【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第一八話 凶星の瞬き

第一八話 三

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 あかりはびくりと体を震わせて飛び起きた。息は荒く、肺が苦しい。背中はじっとりと湿り不快だった。
「ゆ、め……」
 徐々に意識が清明になってくる。先ほど見た光景が夢なのだと理解すると、あかりは深いため息をついた。
 ここのところ悪夢にうなされることはめっきりなくなっていたが、父を失ってからのこの一週間は毎日夢を見た。夢には決まって父が現れ、あかりの目の前から消えていく。
 一人ではないから大丈夫だと思っていたが、自身の思う以上に精神的な負担は大きかったようだ。加えて夢とはいえ何度も父を失うような思いを繰り返していると気が狂いそうだった。
 連日こんな調子なものだから、最近は寝不足気味だった。それにも関わらず眠りは浅く、眠る気にもなれない。
 あかりは二度目のため息をつくと、なるべく音を立てないように障子と雨戸を細く開け、置きっぱなしになっている草履をつっかけ中庭に降りた。玉砂利を踏む音がいやに大きく響く。
 卯月も下旬に入ったが、さすがに深夜だ。緩く吹き抜ける風が背中の汗を冷やし、あかりは身震いした。心は騒めいたまま、あかりは夜空を見上げた。
「……!」
 そして短く息をのむ。欠けた月と鈍い光を放つ星々の隙間に凶星が瞬いていた。あかりが凶星を見るのは三年前の戦いの日以来だった。あかりはあのときとよく似た妖しい輝きから目を離せないでいた。
(また、あのときと同じようなことが起こるっていうの……?)
 生まれ育った町や家を失い、敬愛していた人と妖を失い、大好きだった両親を失った。残酷な運命はこれ以上あかりの何を奪おうというのか。夢を見たせいか当時の記憶がはっきりと脳裏に蘇る。恐怖に身が竦み、呼吸が浅くなった。
(もう失いたくなんてないのに……!)
 真っ先に浮かんだのは三人の幼なじみの顔だった。あかりと同じように前線に立つ彼らもまた常に危険に身をさらしていることは理解しているが、一人だって欠けてはいけないのだ。
 つなぎとめるように、あかりは三人の名前を呟いた。
「昴、秋、結月……」
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