うたかた夢曲

雪原るい

文字の大きさ
25 / 94
2話「夢魔の刻印」

しおりを挟む
ジスカからの依頼――夢魔に憑かれた幼い少女を救う為、エトレカの部下である双子の兄妹がゼネス村へ向かったのだそうだ。
本来ならば…夢魔を追い払うなり、倒すなりすればいいだけなのだが……
どういうわけか、双子の兄妹まで夢魔に捕らわれ…よりにもよって、ゼネス村に他の夢魔をたくさん呼び集めるという事態を引き起こした。


「――というわけで、見事に失敗した上にぐっすりと現在も眠っている。ジスカの手配で、ソーシアン兄妹はこの医院に運び込まれたが」

クリストフの説明が終わったところで、クロストが苦笑混じりに言う。

「ジスカから手紙で知らされたが、セリーヌから夢魔を引きずり出せたところまではよかったらしい。その後、仲良く夢魔の術に取り込まれたそうだが」
「そりゃ…エトレカのばあさんは怒るよな。しかし、何でおれが尻拭いをしないといけないんだよ…」

怒り心頭であろうエトレカの姿を思い浮かべたセネトは呆れながら呟いた。
丸椅子に腰かけていたキールが、とても嫌そうに囁く。

「お前はソーシアンの尻拭いが嫌なのかもしれないが、私はお前と組むのが嫌だな。今回、私は我慢するんだ…お前もしたらどうだ?」
「わかってるって…ところでさ、キール。何で、そんなにおれと組むのが嫌なんだよ?」

渋々頷いたセネトが、ずっと気になってた疑問を訊ねた。
腕を組んだキールはセネトをじと目で見ながら、口早にまくしたてはじめる。

「何が…第一に、お前が術を暴発させて被害を無駄に倍増させるだろう?だが、お前は絶対に反省をしない!そうなると色々と責任を取らされる上に、総帥と御三家の各当主による説教だ…お前に関わると、ろくな事にならない」


そもそも、キールはセネトが退魔士見習いをしていた時、試験監督官を努めていた事があった。
その時までは、何とも思っていなかったのだが――

とある平野での"眠れぬ死者"討伐で、現場周辺をセネトが魔法で吹っ飛ばしたのだ。
平野に大きな穴を開けた事で、関係各所に迷惑をかけてしまい…キールは責任を取らされてしまったわけである。
それがトラウマのようになった為、という手段にでたらしい。


そんな2人のやり取りを聞いていたクリストフは、笑いをこらえるように肩を揺らしている。

「だそうですよ…でも、これが原因なのかあなたと組みたがる者が出てこない」
「…それ、ネーメットのじいさんにも言われた。おれは、普通にやってるだけだって!」

むっとしたように、クリストフを見たセネトが反論した。
反省の『は』の字を見せていないセネトの様子に、クロストは咳払いをしつつキールに声をかける。

「セネトの感覚で普通だというのならば、皆が普通でない事になるだろう。まぁ…今回は大丈夫だと思うが、心配ならばクリストフを連れて行くか?キール…」
「はぁ?ちょ…ちょっと待ってください、ユースミルス卿――僕は無理ですよ!?」

クロストの突然の提案に、クリストフは素っ頓狂な声をだし慌てたように言った。
だが、当のクロストは笑いながらキールからクリストフの方へ視線を向ける。

「大丈夫だぞ?お前の仕事は他の者に任せればいいのだから、セネトはお前の部下だ。責任を取るのも、上司の務めだろう?」
「…息子の不始末は親であるあなたが、というのもありかと…?」

ひきつった笑みを浮かべたクリストフがクロストを恨みがましく見遣ると、クロストはさっと笑みを消して、セネトへ視線を戻した。
……どうやら、父親の方も説教コースは避けたかったようだ。

「こほん…まぁ、大丈夫だろうから――話を戻そう。ソーシアンの失敗によって夢魔が力をつけてしまったようで、な。それでセネト、お前に白羽の矢がたったんだ」
「白羽の矢がたった…というか、エトレカのばあさんが勝手に指名してきただけだろうが」

少々気分を害しているセネトは背を伸ばしてから、座っていた診察台から降りる。
そして、キールやクリストフ、クロストの順で指差すと怒鳴りつけた。

「嫌々だけど、あの双子の尻拭いをしてやるよ。エトレカのばあさんに借りを作っておくのもありだしな…そんでもって、お前ら幹部のおれへの評価を変えてやるからな!!」
「…それは、お前の頑張り次第だな。まぁ、意地になり過ぎて二次被害を起こさないようにしろよ」

意地の悪い笑みを浮かべたクロストは、意地になっている息子を見ながら優しく諭した。


***
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...