよね、吉良くんって」
屋上で糖度計を持つ星野が、吉良に視線を寄越しながら、その測定器に、指につけた液体を乗せるように顎を向けた。
「馬鹿って言う奴が馬鹿やーん?」
「じゃあ、考えなし」
地震津波用にフェンスを張り巡らせた屋上は、雨が降りそうな曇天模様で、当然だがここで弁当を食べようなんて考える無駄体力を使う男子高校生はいない。
西尾はわざわざ見なければ、道が見えない屋上で昼食を食べるようにしていたらしく、吉良は思い付いた事案を試すべく、星野を呼びつけた。
「大体、人間の精液が甘いわけないじゃん。ほら、ゼロ数値」
西尾はフェンスの隅っこで膝を抱えて、曇天空より心中曇天模様で半泣きだが、吉良にとっては西尾の体液そこかしこが甘いことが大問題で、何かしらの病気だと考えていたところ、星野が科学部で果物の糖分を測る実験をしていると聞いたから、渡りに船というわけだ。
「おっかしーな、俺のは甘くないのに、西尾のは甘いんだぜ?」
「……君、自分の舐めたの?」
「朝勃ちのやつ、少しな。お前のはどうなんだ?」
真顔である緑川に、星野が糖度計をアルコールで丁寧にそれは丁寧に拭ってしまう。
「提供せんて。ねえ、西尾くん、屋上のトイレ、行ってきたら?治まらないでしょ、ちんこ」
星野に言われて西尾がよろよろと立ち上がり、学生ズボンのベルトを押さえて歩いて行く。
吉良が見送りながら弁当を掻き込んでいると、ちら……と恨めしそうな表情をしてきたが、震災用トイレに入って行った。
「西尾くんの体液が甘く感じるんのは、吉良くんの主観やん」
「科学的に分かりゃそうなる」
「君の味覚おかしくない?まあ、害ないんなら、いいんだ。精液ネクターは笑けるけど。問題は西尾くんが『神様』に精神的に支配されていても、あれだってことやん」
「勃っちまうってことか?」
「そう。過呼吸にかかわる性的衝動。浅はかな考えだと、『お姉さん』に悪戯されて、童貞をいただかれたと」
「発作スタートが十歳やん?童貞捨てんの早すぎないか?」
「お母さんが亡くなって、傷心の西尾少年を癒したのは、家庭教師の『お姉さん』の柔肌。いた、なんで叩くんだよ!」
「なんとなくだ!だいたいな、柔肌うんちゃらが、ストレスとか過呼吸になるかよ!」
「普通はごほうびだよね。じゃあ、西尾くんはレイプされた。強姦されたのほうがしっくりくる」
「男が、女にか?」
「男女問わず、強制的ならそうなるやん」
西尾圭の過呼吸の発作が起きた時に、勃起する反応を学校の女子で首実験して調べていくと、発作の原因の『お姉さんの形状』は、どうやら髪の長い瓜ざね顔の女性らしい。
過呼吸の発作は吉良の声でコントロール出来るようになってきたが、勃起衝動は治まらない。今もわざわざ下を見せて、通りすがった女を直視させ、西尾に発作を起こさせたのだ。
「……肉体の支配をするべきだよ」
「は?」
弁当をしまっていた吉良は、星野が投げて寄越した手の平大のプラボトルを片手で掴み、中のとろみのある液体を見つめる。
「神様無しでは生きられない、みたいな?『お姉さん』の上書きみたいな?エコー用の医療ジェルだけど、まあ、使えるんじゃない?無いよりはましだもんね」
「は?俺に西尾を強姦しろってか?それとも俺が西尾にやられろってか?やめやめ、ないない」
「見ず知らずの女性に西尾くんはとられっぱなしじゃん?」
「うぐっ!」
吉良はそれを弁当ポーチにしまい、立ち上がった。
「ちょっと、西尾を見てくるし。先、戻っとって」
星野がサンドイッチを片付けて立ち上がると、屋上の扉を開け階下に降りていくのを確認して、屋上トイレの扉を叩く。
返事もなければ鍵のあく気配もないから、嫌がらせのように園児用の掛け声をかけた。
「けーいちゃーん、いーれーて。けーいちゃーん」
ガチャと鍵があき恨めし目の… …綺麗なビー玉みたいな瞳は度入りのパソコン眼鏡に隠されているが……西尾が上から見下ろして来る。
「な、何、きーちゃん」
