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0話「惨劇の祭り」
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学校を出てバスに乗り、輝琉実の中心地にやって来た私は教会の事務室で電話を借りた。
かけた先は実湖にある実家の、当主の部屋。
直に電話する理由は、あの子に邪魔されないよう父と考えた苦肉の策だったりするのだけどね。
三コール鳴った後、相手が電話に出た。
『…はい?』
「お父さん、私――真那加です。今、輝琉実教会で電話を借りているの」
『わかったよ、すぐ迎えの車を出すから少し待たせてもらってね』
了承してから電話を終え、事務仕事をしている神官様に礼を言った後に礼拝堂で待たせてもらえないか訊ねる。
今は自由に出入りできる時間だから大丈夫だ、と教えてもらった私はそちらに向かった。
輝琉実教会にあるステンドグラスは、かつて存在したと言われている世界樹、守護する天使と精霊が描かれている――それはとてもきれいなもので、たくさんの観光客が自由解放の時間に訪れているそうだ。
私が来た時はお昼前だったからか、そこまで人は多くなかった。
礼拝堂に入って正面に色とりどりの花に囲まれた大きな樹のステンドグラス、右側が黄色から青のグラデーションの背景に三対の翼を持つ天使のステンドグラス。
左側は淡い緑色から濃い緑色のグラデーションの背景に精霊のステンドグラスが並んでいるのを見て、私は思わず見入ったまま呟いた。
「…すごい」
「すごいですよね。それより、知っていますか?実はこのステンドグラス、旧暦時代より以前に制作されたものなんですよ」
すぐ隣から声が聞こえてきたので驚いてそちらに目を向けると、白銀の髪に黄緑色の瞳をした青年が立っていた。
彼の着ている服は白を基調とした長衣で、どこか神秘的な雰囲気のある神職に就く方なのかな?
「このステンドグラスの他にも〈古代種〉達の手で造りだされたものが、この世界にあったのですが…あの戦火により、すべて失われてしまったようですね」
この教会には何度も来ているし、ステンドグラスの説明も聞いた事あるけど制作者不明の旧暦時代前期に造られたものとしか知られていなかったはず……
「あの」
詳しい内容が気になり彼に訊ねようとした瞬間、外からクラクションの音が聞こえてきた――三回鳴ったので、おそらく私の迎えだと思う。
「すみません、もう行かないと…またお話を聞かせてもらえますか?」
頭を下げて謝罪する私に、長衣の青年はきょとんとした表情を一瞬浮かべた後に頷いた。
「……えぇ、私の話でよければ。早く行ってあげなさい」
外の方へ目を向けて言う彼に、もう一度頭を下げてから迎えの車の元へ早足で向かう。
そういえば、彼が何者だったのかを訊ね忘れてしまったから今度お話を聞く時に訊ねてみようかな?
「……」
先ほどまで一緒だった栗色の長い髪の少女を見送った長衣の青年は、わざとらしくため息をついた。
「邪魔が入ってしまいましたねぇ、せっかく異母兄様を苦しめるもののひとつが排除できたかもしれないのに」
「確かに残念だけど、ここで事を起こすと気づかれてしまう可能性が上がるよ?」
肩を落とした彼の背後に、いつの間にか現れた白に近い水色の髪に栗色の瞳をした青年が言う。
青年は黒のロングコートとスーツ姿で、長衣の青年と対となる色の衣装にしているようだ。
「まぁ、お前がバレてもいいと言うなら――」
「それは困るのでやめておきましょうか」
右手に持っていたらしいナイフを弄びながら、長衣の青年は答える――どうやら、長衣で上手くナイフを隠せていたらしい。
抜き身のまま、ナイフを青年に手渡した長衣の青年はもう一度ステンドグラスを見上げた。
暖かな光に照らされたステンドグラスに、もの言いたげな表情のまま何か諦めたように頭をふる。
そしてナイフを鞘に納め、コート裏のポケットに差し入れた青年を伴うと、長衣の青年は教会の奥へ向かって姿を消した。
礼拝堂から外に出ると、迎えの車はまだだった…あれ、でもさっきクラクションの音が聞こえてきたような?
首をかしげる私の様子に気づいたらしい、黒髪に紫色の瞳をした神官様が声をかけてきた。
この神官様はさっき電話をお借りした時、事務仕事をしていた方だ。
「どうされました?」
「あ、いえ…迎えの車が来たのかと思ったら違ったみたいで」
私の説明を聞いた神官様は、申し訳なさげに口を開いた。
「そうでしたか…すみません、私の知人があそこで私を呼び止めようとクラクションを鳴らしまして」
神官様が視線で指す先に、車の運転席に座る紺色の髪に灰色の瞳をした青年がいた…んだけど、その傍に立つ修道女にどうやら怒られているようだ。
青年が苦笑しながら両手を合わせているので、謝罪しているんだと思う。
「紛らわしい事を彼がしてしまい…そのお詫びと言ってはなんですが、あちらでお茶を飲みながらお待ちください」
そう言って、神官様の指差す方向――事務室のある建物前、本来は何もないはずの場所にいつの間にかベンチが置かれていた。
…もしかして、わざわざベンチを設置してくれたのかしら?
それを考えると、逆にこちらが申し訳なくて断れなかった。
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かけた先は実湖にある実家の、当主の部屋。
直に電話する理由は、あの子に邪魔されないよう父と考えた苦肉の策だったりするのだけどね。
三コール鳴った後、相手が電話に出た。
『…はい?』
「お父さん、私――真那加です。今、輝琉実教会で電話を借りているの」
『わかったよ、すぐ迎えの車を出すから少し待たせてもらってね』
了承してから電話を終え、事務仕事をしている神官様に礼を言った後に礼拝堂で待たせてもらえないか訊ねる。
今は自由に出入りできる時間だから大丈夫だ、と教えてもらった私はそちらに向かった。
輝琉実教会にあるステンドグラスは、かつて存在したと言われている世界樹、守護する天使と精霊が描かれている――それはとてもきれいなもので、たくさんの観光客が自由解放の時間に訪れているそうだ。
私が来た時はお昼前だったからか、そこまで人は多くなかった。
礼拝堂に入って正面に色とりどりの花に囲まれた大きな樹のステンドグラス、右側が黄色から青のグラデーションの背景に三対の翼を持つ天使のステンドグラス。
左側は淡い緑色から濃い緑色のグラデーションの背景に精霊のステンドグラスが並んでいるのを見て、私は思わず見入ったまま呟いた。
「…すごい」
「すごいですよね。それより、知っていますか?実はこのステンドグラス、旧暦時代より以前に制作されたものなんですよ」
すぐ隣から声が聞こえてきたので驚いてそちらに目を向けると、白銀の髪に黄緑色の瞳をした青年が立っていた。
彼の着ている服は白を基調とした長衣で、どこか神秘的な雰囲気のある神職に就く方なのかな?
「このステンドグラスの他にも〈古代種〉達の手で造りだされたものが、この世界にあったのですが…あの戦火により、すべて失われてしまったようですね」
この教会には何度も来ているし、ステンドグラスの説明も聞いた事あるけど制作者不明の旧暦時代前期に造られたものとしか知られていなかったはず……
「あの」
詳しい内容が気になり彼に訊ねようとした瞬間、外からクラクションの音が聞こえてきた――三回鳴ったので、おそらく私の迎えだと思う。
「すみません、もう行かないと…またお話を聞かせてもらえますか?」
頭を下げて謝罪する私に、長衣の青年はきょとんとした表情を一瞬浮かべた後に頷いた。
「……えぇ、私の話でよければ。早く行ってあげなさい」
外の方へ目を向けて言う彼に、もう一度頭を下げてから迎えの車の元へ早足で向かう。
そういえば、彼が何者だったのかを訊ね忘れてしまったから今度お話を聞く時に訊ねてみようかな?
「……」
先ほどまで一緒だった栗色の長い髪の少女を見送った長衣の青年は、わざとらしくため息をついた。
「邪魔が入ってしまいましたねぇ、せっかく異母兄様を苦しめるもののひとつが排除できたかもしれないのに」
「確かに残念だけど、ここで事を起こすと気づかれてしまう可能性が上がるよ?」
肩を落とした彼の背後に、いつの間にか現れた白に近い水色の髪に栗色の瞳をした青年が言う。
青年は黒のロングコートとスーツ姿で、長衣の青年と対となる色の衣装にしているようだ。
「まぁ、お前がバレてもいいと言うなら――」
「それは困るのでやめておきましょうか」
右手に持っていたらしいナイフを弄びながら、長衣の青年は答える――どうやら、長衣で上手くナイフを隠せていたらしい。
抜き身のまま、ナイフを青年に手渡した長衣の青年はもう一度ステンドグラスを見上げた。
暖かな光に照らされたステンドグラスに、もの言いたげな表情のまま何か諦めたように頭をふる。
そしてナイフを鞘に納め、コート裏のポケットに差し入れた青年を伴うと、長衣の青年は教会の奥へ向かって姿を消した。
礼拝堂から外に出ると、迎えの車はまだだった…あれ、でもさっきクラクションの音が聞こえてきたような?
首をかしげる私の様子に気づいたらしい、黒髪に紫色の瞳をした神官様が声をかけてきた。
この神官様はさっき電話をお借りした時、事務仕事をしていた方だ。
「どうされました?」
「あ、いえ…迎えの車が来たのかと思ったら違ったみたいで」
私の説明を聞いた神官様は、申し訳なさげに口を開いた。
「そうでしたか…すみません、私の知人があそこで私を呼び止めようとクラクションを鳴らしまして」
神官様が視線で指す先に、車の運転席に座る紺色の髪に灰色の瞳をした青年がいた…んだけど、その傍に立つ修道女にどうやら怒られているようだ。
青年が苦笑しながら両手を合わせているので、謝罪しているんだと思う。
「紛らわしい事を彼がしてしまい…そのお詫びと言ってはなんですが、あちらでお茶を飲みながらお待ちください」
そう言って、神官様の指差す方向――事務室のある建物前、本来は何もないはずの場所にいつの間にかベンチが置かれていた。
…もしかして、わざわざベンチを設置してくれたのかしら?
それを考えると、逆にこちらが申し訳なくて断れなかった。
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