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4話「幼い邪悪[中編]~弱虫、再び~」
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うっすらと霧に包まれているアーヴィル村…最初、異変に気づいたのはわずか数人だけである。
霧が出ている事自体、何の問題もない…この時期、早朝から昼前くらいまで発生するからだ。
(…やはり、動き出したか。だから、呪われ村の連中を入れたくはなかったんだ…はぁ、あやつらはこの村をどうにかする気はないと言うておったが――)
村の様子を見て回っていた村長・ウィルネスは、ふと足を止めた。
周囲には、先ほどまで生活を営んでいた村人達が小さな寝息をたてて眠っていたのだ。
それが普通の眠りではなく、夢術で引き起こされたものだとウィルネスにもはっきりとわかっていた。
だから、ナルヴァとヴァリス…そして、シスターでもあるミカサと共にフレネ村の人々を一か所に集めて結界をはったウィルネスが大きめの声で、村のどこかにいる自分の孫娘の名を呼んだ。
小さな鈴の音と共に栗色の髪の少女がやって来ると、ウィルネスは優しげな表情を浮かべる。
「無事だったか…よいか、お前は村の入口でイアン達を待ち…結界のはってある集会所へ連れて来い。あと、フレネ村の連中もいる事も伝えろ…頼んだぞ」
「はい、おじいさま…」
小さく頷くと鈴の音を鳴らしながら村の入口へ向かう少女を見送ったウィルネスは、夢術で眠らされている者達の様子やまだ眠らされていない者がいないか探そうと再び歩きはじめる。
…だが、すぐにアーヴィル村の者達はみな眠らされている事を確認したウィルネスが深いため息をついた。
いくらアーヴィルの村人達に危害を加えないと言われても、自分達の村で憎んでいる相手とも言えるフレネの村人達に危害を加えるというのも気分の良い話ではない――いや、心情としては復讐しようとしている彼らの考えは理解できるのだが……
自分と自分の孫娘以外、アーヴィル村の人々は眠っているので大丈夫だろうと考えたウィルネスは集会所へ戻ろうと踵を返す。
おそらく、セネト達が戻ってくるまで何も起こらないだろう…ウィルネスが空へ向けて何かを囁いた。
囁かれた言葉は風の音にかき消され、それに答える声もなかった――
***
眩い光と全身に走る痛みにセネトが目を覚ますと、そこは先ほどまでいた場所ではなく…アーヴィル村近くの原っぱであるようだった。
何故、自分がここで横たわっているのか…まったく理解できず、ゆっくりと上半身を起こして呟いた。
「はぁ!?何で…おれ、ここにいるんだ?」
「いや、何でって…あんたが、突然降ってきたのよ!」
呆然としているセネトの背後から聞こえてきた声に、ゆっくりと目を向けた。
そこにいたのは自分と同期である少女・クレリアと、その隣には苦笑しているクリストフとイアンの姿がある。
「魔法で直接送ってもらったんですか…よかったですね、セネト」
「まさか、俺達より先に着くとはな…」
あまり心配していない2人に、立ち上がったセネトは怒りで叫んだ。
「だぁー…ちょっとくらいは心配したらどうだ、お前ら!!つーか、すぐそこがアーヴィル村か!」
「まー、そうなんですがね…たいした怪我はしていないようですし、しっかり働いてくださいね」
セネトの額を軽く指で弾いたクリストフが、にっこりと微笑みながらアーヴィル村へ杖の先を向けた。
「しまった…どこか負傷しておけばよかった」
ガックリと肩を落として呟いたセネトであるが、どんな怪我をしても回復魔法で治癒されてしまう事を失念しているようだ。
その事を指摘しようとしたクリストフの肩に、イアンは首を横にふって制止する。
そんなやり取りが行われているとは知らないセネトは、クレリアと軽く言い合いながらアーヴィル村へと向かうのだった。
***
霧に包まれているアーヴィル村にある集会所の前にいるミカサは、不安そうに周囲を窺っていた。
誰も彼もが深い眠りについていく中、ウィルネスの指示でフレネ村の人々を集会所前に避難させた上で、ミカサとウィルネスが2重の結界を集会所周辺にはり巡らせているのだ。
これで一応は大丈夫であるが、それでも…あまり長い時間この状態を維持できないだろう。
小さく息をついたミカサに、ナルヴァが声をかけた。
