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5話「幼い邪悪[後編]~復讐の終わり~」
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「だ、大丈…夫。僕らは…"血の誓約"を、果たす事…でき…から…先に、いって…まっ――」
声にならない声で言うルフェリスに、ヴァリスは小さく頷いた――状況のすべてを受け入れ、先に逝く兄を安心させようと微笑みを浮かべて。
止血しようとセネトが動こうとするも、ルフェリスは首を横にふってそれを拒んだ。
その様子を静かに見守っていたヴェンデルが、ため息をついてからもう一度指を鳴らす。
…その瞬間ルフェリスの胸を貫いていた塊が崩れ消え、ルフェリスは微笑みを浮かべたまま身体が塵となり消えていった。
間近で兄の死を見届けたヴァリスは、俯くと小さく何度も頷いている。
ルフェリスの死に、セネトは唇を噛みしめるとヴェンデルを睨みつけた。
「…お前、どうして――」
「何故…簡単な事だ。ルフェリス・アードレアが"血の誓約"を果たせぬ時は生命を絶つ、と誓っている…そこの、ヴァリスもな」
静かに、ヴェンデルは告げる…これはルフェリス達が望んだ事である、と――
小さくため息をついたヴェンデルが一歩引くように間合いを計り、怒りのまま斬りかかろうとするセネトの腕をひねりあげて剣を落とさせた。
そして、空いてる方の手でセネトの前髪を引いて呆れたようにため息をつく。
「邪魔をするならば仕方ない…少々、手荒な方法になるが」
セネトの腹に膝蹴りをし、前のめりになったところを背中に一撃し地面に倒した。
その様子に気づいたクリストフだったが、助けに入りたくてもテルエルがそれを許さず向かえない。
セネトが動けなくなったのを確認したヴェンデルは覚悟を決めているヴァリスの方を向くが、何かに気づくと大きくため息をついた。
「はぁ…離せ」
ヴェンデルは自分の足首を掴んでいるセネトに言う…が、それでも離そうとしない。
もう一度大きくため息をついたヴェンデルが困ったような表情を浮かべ、何か考えはじめる……セネトは、その隙を見逃さなかった。
立ち上がったセネトはヴェンデルの首に腕をかけて引き倒そうとした…が、その瞬間ヴェンデルがセネトの腕を掴むと逆に仰向けに倒す。
そして、セネトを押さえ付けたまま短剣を向けた。
「しばらくは、動けぬようにしなければならないか…」
振り上げられた短剣に、セネトは思わず目を閉じるが一向に痛みが襲ってこないので不思議に思いながら目を開ける。
そこには、ヴェンデルの腕をおさえているヴァリスの姿があった。
「私達は全てを覚悟して一族の、"血の誓約"をしました…全てを知ってもらえただけで、私達は十分だと思っています。信用できるあなた方ならば、後の事を任せられると……でも、ここであなたを助けなかったら…きっと後悔する。兄さんや妹達にも、向こうで怒られてしまう…」
――あの日、フレネ村の人間に復讐をする為にエレディアとアードレアの当主の前で"血の誓約"をした。
果たせなかった、その時は自分達の生命をもって贖うと誓った…自分達に、もう何も思い残す事はないと考えたからだ。
初めは、名の知れぬ人々やユミリィ、妹のミリスの為にフレネ村の人々を手にかけてきた――まさか、自分達の育ての親までとは思っていなかったが。
…当主達が自分達の私怨を止めなかった理由もここにあったのだろう、とヴェンデルとテルエルの話で理解できた。
自分達がフレネ村の全てを一年で滅すると誓って、ほぼその通りにしてきた――でも、何も知らない幼子達やナルヴァを手にかけられない。
その時点で誓約に背いている…どうせ、どこかの誰かが自分達の生命を狙っているのだ。
――エレディアとアードレアが隠してくれるだろうが、永遠に見つからない保証はない。
何故、狙われているのか…その理由は調べると、すぐにわかった。
だったら、誓約をわざと果たさずに…ヴァリスの憧れている人物も呼んで記憶に残してもらおうとルフェリスが考え、それをヴァリスが実行に移した。
…こうして知ってもらえた上に、楽しいひと時までもらえたのだ。
「本当に感謝しています…これは、私達兄妹と一人の少女がしてきた事の報い――逃れられぬ運命だったのですから」
セネトへ向けられているヴェンデルの短剣の刃を自分の首元にあてたヴァリスは、セネトと…少し離れた場所にいるクリストフに向けて微笑みを浮かべる。
兄や妹、ユミリィ…名の知らぬ数多の人々や育ての親達の身に起こった事――それと、フレネ村の罪と自分達がしてきた事を知ってもらえた。
そして、憧れていたクリストフに会えた…それだけで、ヴァリスに思い残す事はない。
「覚悟はできているようだな…エレディア家の者として、恥ずかしくない最期を迎えるといい。ヴァリス…せめて、苦しまぬようにしてやる」
ゆっくりと目を閉じたヴァリスに、ヴェンデルが優しげな笑みを浮かべるとヴァリスの首に刃を走らせた。
――これで、やっと全てが終わる……
目を開けると、先に逝った兄や妹達がにっこり微笑んでいて…そして、誰かが頭を撫でてきた。
