【BL】異世界転生したら、初めから職業が魔王の花嫁のおじさんの話

ハヤイもち

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カルテ#8 夢にその人がでてくるのは、相手があなたを想っているから

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桜は夢を見ていた。


目の前には偉そうに玉座に腰かけたマスオがいた。

彼は見慣れた病院着ではなく、RPGゲームに出てくるような
黒いマントにごつごつした黒い甲冑を身に着け、
頭には大きな雄山羊の巻き角が生えている。


そしてなぜかマスオは桜を膝にのせて、
恋人にでもするように髪を撫でていた。



だが相手は精神病患者。
今更こんなことをされても桜には何の驚きもない。


「どうしたんだい、やけに気合の入ったコスプレじゃないか」


桜がマスオに声をかけると、マスオがにやりと笑った。


「おお、やっとお前に我の本当の姿を見せることができた。
これで我が魔王だということを信じてくれるか?」


「どうだろうね。だってこれは私の夢だろう。

それに私の記憶では、君は私の頭を消火器で殴って殺そうとした。
普通なら消火器で頭を殴るなんて、相手のことを
心底憎んで、殺したいと思わなければやらないよ。

だから今の君の姿は私が望んでいる都合のいい君の幻影だと判断しているところだ」


「うぅむ、…それについては本当に済まなかったと思っている。
そうしなければ、お前をこの世界に引きずり込むことができなんだ。

本当は我もこの方法は試したくなかった。
もしかしたら、本当にお前が死んでしまうリスクもあった。

だが、我ももうそちらに戻らなければならなかったので
焦っていたのだ。」


「そうかい、でもまだ私は君のことを幻だと思っている。
君の言っていることも全く信じてない。」


私の言葉を聞くと、目の前の魔王は目に見えて元気をなくした。
後ろで揺れている尻尾もしゅんと垂れ下がる。


「…桜、悪かった。どうすれば我を信じてくれる?」


私は考える。
幻に何を言ってもしょうがないが、目の前のマスオが叱られた犬のように
見えてしまい、慰めの言葉をかけたくなる。

そういうマスオの顔をみると、どうも私は弱くなってしまうようだ。


「…マスオ、信頼は一朝一夕で実るものではないんだよ。

花を育てる時のように、種を植えて、毎日水をやって、少しずつ少しずつ
大きくなっていくものなんだ。

だけどね、せっかく作った信頼関係が崩れる時は一瞬なんだ。

そして、一度崩れてしまった信頼を取り戻すことは大変だ。
新しい関係を築くよりももっと困難になってしまう。

でも、もし君が、私との信頼関係を元に戻したいと本当に望むなら
君も時間をかけて、私と向き合ってほしい。

私が君と時間をかけて、何度も話して、仲良くなったように
君も私に君の考えていること、君の内側を時間をかけて伝えてほしい。

そしたら私も君のことを信頼できるようになるかもしれない」


「桜!」


「ぐぇ」


感極まったのか、ぎゅっと力いっぱいマスオが私を抱きしめる。
骨が軋み、私は苦しくて、彼の背中をタップした。


「わかった。これから毎晩お前の夢に出て話をしよう」


「いや、毎晩は睡眠不足になるかもしれないからやめてくれ」

老体にはきつい、桜がそういったところでぐにゃり、と景色がゆがんだ。


「桜、我もお前を必ず探し出し、花嫁とする儀式を行う。
それまで、絶対に死なないでくれ。お願いだ。桜…!」


さらに景色がゆがみ、マスオの温もりも消える。


※※※



目覚めると、天井近くの牢屋の窓から朝日が差し込んでいた。

「…なぜ花嫁なんだ?」

一人つぶやくと、隣で寝ていたルキ(召喚士)が「うがっ」と鳴いた。
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