「…なぁ、ひとつ思ったんだけどな。幼い子達をさ…集会所の中に入ってもらった方がいいんじゃないか?だって…その、あの子達とか怖がってるし…あんたが一緒に、いたら安心すると思うし」
「…そうですね、それでは後をお願いできますか?それと…ヴァリスさんにも、よろしく言ってくださいね」
不安と恐怖で真っ青な顔をした子供達が、小刻みに震えているのに気づいたミカサはそばに寄ると手を差し伸べる。
そして、怯えている子達と共に集会所の中に入っていった。
「………」
複雑な表情を浮かべているナルヴァの肩に、傍らにやって来たヴァリスの手がおかれる。
一瞬驚いた顔をしたナルヴァに、にっこりと微笑んだヴァリスは優しく声をかけた。
「よくできましたね…あなたにしては、上出来です」
その言葉に何か答えようとしたナルヴァだったが、結局は何も言えず…ゆっくりとヴァリスから視線を外した。
アーヴィル村にある集会所は石造りの2階建てで、ウィルネスによれば2階は物置きなのだそうだ。
なので、ミカサは子供達と共に1階の会議室のような広い部屋に身を隠す事にした。
(椅子しかないのかと思ったけど…よかった、座布団やクッションもあるのね)
部屋の一角にある棚を確認したミカサは、隅に座布団を数十枚敷いて子供達にクッションをひとつずつ手渡す。
フレネ村での事件からアーヴィル村への移動…そして、異変といろいろあり過ぎてまだ幼い子供達の心と体力は限界だろう。
そう考えたミカサは、まだ怯えている子供達を休ませようと考えたのだ。
横になった子供達にミカサが優しい声音で子守唄をうたう…その歌声に子供達は、次第に瞼を閉じて小さな寝息をたてはじめた。
――子供達が眠った事に安心したミカサは気づかなかった…それが、集会所にすでに潜んでいた者達の術によるものだという事を。
歌っていたミカサも次第にウトウトとし初め、やがて車椅子の背もたれにもたれかかって小さな寝息をたてると眠ってしまった。
そこに現れた2つの影…この者達は、ゆっくりと部屋を見回す。
部屋にいる全員が眠っているのを確認した2つの影は部屋を出た。
「終わりを理解しておりながら、なお進む…か」
「ならば、我らも…その最期を見守るとしようか」
囁き合う言葉は集会所の外には届かない…そして、これから何が起ころうとしているのかは――この時、誰一人としてわかっていなかった。
霧が出ている事自体、何の問題もない…この時期、早朝から昼前くらいまで発生するからだ。
(…やはり、動き出したか。だから、呪われ村の連中を入れたくはなかったんだ…はぁ、あやつらはこの村をどうにかする気はないと言うておったが――)
村の様子を見て回っていた村長・ウィルネスは、ふと足を止めた。
周囲には、先ほどまで生活を営んでいた村人達が小さな寝息をたてて眠っていたのだ。
それが普通の眠りではなく、夢術で引き起こされたものだとウィルネスにもはっきりとわかっていた。
だから、ナルヴァとヴァリス…そして、シスターでもあるミカサと共にフレネ村の人々を一か所に集めて結界をはったウィルネスが大きめの声で、村のどこかにいる自分の孫娘の名を呼んだ。
小さな鈴の音と共に栗色の髪の少女がやって来ると、ウィルネスは優しげな表情を浮かべる。
「無事だったか…よいか、お前は村の入口でイアン達を待ち…結界のはってある集会所へ連れて来い。あと、フレネ村の連中もいる事も伝えろ…頼んだぞ」
「はい、おじいさま…」
小さく頷くと鈴の音を鳴らしながら村の入口へ向かう少女を見送ったウィルネスは、夢術で眠らされている者達の様子やまだ眠らされていない者がいないか探そうと再び歩きはじめる。
…だが、すぐにアーヴィル村の者達はみな眠らされている事を確認したウィルネスが深いため息をついた。
いくらアーヴィルの村人達に危害を加えないと言われても、自分達の村で憎んでいる相手とも言えるフレネの村人達に危害を加えるというのも気分の良い話ではない――いや、心情としては復讐しようとしている彼らの考えは理解できるのだが……
自分と自分の孫娘以外、アーヴィル村の人々は眠っているので大丈夫だろうと考えたウィルネスは集会所へ戻ろうと踵を返す。
おそらく、セネト達が戻ってくるまで何も起こらないだろう…ウィルネスが空へ向けて何かを囁いた。
囁かれた言葉は風の音にかき消され、それに答える声もなかった――
