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第四話 希望の光と忍び寄る陰
第四話 四
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「それはそうとあかりちゃん。まずは診察と手当てのし直し、あとは薬ね」
「く、薬……?」
「そう、薬。膏薬と経口薬。大丈夫、注射はないから」
「そういう問題じゃないよ⁉ 昴のつくる薬ってしみるし、苦いし……」
「あかりちゃん?」
笑っているはずなのに、黒い靄が昴の背後に見える気がする。玄舞の血筋故か、昴の腹黒さ故か。あかりはくだらないことを考えて気を紛らわし、渋々頷いた。とたんに昴の纏う黒が霧散する。
「じゃあ、診察からするね」
昴はあかりの横に正座して、正面に向かい合うよう指示した。指示に従ったあかりの両手を取って、昴は「玄舞護神、急々如律令」とあかりの目を覗き込みながら唱える。黒い光の粒子がふわふわと舞い踊ったかと思うと、昴はぱっと手を離した。
「経過は順調かな。右手だけ手当てをし直して、あとは痛み止めと回復を促す薬を飲めば大丈夫みたいだね。右手首を診せて」
言われた通り右手を動かそうとすると鈍い痛みが走った。思わず顔をしかめたあかりに、昴は真剣な顔で「痛い? 違和感はある?」と訊いてきた。
「ここだけ熱いのに寒気がする」
あかりが袖を持ち上げて示したそこは、幻覚の符が貼られたところだった。見ると、包帯が巻かれていた。
「……やっぱり、ここが一番厄介だったか」
昴は独り言ちながら、あかりの右手首の包帯を解いていく。露わになった肌は薄い青紫色に腫れていた。
「あかりちゃん、呪詛を受けた?」
傷を抉るような幻覚を思い出し、あかりは表情を曇らせる。しかし、話さないわけにはいかない。気が進まないながらも、幻覚の符が貼られたことを説明した。
「それって、ただ幻覚を見せるだけなのかな」
聞き終えた昴は首を傾げた。
「どういうことだ?」
離れたところで話を聞いていた秋之介が反応する。昴は顎に手を添えながら、語りだした。
「それにしては強力過ぎるというか、ほとんど呪いみたいなんだ」
「ゆづはなんかわかんねえの」
水を向けられた結月は険しい顔をしていた。
「あかりの見た符に書かれた文字とか相手が式神使いであることを考えると、強制的に式神に下す術だったのかもしれない……」
結月曰く、対象の精神支配を乗っ取ることで強制的に強力な力を引き出すことができる術らしい。ただ、精神が支配出来たところで力が大きすぎて制御できない危険も孕んでいるため禁術の扱いなのだとか。陰の国の式神使いが滅多に使わなかったのもあかりの力を制御できない可能性を恐れてのことだったのではないかと推測し、さらに今回術が成功しても失敗してもあかりの自我が崩壊するか最悪死という結末もあり得たと昏い声で締めくくった。
つまり、あのとき感じたあかりの死の予感は外れてはいなかったということだ。そう考えると、現状が奇跡のように思えた。
「なるほど。原因はわかったし、適切な処置に切り替えるね」
昴は心中で念じるように目を閉じてから、あかりの右手首に向けて慎重に九字を切った。無数の黒い光球に覆われた後には、不気味な色はなくなり、熱と寒気が引いていた。僅かに痛みは残るが動かす分には支障がない。昴はそこに鎮痛薬をしみこませた布を置くと包帯で覆い隠した。
「最後に薬ね。はい、これ」
昴に渡された二つの薬包紙をのろのろと受け取る。あかりは覚悟を決めて粉末状の薬を口に含むと、急いで水で流し込んだ。
「……苦いよぉ」
「良薬は口に苦しっていうでしょ」
「頑張ったあかりにご褒美」
すっと結月が差し出した皿には八等分に切り分けられた梨が盛られている。
「水菓子なら食べやすいかと思って」
「ありがとう。いただきます」
