うたかた夢曲

雪原るい

文字の大きさ
89 / 94
6話「王女と従者と変わり者と…」

10

しおりを挟む
「…もう、最悪だったな」

早朝の、協会の廊下でセネトはぐったりしながら呟いた。
それもそのはず…説教的な意味と、魔法的な意味で雷を落とされ疲れていたのだ。
――まぁ、一晩中説教していた父親の方が疲労困憊であろうが。

昨日もいたクリストフの部屋の前までやって来たセネトは、大きくため息をついた。

(はぁ…平常心、平常心っと)

ノックをして部屋に入ると、そこには何故か驚いているクリストフとイオンの姿と来客一人の後ろ姿が見える。
来客がいるのなら出直そうとしたセネトを、クリストフが呼び止めて手招いた。

首をかしげたセネトはクリストフの元へ向かう途中で、その来客の正体に気がつく。

「ぇ…もしかして、王女様っ!?」
「おはようございます、セネト様」

驚くセネトに、来客である王女・ベアトリーチェがにっこりと微笑んで頭を下げた。
彼女は昨日と違って長い髪を三つ編みにし、ドレスではなく動きやすそうなワンピースを着ていたのだ。

書類を手に、息をついたクリストフがセネトに空いているソファーへ座るように声をかけると話しはじめる。

「えー…っと、ベアトリーチェ様は社会勉強の為にしばらく当協会の退魔士になられるそうです。それで、その間相棒としてセネト…あなたが指名されました」
「へぇー、ベアトリーチェ様が退魔士に…で、おれの相棒にねぇ――って、うぇ!?」

クリストフの言葉を頷いて聞いていたセネトは素っ頓狂な声をあげ、クリストフと王女の顔を交互に見た。

(あぁ、だから動きやすそうな服を…じゃなくて、おれにもついに相棒が…って、これも違う!つーか、何故だ?)

もはや、わけがわからなくなったセネトがパニック状態に陥っているのを見た王女はクスクスと笑う。

「驚かせてしまい、申し訳ありません…私、こう見えて剣の扱いに長けてますの。セネト様の足は引っぱりません!」
「いやいや…って、クリストフ!」

クリストフのデスクに身を乗り出したセネトは、小声で訊ねた。

「何で止めないんだよ…つーか、ルカリオは?」
「止めるも止めないも、テセリアハイト王の署名付きの手紙を持ってらしたので…しかも『娘を頼む』とあったら、もう僕には止められません」

クリストフが引き出しからだしたのは、テセリアハイト王家の紋の入った封蝋付きの封筒だった。

「フローラントの御三家のひとつであるユースミルス家本流のあなたが相棒になるなら安心だ、とありましたし…」
「それは、私がお父様にお話しいたしました…それにセネト様のご実家であるユースミルス家は、私のお母様のご実家でもありますから」

いつの間にか、セネトの隣に立った王女が理由わけを説明する。
――そういえば、親戚でテセリアハイト王家に嫁いだ従叔母がいたな…と、思いだしたセネトは納得したように頷いた。

納得してもらえたと思った王女は、満面の笑みで頭を下げる。

「これからよろしくお願いします、セネト様」
「えっ…いや、こちらこそ…?」

思考停止したセネトがぺこりと頭を下げて、「はい」と答えた王女は嬉しそうに微笑んだ。

……こうして、セネトは新しい相棒バディが決まったわけである。


***
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...