321 / 390
第二三話 昇る朝陽と舞う朱咲
第二三話 八
しおりを挟む
「……実に残念だ。ならば、致し方ない」
現帝はかざしていた呪符を放つと咒言を唱え始めた。呪符は黒い靄を発してひとりでに動き始め、あかりに向かって目にもとまらぬ速さで飛来した。
「朱咲護神、急々如律令……っ」
あかりがとっさに霊剣で呪符を弾き返しても、追随するように呪符があかりを狙って襲ってくる。
「あかりちゃ……」
「昴、後ろ!」
「くそっ、式神が邪魔してきやがる……!」
あかりが呪符に狙われている傍らで、結月たちは三体の式神に邪魔だてされ、戦闘を余儀なくされていた。
(現帝を倒す。反閇さえできれば邪気が祓われて、この戦いも終わるはずなのに……!)
言葉にすればたったそれだけのことが実現できない。もどかしく思う隙すらなく、呪符はしつこくあかりを追い回す。
(あの符に囚われたら取り返しのつかないことになるわ……!)
過去に類似した呪符に当てられたとき、あかりはひどい幻覚に囚われた。心の傷を無遠慮に抉られた不快感と辛苦は今でも忘れられない。
今回の呪符は以前のそれよりも強い気が込められていることが気配でわかる。
(幻覚だけで済めばまだいい方だわ。最悪、私が私でいられなくなる……そんな予感がする)
そこまでわかっていてもあかりは呪符を避けるだけで手いっぱいで、九字すら唱えられなかった。弾き返す一瞬、刃に呪符が触れるときを狙って霊剣がまとう狐火で呪符を燃やそうとしても、ほんの僅かに遅いらしく呪符を燃やすことはできない。
飛びまわる呪符の向こう側で、現帝が冷たい目をしてにやりと口元を歪めているのをあかりは視界の端にとらえた。
現帝が悠々としているのに対して、あかりたちは呪符と式神相手に苦戦を強いられている。このままいけば体力や霊力が尽きてあかりたちの方が倒れることになりかねない。
(ひとつひとつ相手をしている方が不利よ。……やっぱり反閇で邪気を一掃するしかないわ)
中央御殿に来る前に既に体力や霊力の限界寸前まで戦っていたので、もう一度反閇をするのは危険かもしれない。それでもやらないわけにはいかなかった。
いくつもの約束がある。ほしい未来がある。
そのためにあかりが今やらなければならないことなのだから。
不安と恐怖を打ち払い、あかりは式神と戦う三人に向かって声を張り上げた。
「結月、秋、昴! 反閇をするから援護して!」
「反閇って……。おまえ、今日何回目だよ。これ以上は……!」
「でも他に方法がないでしょ。大丈夫、あと一回だけならできるよ」
あかりが気丈に微笑むと、秋之介は口をつぐんで渋々頷いた。
そんな秋之介にあかりは心の中で謝った。
(ごめんね、秋。嘘ついて。……本当は一回だってもたないかもしれない)
反閇の途中で体力が尽きて倒れるかもしれない。霊力が尽きて術が成立しないかもしれない。あるいは反閇の成功のために命を削ることになるかもしれない。
それでもここであかりが踏ん張らなければ、平和な未来はやってこない。怖気づいている場合ではないのだ。
昴と結月はまだ疑っているようだったが、あかりの反閇以外に場を収める方法がないことも理解していたからか口出しすることはなかった。
「お願いね、あかりちゃん」
「あかりのこと、絶対、守るから」
「うん」
秋之介が式神三体を引きつけている間に、昴は結界を張り直し、結月は新たな霊符を構える。
あかりは深呼吸して心を落ち着けると、祝詞を奏上し、舞い始めた。
現帝はかざしていた呪符を放つと咒言を唱え始めた。呪符は黒い靄を発してひとりでに動き始め、あかりに向かって目にもとまらぬ速さで飛来した。
「朱咲護神、急々如律令……っ」
あかりがとっさに霊剣で呪符を弾き返しても、追随するように呪符があかりを狙って襲ってくる。
「あかりちゃ……」
「昴、後ろ!」
「くそっ、式神が邪魔してきやがる……!」
あかりが呪符に狙われている傍らで、結月たちは三体の式神に邪魔だてされ、戦闘を余儀なくされていた。
(現帝を倒す。反閇さえできれば邪気が祓われて、この戦いも終わるはずなのに……!)
