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0話「世界の舞台裏から」(プロローグ)
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3人の亡骸を乗せた馬車が、フローラント退魔士国にある協会本部へと戻ってきた。
本部入口で出迎えに現れた暗めの衣装を着た人々が馬車から3人の亡骸を降ろすと、大広間へと運んでそれぞれ棺に入れていった。
大広間は蝋燭の明かりで煌々としており、たくさんの人が集まっているようだ。
ここに集まった者達は、本部と各支部に籍を置く者達である。
――もちろん、この場に3人の亡骸を回収した4人の姿もあった。
しばらくして…――大広間の奥の扉が開くと1人の少年を先頭に、2人の退魔士が控えるようにして入ってきた。
まだ幼さの残った顔立ちをした少年は石竹色の髪を後ろで結っており、悲しみと怒りが入り交じった表情を浮かべて集まっている人々の前に立つ。
そして、背後に並べられた3つの棺に向けて静かに黙祷を奉げた。
黙祷を終えると集まっている者達に向き直り、凛とした…だけど少し幼さを残した声で語りはじめる。
「…本当に残念です。先日に続き、今回も犠牲者が出てしまうとは――ここ数年、彼らはユーゼンヴェルト内のみならず、各地で動いているようだという報告も受けています…これ以上の犠牲者を増やさぬようにする為、必ず幹部クラスの者が同行するようにしてください。これは…総帥として命じます!」
全退魔士を統べる者である石竹色の髪をした少年は「異論は誰であろうと許しません」と言うと、そのまま大広間より退室した。
残された者達は、ざわめき始める。
――ユーゼンヴェルトとは元々は≪夜の眷族≫達の暮らす国で、現在はフローラントの管理地となっている場所だ。
「さてさて…大変な事になったものだのぅ…」
こげ茶色の髪をした50代前半の男が、亡骸を回収した4人のそばへやって来ると苦笑混じりに声をかける。
「ワシの方は特に問題はないのだが、お前さんのところは一番大変そうじゃのぅ…」
こげ茶色の髪の男は、銀髪の青年の方を気の毒そうに見た。
他の3人も何か思い当たったのだろう…こげ茶色の髪の男と同じ気持ちで、銀髪の青年の方を見ている。
「…考えただけで、胃に穴があきそうです…」
銀髪の青年は小さくため息をついて答えると、右目に眼帯をした男は彼の肩に手を置いた。
「≪夜の眷族≫にやられる前に、アイツらの事でやられてしまいそうだな」
「その時は、私が検死をして…いや、骨は拾ってやるので安心しろ。な!」
励まそうとしたらしい白衣の青年も、銀髪の青年の反対側の肩をぽんとたたいた。
その様子を見たこげ茶色の男は、笑いながら言う。
「よかったのぅ…後の事は何も心配せんで良いみたいじゃぞ」
「…全然安心できません!そして、検死も骨も拾わなくて大丈夫です!」
首を横に振った銀髪の青年は、両肩に乗せられた手を払いのけた。
「僕は、これから3人の亡骸の浄化と埋葬の手続きがあるので…これで失礼します」
ぺこりと頭を下げると、銀髪の青年は棺の方へと歩いていく。
3人の亡くなった場所が場所なので、"眠れぬ死者"となり動かぬように炎で浄化をして埋葬をする事になっているのだ。
残された4人は銀髪の青年が歩いていった方向に目をやると、ちょうど3つの棺が運び出されていくところであった。
「しかし、この数年で250名も犠牲になると…総帥の言葉はもっともだからのぅ」
こげ茶色の髪の男は顎に手を置きながら呟くと、茶髪の青年が同意するように頷いている。
「確かに…これ以上の被害が出ないよう、能力の高い我々が一緒に付いた方が良いと思うな」
「…若い者達が、これ以上犠牲にならぬようにしないとならないからのぅ……」
そうなると幹部達に負担がかかるのは仕方のない事だ…と、こげ茶色の髪の男はため息をついた。
「…ハウエル達のような若い命を奪うとは、一体何の意味があるというのか…」
小さく呟いたこげ茶色の髪の男が大広間から去っていくのを、3人は静かに見送る。
「…あの人も今回は、そうとう参っているようだな…」
寂しそうな背中をしたこげ茶色の髪の男の後ろ姿に、右目に眼帯をした男が呟いた。
「平然を装っているが…精神的には辛いはずだ…」
「ハウエルは確か、あの方の孫で直弟子だったので…気持ちを考えると、やはり…」
伏せ目がちに白衣の青年は言うと、そのまま大広間から去っていった。
残された2人も、それぞれの仕事があるので大広間を後にする。
――その頃には集まっていた者達も自分達の持ち場へ戻ったのか、大広間は閑散としていた。
紫月15日の朝……
この日、フローラントに鎮魂の鐘の音が響き渡ったのだった。
***
忘却したのは人々だけ…
数百年以上昔に起こった出来事は、悲しみと憎悪を生み出した。
その出来事は真実を隠蔽され、この世界で語り継がれていった。
真実を知る人ならざる者達は、憎悪の念を抱きながら永い時を過ごし…
真実を忘れ知らぬ人々は人ならざる者に怯え、退魔士に守られながら過ごしていた。
