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第二章
混乱の始まり
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ロゼンタール公爵の元へ一通の手紙が届いた。アラゴン領マグライド家の次男、カイル・マグライドが帰ってきたという内容だった。
公爵は席を立ち窓の外を眺めながらため息をつく。とうとうカイルが見つかったか。
ポリニエール領から戻ったエレノアは、明らかに様子がおかしかった。朝食の席ではずっと上の空で、話しかけても聞こえていないようだった。
レオンが心配して寝室へと連れて行ったが、少し経つとエレノアは公爵の執務室へやってきた。
「公爵様、今から神殿に行きたいのですが」
公爵とそばに控えていた執事のジェレミーが目を合わせる。公爵はしばし、なにか考えている様子だったが、エレノアにこう言った。
「護衛にレオンを連れて行け」
エレノアの瞳が一瞬ぐらりと大きく揺れた。
「そうします。ありがとうございます」
エレノアが部屋からでていくとジェレミーが小声で言った。
「ジュリアンの方が良かったのではないですか?」
ジェレミーが何を心配しているかわかる。エレノアがカイルのために神殿に通い続けていたことを知っていたからだ。
ジュリアンはエレノアの護衛騎士だ。エレノアは神殿に行くときはいつもジュリアンを連れていっていた。
屋敷を出ると既にレオンが待っていた。
「いま馬車の用意をさせている」
「きょうは歩いて行きたいのですが‥」
「そうか、わかった」
レオンは後ろに控えたメイドのケリーから日傘を受け取ると、エレノアに差してくれた。
二人並んでゆっくりと歩く。
「つらくなったらすぐ言うんだぞ」
エレノアは黙って頷く。途中、花屋に寄って百合の花束を買った。
神殿につくとエレノアは祭壇に花をささげ、跪くと祈りはじめた。その姿にレオンは既視感を覚えた。鬱々とした気持ちを晴らしてくれた女性‥
あの日、黒いベールの夫人と話したおかげで、欠席しようか迷っていた戦勝パーティーに行こうという気持ちになった。そしてこのパーティーでレオンは王女に一目惚れした。
ダンスを申し込むと快く応じてくれた。
テラスで甘い雰囲気のなかいろいろな話をした。
それからは度々パーティーで会うようになり、親しくなっていった。他国に嫁がされるかもしれないという王女の言葉に、レオンは父に王女との結婚を願いでた。王女も王に話してみるという。二人は一緒になれるかもしれないと、幸せな未来を描いた。しかし説得はなかなかうまくいかなかった。
そんなある日、王女はレオンの手をぎゅっと握り耳元で囁いた。
「わたし以外の人と踊らないで、お願いよ」
ささやきは呪縛のようにレオンの耳に残った。
彼女が望むなら、そのくらいのお願いきいてあげよう。レオンは自分自身に約束した。
ふと我に返ると、ちょうど祈りが終わったエレノアが立ち上がったところだった。泣いたのだろうか、めが赤かった。
「気分はどう?少し休むか?」
レオンはエレノアの腕をささえながら優しく声をかける。
「もう大丈夫です。早く帰りましょう」
下を向いたままエレノアが答える。そのときレオンは朝から感じていた違和感に気づいた。
部屋に迎えに行ったとき、いつもなら笑顔を向けてくれるのに今朝は違った。
「おはようございます」
そう言ったエレノアは無表情で空をみていた。
そう、エレノアは今朝から一度もレオンと目を合わせていない。
公爵は席を立ち窓の外を眺めながらため息をつく。とうとうカイルが見つかったか。
ポリニエール領から戻ったエレノアは、明らかに様子がおかしかった。朝食の席ではずっと上の空で、話しかけても聞こえていないようだった。
レオンが心配して寝室へと連れて行ったが、少し経つとエレノアは公爵の執務室へやってきた。
「公爵様、今から神殿に行きたいのですが」
公爵とそばに控えていた執事のジェレミーが目を合わせる。公爵はしばし、なにか考えている様子だったが、エレノアにこう言った。
「護衛にレオンを連れて行け」
エレノアの瞳が一瞬ぐらりと大きく揺れた。
「そうします。ありがとうございます」
エレノアが部屋からでていくとジェレミーが小声で言った。
「ジュリアンの方が良かったのではないですか?」
ジェレミーが何を心配しているかわかる。エレノアがカイルのために神殿に通い続けていたことを知っていたからだ。
ジュリアンはエレノアの護衛騎士だ。エレノアは神殿に行くときはいつもジュリアンを連れていっていた。
屋敷を出ると既にレオンが待っていた。
「いま馬車の用意をさせている」
「きょうは歩いて行きたいのですが‥」
「そうか、わかった」
レオンは後ろに控えたメイドのケリーから日傘を受け取ると、エレノアに差してくれた。
二人並んでゆっくりと歩く。
「つらくなったらすぐ言うんだぞ」
エレノアは黙って頷く。途中、花屋に寄って百合の花束を買った。
神殿につくとエレノアは祭壇に花をささげ、跪くと祈りはじめた。その姿にレオンは既視感を覚えた。鬱々とした気持ちを晴らしてくれた女性‥
あの日、黒いベールの夫人と話したおかげで、欠席しようか迷っていた戦勝パーティーに行こうという気持ちになった。そしてこのパーティーでレオンは王女に一目惚れした。
ダンスを申し込むと快く応じてくれた。
テラスで甘い雰囲気のなかいろいろな話をした。
それからは度々パーティーで会うようになり、親しくなっていった。他国に嫁がされるかもしれないという王女の言葉に、レオンは父に王女との結婚を願いでた。王女も王に話してみるという。二人は一緒になれるかもしれないと、幸せな未来を描いた。しかし説得はなかなかうまくいかなかった。
そんなある日、王女はレオンの手をぎゅっと握り耳元で囁いた。
「わたし以外の人と踊らないで、お願いよ」
ささやきは呪縛のようにレオンの耳に残った。
彼女が望むなら、そのくらいのお願いきいてあげよう。レオンは自分自身に約束した。
ふと我に返ると、ちょうど祈りが終わったエレノアが立ち上がったところだった。泣いたのだろうか、めが赤かった。
「気分はどう?少し休むか?」
レオンはエレノアの腕をささえながら優しく声をかける。
「もう大丈夫です。早く帰りましょう」
下を向いたままエレノアが答える。そのときレオンは朝から感じていた違和感に気づいた。
部屋に迎えに行ったとき、いつもなら笑顔を向けてくれるのに今朝は違った。
「おはようございます」
そう言ったエレノアは無表情で空をみていた。
そう、エレノアは今朝から一度もレオンと目を合わせていない。
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