振り返ると、そこには…育ての親が「よく頑張ったな」と言って微笑んでいた――
***
声にならない声で言うルフェリスに、ヴァリスは小さく頷いた――状況のすべてを受け入れ、先に逝く兄を安心させようと微笑みを浮かべて。
止血しようとセネトが動こうとするも、ルフェリスは首を横にふってそれを拒んだ。
その様子を静かに見守っていたヴェンデルが、ため息をついてからもう一度指を鳴らす。
…その瞬間ルフェリスの胸を貫いていた塊が崩れ消え、ルフェリスは微笑みを浮かべたまま身体が塵となり消えていった。
間近で兄の死を見届けたヴァリスは、俯くと小さく何度も頷いている。
ルフェリスの死に、セネトは唇を噛みしめるとヴェンデルを睨みつけた。
「…お前、どうして――」
「何故…簡単な事だ。ルフェリス・アードレアが"血の誓約"を果たせぬ時は生命を絶つ、と誓っている…そこの、ヴァリスもな」
静かに、ヴェンデルは告げる…これはルフェリス達が望んだ事である、と――
小さくため息をついたヴェンデルが一歩引くように間合いを計り、怒りのまま斬りかかろうとするセネトの腕をひねりあげて剣を落とさせた。
そして、空いてる方の手でセネトの前髪を引いて呆れたようにため息をつく。
「邪魔をするならば仕方ない…少々、手荒な方法になるが」
セネトの腹に膝蹴りをし、前のめりになったところを背中に一撃し地面に倒した。
その様子に気づいたクリストフだったが、助けに入りたくてもテルエルがそれを許さず向かえない。
セネトが動けなくなったのを確認したヴェンデルは覚悟を決めているヴァリスの方を向くが、何かに気づくと大きくため息をついた。
「はぁ…離せ」
ヴェンデルは自分の足首を掴んでいるセネトに言う…が、それでも離そうとしない。
もう一度大きくため息をついたヴェンデルが困ったような表情を浮かべ、何か考えはじめる……セネトは、その隙を見逃さなかった。
立ち上がったセネトはヴェンデルの首に腕をかけて引き倒そうとした…が、その瞬間ヴェンデルがセネトの腕を掴むと逆に仰向けに倒す。
そして、セネトを押さえ付けたまま短剣を向けた。
「しばらくは、動けぬようにしなければならないか…」
振り上げられた短剣に、セネトは思わず目を閉じるが一向に痛みが襲ってこないので不思議に思いながら目を開ける。
そこには、ヴェンデルの腕をおさえているヴァリスの姿があった。
「私達は全てを覚悟して一族の、"血の誓約"をしました…全てを知ってもらえただけで、私達は十分だと思っています。信用できるあなた方ならば、後の事を任せられると……でも、ここであなたを助けなかったら…きっと後悔する。兄さんや妹達にも、向こうで怒られてしまう…」
――あの日、フレネ村の人間に復讐をする為にエレディアとアードレアの当主の前で"血の誓約"をした。
果たせなかった、その時は自分達の生命をもって贖うと誓った…自分達に、もう何も思い残す事はないと考えたからだ。
初めは、名の知れぬ人々やユミリィ、妹のミリスの為にフレネ村の人々を手にかけてきた――まさか、自分達の育ての親までとは思っていなかったが。
…当主達が自分達の私怨を止めなかった理由もここにあったのだろう、とヴェンデルとテルエルの話で理解できた。
自分達がフレネ村の全てを一年で滅すると誓って、ほぼその通りにしてきた――でも、何も知らない幼子達やナルヴァを手にかけられない。
その時点で誓約に背いている…どうせ、どこかの誰かが自分達の生命を狙っているのだ。
――エレディアとアードレアが隠してくれるだろうが、永遠に見つからない保証はない。
何故、狙われているのか…その理由は調べると、すぐにわかった。
だったら、誓約をわざと果たさずに…ヴァリスの憧れている人物も呼んで記憶に残してもらおうとルフェリスが考え、それをヴァリスが実行に移した。
…こうして知ってもらえた上に、楽しいひと時までもらえたのだ。
「本当に感謝しています…これは、私達兄妹と一人の少女がしてきた事の報い――逃れられぬ運命だったのですから」
セネトへ向けられているヴェンデルの短剣の刃を自分の首元にあてたヴァリスは、セネトと…少し離れた場所にいるクリストフに向けて微笑みを浮かべる。
兄や妹、ユミリィ…名の知らぬ数多の人々や育ての親達の身に起こった事――それと、フレネ村の罪と自分達がしてきた事を知ってもらえた。
そして、憧れていたクリストフに会えた…それだけで、ヴァリスに思い残す事はない。
「覚悟はできているようだな…エレディア家の者として、恥ずかしくない最期を迎えるといい。ヴァリス…せめて、苦しまぬようにしてやる」
ゆっくりと目を閉じたヴァリスに、ヴェンデルが優しげな笑みを浮かべるとヴァリスの首に刃を走らせた。
――これで、やっと全てが終わる……
目を開けると、先に逝った兄や妹達がにっこり微笑んでいて…そして、誰かが頭を撫でてきた。
振り返ると、そこには…育ての親が「よく頑張ったな」と言って微笑んでいた――
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