伏魔殿の静寂

あづま永尋

文字の大きさ
14 / 29

縁の下は曝されない

しおりを挟む


 赴いてくれた校医に田所たどころの状態を伝えて、隊員の見守る中保健室に連れて行かれる背を見送って今回の副会長親衛隊お茶会はお開きとなった。
「いい子たちで良かったよ」
「今日のことでみんな、また晃心のファンになったんじゃない?」
「まさか。ただ寝かせただけだよ」
 それにファンって何だ。ココは副会長である大倉の親衛隊のはずだ。
 テーブルを拭きながら、晃心はブランケットを畳んでいる世良を見上げた。
 主催は隊長である自分なので準備と片づけをするのだが、毎回隊員の中で順番に手伝ってくれるのでとても助かっている。隊によっては、下級生や新参者がやったり、お手伝いさんにお願いする所もあるが、ココは基本的に総て自分で行う方針だ。庶民出身とされている自分としては使ったものは片づけるのは当たり前だと思っているのだが、この学園ではどうやら違うらしい。清掃は業者が入ったりするし、ゴミの分別も未だに解っていない人もいる。お金持ちだから、他の人に仕事を与えて給料を渡すという考え方もあるだろうが、やったらやりっぱなしというのはまた違うだろう。まず、給料云々の前に学生の身。稼いでいないのなら自分の金でもないだろう。まぁ、そんなのに限って権力と金を振りかざしたがる傾向がある。
「大体片付いたかな? ありがとう」
 辺りを見回して確認しながら、一緒に残ってくれている隊員に声を掛ける。
「……ん?」
 なにやら部屋の外が騒がしい。誰かが怒鳴っている声もするし、特別教室の端に位置している場所で基本的に人は通らないはずなのに。
 ドンッ!
「っう、わッ?」
 不思議に思いながら扉を開ければ、直後勢い良く何かが衝突してきてソレと共に晃心は無様にひっくり返った。
「いった……た、隊長ッ!? すみません!!」
「大丈夫?」
 世良に手を引かれながら退いた隊員を見上げて、ざっと見た所怪我はなさそうなので一息つく。逆に晃心を下敷きにした彼は真っ青になったけれど。
「ソコに居るから悪いんだろ!」
「あー……」
 妙にデカイ声の方を確認すれば、やはり良くも悪くも学園内の噂の渦中に居る転入生。周囲にはキラキラと輝く顔の良い者たちをはべらせていらっしゃる通常運行変わりない。
 どうやらご一行が近くを通り、気に喰わなかった隊員を弾き飛ばし、その煽りをくらったらしい。一瞬で状況判断した晃心は微笑んで、大変不本意ながら転入生と対峙した。
「彼もわざとではありませんし、行動に移す前にまずは言葉で伝えてください。声に出さないと相手は解りません」
 まるで子供に諭しているようだ。
「何だお前? 口出しするな!」
「口出しして欲しくなければ、他人から文句が出ないように振る舞ってください。感情や主観的なだけで喚いていても理解されません」
 目を向けた先は、真っ赤にして頬を膨らませた姿。
「お前なんかに言われたくないッ! 誰だ、お前!」
 意味は理解してくれていないようだが、注意されたことは解ったらしい。
「二年の木谷です」
 内心溜め息をつきたいのを押さえながら仕方なしに口にすれば、一転相手の顔が嬉々とする。
「木谷ってお前か! 香野かやの親衛隊長でセフレ!」
 香野とは大倉のことだ。ただ、あの男は自分の名を大変好きでないので勝手に呼んでいるだろうことは想像に難くない。
 ……セフレか。
 今まで散々恋人だの姫だのナンだのと言われていたが、まぁあまり変わらないか。どちらにしろ本当の恋人は榛葉なのだから、周囲で噂されているような関係ではないので自分は意外とどうでもよい。当人達が解っていれば他がどう言おうと問題は無いだろう。イチイチ修正してまわるのも面倒。
「親衛隊長なのは認めますが、それで? 彼に突き飛ばした事を謝る方が先でしょう」
 腕組みをしてそれほど目線の変わらない相手を見上げれば、あまりの瓶底に視線が合っているのかすらも不明。
「セフレはいけないんだぞ! お前らがこんなだから香野は生徒会室で籠もって、仕事もしないでセフレと遊んで──」
「こんな所で何している」
 途中までの台詞で瞠目した晃心の思考を遮るかのように、突如響いた声に一同が注目するが、そんなこと知ったこっちゃない。
 仕事しないで、遊んでいる?
 ──大倉が?
 何を、どう、見て、そう判断したのだ。
 口の中がカラカラになり、のどが張り付く。臓物が冷えていくのを自覚しながら、無感情に周囲の顔を眺めれば一様に目を見開いている。
「──俺に対してどうこう言うのは好きにして結構。しかし、大倉への侮辱は撤回してください」
 何も知らないクセに、いや何も知らないからこそ無責任な事を言えることかもしれないが、あれだけ生徒会に生徒に尽力している人間に対して、あまりにもひど過ぎる暴言だ。
「──木谷。落ち着け」
「……でも、」
 転入生と取り巻きを挟んで向こう側に、風紀副委員長の顔をした榛葉が見える。先ほどの周囲を黙らせた冴え渡る一声は彼だった。大倉への侮辱は彼も聞いただろうに、この冷静さは尊敬する。風紀だけでなく生徒会を両立し、更に心身ともに擦り減りながらも仕事をしている恋人への無礼をその耳にしているのに。
「騒ぎに関係している者は聴取する。風紀室へ来るように」
「オレは関係ない! あっちが──」
「見苦しい。言い訳は聞かない」
 喚き出した転入生を鋭く一瞥して榛葉は背を向ける。
 その手は、硬く拳が握られていた。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

