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カルテ#19 森の中-思い悩む桜先生と3つ頭の怪物-
しおりを挟む森は昼間にも関わらず、日光を遮る背の高い木々のせいで
薄暗く、ツタが這って湿っぽい。
二人とも体力はないし、ルキにいたっては女の子の恰好をしているため、
余計に歩きづらそうだった。
「う~、お花摘みに行ってくる」
「行ってらっしゃい、私はここで休んでいるから。
何かあったら大声で呼んで」
ルキはそして林の奥に消えて姿が見えなくなってしまった。
一人になったところで、私は先ほどのルキの話を思い出す。
『次に求められるのは生贄だ』
『この国の人たちが召喚の生贄にされるんだろうと思うと、
いやだよ、助けたい』
私の目的はこの世界の人々を救うことじゃない。
元の世界に戻ることだ。
しかし、この世界の住人であるルキとは
もうすっかり切っても切れない縁で結ばれてしまった。
ルキの願いなら叶えてやりたいし、力を貸したいと思う。
けれど、そんなことをしていたら
一生元の世界に戻ることができなくなるのではないか。
それにルキははっきり言って厄介ごとを抱えてしまう性質だ。
そしてそれを切り捨てられない優しさを持っている。
「…はぁ」
ため息が出てきた。
ここらで私は自分の目的を叶えるべきではないだろうか。
これ以上この世界にいて、この国の事情に巻き込まれてしまえば、
本当に帰れなくなる。
元の世界の話はあえて避けてきたが、
ここらで話すべきだろう。
ルキも一緒に私の世界に来るように説得してみよう。
それでだめならあきらめよう。
私が腰かけていたツタの上から立ち上がったと同時だった。
「ぎゃあああああああ助けてぇ!さくらせんせぇ~!」
「ルキ!」
ルキの情けない悲鳴が聞こえて、私は急いで声の方へと走った。
ルキは絶体絶命の状況だった。
三つの頭を持つ巨大な犬の怪物が、
ルキを足で拘束して今まさに
巨大な牙で頭をかみ砕こうとしていた。
「ルキ!」
私は持っていた石を怪物の目をめがけて投げつけた。
―――これでも高校時代は野球部ピッチャーだったんだ。
何十年も前の話で恥ずかしいが、それでも石は怪物の目の命中し、
怪物の視線はこちらに向いた。
私を睨みつける怪物、いやケルベロスと言うのか、
それはじりじりとルキから離れ、私の方に近寄ってくる。
ルキは怪物が離れるとすぐに召喚のための魔法陣を地面に描く。
私は熊と相対するときのように、相手の目を見ながらじりじりと
後ろに下がっていく。
しかし、その瞬間、ケルベロスは全速力で私に向かって走ってきた。
「桜先生!」
私は死を覚悟した。
次に来るであろう痛みに、思わずぎゅっと目をつぶる。
しかし、それは私の直前でばっと止まったため、
風圧で私の体が吹き飛ばされそうになった。
次に感じたのは犬になめられているような
ぬめぬめとした舌の感触だった。
そして全身をふわふわとした毛で抱きしめられている感触に
私は恐る恐る目を開けた。
巨大なケルベロスはまるで私を飼い主だとでもいうように
抱きしめて、顔を舌で舐めまわしていた。
「これは一体…」
「どういうこと?桜先生ぇ…」
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