扉を閉めると、学生ズボンの前立てに触れジッパーを下ろしてやると、少量の体液採取のため、吉良に手を突っ込まれ揉まれて中途半端に膨らんでいるそこに、吉良はそっと指を這わした。
「あっ!」
「デザート食いに来た」
グレーのボクサーパンツを引き下げると、黒い染みを作った切っ先はまだ皮に隠れていて、吉良はそっと甘皮を上に持ち上げ、仮性包茎の桃色の先を出してやり舌で舐める。
「んっ!」
母ちゃんの書いた育児ペーパーには、『むきむき体操』などをしていなかったり、罪悪羞恥の為極力触らないでいた男性器は、トラブルを起こしやすいとあった。
実際、星野の先程の推測が邪推でない可能性が、目の前にある。
風呂で剥いて洗うのすら躊躇う西尾には『お姉さん』トラブルがあって、そいつが過呼吸の原因なのだと思うと、なんだか腹が立ってたまらない。
「がっ、学校で、やだ!」
「出さねーと、授業集中して受けらんねだろーが」
今までもそうやって治まるまで保健室にいたり、逃げるように早退していたらしい。
発作が怖くて恥ずかしくて苦しくて、小学校にも中学には行けていなかったと、夜、ぼそぼそと話していた。
鈴口を舌でねぶるとかわいそうな位膝を震わせて悶え、西尾が腰を引くがそれを掴んで唇で扱いてやると、指が尻の狭間に当たり西尾が息を詰める。
「はっ、離し……あっ……あ……ぅっ!」
布越しに尻の穴を指で押してやると掠れた声が漏れ、精液が止めどなく溢れて、西尾を上目遣いに見上げると、泣きそうに眉をひそめた西尾と目が合い一気に濃厚な吐露がやって来た。
「はっ、はあっ、は、ごめ、きーちゃんっ…」
吉良にとっては甘い液体を飲み下し綺麗な桃色の鈴口を舐めると、真っ赤になる西尾の下着と学生ズボンを引き上げてやる。やっと星野の発言と贈り物を理解した吉良は、西尾の明るい柔らかな髪を掴み下を向かせる。
「今夜、お前の身体を支配してやる」
「え?」
腰をかがめている西尾の耳元で囁き、耳朶を甘噛みしてトイレの扉を開けた。
「予鈴が鳴った。急ごうぜ?」
吉良はにやりと笑った。
~5~
母ちゃんは夜しっかりした睡眠を取るために、痛み止と睡眠薬を飲む。梅雨の天候は母ちゃんの病状を一進一退させ、吉良は早くから眠る母ちゃんの為に、早目に晩飯を作る。
洗濯物はなんとなく西尾の仕事になっていたし、掃除もしてくれるが、料理はからっきしで、ばあちゃんが認知症になってからは、コンビニ弁当などで過ごしてきたらしい。そのばあちゃんは矢田の両親が経営する老人ホームで生活してて、毎日西尾と見舞いに顔を出している。見ているだけでは病状は落ち着いているようだが、西尾の保護者にはなり得ないらしい。
「ほい、味見しん」
料理は才能ではないが、西尾はどうにも苦手なようで、焦がすし生焼けだし不思議な味だしで、食材の為にも早々にリタイアしてもらい、吉良の仕事に落ち着いた。それでもうろうろと台所にいるもんだから、皿出しや片付けなど手伝わせてやると、横にくっついて一生懸命になる。
背の高い西尾が背の小さい吉良に雛のようにくっつていているそれが
「爆笑問題みたい」
と母ちゃんの笑いを誘い、母ちゃんが笑う顔を見て西尾も嬉しそうで、吉良は西尾を可愛く思う反面西尾の心に巣くう『お姉さん』の影に、腸が煮えくり返るような怒りを感じていた。
風呂上がりの吉良は、一階の電気を消して二階に上がる。姉ちゃんの部屋に住み着くのは躊躇われたようで、吉良の部屋に小さな座卓を置いて、そこにノートパソコン二台を同時に操る西尾は、どうやら何かのプログラミングをしていた。
「また、パソコンか?」
「う、うん。プログラムのバイト、も、もう、終わるから……」
西尾の新品のパジャマは吉良と色違いで、姉ちゃんからのプレゼントだ。
『お姉さん』に悪しかれど反応する西尾は、年上の『お姉さん』と何かしらあって、背が高かったとは言え十歳の小学生である西尾が弄ばれたにしろ、性的に経験がある。
