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番外 ひととき
しおりを挟むパラ。
「……」
紙を捲る音だけが室内に響く。
くだらねえ。
バサッ。
風紀に上げられた報告書の束をテーブルに放り投げて、宝生里央は舌打ちをした。
転入生が来てからコチラ、仕方なしに右腕である榛葉を生徒会に貸していたが、それも戻っており現在は後処理だけだ。しかし数日後に控えた『夕涼み祭』のため増殖の一途を辿る現状に持ち帰りを余儀なくされた。
さすがに帰ったか。
普段はいつ乱闘が起こるとも限らないのでコンタクトであるが、本日はオフのため眼鏡着用している。外して目頭とこめかみをほぐす。
自室内に視線をやって、書類捌きの途中に姿を見せた恋人がいないことに、深い溜め息をつく。
恋人……と、宝生は思っているが、果たして当人の認識はどうなっているのやら。
告白めいたものはした。身体の関係もある。しかし、あの一見ちいさな小動物はとても素直ではない上に、思わぬところで男前なところもあり、頭も悪くない──むしろ良すぎるほどに。それはそうだ。宝生も一目置いている当代の生徒会長である大須賀と、申し分なく渡り合えるほどなのだから。しかも会長の方は役員に引き込もうと虎視眈々と狙っているのだから、うかうかしていられない。
はじめは他の親衛隊と同じで可憐で弱くうるさい子猫か何かだと思っていたが、蓋を開けたら腹に黒豹でも飼っているとんでもない子猫だった。それも、一筋縄ではいかないおもしろさにちょっかいを掛けていた。
「……あいつ」
あちらの部屋から勝手に引き上げてきた栄養補助食品の山が欠けている。どうやら取り返しに来たのが目的らしい事実に、低い唸りと共に頭を抱えそうになる。偏食もなく、野菜もファーストフードも問題なく摂取するむしろ雑食傾向であるが、基本的に食が細く食に対しての欲も欠如している。下手をすると一日一食だとか、成分やカロリーさえ摂取していれば問題ないという、驚きの考えを持っているのを知ったのは少し前。以来、合間を見て食事だの弁当だのと増えた手間が、実は楽しみの趣味と化している。
味覚は悪くないんだがな。
出汁の違いも新鮮さも解るほどの舌を持っているのだが。
腕を組んでソファに深く凭れて気付く。
なぜか床に散らばっている補助食品。あんな場所に放置した覚えはない。
辿ると、ちいさな裸足。
覗き込んだ先のソファの裏には、ちょうど宝生と同じ位置に背を預けてうたた寝をしている木谷晃心の姿。
まさか仕事が終わるのを待っていたのではないかと、勝手に期待してしまい口角は自然と上がる。それでなくとも、晃心がこの部屋を訪れること事態が少なすぎる。基本は宝生に強制的に連れてこられて。カギはあるためいつでも出入り自由なのに、彼が自ら赴いたのはあの時の一度だけ。今回は偶然一緒になった売店で、珍しい事もあるものだととっ捕まえた。
伸ばしかけた手を、しかし空中でとめる。
薄く開いた唇。
長い睫毛。
閉じられた瞳。
規則正しい吐息。
ふと、唐突に学園が混乱していた時にはこの姿を拝んでいなかったと思いつく。それまでは日影であったり日向であったり、季節によってまるでネコのように気候の丁度いい所でうとうととしているのを見て、何度ヤキモキしたか。それでなくとも副会長の親衛隊長という座に居るほどの容姿のために、襲われたり写真をバラ撒かれないか心配ではないのか、何とものんきな性格だと呆れたりもした。
その認識を変えたのは、いつだったか。
ボイスレコーダーの内容を詰問した時か?
『noThing』が乱入してきた時か?
部屋へ食事を作りに行っていた時か?
リコールの署名を押し付けた時か?
──いや、もっと前。
「……ん、」
静かに苦笑しつつ目に掛かった髪を除けてやれば、漏らされる声。
ふわりと持ち上がる瞼。
何度か瞬きを繰り返して絡まる視線。
「終わっ……ッん、んン……」
噛み付くように言葉を奪えば、目を回して握られる裾。
心地よい舌ざわりとためらいがちの甘えに、欲望が頭をもたげる。
伏せられた瞼。
朱に染まる頬。
跳ねる肩。
そのどれにもそそられる。
互いから引かれる銀糸を再び捻じ込んで。
角度を変えて舐る。
「ふ、ぁ……」
──上手くなった。
最初は応え方も知らなかった、まっさらさ。
教え込んだからか。
自分しか知らぬということ。
俄然燃える。
「……ん、しつ、こぃ……」
途切れ途切れの文句に、目尻の涙を吸い取ってやる。
潤ませた瞳で睨んでも意味がないことに気付かないのか。
しかも行為自体への苦情ではなく、訴えるのは生理的な不服。
たまらない。
「……ぁ、」
首筋から漂う匂いに誘われ。
歯を立てて舌を這わせれば、しがみ付く力が強くなる。
──もっと欲しがれ。
肩を剥いて咲かせる痕。
同時に胸元に弄る。
「……と。おい」
くたりと力の抜けた身体。
「コレくらいでへばるな」
床に縋って息を荒くした赤い顔を見下ろす。
「…………る、さぃ」
ややあって返された言葉に潜めた笑いが空気を震わせた。
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