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☆第八十四話 もう一人☆
しおりを挟むマッドサイエンティストな祖父は孫へ向かって、魚とキスをしなさいと言っている。
一見、常識を疑われても仕方の無い言葉のように聞こえるが、章太郎たちにも、その意図はわかっている。
「スイミーにも聖力を分ける…って事なのは解るけど…」
有栖やピノッキオは、聖力を注がれたら、ほぼほぼ人間になったし、もしかしたらスイミーも。
とか考えると、この部屋に女子が増えるという話でもあり、年頃な少年としても、ちょっと戸惑う。
真希が章太郎の逡巡を読み取ったのは、少年の頬が上気しているからだ。
『ですが、章太郎くん。スイミーが御伽噺世界の出身である事は事実ですし。やはり、章太郎くんの聖力を与えなければ…♪』
真面目な顔と口調で、少年と魚のキスにワクワクしている真希である。
「ま、まあ…そうだけど…」
「主様、どうぞ」
有栖がカップへ移した黒い小魚を、恭しく捧げる。
「あ、うん…」
受け取って、中を見ると、小魚は少年をジって見ている様子だ。
「…そっか。スイミー、雪と 普通に会話したんだよな」
「はい♪」
つまり、童話世界出身の、この小魚は、人間の言葉が理解出来て、水中でなら話せる。
という事だ。
『ほほぉ、そいつは面白いのお♪ そんな可能性があるなら、そっちのモニターに 振動送受信装置でもセットしておくベキだったわい♪』
微弱でも振動を感知して、音声データへ変換をして、送受信での会話が出来る。
という装置らしい。
「章太郎様、スイミーちゃんが、空腹を訴えているようです」
「え?」
雪には、スイミーの水振動からの言葉が、理解出来るらしい。
『そうなのか? 雪よ、スイミーは 何と言っとるのかいの?』
章之助の質問に、雪が軽く意識を集中させて、答える。
「はい…『お腹が空いたよぅ。早くご飯が食べたいよぉ…』と、言っております」
翻訳が出来るのは、同じ水属性だからか。
「…ホント?」
章太郎がなんとなく懐疑的であっても、童話世界のスイミーにも聖力補充は絶対必要だから、章太郎も魚とキスをする決心。
「ええと…どうすれば良いんだ?」
口を近づけると、なんだか食べに来た、みたいに勘違いをされてしまいそうでもある。
雪へ尋ねると、笑顔で教えてくれた。
「はい。お味噌汁を戴くように、カップの縁へと、脣を近づけて下されば、スイミーちゃんが接吻をする…。と言っております♪」
「そうなんだ…」
この小魚は、人間の言葉だけでなく、自分の存在についても、意外と理解をしているっぽい。
「それじゃあ…」
まさしく、お味噌汁を飲むように、カップの縁へと脣を近づけて、カップを傾けると。
――つん。
上唇の真ん中あたりに、小さくキスをされた。
(…なんか、小さなスポイトで 弱く吸い付かれてるみたいだ…)
小魚に脣を吸われているけれど、傷みは全くなく、いつも通りな聖力補充の温かい優しさが、脣から溢れる。
「………」
小さな身体の割りに補充が長いのは、ピノッキオと同じく、身体が作り替えられているからなのか。
「……ん」
脣からスポイト・キスが離れると、カップの中のスイミーが眩しく優しく、虹色に輝きだした。
「ぉお…っ!」
小さな輝きが大きくなってカップから溢れ、そのまま章太郎の腕の中で抱えられる程になって、急に体重を感じる。
腕の中の重さが、魚だった生命体だと理解をしているから、少年は床へ落としたりしないように抱きすくめながらバランスを取って、床に尻餅をついた。
「ショータローっ!」
「おい大丈夫か?」
「主様っ!」
少女たちに心配をされながら、胸の中の体重を守っていると、光が収まって。
「…っうわわっ!? ススっ、スイミーっ?」
章太郎の腕の中には、濡れた黒髪の幼女が、裸で抱き付いていた。
「まぁ、スイミーちゃん♪」
章太郎から聖力を得た黒い小魚は、豊かな黒髪がお尻まで隠す程の、フワフワ黒髪を艶めかせている。
人間でいえば十代にも届いていないであろう童顔には、大きな赤い瞳がクリクリと好奇心も旺盛な感じで、輝いていた。
小さな鼻筋や小さな脣に、幼さしかない丸い顔と、何と言っても健康的に日焼けをしたような、色の濃い肌。
首も肩も手足も細く、小さな指で章太郎のシャツを、キュっと握っていた。
誰がどう見ても小魚ではなく、小学生高学年ギリギリな幼女。
