【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第六話 幸せはいつもそばに

第六話 二一

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「お気に召されたようでなによりです」
 振り向くとそこには司がいて、あかりと目が合うとにこりと微笑を湛えた。会釈する結月には彼同様に、司は頭を小さく下げる。
「あかりさんは本当に美味しそうに食べますね。話に聞いていた通りです」
「誰かから聞いたのですか」
 食い意地が張っていると思われただろうかとあかりが緊張しながら訊けば、司は笑みを深めて答えた。
「はい。先ほど秋之介さんから」
「秋ってば……」
 あかりが弁明しようと口を開く前に、司が言った。
「食事を楽しめることは素晴らしいことです。こちらも準備した甲斐があるというもの。料理番も嬉しそうにしていましたよ」
 どうやらおかしな誤解はされなかったようだ。あかりはほっと息を吐いた。司はそれには気づかなかったらしく、新たな問いをあかりに投げかける。
「あかりさんはどのおせち料理が好きですか」
 膳の上に所狭しと並べられたのは伊達巻、栗きんとん、田作り、かまぼこ、黒豆、昆布巻き、数の子、お煮しめなど。どれも好きだが一番好きなのは最初に手をつけた伊達巻だった。「うーん、伊達巻でしょうか」
「そうなんですか? 実は余の好物も伊達巻なんです。一緒ですね」
 二人で顔を見合わせて小さく笑う。
「結月はお煮しめが好きだったよね」
 あかりが話を振るも、結月から帰ってきたのは沈黙だった。あかりがもう一度呼びかけると、遅れて結月が反応を示した。
「……ごめん、ぼうっとしてた。何?」
「結月が好きなおせち料理はお煮しめだよね、って言ったんだけど……。大丈夫? 今日は朝から忙しかったし、夕方も私に付き合わせちゃったし疲れてるんじゃ……」
 結月は即座に「疲れてない」と否定した。一瞬だけ司を見た結月の表情は相変わらずの無表情だったが、瞳には面白くなさそうな色があった。まるで子どもが拗ねているときのようだとあかりは思った。
(私ばっかりが御上様と話してたからかな)
「ごめんね。結月も御上様とお話ししたかったよね」
 結月は複雑そうな表情で、あいまいに頷いた。向かいの席で秋之介と昴が苦笑いしていたことにあかりは気づいたが、何故そんな反応をするのか理由はわからなかった。
「ごめんなさい、他意はなかったんですが」
「……いいえ、お気になさらず」
 司もまた苦笑いを浮かべている。このやりとりにもあかりは首を傾げるばかりだった。
「結月さんはお煮しめが好きなんですね」
「はい」
「結月は甘いものがそんなに好きじゃないから、煮物を食べるとほっとするんだって言ってました」
 結月と司では会話がすぐに終わってしまいそうだ。司と話したがっていた結月のこと、きっと仲良くしたいと思っているはずだと、会話の輪を広げるためあかりも話に加わる。
「あとは人参の飾り切りも好きなんだよね」
「うん」
「料理は見た目も大事ですよね」
 ひとしきり話して、司は他の来客にも挨拶をするために去っていった。そして司と入れ替わるように秋之介と昴が現れた。
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