命の灯火

ばんご

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犠牲のもとで成り立った英雄

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セインがくれた飴のせいなのか
目を閉じると不思議な光景が見えた

滅びた村に一人の青年が現れた
その村には土地、花や草木も枯れ果て、この世の生命と呼べるものはなかった

辺りにあるのは、変わり果てた村と青年だけだった

そんな中、荒地の中で一人眠る少女がいた
青年は涙を流しながら、すまないと何度も謝っていた

そこでいつも途切れてしまう
昔の光景なのか、他には何もわからなかった

この村の歴史を知ればわかるかも知れない
そう思い、デリスは隊長に村に関する資料を借りた

周りの目は、『兵器なのに』と心よろしくない視線があったが気にはしなかった  

資料を読み進めると、昔村を救った英雄がいたと、それだけだった
どうやって村を救ったのは記されていなく
ただ『村を救った英雄』と、簡潔に

疑問を覚えつつ、他にも資料に目を通すと

『英雄は犠牲のもとで成り立っている』

その文章に何かが引っ掛かる
あの光景と繋がるような気持ちになった

読み進めていると、いつの間にか夜が更けていた 
集中してしまったようで、一日で全部読んでしまった

隊長に資料を返そうと、部屋まで行くと先客がいたようだ 
話し込んでいるようで、踵を返そうとすると

『これ以上、デリスを戦闘に加えるな
 あの子はお前達の道具じゃない!』

セインの声だ 
『あの子』とは私のことだろうか 
聞き耳を立てるつもりはなかったが、その場に動けずにいた

『またその話か、何度でも言うよセイン
 僕は間違ったことをしてない
 それにあの子も本望なんだよ?』

『お前は本気で言ってるのか?
 あの子の姿を見て、なんとも思わない
    のか?』

レンは当然と言うように、微笑んだ
その笑みの奥には何か違うものも含んでいた

『それならセイン、君は何の為に
 ここにきた?
 英雄の血筋である君は、何か
 見つけられた?』

英雄の血筋、それはあの資料に載っていた

『英雄の血筋は今もこの地に存在している
   国中が荒れた時、英雄は再び我々の前に
 現れる』と

私はこれ以上聞きたくなくて、息を殺すようにその場を去った

『俺の血筋と、あの子のことは関係ない
 だろう
 話を逸らすな!』

『そうとも言えないかも知れないよ
 英雄の血筋に、少なくともあの子は反応
 している』

その言葉にセインは疑いの目を向けることしかできなかった

『お前…何か知ってるのか?』

『君の想像通りに任せるよ
 こう見えて僕も隊長だから忙しいんだ
 失礼するよ』

手のひらをひらひらとさせて、レンはその場を去り、セインはその場に一人残される

彼の後ろ姿を睨みながら、歯を食いしばった

『馬鹿にしやがって…』

苛立ちを収めるように、深呼吸をした  


彼、セインはこの村を救った英雄の血筋
それを民に言えば、大いに喜ぶだろう

『英雄が帰ってきた』
『彼らは私達を見捨てなかった』

民は知らない 
英雄が村を救う為に、犠牲が成り立っていた事すらも

英雄は村を救う為に、一人の少女を犠牲にした
その事で神は怒り、英雄の血筋に呪いをかけた

成人を迎えた後に、衰弱していく呪い
生きることさえ辛くなり、殺してくれたほうがマシだと言うほどの苦痛

『私は大罪を犯した 称えられる英雄では  
 ない』

自らがした過ちを悔やんだ英雄は、少女を荒れた地に弔った

その時に願ってしまったのだ

『もし許されるならば、悲劇が再び訪れた時
 この地を救って欲しい 虫がいい話かも
 知れない』

最後に英雄は哀しく笑い、その地を後にした

その願いが弔った少女の魂に届き、叶ってしまったのだ 
英雄の望んでいたものではなく、歪んだ願いに変えられてしまっていた

それは人間なら持ってるもの
弔った少女にはなかったもの 

人の心、感情と呼べる部分

感情とは複雑なもので、一人の人間が主張して仕舞えば、周りにも影響されやすい

人間達が嘆いた中で、一番強い感情のものを
持って、少女は目覚めてしまうのであろう

目覚めた少女は、どう思うのだろう?


『荒地に弔った少女は目覚めているの
 だろうか
 御伽話にしか俺は思えない
 けど、その少女がデリスだとしたら…
 救ってあげたい』

その胸に秘めた思いは、誰の心に届くのだろう

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