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第四話 希望の光と忍び寄る陰
第四話 六
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目覚めた最初の日こそ気怠い感じが続いたが、元来の生命力の強さや昴の治癒術の甲斐もあって、翌日には食欲も戻り、翌々日には中庭に下りて軽い散歩を楽しめるようになっていた。ただ、体力や筋力は著しく低下していたために全快には程遠い。ときおり黒い玉砂利に足を取られそうになっては隣を歩く結月や秋之介に支えられていた。
同じ当主の座であっても、先代が政務を代わってくれている結月や秋之介とは違い、昴はほとんどひとりで全ての業務をこなし、四家当主のなかで最年長でもあることから御上との連絡も取っているため非常に忙しそうにしている。それでもあかりが気を失っている間も、今も、毎日欠かさずあかりの様子を見に、顔を出してくれていた。
「昴、大丈夫かなあ」
ぼんやりとあかりが呟けば、左隣から呆れたため息が降ってきた。
「おまえは人の心配してる場合かよ」
「そんな言い方しなくてもいいじゃない。秋は昴のこと心配にならないの」
「別にどうでもいいって言ってるわけじゃねえだろ」
軽くにらみ合っていると、今度は右隣から小さなため息が漏れ聞こえた。
「秋、あんまり煽るような言い方しないで。あかりも、昴に安静にしてるように言われたでしょ」
不満に頬を膨らませながら、あかりは結月を振り仰いだ。
「それはそうだけど。でもあんなに働きづめじゃ身体を壊さないか心配にもなるよ」
結月は小さく笑うとあかりの頭を撫でた。
「うん、そうだね。でも、昴と同じくらいあかりのことも心配なんだよ。秋もそう思ってるから、さっきあんなこと言った」
「あっ、ゆづ! おまえ、余計なことを!」
秋之介が吼えるが、結月は意に介していない様子で首を傾げる。
「誤解されるより、いい」
「そうなんだけどそうじゃねえ!」
秋之介の頬がほんのり朱に染まっている。素直ではない彼らしい照れ隠しなのだとあかりにもわかった。
「心配なら心配って言えばいいのに」
「あかりも追及しなくていいっての!」
あかりと結月は顔を見合わせて、くすりと笑った。
談笑や中庭の風景を楽しみながら歩いていると、あっという間に日が暮れ始めた。この時間になると長月の風であっても肌寒く感じられる。
腕をさするあかりを見て、結月が「そろそろ戻ろう」とあかりにあてがわれている部屋の縁側へと踵をかえす。
縁側へとあがろうとしたところで、その奥の縁側の曲がり角から昴が姿を現した。
「ああ、ちょうどよかったよ」
「昴!」
朝以来会っていなかった昴の顔を目にした瞬間、あかりはぱっと目を輝かせた。未だ消せない狐の尾がゆらゆらと機嫌よさげに左右に揺れている。
「朝より元気そうだね、あかりちゃん」
「うん! そうだ、昴。いつも忙しそうにしてるみたいだけど、私にできることあったら言ってね。手伝うから」
左右から呆れたような諦めたようなため息が聞こえたが、あかりは気にしないことにした。二人に何と言われようと、昴が心配なことに変わりはないのだから。
昴は困ったように笑った。
「気持ちは嬉しいけど、あかりちゃんには休んでてほしいな。……とも、言ってあげられないんだよね、これが」
昴が笑顔を消して、真面目な顔をして言った。
「さっき御上様の使者から文が届いて、現状を知らせたいからあかりちゃんたちに中央御殿に来てほしいって」
あかりは目を瞬かせた。
どうやら最初の手伝いは大仕事になりそうだ。
同じ当主の座であっても、先代が政務を代わってくれている結月や秋之介とは違い、昴はほとんどひとりで全ての業務をこなし、四家当主のなかで最年長でもあることから御上との連絡も取っているため非常に忙しそうにしている。それでもあかりが気を失っている間も、今も、毎日欠かさずあかりの様子を見に、顔を出してくれていた。
「昴、大丈夫かなあ」
ぼんやりとあかりが呟けば、左隣から呆れたため息が降ってきた。
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「別にどうでもいいって言ってるわけじゃねえだろ」
軽くにらみ合っていると、今度は右隣から小さなため息が漏れ聞こえた。
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不満に頬を膨らませながら、あかりは結月を振り仰いだ。
「それはそうだけど。でもあんなに働きづめじゃ身体を壊さないか心配にもなるよ」
結月は小さく笑うとあかりの頭を撫でた。
「うん、そうだね。でも、昴と同じくらいあかりのことも心配なんだよ。秋もそう思ってるから、さっきあんなこと言った」
「あっ、ゆづ! おまえ、余計なことを!」
秋之介が吼えるが、結月は意に介していない様子で首を傾げる。
「誤解されるより、いい」
「そうなんだけどそうじゃねえ!」
秋之介の頬がほんのり朱に染まっている。素直ではない彼らしい照れ隠しなのだとあかりにもわかった。
「心配なら心配って言えばいいのに」
「あかりも追及しなくていいっての!」
あかりと結月は顔を見合わせて、くすりと笑った。
談笑や中庭の風景を楽しみながら歩いていると、あっという間に日が暮れ始めた。この時間になると長月の風であっても肌寒く感じられる。
腕をさするあかりを見て、結月が「そろそろ戻ろう」とあかりにあてがわれている部屋の縁側へと踵をかえす。
縁側へとあがろうとしたところで、その奥の縁側の曲がり角から昴が姿を現した。
「ああ、ちょうどよかったよ」
「昴!」
朝以来会っていなかった昴の顔を目にした瞬間、あかりはぱっと目を輝かせた。未だ消せない狐の尾がゆらゆらと機嫌よさげに左右に揺れている。
「朝より元気そうだね、あかりちゃん」
「うん! そうだ、昴。いつも忙しそうにしてるみたいだけど、私にできることあったら言ってね。手伝うから」
左右から呆れたような諦めたようなため息が聞こえたが、あかりは気にしないことにした。二人に何と言われようと、昴が心配なことに変わりはないのだから。
昴は困ったように笑った。
「気持ちは嬉しいけど、あかりちゃんには休んでてほしいな。……とも、言ってあげられないんだよね、これが」
昴が笑顔を消して、真面目な顔をして言った。
「さっき御上様の使者から文が届いて、現状を知らせたいからあかりちゃんたちに中央御殿に来てほしいって」
あかりは目を瞬かせた。
どうやら最初の手伝いは大仕事になりそうだ。
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