【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第一七話 諦めない未来

第一七話 一

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「今年もみんなでお花見できて良かったね」
「そうだね」
 心地よい春の日射しの下、青柳家の裏庭に植えられた立派な桜の樹を見上げる。薄紅色の花びらがはらりはらりと降りしきり、地面を桜色に染めていた。
 こうして結月と隣り合って桜を眺めていると、一年前のお花見で交わした会話が思い出される。
『また来年もみんなでお花見できるといいなぁ』
『できるよ』
『結月』
『少なくとも、おれは……、そんな未来であってほしいと、思ってる』
『……そうだね。そんな未来を創りたいね』
 願った通り、皆でお花見をできる未来がやって来たことにあかりの心は明るくなった。目下の問題は解決していないが、まだ希望を信じて良いのだと思える。それだけであかりは救われるようだった。
「おーい! あかりー、ゆづー!」
「そろそろ始めようって菊助様が言ってるよ!」
 少し離れたところから秋之介と昴があかりと結月を呼んだ。あかりは「はーい!」と元気よく返事をすると、結月を振り仰いだ。
「行こっか、結月」
「うん」
 秋之介たちが待つ場所にはすでに茣蓙が敷かれ、重箱が広げられて緑茶も用意されていた。準備は万端のようだ。
「準備ありがとうね」
「まっ、これくらいはな」
「昨年はゆづくんにお茶を淹れてもらったし、今年はあかりちゃんが料理を作ってくれたしね」
 昴の言う通り、今年の料理はあかりが作った。といっても香澄に教えてもらいながら手伝ったという表現の方が正しい。重箱は例年通り香澄が担当し、あかりは別皿の煮物を用意した。
 春朝の音頭とともにいよいよお花見が始まった。
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