うたかた夢曲

雪原るい

文字の大きさ
34 / 94
2話「夢魔の刻印」

14

しおりを挟む
――数日後。

ジスカより送られてきたあるリストと報告書を手に、ソファーに腰掛けた銀髪の青年が深くため息をついた。
半分破壊されている彼の部屋の天井と壁にはブルーシートと板で応急処置されているのだが、隙間風が吹き込んできている。

「…まぁ、今回はジスカ殿が気にしなくとも良いと言ってくださったんですが――」
「そうか…それよりも、ここは寒いな。何故こうなった…?」

銀髪の青年のデスクにもたれかかる淡い青色の髪に白衣の男は、温かい飲み物の入ったカップを手に暖をとっていた。

今は黒月こくげつの下旬――〈フェロスの秋節〉の終わり頃、だんだんと気温も低くなってきているのだ。
その冷えた風が隙間風となって室内へ入ってきているので、室内温度は外と同じかそれ以下だろう……

白衣の男の問いに答えたのは銀髪の青年でなく、彼の向かいのソファーに腰掛ける黒髪の少女だった。

「…キール、知らないの?クリストフが、あの子を吹き飛ばした勢いで部屋を壊したの。修理には、少し時間がかかるらしいの…」
「なるほど…とりあえず、イオンさんに言ってしばらくの間は部屋を変えてもらったらどうだ?」

温かい飲み物を一口飲んだ白衣の男・キールが、天井の代わりとなっているブルーシートを眺める。
ソファーから立った銀髪の青年・クリストフは自分のデスクの上に、報告書とリストを静かに置くと首を横にふった。

「…大丈夫です、自分でやった事なので断ったんですよ。それよりも、思ったより被害がなくて安心しました」
「まぁ、私が聖堂全体に結界をはったからな。感謝しろよ…」

口元に笑みを浮かべたキールに、何度も頷いている黒髪の少女が頬を膨らませながら口を開く。

「してるのしてるの。だって、おかげでに呼ばれないから……もう、あんな思いは嫌なの」
「今後、そのような事にならないように僕が教育しておきますよ。まぁ、その機会が来たわけですし…」

何か諦めたような、暗い表情のクリストフはため息をついた。
苦笑混じりに、ブルーシートと壁の隙間から見える空に目を向けているキールが呟く。

「やはり、次は…誰もやりたがらなかったか」
「ごめんなの…クリストフ、わたしはあの双子ちゃんの再教育があるからダメなの。二人の上司だから、って怒られちゃって…」

黒髪の少女が、自分の顔の前で両手を合わせてクリストフに謝罪した。
申し訳なさそうにしている黒髪の少女を慰めるように、キールは優しく声をかける。

「ソーシアン兄妹の件は不幸な事故、セネトと違って彼らは反省しているのですから。あまり厳しくしなくて大丈夫ですよ、エトレカさん」
「わかっているの…ところで、クリストフは何で暗いの?トラブ…セネトひとりなら、そんなに落ち込まなくて大丈夫じゃないの?」

大きなため息をついているクリストフに、黒髪の少女・エトレカは首をかしげて訊ねた。
だが、クリストフは俯いたまま…視線だけを壁とブルーシートの境目に向けて何か諦めたような様子で言う。

「…一人ならば、僕だって落ち込まないです。本当に大変なんですよ、今度は2人同時ですからね…おかげで誰もやりたがりませんでした…」

キールとエトレカは何となく誰もつきたがらなかった理由わけを察し、ゆっくりとクリストフから視線を外した。

――とりあえず聞かなかった事にしよう、とキールとエトレカは密かに思ったようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...