この世界で語り継がれている伝説は偽りが真実へと、真実が偽りへと…
――やがて、この事が新たな悲劇を引き起こしていくのだった……
本部入口で出迎えに現れた暗めの衣装を着た人々が馬車から3人の亡骸を降ろすと、大広間へと運んでそれぞれ棺に入れていった。
大広間は蝋燭の明かりで煌々としており、たくさんの人が集まっているようだ。
ここに集まった者達は、本部と各支部に籍を置く者達である。
――もちろん、この場に3人の亡骸を回収した4人の姿もあった。
しばらくして…――大広間の奥の扉が開くと1人の少年を先頭に、2人の退魔士が控えるようにして入ってきた。
まだ幼さの残った顔立ちをした少年は石竹色の髪を後ろで結っており、悲しみと怒りが入り交じった表情を浮かべて集まっている人々の前に立つ。
そして、背後に並べられた3つの棺に向けて静かに黙祷を奉げた。
黙祷を終えると集まっている者達に向き直り、凛とした…だけど少し幼さを残した声で語りはじめる。
「…本当に残念です。先日に続き、今回も犠牲者が出てしまうとは――ここ数年、彼らはユーゼンヴェルト内のみならず、各地で動いているようだという報告も受けています…これ以上の犠牲者を増やさぬようにする為、必ず幹部クラスの者が同行するようにしてください。これは…総帥として命じます!」
全退魔士を統べる者である石竹色の髪をした少年は「異論は誰であろうと許しません」と言うと、そのまま大広間より退室した。
残された者達は、ざわめき始める。
――ユーゼンヴェルトとは元々は≪夜の眷族≫達の暮らす国で、現在はフローラントの管理地となっている場所だ。
「さてさて…大変な事になったものだのぅ…」
こげ茶色の髪をした50代前半の男が、亡骸を回収した4人のそばへやって来ると苦笑混じりに声をかける。
「ワシの方は特に問題はないのだが、お前さんのところは一番大変そうじゃのぅ…」
こげ茶色の髪の男は、銀髪の青年の方を気の毒そうに見た。
他の3人も何か思い当たったのだろう…こげ茶色の髪の男と同じ気持ちで、銀髪の青年の方を見ている。
「…考えただけで、胃に穴があきそうです…」
銀髪の青年は小さくため息をついて答えると、右目に眼帯をした男は彼の肩に手を置いた。
「≪夜の眷族≫にやられる前に、アイツらの事でやられてしまいそうだな」
「その時は、私が検死をして…いや、骨は拾ってやるので安心しろ。な!」
励まそうとしたらしい白衣の青年も、銀髪の青年の反対側の肩をぽんとたたいた。
その様子を見たこげ茶色の男は、笑いながら言う。
「よかったのぅ…後の事は何も心配せんで良いみたいじゃぞ」
「…全然安心できません!そして、検死も骨も拾わなくて大丈夫です!」
首を横に振った銀髪の青年は、両肩に乗せられた手を払いのけた。
「僕は、これから3人の亡骸の浄化と埋葬の手続きがあるので…これで失礼します」
ぺこりと頭を下げると、銀髪の青年は棺の方へと歩いていく。
3人の亡くなった場所が場所なので、"眠れぬ死者"となり動かぬように炎で浄化をして埋葬をする事になっているのだ。
残された4人は銀髪の青年が歩いていった方向に目をやると、ちょうど3つの棺が運び出されていくところであった。
「しかし、この数年で250名も犠牲になると…総帥の言葉はもっともだからのぅ」
こげ茶色の髪の男は顎に手を置きながら呟くと、茶髪の青年が同意するように頷いている。
「確かに…これ以上の被害が出ないよう、能力の高い我々が一緒に付いた方が良いと思うな」
「…若い者達が、これ以上犠牲にならぬようにしないとならないからのぅ……」
そうなると幹部達に負担がかかるのは仕方のない事だ…と、こげ茶色の髪の男はため息をついた。
「…ハウエル達のような若い命を奪うとは、一体何の意味があるというのか…」
小さく呟いたこげ茶色の髪の男が大広間から去っていくのを、3人は静かに見送る。
「…あの人も今回は、そうとう参っているようだな…」
寂しそうな背中をしたこげ茶色の髪の男の後ろ姿に、右目に眼帯をした男が呟いた。
「平然を装っているが…精神的には辛いはずだ…」
「ハウエルは確か、あの方の孫で直弟子だったので…気持ちを考えると、やはり…」
伏せ目がちに白衣の青年は言うと、そのまま大広間から去っていった。
残された2人も、それぞれの仕事があるので大広間を後にする。
――その頃には集まっていた者達も自分達の持ち場へ戻ったのか、大広間は閑散としていた。
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この日、フローラントに鎮魂の鐘の音が響き渡ったのだった。
***
忘却したのは人々だけ…
数百年以上昔に起こった出来事は、悲しみと憎悪を生み出した。
その出来事は真実を隠蔽され、この世界で語り継がれていった。
真実を知る人ならざる者達は、憎悪の念を抱きながら永い時を過ごし…
真実を忘れ知らぬ人々は人ならざる者に怯え、退魔士に守られながら過ごしていた。
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