うたかた夢曲

雪原るい

文字の大きさ
48 / 94
3話「幼い邪悪[前編]~2人のトラブルメーカー~」

14

しおりを挟む
「――とりあえず、村に戻りましょうか。それと…今夜はもう遅いので、よろしければ私の家にお泊りください」

名のわからぬ者達の墓に花を供えたヴァリスは、セネトとクリストフに声をかけた。
ヴァリスの申し出に、クリストフは頭を下げて礼を述べる。

「ありがとうございます、ヴァリス殿…では、お言葉に甘えさせていただきます」


実際のところ、夜も遅く…その上、体力と魔力を消耗してしまっているので休息なしの帰路はきつい。
村に一泊…といっても元来、外部の人間を入れたがらないフレネ村に宿のような泊まれる施設は存在しない。
無理矢理にでも村長宅に泊まってやろうと考えていたクリストフだったが、ない事ばかり並べて協会に苦情を入れられては適わない。

密かに、野宿になるだろうと覚悟していたのでヴァリスの申し出は本当に助かったのだ。


「では…お願いできますか?」
「はい、わかりました…ご用意いたします。しかし、夢のようです…憧れのクリストフ様がいらっしゃってくださるとは――それと同時に、あの有名な"トラブルメーカー"も来てくださるとは」

嬉しそうにクリストフを見たヴァリスが何故か、残念そうにセネトの方を横目で見た。
それに気付いたセネトは、ヴァリスを指差して叫ぶ。

「だー!ちょっと待て、その"トラブルメーカー"ってのは…もしかして、おれの事か!?何故、どーしてお前までっ!しかも、今になってか!?」

協会本部内で"トラブルメーカー"と呼ばれる事は多々あるのだが、それを初めに言ったのはセネトのよく知っている人物である兄なのだ。
だが、それはあくまで身内の話だ…しかし、気づけばフローラント内に広まってしまっていた。

他国の方にまで広まっているとは、さすがのセネトも考えていなかったのである。

「いえ、私は数年前まで…その、エレディアの本家にいまして。その関係で本部の方に籍を置いておりましたので…」

苦笑混じりに答えたヴァリスは、セネトに目を向けると言葉を続けた。

「なので、お噂はかねがね…そして、先ほど納得できました。その理由わけを――」
「そんな噂を信じるなっ!というか、納得するな…すぐ忘れろ!まさか、広めるようなマネは…」

怒りの余りヴァリスに威嚇するセネトであったが、当のヴァリスは面白そうに言う。

「私は何も…しかし、他の者が広めているのは確かです。さすがに、身内は売れませんから…」
「ちっ、身内って事はエレディアの奴らか。今度、奴らのところに乗り込んでやろうか…」

文句を言う為にセネトはエレディア家へ突撃しようと決意する、が…後日、違う形で犯人が判明するのを今の彼は知る由もなかった。
なんとなく、犯人に心当たりがあるのか…クリストフは頭をおさえて愚痴る。

「止めてほしいですよ、僕は。後で苦情を受けるのは、こっちなんですから…」

その時は同僚であり、セネトの師であるディトラウトを巻き込んでやろう…とクリストフは密かに決意したようだ。


***
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...