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☆第七十五話 既に真面目なピノッキオ☆
しおりを挟む名乗ったピノッキオは、笑顔も優しくて引き締まった、中性的な美しい木製人形。
「ピノッキオ…やっぱり…っ!」
人形だから美しくても当たり前だと言えるけれど、章太郎的には、中性的な美しさである事が、一番の驚きであった。
しかも口調は、かなり雑な男子っぽい。
「あ、いけねぇ忘れてた。あんたらの名前、聞いてないや」
「え…あ、し、失礼しました。俺は、御伽噺章太郎。で、ブーケ、雪、美鶴、有栖…あとは、お供…って、解るかな」
紹介をされた少女たちも会釈やお辞儀や手を振ったり、お供たちも綺麗な礼や尻尾を振ったりして、挨拶をした。
少女たちへ、笑顔で手を振って挨拶を返しながら、章太郎へ問う。
「ヨロシクな♪ で、親父に用だっけ?」
「親父…? あ、うん」
ピノッキオは、創造主ともいえるツェッペットを、親父と呼んでいるらしい。
中性的な木製人形が、声を掛ける為に家の奥へと振り向くと、剥き出しの関節部からはキシキシと、木の軋む音が聞こえる。
「親父ー、お客さんだぜー!」
『んー?』
ピノッキオの声に対し、初老男性の、実に面倒くさそうな返答が聞こえた。
『ドコのどいつじゃー?』
「御伽噺章太郎って少年と女の子たちだよー! っていうか、とっとと出てこいよー!」
「「「「「………」」」」」
なんだか、仲良し親子という雰囲気でもない。
「ったく怠け者め! 悪りぃな、汚いトコロだけど、ちょっくら入ってくれ」
呆れ顔も優しいピノッキオは、左の親指で家の中を指し示しながら、章太郎たちを家へ招いた。
「え、あ、オジャマします…」
五人とお供たちが家の中へ入ると、六畳一間のような空間しかない。
家の床は所々で木材が腐っ穴が空いていたり、土壁はヒビだらけだったり、天井は屋根の板が剥がれている箇所もあった。
窓のガラスも、割れて修復されたままなのは良い方で、ガラスが無くなっている窓枠もあったりする。
煉瓦で組まれた小さい窯一つで、料理などをするようで、小さな棚と水瓶と壊れたベッド、ガタが来ているテーブルと椅子が一脚のみという、実にシンプルな内装だった。
章太郎の知識としての原典童話のイメージ、そのままな感じ。
「おぉ…リアルに、ツェッペット・ハウスだ…」
「ん? なんか言ったか? あ、そうそう、コイツが親父だ」
ピノッキオが掌で指したベッドの上には、ボロ布な掛け布団にくるまった、痩せた初老の男性が、実に面倒くさそうな目で章太郎たちをジっと見つめていた。
「うわっ…あ、は、初めまして…御伽噺――」
「んんんんん? お前さんたち、初めて見るな。ワシに何の用じゃ?」
客人だと認識しているのに、起き上がる事もしないツェッペット。
一方、ピノッキオはガサツだけど常識があるようで、章太郎たちを迎えるにあたり、棚から出来るだけ汚れの目立たないなカップを五つ選んで、キッチンスペースの水瓶から水を注いでいた。
その光景に気付いた有栖が、章太郎へと許可を求める。
「あっ、主様…っ!」
このままでは、綺麗とは言えないカップで、清潔かどうか疑わざるを得ない水が、主へと提供されるであろうからだ。
「ん…おぉっ! あ、有栖、雪、お茶の手伝いを…っ!」
「は、はい」
「申し付かりまして御座います」
二人は、ピノッキオへと声をかける。
「ピノッキオさん、私たちも、お手伝をいいたします」
「ん、そうか? お客なのに、悪りぃな」
明るく笑うピノッキオは、有栖がメイドドレスから変形させて用意するカップや、雪が神通力によって造り出す清水に、楽しそうな興味津々の笑顔を見せた。
ベッドで寝転がったままのツェッペットは、指先から水を発生させている雪の神通力よりも、有栖のメイドドレスの構造に、強く興味を惹かれたらしい。
「っんんんっ! なんじゃっ、あのおなごはっ? 衣服の中にっ、カップが隠されているのかっ?」
両眼を見開いて有栖をジっと注視しながら、しかしベッドから起きる様子は全くない。
「おい兄ちゃんっ! あのおなごの衣服はっ、お前さんが作ったのかっ?」
「え、ああ、いや…。あれは、有栖の基本機能っていうか――」
「っほぉほおおおぉぉぉぉおおおおおおおお…っ!」
章太郎の説明を遮って、なにか納得をしているツェッペットである。
とにかく、少年はツェッペットを尋ねた目的を話す。
「そ、それで ですね。ツェッペットさんは、あのピノッキオを、チエリージャさんから譲り受けた『生きている松の木』から、製作されたんですよね?」
