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☆第五十話 急にサバイバル☆
しおりを挟む☆☆☆第五十話 急にサバイバル☆☆☆
「えぇと…俺にも荷物を…」
日曜日のお昼過ぎ。
章太郎たちは来週からの連休へ向けて、多少の買い出しに出ていた。
「いいえ、主様♪ 買い物の荷物は、有栖たちにお任せ下さい♪」
「そうですよ 章太郎様♪」
和風で古風な慎ましい価値観のユキと、根っからのメイド少女である有栖は、こういう時には特に気が合う。
「そうだよ~♪ 今日は特に、重たい荷物とか ないし~♪」
「ああ。ショータローは主なのだから、ドッシリと構えていてくれたほうが、ボクたちも安心できるというものだ」
「そ、そうですか…」
主たる者、と説かれても、章太郎は極普通の男子高校生だ。
女子たちに荷物を持たせて自分は手ぶらとか、周囲の目も気になってしまうし、身の置き場が無い感じ。
「うぅ…」
とはいえ、女子たちもみな買い物袋を片手で下げられる程度の荷物というか。
普段から色々と、有栖が中心となって買い置きはしてあるらしいので、買い足しの量もあまり多くはないのである。
「…荷物、むしろ全部 俺が持った方が落ち着く感じが…」
一通りの買い出しが終わって、商店街からマンションへの帰路に着いている途中で、有栖にちょっとした異変が起こった。
「…ふぅ…」
「…?」
メカ生体のメイド少女が、軽い溜息を吐く。
そんな様子を初めて見て、章太郎も気になった。
「有栖、なんか疲れてる? やっぱり荷物、俺が持とうか?」
「ハっ、い、いえ…。ご心配をお掛けしてしまい、申し訳ありませんでした…!」
綺麗な礼で、主への失態を詫びるメイド少女は、いつもの感じに見えた。
(…どうしよう…)
男子としては、やはり荷物を持ってあげたい。
しかしメイド少女としては、主に余計な心配をさけさせてしまった、と落ちこんでしまうかも知れない。
「うむむ…」
章太郎はしばし考えて、荷物を持つ方法を考えた。
「あ、ああ~、やっぱり手持ちぶたさだなぁ~。やっぱ男って、何か女子より体力無い的な感じになるの、耐えられないなぁ~」
と言いながら、有栖たちの手元をチラチラ見たり。
(よし! 自然に荷物持ちへ 話を振れたぞ!)
「お、俺が荷物、持った方が 俺が安心できるなぁ~」
作戦成功を確信して、四人へ手を伸ばしたら、有栖が間近でジィって見つめてきた。
「え…な、なにか…?」
思わず視線を逸らした主へ、メイド少女が静かに告げる。
「主様よりの温かいお心遣い…有栖にとって身に余る光栄であり、この上なき喜びに御座います。そして、主様へそのようなお気遣いをさせてしまった有栖自身を、大変申し訳無く存じ、深く反省をいたします…」
有栖は深々と、謝罪の礼を捧げていた。
「え…」
章太郎の作戦は失敗。
「ぃや、あの…そういう意味では…」
そうなると途端に、さっきの小芝居が恥ずかしく思えてくる。
顔が真っ赤な章太郎へと、ブーケが助け船を出した。
「有栖、ショータローは今、モーレツにその荷物が持ちたくて持ちたくて 仕方が無いのだ。優秀なメイドであれば、どうすれば良いのか 解るだろう?」
ブーケの言葉に、有栖は納得をしたらしい。
「ハっ――あ、有栖が 浅はかで御座いました…っ! 主様っ、それでは…っ!」
顔も耳も真っ赤に上気させながら、有栖は両掌で恭しく、買い物袋を差し上げる。
「う、うん…」
章太郎の心配を、三人も解っているからだろう。
目配せで礼をすると、御伽噺の三人は、輝く様な笑顔を返してくれた。
「そ、それじゃあ…」
章太郎が、まずは三人の買い物袋を手に取って。
「え…」
「あたしたちのも~?」
戸惑う三人だけど、章太郎の本心は、深い安堵感へと落ち着いてゆく。
(あぁ…やっぱり この方が自然だなぁ…)
三人の手が空いて、有栖の買い物袋も受け取る。
「じゃ、持たせて」
「畏まりました。それでは、主様」
跪いたメイド少女の掌から、章太郎の手へと、買い物袋が渡される瞬間。
有栖の指が、章太郎の掌へと触れて。
「っハっ!」
「――っ!」
瞬間で眩い光が発し、章太郎と有栖は光に包まれ、光が消えると。
「…っ、ショータローっ! 有栖っ!」
「おっ、お二人の姿が…っ!」
「えぇっ、ドコ行っちゃったの~っ!?」
アスファルトへ買い物袋だけが残されて、二人の姿が消失していた。
