元大魔導師、前世の教え子と歳の差婚をする 〜歳上になった元教え子が私への初恋を拗らせていた〜

岡崎マサムネ

文字の大きさ
53 / 64

52.これは――脱ひきこもりでは!?

しおりを挟む
「でも先生は違っていて。例えば玄関のドアの施錠とかは赤の他人に解読されたら困るけど、室内のランプを灯すための《点灯》とか、コンロの火を点けるための《点火》とかは誰が見ても分かった方が便利だろ? そういうところで使うために簡便で魔力消費の少ない魔法陣を開発して広めていったんだ」
「…………」

 花丸に浮かれているうちにまたノアの「先生」談義が始まっていた。

 前世の私のどこがそんなにいいのだろうか。彼の話を聞くたびに不思議に思う。いや、前に散々語ってはくれたけれども。

 尊敬してくれて、憧れてくれているのは分かるけれど――私はそんなに素晴らしい人間じゃなかったはずだ。
 それとも――それを覆い隠してしまうのが、人を好きになる、ということなのだろうか。
 そんなにも――ノアは、私のことを。

「複雑な魔法陣になればなるほど理解が難しくなるし、ブラフみたいな表現を入れたりするから魔力伝達は悪くなりがちだったんだ。その考え方が180度変わって、魔力が少ない魔法使い以外でも便利に使えるようになって。これは革命だよ、先生の偉業といってもいい」
「だ、旦那さま! 私、お腹空きました!」

 聞いていられなくなって、ズビッと右手を突き上げる。
 ノアが一瞬目を丸くして、その後でやれやれと呆れたようにため息をつく。

「さっき昼ごはん食べたのに」
「そ、育ち盛りなので」
「何かお菓子……ああ、昨日食べちゃったんだっけ」

 立ち上がったノアが戸棚を覗いて、独り言を零す。その声にわずかに責めるような響きを感じて、椅子の上で縮こまる。

 おっしゃるとおり、ノアが焼いてくれたフィナンシェは昨日私が全部食べました。そのあと夕飯がちょっとしか食べられなくて怒られました。
 でもノアも味見がてら2つ3つ食べていたと思うので同罪ではないでしょうか。

 すっくと立ちあがったノアが、こちらを振り向いた。

「買い物でも行く?」
「え?」
「……何その顔」

 ぽかんとしている私を見て、ノアが不満げに鼻を鳴らした。

 だって、私が引っ張って行かないと、家からどころか部屋からすら出てこなかったのに。
 そのまま部屋の隅っこで朽ちようとしてたのに。
 庭での草むしりさえ拒否していたのに。
 ぽかんとするのもやむをえないだろう。

 もしかして、これは――脱ひきこもりでは!?

「別に、街まで転移ですぐでしょ。お腹空いたって騒がれるよりその方が良いってだけ」

 ノアが何やら御託を並べているけれども、そんなものは気にならなかった。どうせ照れ隠しか何かだろう。
 誰が何と言おうと、ノアが自分から外出しようと言い出したのだから、更生に向かって一歩大きく前進したことは間違いない。

「行くよ、アイシャ」

 やれやれと言いたげにため息をついて、ノアがこちらに向かって手を差し出した。

「はい!」

 私は元気よく返事をして、彼の手を握る。
 ノアがこちらに一瞬視線を落として、口元だけでふっと笑った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!

エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」 華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。 縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。 そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。 よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!! 「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。 ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、 「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」 と何やら焦っていて。 ……まあ細かいことはいいでしょう。 なにせ、その腕、その太もも、その背中。 最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!! 女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。 誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート! ※他サイトに投稿したものを、改稿しています。

枯れ専モブ令嬢のはずが…どうしてこうなった!

宵森みなと
恋愛
気づけば異世界。しかもモブ美少女な伯爵令嬢に転生していたわたくし。 静かに余生——いえ、学園生活を送る予定でしたのに、魔法暴発事件で隠していた全属性持ちがバレてしまい、なぜか王子に目をつけられ、魔法師団から訓練指導、さらには騎士団長にも出会ってしまうという急展開。 ……団長様方、どうしてそんなに推せるお顔をしていらっしゃるのですか? 枯れ専なわたくしの理性がもちません——と思いつつ、学園生活を謳歌しつつ魔法の訓練や騎士団での治療の手助けと 忙しい日々。残念ながらお子様には興味がありませんとヒロイン(自称)の取り巻きへの塩対応に、怒らせると意外に強烈パンチの言葉を話すモブ令嬢(自称) これは、恋と使命のはざまで悩む“ちんまり美少女令嬢”が、騎士団と王都を巻き込みながら心を育てていく、 ――枯れ専ヒロインのほんわか異世界成長ラブファンタジーです。

『階段対策会議(※恋愛)――年上騎士団長の健康管理が過剰です』

星乃和花
恋愛
【完結済:全9話】 経理兼給仕のクラリスは、騎士団で働くただの事務員――のはずだった。 なのに、年上で情緒に欠ける騎士団長グラントにある日突然こう言われる。 「君は転倒する可能性がある。――健康管理対象にする」 階段対策会議、動線の変更、手をつなぐのは転倒防止、ストール支給は防寒対策。 全部合理的、全部正しい。……正しいはずなのに! 「頬が赤い。必要だ」 「君を、大事にしたい」 真顔で“強い言葉”を投下してくる団長に、乙女心を隠すクラリスの心拍数は業務超過。 さらに副団長ローレンは胃薬片手に「恋は会議にするな!!」と絶叫中!? これは健康管理?それとも恋愛? ――答え合わせの前に、まず“階段(概念)“をご確認ください。

崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜

束原ミヤコ
恋愛
ティディス・クリスティスは、没落寸前の貧乏な伯爵家の令嬢である。 家のために王宮で働く侍女に仕官したは良いけれど、緊張のせいでまともに話せず、面接で落とされそうになってしまう。 「家族のため、なんでもするからどうか働かせてください」と泣きついて、手に入れた仕事は――冷血皇帝と巷で噂されている、冷酷冷血名前を呼んだだけで子供が泣くと言われているレイシールド・ガルディアス皇帝陛下のお世話係だった。 皇帝レイシールドは気難しく、人を傍に置きたがらない。 今まで何人もの侍女が、レイシールドが恐ろしくて泣きながら辞めていったのだという。 ティディスは決意する。なんとしてでも、お仕事をやりとげて、没落から家を救わなければ……! 心根の優しいお世話係の令嬢と、無口で不器用な皇帝陛下の話です。

処理中です...