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☆第百五話 章之助と章太郎☆
しおりを挟む祖父たちとの報告会を終えて、章太郎たちはそれぞれ自室で、就寝に着く。
「それじゃあ、みんな お休み」
「うむ、お休み ショータロー」
「お休みなさい、章太郎様」
「章太郎くん~、お休み~♪」
「じゃな、ショータ」
「お休みなさい、お兄さま♪」
「お休みなさいませ、主様」
みんながベッドへ潜って一時間ほどが過ぎると、章太郎はベッドから起き上がり、コッソリと扉の外を確認。
「…みんな 寝てるな…ハっ!」
安心した途端、翠深衣が眠たそうに廊下へ出てきて、トイレへ向かう。
「むにゃ…」
「トイレか…」
薄く閉じない扉の影で、外を注意していると、トイレを済ませた翠深衣が自室へと戻っていった。
「………」
誰も起きてこないと確認を取った少年は、扉を閉めて、スマフォを掌に、ベッドで布団へとくるまった。
「起きてるかな…」
画面の連絡先は、祖父である章之助だ。
時間は午後十一時で、さすがに電話をかける時間としては、遅すぎる。
なので章太郎としては、五回くらいのコールで出なければ、また日を改めようとか考えながら、コール。
「………」
三回目くらいで「やっぱり迷惑だよな」と感じ、オフにしようとしたら、出た。
『なんじゃ、章太郎♪』
夜中の電話のわりに、声が弾んでいる。
「あ、爺ちゃん…ごめん、こんな時間に…」
『いやいや、構わんぞい。丁度いま、実験の結果データ待ちでの。退屈しとった処なんじゃて♪』
スピーカーから演算器の稼働音が聞こえるから、それはそれで事実なのだろう。
今更だけど、祖父に気を遣わせてしまったと反省しつつ、章太郎は、どうしても気になっていた事を尋ねた。
「あのさ、異空間の穴を閉じる事が出来るって、言ってたでしょ?」
『おお。閉じるというか、元々は存在しなかった穴の存在を また消去させるだけ、じゃからのぉ。失敗した文字を消しゴムで消す、みたいな感じじゃな♪』
こういう説明の時に声色が楽しそうになるのは、章太郎が現実や童話の話をする時と同じだと、御伽噺の少女たちに言われた事があった。
「それで、なんだけどさ…」
『うん?』
なんだか聞き辛いというか、祖父の答えが望まぬ方だったらどうしようとか、なんだか高校受験の際にも味わったような、そんな動揺だ。
章太郎は、意を決して問う。
「い、異空間の穴を閉じた場合…ブーケたちって、その…どうかなったり するの…?」
答えによっては、章太郎の取るベキ道への影響も、大だ。
ハッキリと言葉にする事を恐れているらしい孫の気持ちを、章之助は理解しながら、しかし優しくズバりと、言葉させる。
『お前は、どうしたいのじゃな?』
「ぅ…俺は…」
ちゃんと、自分の言葉にしなければならないと、祖父の意図を理解して。
「俺は…穴を閉じたら、みんなの意志…っていうか、魂も 元の世界へ帰ってしまうのかな…とか、考えてて…」
まだ数ヶ月の同居生活だし、なんだか騒々しくて、女子の中に男子一人で色々と気を遣うけれど、この生活が終わってしまうとしたら。
(…オレは、すごく寂しがってる)
一人っ子である事も影響しているのか、それは自身にも解らない。
聖力を分ける為の、少女たちとのキスとか、それが嬉しいのも本音ではある。
そして、蜃鬼楼との戦いは決して平穏なワケでもないし、もしかしたら。
(この世界の何処かで、オレよりも素晴らしい聖力の持ち主とか現れたら、その人だって危険に晒してしまう)
と考えると、異次元の穴を閉じる事は、何よりも優先されなければならない。
「俺はさ、その…みんなとの生活は、やっぱり楽しいな…て、想ってて。でも、それで他の人たちを危険にしてしまうなら…とか」
『ふむ…。ま、そう考えるのが、自然じゃのぉ』
独善的でない孫に、祖父は喜びを感じているようだ。
章之助は、事実をズバりと告げた。
『やってみないと解らん。としか言えん。なにせ、穴を開けたのも娘たちを呼んだのも再び穴を閉じるのも、みんな初めての事じゃからのぉ』
「そ、そうだよね…」
言われてみれば、その通りである。
「何かこう…異次元の穴からエネルギー的な何かが出てて、それがみんなの存在に必要不可欠とか…そんな感じは無い?」
章太郎としては「異次元の穴を塞いでも、少女たちはこちらの世界に残れる」的な安心感が欲しいのである。