「………え…?」
よくわからない光に包まれた二人は、目を開けると、知らない場所にいた。
章太郎たちの間から発生したナゾの発光現象から有栖を護る為に、無意識に庇って抱き占めていたので、目を開けたら有栖の愛顔がすぐ隣だったり。
「あ、主様…ぁの…」
「有栖、大丈夫――あわわっ、ごゴメンっ!」
「い、いいぇ…有栖こそ、ご心配をお掛けしました…」
顔も耳も真っ赤なメイド少女は、慌てながらも美しい礼を、主へと捧げていた。
「えっと…なんか光ったけど、有栖は大丈夫か? そういえば、さっき 疲れてたっぽかったけど…」
「はい。先ほどは、何と申しましょうか…遠くの空間がとても近くにあるような…そのような反応を感じました」
「…? 遠くの空間が、近く…?」
なんだかよく解らない章太郎へ、有栖が心配の愛顔で見上げてくる。
「主様は、お身体に変調などは…?」
「え、ああ。俺も、大丈夫だけど…さっきの光って、つまり有栖が感じたナゾ現象に関係しているって事…? そうか」
メカ生体のメカの部分の不具合から来る発火とか、そういう重大な事態でなくて、ホっとした章太郎だ。
「…っていうか、ここは…?」
お互いの無事を確認して、周囲を見回すと、何処かの丘の上っぽい眺め。
膝まである草が茂っていて、太陽の位置から推測をした東側には、大きな木々の深そうな森や、遠くには山々も見える。
南側には海が見えて、西側は盆地だけど、視界の範囲には人家も見当たらなかった。
広い範囲には自然だけで、人の営みの様子は見えない。
「知らない場所だな…修学旅行とか林間学校とかでも、こんな場所は来た記憶がないぞ」
「…主様、有栖の通信機能にも、全く反応がありません」
章太郎に言われなくても、有栖は主を護る為、状況把握に努めていた。
「ん~…爺ちゃんのマッドな研究から考えても、有栖の通信機器は 地球のどこにいても難なく通信できると思うけど…」
「はい。その性能が発揮出来ない、となりますと…ここは一体…?」
大自然の中、海は穏やかで空は晴れていて、風も気持ちが良い。
景色も環境も悪くなく、むしろ穏やかな気持ちになれるだろう。
「こういうナゾ現象でなければ、だけどなぁ」
章太郎が考え事を始める直前に、有栖がキリっとした美顔で、掌を掲げた。
「主様、有栖の考えをお伝えさせて戴いても 宜しいでしょうか?」
メイドが主に発言の許可を求める際の礼儀と聞いているけれど、章太郎的には、発言権を奪う気など全く無い。
普段の、こういうヤリトリをしない感じは、章太郎の空気を有栖が読んでくれているからだけど、今は緊急事態なので、有栖としてはちゃんと手順を踏みたかったのだろう。
「うん? あ、なに?」
メイドにとっての発言許可はハッキリと「主が許す」とか「主が聞きたい」なので、章太郎は問い直した。
「有栖は、まずは森の散策に出たいと愚考いたします。主様にとって最も大切な、水や食糧や避難場所を、確保させて戴きたく存じます」
「…なるほど」
状況把握という意味でも、とにかく動くしかない
「そうだな。とにかく、ココがドコなのかのヒントでも、まずは手に入れないとな」
「はい♪」
有栖が自ら先頭となって、二人は東方向の森へと向かった。
(…そういえば、有栖って…)
現在はメカ生体だけど、元々がメイドロイドとして製作をされた試作量産機だ。
(ブーケたちみたいな戦闘能力は、無いよな)
章太郎的には、この世界の具体的な特定はできなくても、思い当たる節はある。
(蜃鬼楼が 御伽噺の世界からやって来てるワケだし…ここも、そういう世界の――)
「…ん? 有栖、ちょっと待って」
「はい、主様」
森へ入る辺りで、柑橘系の香りを感じた章太郎は、周囲を見回す。
「…あ、あれ」
章太郎が指差した木には、拳よりも少し大きくてコブのある、黄色い実が成っていた。
「あれって、デコポン?」
章太郎もあまり自信が無いので、料理のプロフェッショナルである有栖に聞いてみる。
「はい。いわゆる一般流通している柑橘類の、デコポンに御座います」
「そうか。やっぱり ここは御伽噺の…日本の昔話とかの世界…」
日本原産というか、章太郎たちの時代でも、日本と、海外の一部地域でしか育成されていない植物が、ヒントになった。
~第五十話 終わり~
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