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晩餐の目測
しおりを挟む『楽しそうに走る姿が好きで。あんなに早いのに少しも自慢しなくて』
『親身に恋愛相談に乗ってもらって』
『……えらっそうだけど、実は他のヤツの事も考えている所』
『あの方は覚えていないかもしれない、ちいさな事だけれど──』
夕方の集会を思い出しながら、知らず表情が緩む。
結局はみんなアイドル達のことが好きなのだ。恋愛感情かどうかは置いておいて、人として。
ピッ。
『木谷くんは? 副会長様の親衛隊に入ったのは何で?』
俺は──。
「遅い!」
耽っていた思考を引き上げるように降ってきた低い声についでに顔も上げる。
「……ぇ、あ、また来たんですか」
物好きな男が仁王立ちで、ナゼか晃心の部屋に。我が物顔で居座る相手に、ネコを被るのも馬鹿らしくなるほど回数を重ね、隠しもしない半目で見やる。天下の風紀委員長様が、一介の生徒の部屋でオタマ握って簡易キッチンで鍋をかき回しているとは学園生徒の誰も思わないだろう。
「おヒマなら、他の喜んでくれる人の所へ行ったらどうですか?」
もしくはこの混沌としている学園内をどうにかしてくれ。
わざとらしい晃心の溜め息は無視され、入り口で立ち尽くしていれば強い力で手を引かれる。
「喰え」
置かれた皿から立ち上る湯気に、再び溜め息をつく。
本当に何がしたいのだ、この男。
「くくめてやろうか?」
「結構です」
意地悪そうに目を細められ差し出されたスプーンを仕方なく受け取って、シチューを口に運ぶ。
「──おいしい。」
シンプルな味付けだが、素材の味を殺さない、やさしい味付け。
「当たり前だ」
さも当然のように踏ん反り返る美丈夫に苦笑が漏れる。
食器の奏でる音だけが静かな部屋に響く。
「……風紀は何を考えているのですか?」
不気味なほど静かに、息を潜めて動向を見守っている理由は。
いつもの様に人の髪の毛を弄ぶ指先を視界の端に捉えつつ疑問を投げかければ、不遜な態度の男は切り捨てた。
「メシが不味くなる。後にしろ」
一応でも答えてくれる気はあるのだと、取って良いのだろうか。
真夜中だからか、それとも晃心の食生活と胃腸の具合を熟知しているからか、主食はなく温かいシチューと小振りなサラダ。ドレッシングも手作りなのだろうか、食欲をそそるような薬味がブレンドされているのはわかる。
しみ込むあたたかさを胃だけでなく、身体に受けてスプーンを置く。
「ほら」
「……ガトーショコラ?」
新たに差し出された皿を凝視して、それから男を見上げた。
「見た目ほど甘くない」
もしかして、コレも手作りか?
マメで器用な手先に舌を巻きつつ、ナゼ知られているのだろうかと首を傾げる。
隊員や正副隊長たちとのお茶会へ出席して、飲み物は飲むが基本的に晃心はお菓子にはそれほど手を付けない。嫌いな訳ではないが、ただ量が食べられない。
「別の時にでも──」
「喰えるだけ喰え、今」
保存して後日という案は却下される。
タイミングを図って淹れられた緑茶で口を直し、シットリとした茶色の物体にフォークを差し入れる。広がる、ほろ苦さと控えられた甘さ。
「他の場所でこの腕前を披露したらどうですか?」
こんな庶民の舌を持つ、どうでもいい生徒ではなく。彼の料理を渇望している人など山のように居るだろうに。
「お前だからだろうが。……俺から教えられる情報はほとんどない」
先ほどの件か。まさか、自ら水を向けられるとは思わず内心驚く。
「でしょうね」
腕を組んで難しい顔をしている男に言葉少なに同意すれば、器用に片眉を上げられる。
「役職柄、口外できない事の方が多いでしょう」
だから今まで顔を合わせたとしても、聞かなかった。立っている位置が違うのだから流せる情報というものも限られるし、まずそう易々と流してもらえるとは思っていない。それでなくとも彼は風紀のトップなのだから、一般に伏せなければならないことも多々あるだろう。
それをあえて、今、確認するのは──限界なのだ、どこもかしこも。
「生徒会も風紀もその他も興味ありません。ただ、この一件に関わっている自分の周りの人間たちの負担を少しでも減らしたいだけです」
ただの自己満足であることは重々承知。
大倉も榛葉も、世良にも、隊員たちも。
必要ならば己の平穏を返上して、自ら起爆剤になろう。
「役員をリコールしろ」
事もなげに言い放っているが、彼も本心ではないだろう。風紀に掛かる負担も増える。
たかがそんな事で、ココまで大きくなってしまっている事態が収束に向かうとは到底思えない。
それに風紀の長も承認の上で就任した会長たちを、そんな簡単に放り出すか。否、この男は自分にも他人にも厳しいので、役職を解任しただけで総てをなかったことにするほどのお優しさは持ち合わせていないだろうと想像に難くない。
「ひとつ、確実なのは──」
言葉を切った男は、真っ直ぐ晃心を射抜く。
「『夕涼み祭』までには片がつく」
「……ぇ?」
瞠目して声を漏らした晃心はそのまま固まる。
『夕涼み祭』とは、夏季休暇に入ってすぐの納涼祭の名前だ。
明日というか、日が変わって終業式の今日では、もう日数はほとんど残っていない。
そんな短期間でこの数ヶ月の混乱が解消されるのか。いや、もしも仮になるとしたら、相当な改革でなければ納まらない。
「……どう──」
「終わりか?」
遮るかのように残りのデザートを示されるが、それどころではない。
言い募り手を突いて椅子から立ち上がれば、思わぬめまいにテーブルに縋るハメになる。
「なッ……?」
「これしか喰わなかったか。仕方ねぇな」
力の抜ける身体を舌打ちと共に軽々と持ち上げられて、いつもは見上げるはずの渋面が鼻の先。
「軽すぎだ」
意思に反して重くなっていく瞼に唇を落とされ、握り締めている拳を強制的に開かれる。
──盛られた。
やけに甲斐甲斐しく食事を作って勧めると思っていたら、油断した。
「傷つけるな」
下唇を噛み締めれば抉じ開けられる。
「……ん、ふ……ぁ」
浮いた身体をそのまま壁に押し付けられ、思うままに下から貪られる。
生き物のように口腔内を蠢き、逃げる舌を追い詰められてグッショリと絡められる。
「……ん、……んッゃ」
「寝ろ」
「っざけッ……ん、むぅっ」
一旦放された唇で再び蹂躙され、甘噛みされ、肩が跳ね上がる。
互いの間を引く銀糸に、赤面する余裕すらない。
「っつ──てめぇ」
力の入らない腕を振り回せば、どうやら相手を掠ったらしい事を霞掛かった頭で知る。
「だ、れが、大人し、く……なン……ぅあッ!」
奪った余裕は一瞬で突き崩される。
「上等。後悔させてやる」
晃心の首筋から上げた眼は、獰猛な光を放っていた。
毟り取られるシャツ。
素肌を弄る掌のネツを知らされるのは同時。
胸元を掠め、引きずり出された欲望。
性急に扱かれ、身を捩る。
「……ッく、ぅ!」
ゆぅっくりと口角を舐め上げる、真っ赤な舌。
滲む視界の先で捉えた姿に、走る悪寒。
「──イけ。」
上り詰めた頂から抗う間もなく、問答無用で叩き落される。
「大人しく寝てろ」
耳元で低く囁かれた言葉を最後に、晃心の意識は途切れた。
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