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☆第四十五話 散歩道と蒸気機関車☆
しおりを挟む「素敵な公園で御座います~♪」
街の公園へ入ると、思っていた以上に景色が変わって、有栖は喜びの驚き愛顔を輝かせていた。
中央公園の周囲は、商業ビルや小学校などが立ち並んでいて、公園の入り口もさほど広いとは言えない。
しかし園内へ入ると、植えられた桜や楠など多様な木々が公園を囲んでいて、周囲のビルはあまり気にならない設計だ。
街の中央としては広い敷地に、ブランコや砂場やジャングルジムなど、子供たちが身体を動かして遊ぶ遊具広場がある。
入り口の反対側では、歩道と橋でそれぞれ別ルートでの散策道があり、歩道は陽当たりが良い緩やかな坂道で、橋は林道へと続いていた。
遊具広場の、ブランコやジャングルジムや大きな滑り台では、子供たちが全力で遊び、軽やかな全身で躍動をしている。
砂場では、幼児たちが山を作ってトンネル開通をさせたり、水を流して川を作ったりしていた。
砂場の廻りにはベンチも設置されていて、幼児の親たちが歓談をしている。
「どっちの歩道も もう少し広い広場に続いているけど…」
どちらのルートを歩こうかと章太郎が迷ったら、美鶴が決めた。
「はいは~いっ♪ 林の道~、歩きたい~♪」
「そう? じゃあ、今日はそっちで」
「申しつかりました~♪」
「あぁ、そういえば…私たちも、この公園の林道は 歩いた事がありませんですね」
ユキが、なんとなく思い出した様子。
人語が解るからか、お供たちも楽しそうに尻尾を振って、催促をしている。
「あはは、じゃ、行こうか」
「「「「はい」」~い♪」」
五人は、ジャングルジムの脇から続く林道へと向かった。
広場から林道への橋は短く、橋より一メートルほど下は沢になっていて、岩や石で囲まれた川が、サラサラと爽やかな水音を立てている。
「あぁ…水の流れる音は、良いものだなぁ」
沢では、何組かの親子連れが水遊びをしていた。
幼稚園児らしい子供たちが、親に護られながら水の中へ掌を入れたりして、水野冷たさを楽しんでいる。
「ね~♪ この沢~、ザリガニとかサワガニとか~ いるかな~?」
ブーケの感想に賛同する美鶴は、橋から沢を覗き込んで、美味しそうに舌なめずりをしたり。
「い、いると思うけど…なんであれ、採取は禁止されてたと思うよ」
「そ~なんだ~」
本当に残念そうだ。
三メートル程の橋を渡ると、土のままな道が右へと曲がって、そのまま林の中へと続いている。
幅が二メートル弱な林道は、木々の間から太陽の光が差し込んでいて、意外と明るい印象だ。
「この林道は、一本道だ」
ヌイグルミのようなお供たちは、章太郎たちの歩幅に合わせると、少し走るような速度になってしまう。
なので五人は、お供たちの歩く速度に合わせて、ゆっくりと散策を楽しんでいた。
曲がった散歩道を歩いてゆくと、途中で散歩をする老夫婦とすれ違ったりして、挨拶を交わす。
子供たちの楽しそうな声が遠くから聞こえるものの、林そのものは静かだ。
樹間から窺える頭上は青空で、風も緩やか。
林特有な木の香りと、土の湿った香りが混ざり、なんだか気持ちがノンビリと安らぐ気がする。
特にブーケは、物語世界に於いて森の近くに住んでいたし、お婆ちゃんが森の一軒家に住んでいたからか、なんだか思い出を擽られているような、ちょっと寂しげな表情にも見えた。
「…あ、あのさ…」
「ん? なんだショータロー」
寂しげにも見えるブーケへ、何かを話しかけて慰めたいと思っている少年だけど、いざ話しかけると、何を話して良いのか解らない。
「こ、こういう景色って、その…やっぱり、懐かしい…?」
(ってっ、何を聞いてるんだ俺はっ!)
ブーケがホームシックにならないように、と思って話しかけたつもりだったのに、むしろ童話の世界を思わせてしまうような発言をしてしまった。
(ど、どうしようっ!)
