結婚はするけれど想い人は他にいます、あなたも?

灯森子

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第三章

あの日、二人の秘密

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結婚式の日、
「パーティーで君と踊ることはできない」
そう告げたとき、エレノアは驚いていたが、すぐに穏やかに言った。
「わかりました。なんとかしましょう」

控え室をでて長い廊下をすすむと本殿のわきから外に出る。正面の大階段へとさしかかったとき、レオンの腕につかまりながら歩いていたエレノアが小声でささやいた。
「わたしが倒れたら、あなたも倒れてくださいね」
なんのことかと思ったら、エレノアがいきなり階段で転んだ。いや、転んだふりをした。
「早く!」
エレノアが口だけで合図する。レオンもエレノアを支えきれなかったかのように倒れた。
「腕を押さえて痛そうにしててくださいね」
そうささやく。

付き人たちが駆け寄り二人を助け起こす。神殿の控え室へ引き返すと、エレノアは手当は得意だから任せろと強引に人払いをして、レオンの腕にぐるぐると包帯を巻いた。

部屋をでると公爵が腕を組んで立っていた。どうやら二人の小細工はお見通しのようだ。
ジロリとレオンの腕を一瞥したあと聞いた。
「大丈夫か」
「この腕では踊れなそうです。どうしましょう」
間髪いれずエレノアが答える。
あきらかに不自然だったが、公爵は顔色ひとつ変えずに
「なんとかしよう」
と言って去っていった。
「うまくいきそうですね」
と言って、エレノアがいたずらっぽい笑顔をレオンにむけた。胸がチクリとしたが今さら取り消せない。

さらに驚いたことに、なんとかすると言った父が王子に代役を頼んだのだ。ファーストダンスなんて形式的ものだ、片腕を吊っていてもサマにはならないが、踊れないことはない。だが父は代理を頼んだのだ。



レオンは、今日が初対面の妻が、王子と踊っているのを眺めていた。
いっそ高慢でわがままな人であったなら、少しは気が楽だったのに。怒って責めてもおかしくないのに彼女は冷静だった。
しかもこんな大胆なことを思いつくなんて‥。自身のぐるぐる巻きの腕をみる。
そして、目線をあげると雛壇の王女と目が合った。
愛しいあの人、父に逆らえず裏切ってしまった。もう二人きりで話すこともできないが、せめて彼女のお願いをきいてあげられてこれでよかったのだ。


そう、あの時はそう思っていた。

まさかレオンの感情に流された迂闊なふるまいのせいで、エレノアが悪者になるなんて思いもしなかった。
そして自分自身もこんなに苦しむことになるなんて。

エレノアと過ごした一年、毎朝向けていてくれた笑顔、たわいもない会話。すべてエレノアが一人で耐え、想い人を胸に秘め、作り上げてくれた家族。
ずっと我慢していたのだろう。
寝込んでいたときのエレノアを思い出す。

もうすぐエレノアもポリニエールに戻ってくる。カイルは果たしてやってくるだろうか。
そのとき自分はどうすればいいだろう。
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