うたかた夢曲

雪原るい

文字の大きさ
58 / 94
4話「幼い邪悪[中編]~弱虫、再び~」

しおりを挟む
歩きはじめて一時間半近く…途中、何度か休憩をはさみながら進んだが何とかアーヴィル村に辿り着いたセネト達。
村の入口には少し斜めになっている看板があり、そこには『アーヴィル村』と書かれていた。

「ふーん…何か、見た感じがフレネ村に似ているのな。願わくば、余所者大嫌いだ…殺してやる、っていう連中じゃなければいいけど」

どこかフレネ村と似た雰囲気を感じたセネトは、斜めになっている看板を蹴りつける。

「セネト…看板は、蹴るものではないです。壊れでもした日には――」

少し棒読み風で言ったクリストフがわざとらしく息をついていると、セネトは周囲の様子をうかがいながらそっと看板を直そうとした。
そんなセネトの様子を見たイアンは、笑いを堪えながら言う。

「…さすがに、申し訳ないという気持ちはあるんだな。お前にも…」

むっとしたセネトが「うるさい」と言い返していると、村の方から誰かがこちらの方へとやって来ている事に気づいた。
その人物は、杖をつきながらゆっくりと右足をかばうように歩いているようだ……

「なんだ…こんな朝早くに、誰の許しを得てこの村に来た?」

威圧的に声をかけてきたのは、年の頃は60代の白髪混じりの栗色の髪をした男で――村の入り口に、立ちはだかるように立った。

「そこにいるのは、の連中だろう…?ここへは来ぬ約束ではなかったのか!?大体それを貴様らが一方的に言ってきておいて、それを自ら破るつもりか!」

怒りを隠しもせず男が言うと、フレネ村の者達は下を向き…幼い子供達は目に涙を溜めて怯えているようだった。
そんなフレネ村の者達を見た男は小さく息をついてから、ふとセネト達の方へ視線を向ける。

「…なんだ、貴様らは退魔士か。こやつ等の為に、ご苦労な事だ」
「それはどうも…ところで、見たらわかるだろ?こいつらは怪我人だ…一時的でもいいから村に入れてやってくれないか?」

立ちはだかる男に不信感を抱きながら、セネトはフレネ村の者達を指した。
しかし、男は杖でフレネ村の者達を指すと苛立ったように答える。

「ふん、何勝手な事を…こいつらは数多の人々の生命を奪って――」
「何があったのかは、だいたい想像できますが…どうか、怒りを抑えてもらえますか?ウィルネス殿…」

制止する声に杖を持つ男・ウィルネスはそちらを向いて、それが見知っている人物であると気づくと表情を少し和らげた。

「…ん?貴様は、イアン…イアン・メルセルト、か。久しいな…しかし、何故この者共の味方をする?」
「久しぶりだというのに、まったく……相変わらず、嫌味節ですか。まぁ…元気な証だという事にしましょうか」

ため息をついたイアンがウィルネス近づき耳元で何かを囁くと、ウィルネスは驚いたようにセネトの方に目を向ける。
そして、少し考え込んだウィルネスは顎で村の方を指した。

「いいだろう…村の宿屋に身を寄せる事を許可する。入れ…後で、医師を向かわせよう」

宿屋の方を視線で指したウィルネスは、そのまま立ち去っていった。
それを見送っていたセネトは、小さく舌打ちする。

「何だよ…エラソーに!しかし…イアンの知り合いだったんだな、あのじいさんは」
「…ウィルネス殿は、俺の先輩――もう引退したが、退魔士だった方だ。今は…どこかの村で村長をしている、と聞いてはいたが…この村だったんだな」

顎に手をあてたイアンが納得したように何度も頷いた後、クリストフやミカサに目で宿屋を指すと歩きはじめた。
その指示に従って、クリストフとミカサもフレネ村の者達を連れて宿屋へ向かう。

(…あれ?そういえば――)

セネトは、ふと何かが気になって足を止めると首をかしげた。
――一体、イアンは何を言って…あのウィルネスを納得させたのだろうか、と。




アーヴィル村にある宿屋は思っていたより大きく、部屋も何部屋か空いていた。
その空いている部屋をすべて借りてフレネ村の人々を休ませ、ウィルネスが手配したらしい医師に彼らの状態を説明する。
話を聞いた医師とミカサが人々の治療に回っている間、セネトやイアン、クリストフとヴァリス、ナルヴァの5人は宿屋の…誰もいない広間にて話し合っていた。

「とりあえず…これで、ひと段落だな。で、次はクレリア探し兼救助だな…しっかし、どこだろうな?確か、フレネとアーヴィルの間…って言ってたけど、ここに来るまでの間にそれらしい建物はなかったよな?」

広間にあるソファーに座りながら、セネトは大きな欠伸をする。

「どっかに…道があったのかな?」
「それについてはわかっているので、いいんですが…その前に、イアン――」

何か思案していたクリストフが、イアンに目を向けて訊ねた。

「ウィルネス殿に、何と言って…この村に入れるようにしたんですか?」
「ん?いや…その――」

珍しく狼狽えた様子のイアンが、何かを決意したように息をつくと答える。

「ここにいるのは、と自称しているである。このままでは、どうなるかわからない――と、言っただけだ」
「うおーい!!それは、おれの事か!?どう考えても、この中でユースミルスを名乗れるのはおれだけだもんな!」

ソファーから飛び上がったセネトは、とんでもない事を言ってくれたイアンの襟元を掴むと叫んだ。
セネトの頭をおさえながらイアンは笑みを浮かべて、襟首を掴む手を払いのけた。

「まぁ、いいじゃないか…おかげでアーヴィル村に入れたんだから、な」

まだ怒り足りない様子のセネトの襟首を掴んで制止したクリストフが、ため息をついて口を開く。

「まぁ、ウィルネス殿は…正しい選択をされたんでしょうね」

引っぱられているセネトは身動きがほとんどできないなりに暴れる、が背後にいるクリストフから不穏な気配を感じて動きを止めた。
それに気づいたクリストフはにっこりと微笑んで、反省したらしいセネトを解放する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...