「んん? そうじゃが、なんじゃチエリージャのヤツ、もしかして、今さら松の木を返せとか、言い出したのか?」
「いえ、そういうワケではなくて」
チエリージャは、今でも生きて動いた松の木を恐れていて、その松の木から作られたピノッキオに恋しているという、複雑中年だ。
「あなたとピノッキオの元に、なんて言うか…女神様とか青い妖精とか、現れませんでしたか?」
「おーいピノッキオ、ワシにも水ー」
「飲みたきゃ自分で飲め。この面倒くさがりのゴロ寝親父!」
「………」
やはり、親子仲は良好ではないらしい。
「あのー…」
「ん? ああ、女神様だっけ? ワシは会った事ないぞ。おーいピノッキオ、お前は女神とやらに、会った事あるかー?」
「女神だぁ? あっはっは! こんなダメ親父から作られたオレに会いに来る程 女神様もヒマなもんかい」
明るく笑うピノッキオに、章太郎は、フと感じる。
(…なんか、妙に常識的っていうか…)
取り敢えず、童話としては、まだ女神様が出現する前のシーンという可能性ある。
「えっと、それじゃあ、ピノッキオ。最近、コオロギとかの友達とか、出来なかった?」
バリエーションよって稀だけど、女神よりも先に、女神のお使いとしてコオロギが登場するパターンもある。
名前は、ジミニー・クリケットが一般的だ。
章太郎的には真面目な質問だけど、ピノッキオには、冗談だと思われたらしい。
「はぁ? お友達のコオロギだぁ? あっははははは! あんた、真面目な顔して 変なこと言うんだな。コオロギのお友達どころか、ウチには 便所コオロギくらいしか出ねぇって!」
「そ、そうなんだ…」
「皆様、お茶の御用意が 整いました♪」
ピノッキオと有栖と雪が用意をしてくれた紅茶は、美しくて透き通った琥珀色で揺れながら、美味しそうな湯気と香りをたてていた。
豊かな香りに釣られて、ツェッペットがベッドから出ずに、身を起こしてテーブルへとにじり寄る。
「ほほぉ、紅茶など 随分と久しぶりじゃわい。ほれピノッキオ、お前さんも たまにはこういった気の利いた物を、貰って来んかい」
「けっ、オレが街の人たちから貰ってくる食い物に文句があるなら、父親らしく手前ぇが働けってんだ!」
章太郎は、二人の会話に疑問を感じた。
「街の人たち…? そういえば、チエリージャさんが、ピノッキオを随分と気にしていたけれど…」
「なんだ、あんたたち チエリージャのオッサンの知り合いだったのか」
みんなで集まるも、椅子が一脚しかないうえテーブルも小さいので、ベッドでゴロゴロしているツェッペット以外は、みな立ち飲みである。
「あのオッサン、オレが街へ行くといつも 色目使って来やがるんだよなー。オレの元になった松の木が怖いクセによー」
「ピノッキオが街へ行ってるって、学校?」
原作の童話では、ピノッキオが学校へ通う為に、街へ行く。
(…でもそれは、。女神様と話をした後だけど…)
章太郎の頭でも、原典と現状が色々と食い違っていて、とにかく情報が欲しい。
「学校ってあれだろ。みんなが勉強とか するトコロだろ? オレは行ってないぜ。そもそも親父が、学校とか大嫌いだからな」
「それじゃあ、街へはなんで?」
単に、遊びに行っているのだろうか。
「街の人たちの仕事を 手伝ってんのさ。パン屋とか八百屋とかの呼び込みとか、花屋さんの配達とかさ。その日その日で 色んな店の手伝いをして、代わりにホレ、パンとか食べ物 貰ってるんだ」
ちょっと得意げに言いながら、窯の一角に置かれている木箱を親指で示した。
よく見ると、木箱から、堅いパン堅いハムなどが覗けている。
つまり。
「ピノッキオ…働いて、食べ物を得てるって事…?」
「まあなー。オレは木だから、陽を浴びたり水飲むだけで十分なんだけどよー。親父がホレ 怠け者だけど人間だからさ。まあ、親父の食い扶持ってヤツだよな」
「そ、そうなんだ…」
章太郎は、更に混乱の度合いが深まってしまった。
(…このピノッキオは、口調は乱暴だけど 真面目で優しい…)
それは、女神と出会った怠け者のピノッキオが、様々な冒険を経て世間の悪意や善意と出会い、教訓を身に着けて人間になった、後の事だ。
(それなのに…まだ木の人形の段階で、もう人格者みたいになってる…っ!)
章太郎の焦燥を、有栖が素早く察知する。
「主様…?」
「…この童話世界は、何かが破綻している…」
「破綻…?」
ブーケたちも、章太郎の感じた違和感に注意を向けていると、ボロボロな扉が軋み音を立てて、開かれた。
「ただいまぁ~。あれぇ? お客さん~? わあぁ~、珍しいなぁ~♪」
~第七十五話 終わり~
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