醜い皮を被った姫君

ばんご

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突然の来訪、告白の答え

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そんなある日、我が城に来訪者が来たらしい
父には部屋から出てくるな、と言われた

いつもふらふら出歩いている訳ではないが、
父の言葉に従い、部屋で1日を過ごす

午後に差し掛かると、突然ノックの音が聞こえた
私の部屋をノックするのは限られた人だ
侍女か、衛兵 それと彼だけだった

不審に思いながらも、恐る恐る声をかける

『…どなたですか?』

『貴方と話がしたいの 
    開けてくださらない?』

女性の声だ 今日の来訪者の一人かも知れない
顔を覆うヴェールをして、扉を開ける

そこにいたのは綺麗な女性だった
艶のある金色の髪、容姿だけで分かるぐらいに
美しかった

そんな女性が私に何の用だろうか

彼女を部屋に招き、侍女にお茶の手配を指示する

お茶が来るまで彼女はじっと私を見つめる
いたたまれなくて私は視線を下に向ける

お茶がくると彼女は話し始めた

『まず初めまして、私は隣国の王子の
 幼馴染です 急な来訪なのに受け入れて
 いただき感謝いたしますわ
 貴方の噂は聞いていましてよ
 醜い姫、と有名だとか』

それから彼女は私の心を抉るように
彼に対しての思い、そして私を嘲笑うように話し始めた

『私、彼を愛してるの だから縁談を申し
 入れたのだけれど…断られてしまって
 
 その理由が貴女と知ってどんな人かと
 思ったけれど…
 想像以上に酷い容姿ね』

今まで浴びてきた圧、言葉 鵜呑みしないように心を強く保つように、拳を握りしめる

『産まれないほうがよかったぐらい酷いわね 
 あら、ごめんなさい 言葉が過ぎたわ』

『いえ、お気になさらず』

『優しいのね、ここまで言われても反論
 しないなんて、おかしいわね貴女』

『反論しても変わらない、と分かっています 
 私の取り柄は心の強さだけですから』

彼女は小さく『おかしな人ね』と再度いい
話を戻す

『憶測でしかないですけれども、
 彼は貴女を信頼し過ぎて、判断を誤って
 いる
    縁談という形ではありますが
 国を揺るがしさかねないことです

 国の為か、自分の為か…
 答えは前者に決まっているのに

 だから彼の為に、彼の前から
 消えてちょうだい』

『消えるとは、どういう事で?
 死ね、と言うことでしょうか?』

『この国から去る、それだけでいいです
 貴女の両親にも話をさせてもらいました

 好きにしていい、とのことで
 両親にさえ、愛されていないのね』

やっぱりと想像通りだった
けれど私は彼に真実も聞いていないし、告白の返事もしていない
私は初めて反論をした

『無礼を承知でいいます
 それは貴女の言い分ですよね?
 私は彼の口から聞いた上で、その提案を
 受けるか、否か判断したいのです』

反論されると思っていなかったのか、彼女は少し口籠もりながらも反論する

『けれど…!私は彼の為を思って!』

『彼のことを思っているなら、こんな提案
 しないのではないでしょうか?
 縁談を断られているのでしょう?
 
 私なら潔く身を引きます 
 それは間違っていますか?』

私の問いに彼女は何も言えなくなり、唇を噛み締め、私の胸ぐらを掴み叩こうとした
その時、ドアが開く

彼だった 息が乱れておりその上この場を見て彼は血相を変えた

『何をしようとしたのですか?』

『王子…!違うのです、これは…!』

『貴女には断ったはずです
 私は貴女と生涯共にしようとも思わない
 そう言いましたよね?』

優しく言ってはいるが、彼は内心怒っている
それに彼女は顔面蒼白で、体も小刻みに震えていた

『け、けれど…私は…貴方のことを
 思って』

『あの時に話した通りです 
 それで終わったはずですが…
 違いますか?』

怖気付いたのか、彼女はその場に入れなくなり、部屋から出ていった

彼と向き合う姿勢になり、少し緊張してしまう あの告白以来だと

彼はゆっくりと近づき、ヴェール越しに頬に触れる

『どこも怪我していませんか?
 大丈夫ですか?』

声に出したかった けれど彼の顔を見るだけで顔が火照り、頷くことしかできなかった

(何故?私はどうしてしまったのかしら?)

そんな私の様子には気づきもせず、彼はいつもの様に私に微笑む

そこで気づいた 私は彼のことが好きになってしまったのだと、
慕っている、ではなくて 愛していたのだと

もう答えは出てしまった

『手紙…送ったのですが届いてない
 ですか?』

『申し訳ありません、きっと父です
 貴女に干渉しないようにしたのでしょう』

『そうですか…でもよかったです』

『何故ですか?』

『何か巻き込まれていないかと心配で
 けれど、無事に元気なお顔を見れたので』

それは紛れもない本心だった
手紙の返事がこない時、何よりも考えていたのは彼の安否だけであった

それを聞いた彼は不意を突かれた様に
言葉も出なかったようだ

『貴女は私を怒ってもいいのですよ?
 何故そんな風に考えられるのですか』

『貴方のおかげですよ』

そして私は思いを告げた

『王子、私はあの告白からずっと
 考えていました 貴方のことを
 そして今、答えが出ました』

彼からも真剣な瞳で私を見つめる
緊迫した空気に包まれたが、構いはしなかった

『私はずっと貴方の言葉に救われてきて
 貴方と過ごす時間はかけがえのないもの
 でした 

 貴方のことを考える度に、胸が高鳴って
 やっとわかりました その意味が

 貴方を愛しています』

それは紛れもない、偽りのない言葉

彼は信じられない程に何度も私に聞き返す

『ほんとですか?本当に私のことを?』

恥ずかしくて小さく頷く
そして彼は私を抱きしめた

初めて抱きしめられ、どうしたらいいのかわからなかったが、気持ちがあったかくなった

『私も貴女を愛しています
 隣にいるのは貴女しか考えられない
 どんなことがあっても私が貴女を守ります
 幸せにして見せます』

その言葉に、愛されてると嬉しくなった
けれどその幸せは束の間だったのかも知れない

私と彼が結ばれることに対して、誰も祝福も
認める人さえもいなかったのだから
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