それを精神的に引きずっているとはいえ、西尾の脳内には『存在』しているのが、吉良には許せないでいた。
経験も記憶すらも支配したい。
『執着』という間違っている感情だと吉良も理解していて、しかし、分かっているが腹が立ち、ふつふつと煮える感情は、西尾を支配したいがための欲望に変質していた。
だから、行動する。
「きーちゃん、終わった、わあっ!」
吉良は背後から首に腕をかけて軽く体重をかけ、引いてある布団に首投げをする。
「きーちゃんっ」
「黙ってろ」
仰向けに引き倒した西尾の眼鏡を外し唇を割ると、歯みがき粉のミントと甘い唾液を舐めて、舌を甘噛みした。パジャマのズボンに手を突っ込むと、すぐに膨らみ始めていて、吉良は力を込めて握り込む。
「い……っ」
痛みに腰を浮かした西尾のズボンと下着を引き下ろし、足の合間に入り込んで、まだ甘皮の中にいる桃色の肉芽を剥き出しにすると、口に含んだ。
「あっ……きーちゃん……」
甘いさらさらとした液体が口の中にすぐに溢れ吉良はそれを軽く飲み下すと、抵抗らしい抵抗をしない西尾の身体を折り曲げ、膝に尻を乗せる。
「でかい身体のわりにちっせえ尻だな」
ポケットで温めたボトルの液体を痩せた尻の合間に塗ると、びくと身体を硬直させた。
怒りに昂りはしていても、吉良はどこか冷静だった。
『お姉さん』から受けただろう『行為』がトラウマとなり、過呼吸の発作を起こさせる。
ならば上書きをすればいい。
しかも意識下の『行為』以上の刺激として。
すぼまる尻の狭間に指を入れるが、無抵抗をいいことに二本の指で襞を拡げてやる。
「結構伸びるんだな」
蛍光灯の下で見る西尾はいやに白くて、少なく薄い下生えからまるで子どものような屹立が腹につくように震え、双珠の膨らみの下の尻襞に医療ジェルを塗った猛る張り出しをくっつけた。
「ぼんやりしてんじゃねぇ、西尾」
尻肉を拡げて襞を伸ばすと、二三回突いてから無理矢理切っ先を捩じ込む。
「ひっ、あっ!痛っ……」
受け入れることに馴れていない尻襞破瓜の固さに、吉良の切っ先は絞るような痛みと抵抗を受けたが強引に腰を進め、動揺と痛みのためか小刻みに呼吸を吸う西尾を深々と貫いて体重を掛けると唇を塞いだ。
尻襞が締まり異物である吉良の存在を排出しようと、内壁が動いている。
「くっ」
吉良は押し退けようとして震える手を伸ばして来たから、その腕を自分の背中に回してやって、唇を触れたまま声をかけた。
「いいか、西尾。お前を支配してるのは、俺だ」
「き、きーちゃん、痛いよぉ」
甘い唾液をすすり上げ、唇を塞いで腰を引くと、星野に図解つきで教えてもらった箇所を勢い突く。
「ひっ、あ!あーっ!」
尻襞が締まり下腹が硬直して、吉良の腹が生暖かい液体で濡れた。
「きーちゃん、やめっ……!」
そこだけを突き続けると唇を離して逃れようと、必死でもがく西尾が、下肢をひきつらせて涙を流す。
「も……やっ……出ないっ……やだからっ!」
逃げようとする腰を掴んで、汗だくの吉良はパタパタと顎から汗を溢し、さらに奥を穿ち尻襞を拡げては最奥を犯し抜き差しを繰り返した。
「きーちゃんっ…もうやめっ……ひ……あああっ!」
襞が締まり吉良は気が遠くなりそうな締め付けの中で、白濁を西尾の体内に排出する。
どくり…どくりとしゃくりあげるような排出の快楽に吉良はため息をつき、しばらく動きを止めた。
「はっ、はあっ、はっ」
楔を打ち込んだまま息の荒い西尾の身体から上半身を引き上げると、暑くてパジャマを脱ぎ、西尾のパジャマのボタンをはずして、真っ白で薄い胸を触る。
「これで終わると思うなよ、西尾」
唯一胸に色づく突起を捻り上げ、吉良は西尾の悲鳴を聞き入れ、腰を進めた。
自分が止められんことってあるんだなと、吉良は裸のまま布団にあぐらをかき、妙に冷静に西尾のうつ伏せの背中を見ていた。
タオルケットを剥ぐと、明け方の青い月明かりにそれよりも青白く痩せた全裸の背中に、伏して小さな尻がある。