***
眩い光と全身に走る痛みにセネトが目を覚ますと、そこは先ほどまでいた場所ではなく…アーヴィル村近くの原っぱであるようだった。
何故、自分がここで横たわっているのか…まったく理解できず、ゆっくりと上半身を起こして呟いた。
「はぁ!?何で…おれ、ここにいるんだ?」
「いや、何でって…あんたが、突然降ってきたのよ!」
呆然としているセネトの背後から聞こえてきた声に、ゆっくりと目を向けた。
そこにいたのは自分と同期である少女・クレリアと、その隣には苦笑しているクリストフとイアンの姿がある。
「魔法で直接送ってもらったんですか…よかったですね、セネト」
「まさか、俺達より先に着くとはな…」
あまり心配していない2人に、立ち上がったセネトは怒りで叫んだ。
「だぁー…ちょっとくらいは心配したらどうだ、お前ら!!つーか、すぐそこがアーヴィル村か!」
「まー、そうなんですがね…たいした怪我はしていないようですし、しっかり働いてくださいね」
セネトの額を軽く指で弾いたクリストフが、にっこりと微笑みながらアーヴィル村へ杖の先を向けた。
「しまった…どこか負傷しておけばよかった」
ガックリと肩を落として呟いたセネトであるが、どんな怪我をしても回復魔法で治癒されてしまう事を失念しているようだ。
その事を指摘しようとしたクリストフの肩に、イアンは首を横にふって制止する。
そんなやり取りが行われているとは知らないセネトは、クレリアと軽く言い合いながらアーヴィル村へと向かうのだった。
***
霧に包まれているアーヴィル村にある集会所の前にいるミカサは、不安そうに周囲を窺っていた。
誰も彼もが深い眠りについていく中、ウィルネスの指示でフレネ村の人々を集会所前に避難させた上で、ミカサとウィルネスが2重の結界を集会所周辺にはり巡らせているのだ。
これで一応は大丈夫であるが、それでも…あまり長い時間この状態を維持できないだろう。
小さく息をついたミカサに、ナルヴァが声をかけた。
「…なぁ、ひとつ思ったんだけどな。幼い子達をさ…集会所の中に入ってもらった方がいいんじゃないか?だって…その、あの子達とか怖がってるし…あんたが一緒に、いたら安心すると思うし」
「…そうですね、それでは後をお願いできますか?それと…ヴァリスさんにも、よろしく言ってくださいね」
不安と恐怖で真っ青な顔をした子供達が、小刻みに震えているのに気づいたミカサはそばに寄ると手を差し伸べる。
そして、怯えている子達と共に集会所の中に入っていった。
「………」
複雑な表情を浮かべているナルヴァの肩に、傍らにやって来たヴァリスの手がおかれる。
一瞬驚いた顔をしたナルヴァに、にっこりと微笑んだヴァリスは優しく声をかけた。
「よくできましたね…あなたにしては、上出来です」
その言葉に何か答えようとしたナルヴァだったが、結局は何も言えず…ゆっくりとヴァリスから視線を外した。
アーヴィル村にある集会所は石造りの2階建てで、ウィルネスによれば2階は物置きなのだそうだ。
なので、ミカサは子供達と共に1階の会議室のような広い部屋に身を隠す事にした。
(椅子しかないのかと思ったけど…よかった、座布団やクッションもあるのね)
部屋の一角にある棚を確認したミカサは、隅に座布団を数十枚敷いて子供達にクッションをひとつずつ手渡す。
フレネ村での事件からアーヴィル村への移動…そして、異変といろいろあり過ぎてまだ幼い子供達の心と体力は限界だろう。
そう考えたミカサは、まだ怯えている子供達を休ませようと考えたのだ。
横になった子供達にミカサが優しい声音で子守唄をうたう…その歌声に子供達は、次第に瞼を閉じて小さな寝息をたてはじめた。
――子供達が眠った事に安心したミカサは気づかなかった…それが、集会所にすでに潜んでいた者達の術によるものだという事を。
歌っていたミカサも次第にウトウトとし初め、やがて車椅子の背もたれにもたれかかって小さな寝息をたてると眠ってしまった。
そこに現れた2つの影…この者達は、ゆっくりと部屋を見回す。
部屋にいる全員が眠っているのを確認した2つの影は部屋を出た。
「終わりを理解しておりながら、なお進む…か」
「ならば、我らも…その最期を見守るとしようか」
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