瑞々しい梨は甘くさっぱりとしていて、歯ごたえが良い。無理なく二切れ食べると、残った分は結月たちがつまんで完食した。
「く、薬……?」
「そう、薬。膏薬と経口薬。大丈夫、注射はないから」
「そういう問題じゃないよ⁉ 昴のつくる薬ってしみるし、苦いし……」
「あかりちゃん?」
笑っているはずなのに、黒い靄が昴の背後に見える気がする。玄舞の血筋故か、昴の腹黒さ故か。あかりはくだらないことを考えて気を紛らわし、渋々頷いた。とたんに昴の纏う黒が霧散する。
「じゃあ、診察からするね」
昴はあかりの横に正座して、正面に向かい合うよう指示した。指示に従ったあかりの両手を取って、昴は「玄舞護神、急々如律令」とあかりの目を覗き込みながら唱える。黒い光の粒子がふわふわと舞い踊ったかと思うと、昴はぱっと手を離した。
「経過は順調かな。右手だけ手当てをし直して、あとは痛み止めと回復を促す薬を飲めば大丈夫みたいだね。右手首を診せて」
言われた通り右手を動かそうとすると鈍い痛みが走った。思わず顔をしかめたあかりに、昴は真剣な顔で「痛い? 違和感はある?」と訊いてきた。
「ここだけ熱いのに寒気がする」
あかりが袖を持ち上げて示したそこは、幻覚の符が貼られたところだった。見ると、包帯が巻かれていた。
「……やっぱり、ここが一番厄介だったか」
昴は独り言ちながら、あかりの右手首の包帯を解いていく。露わになった肌は薄い青紫色に腫れていた。
「あかりちゃん、呪詛を受けた?」
傷を抉るような幻覚を思い出し、あかりは表情を曇らせる。しかし、話さないわけにはいかない。気が進まないながらも、幻覚の符が貼られたことを説明した。
「それって、ただ幻覚を見せるだけなのかな」
聞き終えた昴は首を傾げた。
「どういうことだ?」
離れたところで話を聞いていた秋之介が反応する。昴は顎に手を添えながら、語りだした。
「それにしては強力過ぎるというか、ほとんど呪いみたいなんだ」
「ゆづはなんかわかんねえの」
水を向けられた結月は険しい顔をしていた。
「あかりの見た符に書かれた文字とか相手が式神使いであることを考えると、強制的に式神に下す術だったのかもしれない……」
結月曰く、対象の精神支配を乗っ取ることで強制的に強力な力を引き出すことができる術らしい。ただ、精神が支配出来たところで力が大きすぎて制御できない危険も孕んでいるため禁術の扱いなのだとか。陰の国の式神使いが滅多に使わなかったのもあかりの力を制御できない可能性を恐れてのことだったのではないかと推測し、さらに今回術が成功しても失敗してもあかりの自我が崩壊するか最悪死という結末もあり得たと昏い声で締めくくった。
つまり、あのとき感じたあかりの死の予感は外れてはいなかったということだ。そう考えると、現状が奇跡のように思えた。
「なるほど。原因はわかったし、適切な処置に切り替えるね」
昴は心中で念じるように目を閉じてから、あかりの右手首に向けて慎重に九字を切った。無数の黒い光球に覆われた後には、不気味な色はなくなり、熱と寒気が引いていた。僅かに痛みは残るが動かす分には支障がない。昴はそこに鎮痛薬をしみこませた布を置くと包帯で覆い隠した。
「最後に薬ね。はい、これ」
昴に渡された二つの薬包紙をのろのろと受け取る。あかりは覚悟を決めて粉末状の薬を口に含むと、急いで水で流し込んだ。
「……苦いよぉ」
「良薬は口に苦しっていうでしょ」
「頑張ったあかりにご褒美」
すっと結月が差し出した皿には八等分に切り分けられた梨が盛られている。
「水菓子なら食べやすいかと思って」
「ありがとう。いただきます」
瑞々しい梨は甘くさっぱりとしていて、歯ごたえが良い。無理なく二切れ食べると、残った分は結月たちがつまんで完食した。
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