もし、ブーケに寂しい想いをさせてしまったら。
アワアワして頭の中が焦る章太郎の心情を、ブーケは察してくれているようだった。
「あはは、ショータロー、そんなに気遣いをくれなくても、ボクは大丈夫だぞ」
「え…」
少女の笑顔に、無理をしている感じはない。
「まあ、確かに懐かしい景色ではあるが…今のボクは、この世界での、みんなとの生活が楽しい♪」
「そ、そう…」
ブーケの笑顔に陽光が差して、キラキラと輝いて見えた。
「それに、ここは森とは全く違って、風が良い香りじゃないか」
「え?」
ブーケの輝く笑顔が、思い出したように曇る。
「森はな、虫や動物たち、虫を引き寄せる花や熟して落ちた果実の腐敗など、色々な香りで臭いのだ。特に動物の新しい糞や尿など、ナワバリを主張する為のマーキングでもあるからな。ウッカリ近くを通ろうものなら、突然の襲撃の如く、強烈な匂いで包まれてしまったりするのだ!」
まるで、森の不満を吐き出すかのようなブーケ。
「そ、そうなんだ…」
童話の幻想が音を立てて崩れる、現実主義者の少年だった。
静かな林道を抜けると階段があり、降りると遊具の無い広場へと出る。
固い地面の上に小さな砂利が敷き詰められたこの広場は、ベンチや屋根が設置されていて、ちょっとした憩いのスペースだ。
駆け回る子供たちよりも、ベンチで腰掛けて歓談をしているお年寄りたちの方が多い場所である。
「とても、ノンビリとした空間なのですね♪」
「そうだな。よくお年寄りが集まってる場所だって、俺も聞いたことはあるよ」
広くてベンチがあるだけでなく、植え込みの植物は背が低い種類が殆どで、しかし適度な距離でサクラなどが植えられていて、青空とよく合う眺めだ。
そして、広場と一体とも言える、大きな池。
柵で囲まれてはいて、子供でも立ち入り禁止だけど、池そのものは浅く、沢からの水が流れ込んでいて底が見えるほと澄み、小さな魚たちが泳いでいる。
「素敵な場所ですねぇ♪」
「ね~♪ 着地しがいが ありそうだよ~♪」
ユキは、ノンビリと過ごすお年寄りたちを見て、美鶴は池で泳ぐ小魚を見て、それぞれの感想を述べていた。
憩いの広場から、遊歩道とは別の坂や階段で行き来が出来る、少し高い場所が見える。
「あっち、行こう」
「「「「は~い♪」」」」
階段を上った先は、憩いの広場よりも広い場所で、古い蒸気機関車が一両だけ展示されている事から、子供たちは「機関車広場」とか呼んでいる広場だ。
機関車と隣接して、小さなイベント用の屋根付き舞台があり、季節の催し物のメイン会場にもなる広場である。
この広場から続く短い遊歩道が、この公園の出入り口でもあり、章太郎たちが入って来た踏み切り側とは反対の位置であった。
「わあぁ…機関車です~♪」
「…ん? 有栖、機関車 好きなの?」
女子で汽車好きは珍しいと、章太郎は感じる。
「あ、はい。好きといいますか、有栖にとっては、初めて実物を見ましたけれど、なんとも言えず 親近感と言いますか♪」
「親近感…? あぁ…」
考えてみて、解った。
御伽噺の出身ではない有栖は、メイドロイド出身のメカ生体である。
少女にとって機関車は、人間にとっての旧世界の哺乳生物のような、ある種のご先祖様的な存在なのだろう。
「…説明文だと、機関車としては本物らしいけど、中の駆動系とかは 取り除かれてるみたいだなー」
「なるほどですね♪ それでも 金属の塊ですし、威風堂々とした黒光りは、とてもウットリとしてしまいます♪」
とか、ちょっとキケンな感じの感想を述べる有栖と章太郎が機関車を素で理解している一方で、ブーケとユキと美鶴は。
「きかんしゃ…?」
「これは、なにか牛車のような乗り物 なのでしょうか…?」
「真っ黒だけど~、夜に紛れて 何かするの~?」
「ん? あぁ…機関車ってのは…あ、有栖、説明できるよね?」
章太郎の知っている半端な知識よりも、ここは直径の子孫とも言える有栖へと、解説の場を譲るベキだろう。
譲られたメカ生体少女は、家事炊事のような得意げで自信満々な笑顔で、解説をする。
「はい、主様♪ コホん…それでは、ご説明を致します♪ そもそも蒸気機関車とは――」
メイド少女の機関車解説に、章太郎だけでなく、お年寄りや子供たちも、興味を抱いたらしい。
(…なんか、いつの間にか人が集まってる)
「~という経緯を経て、現在のリニアモーターカーへと繋がる、蒸気機関車の歴史で御座いました。ご静聴、有り難う御座いました」
「「「ぉおお~っ!」」」
章太郎たちだけでなく、お年寄りや子供たちからも、拍手が起こっていた。
「あ、あら…♪」
多くの拍手を貰ったのは、初めてなのだろう。
有栖は頬を真っ赤にさせて、モジモジと縮こまっていた。
~第四十五話 終わり~
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