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☆プロローグ 天使と凡人☆
しおりを挟む朝の通学路で、陽光に祝福を受ける、美しく愛らしい少女。
白いブレザーを纏うその肢体は、平均的な身長に、恵まれたプロポーションを隠せていない。
艶めく頭髪は、斜め後ろで緩やかに軽やかに、フワりとカールされたツインテールで風に靡いていた。
丸みを帯びた小顔には、整った眉と大きな黒い瞳、小さく高い鼻筋と、柔らかそうな愛らしいピンクの脣。
全てのパーツが最上のサイズで美しく纏まった愛顔は、優しい笑顔で輝いている。
細い首からなだらかな肩、大きなバストや括れたウエストのラインが、しなやかだ。
安産型のヒップは制服のミニスカートで隠されていて、ムッチリとした腿から細い膝、少し膨らむ脹ら脛から更に細い足首へと、ストッキングに包まれながらも魅惑的なカーヴを魅せ付けている。
ローファーを纏う足下も、小さくて庇護欲を刺激していた。
そんな煌めく少女の周囲では、同じ制服の男女が、羨望の眼差しで遠巻きに見つめ、噂していた。
「見て! 麗様(うららさま)だわ!」
「朝からそのお姿を拝見できるなんて…今日は幸運な一日だわ!」
男子たちも。
「麗様…なんて美しいお方なんだ…っ!」
「深窓の令嬢のようでありながら、ご自分の意志を堂々と示されるご勇姿も…っ!」
学生たちはみな、麗の噂を知っているようであった。
麗は、皆と笑顔で挨拶をかわす。
「おはようございます♪」
「う、麗様っ、おはお早うございますっ!」
「お早う御座いますっ、麗様ぁっ?」
麗が挨拶をするだけで、生徒たちは幸せな笑顔になった。
そんな学生ちの中で、一人、戸惑う少女がいる。
「ふう…」
ショートカットが良く似合う少女は、背後から麗を見つめ、小さな溜息を吐いた。
「…みんなが噂をしている あの女の子…。たしかに後ろ姿だけでも、モノ凄く神々しく見える…」
綺麗にカールされた豊かなツインテールが揺れると、少し距離のある少女の鼻腔にまで薔薇の香りが感じられる気がする。
「…みんなが噂するほどの美人さんだったら…きっと毎日が楽しいんだろうなぁ…」
少しどころか、とても羨ましがる少女だ。
「私なんて、身長も体重も平均だし…なのに胸と成績は平均以下だし…転校して来たばかりだから、このあたりに友達もいないし…」
自分と比べて、落ち込んでしまう。
「……そんなに美人なのかな…」
少なくとも、これまでの自分の周囲には、そこまでもてはやされる美人はいなかった。
興味を持った少女は、ヒッソりと、背後から近づいてみる。
(通り過ぎながら…ちょっとご尊顔を…)
拝見しようとしたら、麗のポケットから、白いハンカチがこぼれ落ちた。
「あ…」
麗は気付いておらず、少女は思わずハンカチを拾って、声を掛けた。
「あ、あの…」
「はい?」
優しい声で振り向いた麗の笑顔に、周囲の生徒達だけでなく、ショートカットの少女も息を飲んだ。
(…………き……綺麗……っ!)
え、天使が実在してるの?
視線も意識も奪われた少女は、ハンカチを差し出したまま、硬直してしまう。
言葉を話さない少女に対して、麗は急かすことなく、笑顔で問う。
「なにか ご用かしら?」
「ハっ――っ!」
輝く笑顔に心が吸い寄せられながらも、問いかけに対して失礼があってはいけないと、意識が戻る。
「ぁぁあ、ぁあのっ…こここれっ…ぉぉぉ落としっ、ました…っ!」
掌も言葉も震えてしまい、視線も落ちてしまう。
まるで慈愛の天使が自分の穢れまで知りながら許してくれているようで、勝手に畏まってしまった。
「あら まあ」
麗は少し驚きながらも、笑顔でハンカチを受け取る。
「ありがとうございます♪ ええと…」
「はっはいっ――ったったっ――平均実(たいら ひとみ)ってっ、言いますっ! 平均の実と書いてっ、たいらひとみですっ! きょ、今日転校してきたばかりでしてっ、そのっ――」
パニックになって、噛みながら、勝手に自己紹介までしてしまった。
均実の困惑っぷりに、麗は優しく微笑んで。
「私こそ、自己紹介が送れてしまい、失礼いたしました」
と、美しい礼を返してくれた。
「…ぉ…おおぉ…っ!」
天使の礼に、普通人の均実の膝が、恐れ多くて震える。
「ハンカチを拾って戴き、ありがとう御座います。平均実さん」
声も言葉も美しくて、均実は意味不明に泣きそうになる。
「私は…」
名前が麗だという事は、聞こえた学生たちの噂話で、知っている。
どんな名字なのかな。
伊集院?
白鳥?
(いや…もっともっと、私の想像なんか及びも付かないくらいっ、崇高なご名字に違いない…っ!)
気絶しないように心構える均実。
麗の口から告げられた名字は。
「私は、毒島麗(ぶすじま うらら)と、申します」
「…………え……?」
全国の毒島さんには申し訳ないと思いながら、均実は耳を疑った。
(……ぶすじま…?)
耳は平均並に良かった筈だ。
美しく愛らしい麗の輝く笑顔に、教えて貰った名字が合致せず、脳がパニックを起こしている。
目が落ち着かない均実に、麗は笑顔で言葉を続ける。
「転入生でいらしたのですか。タイを拝見するに、わたくしと同じ、一年生ですのね。登校をご一緒させて戴いて、宜しいかしら?」
「…え…えっ――は、はひいぃっ!」
一緒に登校というお誘いに頭が追いつかず、しかし無意識にも失礼の無いようにと、身体が勝手に了承をした。
「それでは、参りましょう。職員室へ、ご案内いたしますわ♪」
周囲の学生たちは、均実を羨ましく想いながらも、初対面の転入生にも優しい麗を、尊敬の眼差しで見ていた。
これが、平均実と毒島麗の出会いであった。
~プロローグ 終わり~
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