もう観念しなよ、呆れた顔の彼に諦めの悪い僕は財布の3万円を机の上に置いた

谷地
BL
お昼寝コース(※2時間)8000円。 就寝コースは、8時間/1万5千円・10時間/2万円・12時間/3万円~お選びいただけます。 お好みのキャストを選んで御予約下さい。はじめてに限り2000円値引きキャンペーン実施中! 液晶の中で光るポップなフォントは安っぽくぴかぴかと光っていた。 完結しました *・゚ 2025.5.10 少し修正しました。

イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です

はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。 自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。 ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。 外伝完結、続編連載中です。

公爵子息だったけど勘違いが恥ずかしいので逃走します

市之川めい
BL
魔王を倒した英雄によって建国されたグレンロシェ王国。その後は現在までに二人、王家の血を引く者から英雄が現れている。 四大公爵家嫡男、容姿端麗、成績優秀と全てにおいて恵まれているジルベールは、いつか自分も英雄になると思い、周りには貴公子然とした態度で接しながらも裏では使用人の息子、レオンに対して傲慢に振る舞い性的な関係まで強要していた。 だが、魔王の襲来時に平民であるはずのレオンが英雄になった。 自分とレオンの出生の秘密を知ったジルベールは恥ずかしくなって逃走することにしたが、レオンが迎えに来て……。 ※性描写あり。他サイトにも掲載しています。

流れる星は海に還る

藤間留彦
BL
若頭兄×現組長の実子の弟の血の繋がらない兄弟BL。 組長の命で弟・流星をカタギとして育てた兄・一海。組長が倒れ、跡目争いが勃発。実子の存在が知れ、流星がその渦中に巻き込まれることになり──。 <登場人物> 辻倉一海(つじくらかずみ) 37歳。身長188cm。 若い頃は垂れ目で優しい印象を持たれがちだったため、長年サングラスを掛けている。 組内では硬派で厳しいが、弟の流星には甘々のブラコン。 中村流星(なかむらりゅうせい) 23歳。身長177cm。 ストリートロックファッション、両耳ピアス。育ててくれた兄には甘えん坊だが、兄以外の前では──。 表紙イラストは座頭狂様に描いて頂きました✨ ありがとうございます☺️

処理中です...