先程まで蹂躙した狭間だ。
吉良の切っ先は擦りすぎで赤く腫れていて、トランクスをはきたくなくなるほどだ。
疲れ果ててうつ伏せのまま眠りについている西尾の横顔は涙の筋が白く残り、尻の狭間の会陰から双珠にかけて溢れだした吉良の精液で濡れている。
尻肉を左右に開くと、尻の穴の襞が無惨にも膨らみ充血し血が滲んでいて、吉良は身体をずらして机からオロナインを出すと、指につけて腫れた襞に塗ってやった。
軟らかくほどけてしまう襞の中に指が入ってしまい、中から白濁が溢れ出し、シーツに染みを作り出す。薬を塗るという名目で指を抜き差しすると、何時間も抱き続けていたのに、再び体内に埋めたくなる。
これが執着なのかと苦笑しつつ、徹夜になった窓の外を眺めた。
「もう、やめて!やめて下さいっ。もうやだあ」
何度も泣き叫んだ西尾が混乱して敬語になり懇願したが、許すはずもなくうつ伏せにして、背後から貫くと何度も当たる前立腺が痙攣したのか、膝が崩れて突っ伏したまま、発作に逃げようとする西尾を叱咤し現実に引き戻して、体内に吉良の白濁を注ぎ続けた。
「誰に謝ってる?お前を支配しているのは、俺だ」
何度も何度も繰り返し刷り込む、吉良怜という『神』の存在感。
「きーちゃん!やめて!もう、お願いっ!出ないから、助けてっ!いや、いやだよぉ!出ない~~っ!」
泣きながら無意識に叫び、びくびく震えて意識を失ったのは、疲れはてて寝てしまったのか、過ぎた快楽に擦り切れたのたわからないが、吉良が姉ちゃんのいう人並み以上に太く張り出した屹立で尻を突くたびに西尾の屹立から溢れ出した白濁でシーツは湿っている。
一つだけはっきりしたことがある。
西尾を動揺させたのは挿入行為で、つまり、十歳の時はそれはなかったと言うことだ。『お姉さん』に騎乗位で攻められたのか、仰向けにすると硬直して過呼吸を起こすのだ。
「ん?俺、西尾で童貞捨てたんか」
西尾は『お姉さん』と言う『女』で捨てたというのに、吉良は『幼馴染み』と言う『男』で童貞を捨てた。だが、それは不快ではなく、いや、西尾の相手には不快さを隠せないが、自分が西尾で捨てたと言う事実はむしろ悦びでもあり、ただ西尾の甘い精液を堪能できなかった未練だけが渦巻いているから、西尾の尻の中に入れてかき混ぜていた指を引き抜き、ぺろりと舐めた。
「……苦げぇよ。あれ?でも……」
たんぱく質が空気に触れた瞬間から臭みと独特な苦みが出るのが精液だと、星野が言っていた。
確かに自分が出した精液なのだから、臭くてまずい。しかもオロナインの味が混ざり、もはや渋い。なのに舌に残る微かな甘さは、なんだろう。
もう一度かき混ぜてから舐めると、やはり微かな甘さがあり、西尾の腸液が混ざっているからなのかと、吉良は繰り返してしまう。
「きーちゃん。ゆ、指。は、恥ずかしい……」
「あ、起きたん?」
指を抜くと気だるそうに起き上がった西尾は、うつむいたまま頷いた。
「うん。あの、シャワー、浴びたいんだけど」
腹にも尻にも精液がこびりついた西尾にしてみたらそりゃあそうだろうと吉良は思い、そろっとトランクスをはいて、西尾に剥ぎ捨てたボクサーパンツを寄越し立ち上がる。
「母ちゃんはまだ起きてこねえし、風呂行こうぜ」
階下の風呂場に行くのは少し面倒だが、身体を洗わないとべたべたするから仕方がない。
今後も西尾を組み伏す度にこんな風なんかなと吉良は考えたが、まあ、何とかなるだろうと思う。
「きーちゃん、立てない……」
西尾が膝立ちのまま立てずに、半泣きのまま震えていて、下肢を吉良の出した体液が伝い布団に新たな染みを作っていく。
「は?腰が抜けたんか?けつに力をいれろよ、布団びしゃんこじゃん」
布団にだらだらと垂れる白濁に、西尾がしゃくりあげるように肩を震わせた。
「む、無理っ。きーちゃんがひどいことしたから。あんなおっきいおちんちんを俺の、し、尻の穴に無理矢理、い、入れてきて。ち、力入らない……」