言葉にすればたったそれだけのことが実現できない。もどかしく思う隙すらなく、呪符はしつこくあかりを追い回す。
(あの符に囚われたら取り返しのつかないことになるわ……!)
過去に類似した呪符に当てられたとき、あかりはひどい幻覚に囚われた。心の傷を無遠慮に抉られた不快感と辛苦は今でも忘れられない。
今回の呪符は以前のそれよりも強い気が込められていることが気配でわかる。
(幻覚だけで済めばまだいい方だわ。最悪、私が私でいられなくなる……そんな予感がする)
そこまでわかっていてもあかりは呪符を避けるだけで手いっぱいで、九字すら唱えられなかった。弾き返す一瞬、刃に呪符が触れるときを狙って霊剣がまとう狐火で呪符を燃やそうとしても、ほんの僅かに遅いらしく呪符を燃やすことはできない。
飛びまわる呪符の向こう側で、現帝が冷たい目をしてにやりと口元を歪めているのをあかりは視界の端にとらえた。
現帝が悠々としているのに対して、あかりたちは呪符と式神相手に苦戦を強いられている。このままいけば体力や霊力が尽きてあかりたちの方が倒れることになりかねない。
(ひとつひとつ相手をしている方が不利よ。……やっぱり反閇で邪気を一掃するしかないわ)
中央御殿に来る前に既に体力や霊力の限界寸前まで戦っていたので、もう一度反閇をするのは危険かもしれない。それでもやらないわけにはいかなかった。
いくつもの約束がある。ほしい未来がある。
そのためにあかりが今やらなければならないことなのだから。
不安と恐怖を打ち払い、あかりは式神と戦う三人に向かって声を張り上げた。
「結月、秋、昴! 反閇をするから援護して!」
「反閇って……。おまえ、今日何回目だよ。これ以上は……!」
「でも他に方法がないでしょ。大丈夫、あと一回だけならできるよ」
あかりが気丈に微笑むと、秋之介は口をつぐんで渋々頷いた。
そんな秋之介にあかりは心の中で謝った。
(ごめんね、秋。嘘ついて。……本当は一回だってもたないかもしれない)
反閇の途中で体力が尽きて倒れるかもしれない。霊力が尽きて術が成立しないかもしれない。あるいは反閇の成功のために命を削ることになるかもしれない。
それでもここであかりが踏ん張らなければ、平和な未来はやってこない。怖気づいている場合ではないのだ。
昴と結月はまだ疑っているようだったが、あかりの反閇以外に場を収める方法がないことも理解していたからか口出しすることはなかった。
「お願いね、あかりちゃん」
「あかりのこと、絶対、守るから」
「うん」
秋之介が式神三体を引きつけている間に、昴は結界を張り直し、結月は新たな霊符を構える。
あかりは深呼吸して心を落ち着けると、祝詞を奏上し、舞い始めた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
退屈令嬢のフィクサーな日々
ユウキ
恋愛
完璧と評される公爵令嬢のエレノアは、順風満帆な学園生活を送っていたのだが、自身の婚約者がどこぞの女生徒に夢中で有るなどと、宜しくない噂話を耳にする。
直接関わりがなければと放置していたのだが、ある日件の女生徒と遭遇することになる。
《完結》悪役聖女
ヴァンドール
ファンタジー
聖女になり、王妃となるため十年間も教育を受けて来たのに蓋を開ければ妹が聖女の力を持っていて私はには聖女の力が無かった。そのため祖国を追放されて隣国へと旅立ったがそこで……
竜皇女と呼ばれた娘
Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた
ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる
その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ
国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
生きるために逃げだした。幸せになりたい。
白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。
2020/9/19 第一章終了
続きが書け次第また連載再開します。
2021/2/14 第二章開幕
2021/2/28 完結
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる