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縁の下は曝されない
しおりを挟む赴いてくれた校医に田所の状態を伝えて、隊員の見守る中保健室に連れて行かれる背を見送って今回の副会長親衛隊お茶会はお開きとなった。
「いい子たちで良かったよ」
「今日のことでみんな、また晃心のファンになったんじゃない?」
「まさか。ただ寝かせただけだよ」
それにファンって何だ。ココは副会長である大倉の親衛隊のはずだ。
テーブルを拭きながら、晃心はブランケットを畳んでいる世良を見上げた。
主催は隊長である自分なので準備と片づけをするのだが、毎回隊員の中で順番に手伝ってくれるのでとても助かっている。隊によっては、下級生や新参者がやったり、お手伝いさんにお願いする所もあるが、ココは基本的に総て自分で行う方針だ。庶民出身とされている自分としては使ったものは片づけるのは当たり前だと思っているのだが、この学園ではどうやら違うらしい。清掃は業者が入ったりするし、ゴミの分別も未だに解っていない人もいる。お金持ちだから、他の人に仕事を与えて給料を渡すという考え方もあるだろうが、やったらやりっぱなしというのはまた違うだろう。まず、給料云々の前に学生の身。稼いでいないのなら自分の金でもないだろう。まぁ、そんなのに限って権力と金を振りかざしたがる傾向がある。
「大体片付いたかな? ありがとう」
辺りを見回して確認しながら、一緒に残ってくれている隊員に声を掛ける。
「……ん?」
なにやら部屋の外が騒がしい。誰かが怒鳴っている声もするし、特別教室の端に位置している場所で基本的に人は通らないはずなのに。
ドンッ!
「っう、わッ?」
不思議に思いながら扉を開ければ、直後勢い良く何かが衝突してきてソレと共に晃心は無様にひっくり返った。
「いった……た、隊長ッ!? すみません!!」
「大丈夫?」
世良に手を引かれながら退いた隊員を見上げて、ざっと見た所怪我はなさそうなので一息つく。逆に晃心を下敷きにした彼は真っ青になったけれど。
「ソコに居るから悪いんだろ!」
「あー……」
妙にデカイ声の方を確認すれば、やはり良くも悪くも学園内の噂の渦中に居る転入生。周囲にはキラキラと輝く顔の良い者たちをはべらせていらっしゃる通常運行変わりない。
どうやらご一行が近くを通り、気に喰わなかった隊員を弾き飛ばし、その煽りをくらったらしい。一瞬で状況判断した晃心は微笑んで、大変不本意ながら転入生と対峙した。
「彼もわざとではありませんし、行動に移す前にまずは言葉で伝えてください。声に出さないと相手は解りません」
まるで子供に諭しているようだ。
「何だお前? 口出しするな!」
「口出しして欲しくなければ、他人から文句が出ないように振る舞ってください。感情や主観的なだけで喚いていても理解されません」
目を向けた先は、真っ赤にして頬を膨らませた姿。
「お前なんかに言われたくないッ! 誰だ、お前!」
意味は理解してくれていないようだが、注意されたことは解ったらしい。
「二年の木谷です」
内心溜め息をつきたいのを押さえながら仕方なしに口にすれば、一転相手の顔が嬉々とする。
「木谷ってお前か! 香野の親衛隊長でセフレ!」
香野とは大倉のことだ。ただ、あの男は自分の名を大変好きでないので勝手に呼んでいるだろうことは想像に難くない。
……セフレか。
今まで散々恋人だの姫だのナンだのと言われていたが、まぁあまり変わらないか。どちらにしろ本当の恋人は榛葉なのだから、周囲で噂されているような関係ではないので自分は意外とどうでもよい。当人達が解っていれば他がどう言おうと問題は無いだろう。イチイチ修正してまわるのも面倒。
「親衛隊長なのは認めますが、それで? 彼に突き飛ばした事を謝る方が先でしょう」
腕組みをしてそれほど目線の変わらない相手を見上げれば、あまりの瓶底に視線が合っているのかすらも不明。
「セフレはいけないんだぞ! お前らがこんなだから香野は生徒会室で籠もって、仕事もしないでセフレと遊んで──」
「こんな所で何している」
途中までの台詞で瞠目した晃心の思考を遮るかのように、突如響いた声に一同が注目するが、そんなこと知ったこっちゃない。
仕事しないで、遊んでいる?
──大倉が?
何を、どう、見て、そう判断したのだ。
口の中がカラカラになり、のどが張り付く。臓物が冷えていくのを自覚しながら、無感情に周囲の顔を眺めれば一様に目を見開いている。
「──俺に対してどうこう言うのは好きにして結構。しかし、大倉への侮辱は撤回してください」
何も知らないクセに、いや何も知らないからこそ無責任な事を言えることかもしれないが、あれだけ生徒会に生徒に尽力している人間に対して、あまりにもひど過ぎる暴言だ。
「──木谷。落ち着け」
「……でも、」
転入生と取り巻きを挟んで向こう側に、風紀副委員長の顔をした榛葉が見える。先ほどの周囲を黙らせた冴え渡る一声は彼だった。大倉への侮辱は彼も聞いただろうに、この冷静さは尊敬する。風紀だけでなく生徒会を両立し、更に心身ともに擦り減りながらも仕事をしている恋人への無礼をその耳にしているのに。
「騒ぎに関係している者は聴取する。風紀室へ来るように」
「オレは関係ない! あっちが──」
「見苦しい。言い訳は聞かない」
喚き出した転入生を鋭く一瞥して榛葉は背を向ける。
その手は、硬く拳が握られていた。
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