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第10話 パーティ集結!(転生日③)
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3人になった一行はまず、隣の教室のドアを大きく開け放った。
誰かが隠れていた場合にいち早く気付いてもらうための工夫だった。今は一分一秒が惜しいのだ。
いつ何時背後から襲われてもおかしくない状況、である。
すると、教壇の下からするっと小さな人影が現れる。
否、まだ下校していなかったことは彼女にとって人生最大の不幸なのだが。
「あぁ、まだ人いたんだ。良かったのかな?良かったのかね?」
舌っ足らずな口調と、あどけない容姿に反してその瞳には凛とした知性が宿っているようだ──そう青葉は思う。
確か石渡未来──囲碁将棋部の部長だったはずだ。
「俺たちにとっては良かった、いや、助かったよ。戦力はひとりでも大いに越したことはない」
そんなルークの言葉に、未来は首を傾げた。
「戦力?こんなちんまりとした私に期待するにはあまりに物騒な単語じゃないかな?じゃないかね?」
「あぁ、それはそうなんだが……なぁ、津?」
「今は未曾有の事態なんでな!何が迫っているのかも知っているわけではないが、猫の手でも借りたい状況だというわけだ!!」
「未来さんは、頭がいいだろ?知力っていうのは時に膂力を上回るとも思うしさ」
最後の青葉の発言は未来を「猫の手」呼ばわりした発言に対するフォローだったわけだが、それが功を奏したのか未来はやや表情を柔らげる。
「そういうことね。まぁ概ね状況はわからないでもないし、生き残るためには協力は不可欠だろうからね。いいよ、その話乗ってあげるかな?あげるかね?」
こうして3人は4人になった。
---
既にお気付きだろうが、このフロアに居残っていた高校一年生は後の「若葉」メンバーである。
つまり、残る不運な一年生はあとひとり──榎川岬を残すのみであった。
彼女は、一番奥の教室──1年5組の教室に居た。
当然のように座っていた。その様子は、まったくこの非常事態にそぐわぬものだった。あまりにも平常運転で、ともすれば教室を訪れた4人が何か間違っているのではないかと状況確認を行なってしまうほどである。
「あら、どうしたのかしら」
視線を手元の文庫本から教室のドアへ移して、彼女は言った。
岬は、あろうことか読書をしていたのである。
悠然と、優雅に。
手元にティーカップがないのが不自然なほどにその所作は様になっているけれど──緊急事態にそれをしていれば変人でしかないだろう。
唖然とする4人。首をかしげるひとり。
青葉がそれでも口を開けたのは、やはり勇者の素質故であろうか。
「や、やぁ……榎川さんだよね。今が緊急事態だということはわかっているのかな……?」
「ええ、もちろん。ですから、本を読んでいたんです。気持ちを落ち着かせるために。生き残るために」
言い放つ。
堂々たる表情には、微塵も怯えが浮かんでいない。
確かに普段と同じルーティンをなぞることで心の平静を取り戻そうとするのは不自然ではないけれど──それを実際に行えるのは、それはそれで並外れている。
「そ、そうか……ま、まぁなんにせよ俺らが伝えたいことはひとつだけなんだけれど……今、俺らはなんだかわからない化け物に襲われそうになっていて、それを打開するために力を貸して欲しいんだ」
青葉は内心、五分五分だと感じていた。ひとりでも生き残れそうなほどの冷静さを持つこの少女が、こんな集いに参加してくれるのかという疑問──というより単純に気難しそうだな、という第一印象だった。
しかし、当の本人はさも当然のように頷く。
「いいでしょう。船頭多くして船山に登るなんて言いますけれど、今回の場合は流石に質より量な局面でしょうし。一緒に生き残りましょうか」
軽く失礼な発言をかましながらも爽やかに手を差し出してくる。
ふたりは握手をした。
「あぁ、助かるよ」
このやりとりで発言をしたのは、最後までふたりであった。
それ以外の3人は終始無言を貫いていた。突き放したような物言いと、どこか近寄り難い雰囲気は、いっそ彼らにとって威圧のようだったのだ。
ただ、それでもこうして青葉が岬を引き入れたことは、後々に大きなプラスとなる。
ともあれ、やっと5人揃った。その頃には階下の人間は誰1人として生きていない手遅れな状況では合ったけれど。それでも彼らは惹かれ合い、巡り合った。
それはこの絶望の最中で唯一と言って差し支えないほどの得難い幸運だろう。もっとも、この先こそが本当の試練なのだけれど。
今の「若葉」ならいざ知らず、ただの高校生5人で魔物の群れを突破しなくてはならない状況──正直、笑ってしまうくらいの絶望である。
今現在彼らが存命であることからわかるように、しかしその絶望を5人は跳ね除けることになるわけだが……
その途上で彼らは思い知ることになる。
あまりに大きな痛みを。忘れられない悲劇を。
悲劇はふたつ目の誤算に端を発することになるのだが……それを今の彼らが知る由もない。
