桜の約束

ばんご

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心に空いた穴

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夢を見た、見知らぬ女性が出てくる夢
腰まで伸びた栗色の髪を靡かせ、瞳は瑠璃色で神秘的だった

彼女は、声が出ないのか僕に視線を交わしてくる

逸らそうとも、逸らすのを許さないと言うような揺るぎない眼

まるで、僕に逃げるなと言ってるみたいだ
それは、自分がよくわかっている

目が覚めると、小鳥の鳴き声が耳に響いた
横を向くと、小鳥は僕の耳の傍で鳴いていたらしい

僕が小鳥と視線が合うと、安心したように小さく、『ピッ』と鳴いた

『おはよう、お腹が空いたのか?』

小鳥の頭を軽く撫でて、朝ごはんの準備をする
美味しそうに食べる小鳥を見つめているうちに、
今朝見た夢のことは、すっかりと忘れていた

それもそのはず
美味しそうに食べながら、小鳥は自分に向けて
小さく鳴くのだ

まるで、美味しいと言うように
子供のような無邪気な可愛さと言うのだろう
多分、自分は微笑んでいた

そんな小さな朝の心地よいひと時であった

ご飯を食べて眠たくなったのか
小鳥は微睡むように目を閉じた

怪我をしたこともあり、体が治そうとしている防衛本能が働いてるおかげだろうか

疲れていたのだろう
起こさないように立ち上がったつもりだが
小鳥は気づき、自分に目掛けて飛ぼうとする

まだ怪我は治っていないのに、突拍子もない行動に僕は焦る

『お前は無防備なことをするね
 どこにも行かないよ、大丈夫』

肩に乗せると、小鳥は満足したようで
そこから動くことはなかった


小鳥が怪我が治ったら、自分も日常に戻らなくてはいけない
今は職がないから、小鳥の世話ができる

僕は、求人サイトに目を通したが
どれも惹かれる案件は見当たらなかった

そもそも自分が好きな職業はなんだろう

クビになった会社は、いい条件だった
働いてみたら、中身は酷かったが
けれど、あの時は職につければなんでもよかった

その職で、安定した生活を送ることができれば

けれど、現実は厳しくて
誰も遠い目で自分を見る
使えない、役立たず、愛想がない

酷い言われようとも思った
けど、仕方ないと結論づいた

その通りだと思った
反論しなければ、皆言いたいことを言えば
去っていく

それが気楽だし、相手の思う壺にハマらなくて済む

だけど、どうしてだろうか?
心にぽっかり穴が空いたように、虚しくなる時がある

自分の心に何か足りないものがあるみたいだ
それから考えても何も出ず、途方に暮れるだけで
小鳥の肩越しに感じる温もりだけが、気を紛らしてくれたように思えた

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