『ほほぉ、物理的に人間化した感じじゃのぉ♪』
『博士っ、映像記録はバッチリと♪』
「あぁ~、ウッカリでも飲み込まなくて良かった~」
と、博士たちは変異現象に喚起して、美鶴は心底からホっとした。
黒髪幼女は暫しキョロキョロとして、周囲の環境というか自分の変化に理解が出来たらしく、胸で受け止めている少年へと、無垢な笑顔を魅せた。
「うわ~、お兄さまお姉さまたちと、同じになっちゃった~♪」
自分が人間型になったという事実を、スイミーは嬉しそうに認識しているっぽい。
尻餅少年の腰の上で跨がる裸の日焼け黒髪幼女は、自分の両掌や脚や身体を見て、大きなルビーの如くに輝く瞳を、キラキラさせていた。
「えぇと…スイミー、だよね…?」
「うん♪ お兄さまとキスしたら、お姉さまたちみたいな身体になった♪ えへへ♪」
笑顔で言いながら、無邪気に抱き付いてくる。
「うわわ…っ!」
章太郎が焦っているのはモチロン、相手が幼女だからではない。
意思の疎通が出来る裸の女子が抱き付いてきたら、大抵の男子は困惑するという、ごく普通の反応だ。
「ぁ、ぁあと…あ、有栖…っ!」
「申し付かりまして御座います。主様」
困惑する章太郎の胸ヘ頭を埋めるスイミーの脇に両手を添えて、有栖が、ヒョイと持ち上げる。
「わ、あはははは~♪ 有栖お姉さま、くすぐったいよ~♪」
裸のままパタパタと暴れるスイミーは、童話の設定を考えると、むしろ人間としては年相応な純真無垢さを見せている。
『スイミーよ、ちょっと 検査させて貰えんかいの?』
「あ~、お兄さまのお爺ちゃま~♪ わ~い♪」
水槽の中で、リビングでの会話を聞いていたスイミーは、モニターに映る老人と女性が誰なのか、直ぐに理解が出来たらしい。
『なるほど。スイミーは流石、童話と同じく知性が高いと想われますね』
『うむ。外見や性格は幼いが、柔軟な頭の持ち主らしいのぉ』
有栖がスイミーをモニターの前へ立たせると、スキャンが開始される。
「わ、綺麗~♪」
極細い緑色の光が、幼女の身体を下から上、右から左、前から後ろへと、ゆっくりなぞって走査する。
落ち着いて見ると、お腹のあたりが少しポッコリとしていて、まさしく小学生の低学年くらいな身体的特徴だった。
『よしよし。スイミー、ご苦労さんじゃったな』
データを取っている間に、有栖がスイミーに、衣服を用意していたようだ。
「では、スイミーさん。こちらをお召しになって下さい」
「は~い♪ あ~、これ、服っていうんでしょ~♪」
「はい。ですが、スイミーさんには大きいので、ちゃんとしたお洋服を、本日中に購入をいたしましょう」
有栖が用意できたのは、真希さんが有栖へ用意した私服の中から、半袖のシャツとショートパンツだ。
スイミーへ着せてあげている様子を見るに、スイミーの身長は、有栖よりも頭一つ分くらい小さい。
「えへへ~♪ お兄さまお姉さま~♪」
初めて服を着たのが嬉しいようで、章太郎たちの前で楽しそうに、クルっと廻って見せてくれた。
「うむ。可愛いぞ」
「はい。とても愛らしいですよ♪」
「あたしみたいに元気だね~♪」
「あ、もしかして こんな幼子でも、パンツ履くのか?」
「やはり、スイミーさんには 明るい色がよくお似合いで御座います♪」
特に有栖は、服を選んだ本人だからか、お気に入り度が段違いな感じ。
新しい同居人に、お供たちも尻尾を振って、じゃれ付いていた。
(…服 ブカブカだから、やっばり早く 服を買ってこないとなぁ…)
とか想う章太郎。
とりあえず、ピノッキオとスイミーに関する一応の調査は出来たので、博士としては知りたい事を、帰還者の孫へ問う。
『ところで章太郎よ。お前さんたちが行ってた 童話世界についてじゃが』
「あぁ、うん。なんて言うか、俺たちも最初は、ピノッキオの童話世界だと想ってたんだけど…」
チエリージャがピノッキオへ恋する中年だったり、ピノッキオ本人も真面目な性格だったり、パ行で始まる兄弟がいたり、何よりスイミーがいたり。
「…で、コオロギのジミーが蜃鬼楼で『この童話世界はオリジナルな童話だけでなく、同人誌の童話世界の影響も受けている』とか、色々と教えてくれたんだ」
そうして、ピノッキオとスイミーがこの世界へとやって来たのだ。
~第八十四話 終わり~
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