『そういったエネルギー的な波は 検出されておらぬがの。まぁ、検出されていないだけで、存在していないとは言えぬがな」
「えっ!」
『ほっほっほ♪』
驚いた孫が可笑しかったのは、つまり章之助の発言が「科学者あるある」だからだろう。
無いの証明は不可能だと、章太郎だって知っている。
「じ、爺ちゃんっ!」
『ハハ、すまんすまん。例えば、有栖はワシが造ったこの世界の存在じゃから、穴を閉じても絶対安心。というワケにも 行かぬからのぉ。全てが未知数じゃな』
「そ、そうだよね…」
機械のメイドロイドとして誕生した有栖が、有機的な肉体組織も持ったメカ生体へと変容したのは、蜃鬼楼が関係している。
そう思うと、穴を閉じたら有栖ですら、良くても元の機械に、最悪だと壊れた当時の姿へと、戻ってしまうかも知れない。
「うぅ…なんか…」
考えていると、なぜか涙がにじんでくる。
悩める孫へ、祖父は科学者としての推論と、祖父としての愛情で、解決への可能性を示唆した。
『まあ、そもそも 何も起こらんかも知れんがの。ついでに、みんながこの世界に残る可能性を 少しでも高められるかも知れん考えもある』
「っえっ! そ、それって…っ!」
章太郎は、気をつけて小声で話していたのに、思わず声が大きくなった。
章之助は、真面目に告げる。
『愛じゃよ…愛』
「…あ、愛?」
思わず聞き返してしまうものの、冗談で言っているワケではない、とも解った。
『娘たちが、章太郎と一緒にいたい…と強く想えるなら、何があっても 離れる事はないのではないかのぉ』
「そ、そうなの…?」
彼女がいた事の無い章太郎には、とてもロマンティックな考え方にも、感じられる。
対して、結婚子育て孫までいる祖父の見識は、章太郎の感じるロマンよりも、よりロマンティックだ。
『なんだか漫画みたいだ、とか思うじゃろ? しかし なかなかどうして、この「想いの強さ」というヤツは、高度な知的性生体たる人間の認識では追いつけない程の、とんでもない現実を 伴ったりして来るモンなのじゃよ。ほっほっほ♪』
かなりのマッドとはいえ、世界有数のサイエンティストとは思えないような、物理法則に囚われない考え方である。
「そ、そうなの…?」
何か実例とかあるの?
と孫が求めると。
『一個人の認識じゃと、世界は半径十キロ四方と言われておるが、そんな距離感を軽く無視した直感のような認識の話とか、お前も 聞いた事あるじゃろ?』
「たとえば…戦時中に、肉親とか恋人が戦地で命を落とした…とか、そういう話?」
『世界中に、同じような話が存在しておるじゃろ? これを単なる作り話だと切って捨てても、時代や民族を越えて同じような話が語られている理由付けにはなるまい。それにワシとしてもな、子供に対して母親の持つ超常的な直感というのかの。あれはもはや「証明は困難だが精神で繋がっている」としか、説明できんのよ』
章太郎の父が子どもの頃、学校帰りに交通事故に遭ったその瞬間、母であるお婆ちゃんは、強い胸騒ぎを感じたらしい。
「そういえば、父さんがそんな事 言ってた気がする。大した怪我ではなかったけど、料理好きのお婆ちゃんが鍋を焦がした、たった一回の料理失敗の話だって…」
章太郎が、子どもの頃に聞いた話だ。
『ワシも、大学院での講義が終わってから、電話で章一郎(しょういちろう)の事故の事を、知ったくらいじゃからのぉ。母親の持つ子供との絆は、父親の持つ絆とは、また別な次元なのじゃろう。ま、あくまで一般論じゃがな』
という祖父の話で、章太郎も、思いつく。
「そっか…人智を越えた不思議な現象を、人類の多くが実体験しているから…人類は、神様仏様を無自覚に信仰してる…のかな…」
苦しいときの神頼み。
という体験は、高校受験などで、みなが体験している話だろう。
『人類という種が、親的な存在に縋っているだけ…。という考え方もあるが、もしそうならば、突き詰めると 親の愛情さえ否定せねば成立しない考え方じゃ…と、ワシは考えておる。それに…』
「それに…?」
『よく解らない事がある方が、世界はロマンティックじゃろ?』
と、祖父は笑顔でウインクをくれた。
「あ…ははは、そうだね、爺ちゃん♪」
少女たちの存在を大切にしたいと感じている章太郎の、未知なる不安は、祖父との会話で少し気持ちが楽になった。
~第百五話 終わり~
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