「しっかたねーな。昨日も西尾がじゃーじゃー出したしなあ。シーツも洗うか」
布団にかかるシーツを剥ぐと、西尾の下肢にぐるぐる巻いて、ひょいと抱き上げる。二十センチ程の身長差だから階段が不安になって、
「首につかまっとって」
と、俗に言う姫抱きに西尾が真っ赤になった。
「君たち、けんかでもしたの?」
星野の言葉に、吉良は苦笑いをした。
「まあ……な」
下を向いたままトイレから歩いて来た西尾が、椅子に座る時にびく……と腰を引きそろりと座り直す。
「あれ、いたしたの?」
「おかげさんで」
星野が「ふうん」と呟くのを聞いて、西尾が黄色いフィルターレンズ越しにもわかる程真っ赤になって、吉良を睨んできた。
「西尾、悪かったって」
吉良は真っ赤になったままだるそうに窓側に顔を向けた西尾をちらりと見る。
早朝、風呂に行ったまでは良かったのだ。
西尾の尻襞から漏れ出す白濁を掻き出すのは、立っているのが精一杯の西尾を壁に掴まらせシャワーの中で吉良が手伝った。
指を入れるその刺激で屹立した西尾の甘皮を剥いて、口に含んで舐め扱き勢い薄い体液を採取してしまい、再びストンと腰が抜けたように座り込んでしまった要因を作ったのは吉良だ。
尻襞に傷があり痛みに耐えながら自転車に乗り、繰り返された排出に体力のない西尾は、寝不足も合間って学校でぐったりとしている。それ以上に不機嫌なのは、西尾の布団だけ二階から干して来たことだろう。
まあ、吉良だって初めての行為での擦りすぎで先っぽが痛しいし、全くもって一睡もしていないのだから、おあいこだろうと吉良は勝手に思っているのだが。
「星野、なんであんな詳しいん?」
「好きな子いたから」
「誰?」
「一組の赤羽くん。去年同じクラスだったんだよねー。仲良かったし、林間学校実行委員同士だし、林間で告白しようとか思ってて」
あの浅黒い奴か……と、自分より背が小さい赤羽の顔を思い出す。隣の一組は、女子がうるさいから気の毒だ。
「ね、吉良くん」
前の席から振り向いて話していた星野がひそと声を細めた。
「外」
窓の外を眺め入る西尾の目下、自転車に乗った長髪の女性が見える。しかし、西尾は反応することなく、ぼんやりと……いや……ぐったりと頬杖を付いていた。気づいていないから過呼吸の発作も起きないのか、試しに吉良は隣の席の西尾をつつく。
「下、見てみん」
「なに、きーちゃん」
二人目は遅刻している女子高校生らしい女の子が自転車で走っていき、西尾はそれを見て、
「遅刻かな。あ、あの人」
と、吉良を覗き込んで来た。
「発作、起きないのか?」
吉良は西尾をまじまじと見上げる。
「あ……。き、きーちゃんの守り……あるからかな」
西尾がポケットから手を出して、青色の御守りを握っているのを見せてきた。
それに対して、吉良が少しだけ赤くなる。
朝、学校に行く前に渡した御守りには、とあるアニメを模して、吉良の引っこ抜いた陰毛が数本入っていて、吉良が近くにいなくても発作が起きないようにと渡したのだ。
「見せんな、しまっとけ」
「うん」
ホームルームが始まる前、久々に登校した西尾が、教師に呼ばれて立ち上がる。
「ねえ、吉良くん」
星野が吉良に向き直った。
「君は西尾くんの『神』になった」
「……おう」
「君次第で、西尾くんはどうとでもなる」
「まあな」
「どんな気持ち?」
改めて聞かれるとよくわからなかったが、ただの友達でなくなった感じがする。
「分かるかよ、そんなの。これからだって、分かんねえのに」
「そうだね。まあ、そんなお馬鹿な君だから『神様』になれるんかもね。僕も君みたいになりたい。赤羽くんの『神様』に。彼も大変だし」
「お馬鹿いうなし」
星野は不満そうだったが、ただ、近い将来、母ちゃんが死んだときにこっそり一緒に泣けるのは、多分、西尾とだろうと思った。
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