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☆第十一章 日差しに抱かれて☆

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 タロは、歩くのも這いずるのもしんどそうでしたが、目だけはキラキラと綺麗に輝いてました。
 廊下で横になり、呼吸も静かで、気づくとちょっと違う場所に移動していて。
 水もごはんも食べないのですが、それでもどこかに期待をして、タロが逃げない距離で、いつも用意しておきました。

 ある朝、家族の生活の場である一階や二階ではなく、間の踊り場で、タロは命を燃やし尽くしました。
 猫らしく、なるべく誰にも見られない場所を選んだのでしょう。
 母が気づいて、私も呼ばれ、見ると。
 タロはまるで走っているかのように、体を伸ばして旅立ちました。
 窓からの日差しが暖かそうで、私たちは、そういう場所までタロを歩かせてくれた神様に感謝する気持ちでした。
 母が悲しそうにタロの頭をなでて、私も、まだ暖かかったタロを撫でました。
 背中がゴツゴツしていて、呼吸もしておらず、タロが天国に逝ったと、実感しました。

 それから、病院の先生に連絡をしました。
 葬儀社には先生が連絡をしてくださる事になり、私たちは、明日の引き取りまで、タロを安置する事に。
 夏の暑い日で、とにかくお腹の中が早く痛むので、ドライアイスで冷やしてくださいと言われました。
 私はスーパーなどでドライアイスの塊を探したのですが、どこにも売っておらず、持ち帰り用の粉状のドライアイスを手に入れるのが精いっぱいでした。
 家に戻ると、母が簡単な仏壇を作っていて、タロは箱の中で、眠るように丸まってました。
 紙袋に入ったドライアイスをタロのお腹周りに置いて、お線香をあげたり。
 母が、冷蔵庫の冷凍室に冷やす枕が入っている事を思い出し、それをタオルで包んで、タロの下に敷いたりしました。
 その日の夜は、部屋のエアコンを掛けっぱなしにして、タロを安置しました。
 コタローが不思議そうにタロを見ていたのは、猫なりの受け止め方をしていたのかもしれません。

 翌日の午前十時、葬儀社さんが来て、本当にタロとお別れです。
 家族でタロの頭を撫でて、丁寧にタロを乗せた車が、走ってゆきます。
 私たちは、車が角を曲がって見えなくなるまで、見送りました。
 八月十七日の事でした。
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