役者は出揃った。決戦が、始まる。
誰かが隠れていた場合にいち早く気付いてもらうための工夫だった。今は一分一秒が惜しいのだ。
いつ何時背後から襲われてもおかしくない状況、である。
すると、教壇の下からするっと小さな人影が現れる。
否、まだ下校していなかったことは彼女にとって人生最大の不幸なのだが。
「あぁ、まだ人いたんだ。良かったのかな?良かったのかね?」
舌っ足らずな口調と、あどけない容姿に反してその瞳には凛とした知性が宿っているようだ──そう青葉は思う。
確か石渡未来──囲碁将棋部の部長だったはずだ。
「俺たちにとっては良かった、いや、助かったよ。戦力はひとりでも大いに越したことはない」
そんなルークの言葉に、未来は首を傾げた。
「戦力?こんなちんまりとした私に期待するにはあまりに物騒な単語じゃないかな?じゃないかね?」
「あぁ、それはそうなんだが……なぁ、津?」
「今は未曾有の事態なんでな!何が迫っているのかも知っているわけではないが、猫の手でも借りたい状況だというわけだ!!」
「未来さんは、頭がいいだろ?知力っていうのは時に膂力を上回るとも思うしさ」
最後の青葉の発言は未来を「猫の手」呼ばわりした発言に対するフォローだったわけだが、それが功を奏したのか未来はやや表情を柔らげる。
「そういうことね。まぁ概ね状況はわからないでもないし、生き残るためには協力は不可欠だろうからね。いいよ、その話乗ってあげるかな?あげるかね?」
こうして3人は4人になった。
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既にお気付きだろうが、このフロアに居残っていた高校一年生は後の「若葉」メンバーである。
つまり、残る不運な一年生はあとひとり──榎川岬を残すのみであった。
彼女は、一番奥の教室──1年5組の教室に居た。
当然のように座っていた。その様子は、まったくこの非常事態にそぐわぬものだった。あまりにも平常運転で、ともすれば教室を訪れた4人が何か間違っているのではないかと状況確認を行なってしまうほどである。
「あら、どうしたのかしら」
視線を手元の文庫本から教室のドアへ移して、彼女は言った。
岬は、あろうことか読書をしていたのである。
悠然と、優雅に。
手元にティーカップがないのが不自然なほどにその所作は様になっているけれど──緊急事態にそれをしていれば変人でしかないだろう。
唖然とする4人。首をかしげるひとり。
青葉がそれでも口を開けたのは、やはり勇者の素質故であろうか。
「や、やぁ……榎川さんだよね。今が緊急事態だということはわかっているのかな……?」
「ええ、もちろん。ですから、本を読んでいたんです。気持ちを落ち着かせるために。生き残るために」
言い放つ。
堂々たる表情には、微塵も怯えが浮かんでいない。
確かに普段と同じルーティンをなぞることで心の平静を取り戻そうとするのは不自然ではないけれど──それを実際に行えるのは、それはそれで並外れている。
「そ、そうか……ま、まぁなんにせよ俺らが伝えたいことはひとつだけなんだけれど……今、俺らはなんだかわからない化け物に襲われそうになっていて、それを打開するために力を貸して欲しいんだ」
青葉は内心、五分五分だと感じていた。ひとりでも生き残れそうなほどの冷静さを持つこの少女が、こんな集いに参加してくれるのかという疑問──というより単純に気難しそうだな、という第一印象だった。
しかし、当の本人はさも当然のように頷く。
「いいでしょう。船頭多くして船山に登るなんて言いますけれど、今回の場合は流石に質より量な局面でしょうし。一緒に生き残りましょうか」
軽く失礼な発言をかましながらも爽やかに手を差し出してくる。
ふたりは握手をした。
「あぁ、助かるよ」
このやりとりで発言をしたのは、最後までふたりであった。
それ以外の3人は終始無言を貫いていた。突き放したような物言いと、どこか近寄り難い雰囲気は、いっそ彼らにとって威圧のようだったのだ。
ただ、それでもこうして青葉が岬を引き入れたことは、後々に大きなプラスとなる。
ともあれ、やっと5人揃った。その頃には階下の人間は誰1人として生きていない手遅れな状況では合ったけれど。それでも彼らは惹かれ合い、巡り合った。
それはこの絶望の最中で唯一と言って差し支えないほどの得難い幸運だろう。もっとも、この先こそが本当の試練なのだけれど。
今の「若葉」ならいざ知らず、ただの高校生5人で魔物の群れを突破しなくてはならない状況──正直、笑ってしまうくらいの絶望である。
今現在彼らが存命であることからわかるように、しかしその絶望を5人は跳ね除けることになるわけだが……
その途上で彼らは思い知ることになる。
あまりに大きな痛みを。忘れられない悲劇を。
悲劇はふたつ目の誤算に端を発することになるのだが……それを今の彼らが知る由もない。
役者は出揃った。決戦が、始まる。
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