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第三章
初めての旅
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アンナとケリーの献身のおかげで、だいぶ体力が戻ってきたが、まだ以前のエレノアではなかった。
エレノアが寝込んでいる間、公爵とレオンがほとんど処理をしてくれていたので、滞っている仕事はないはずなのに、エレノアはろくに睡眠もとらず執務室にこもるようになったのだ。
見かねた公爵は、エレノアを連れてロゼンタール領の視察に行くことにした。
ちょうどいい、これを機にずっと先送りしていたロゼンタールの仕事に着手しよう。早く恩を返してレオンを自由にしてあげたい。エレノアはそう思った。
屋敷の正面に、ロゼンタールの紋章のついた立派な馬車が二台停まっていた。レオンや執事のジェレミーたちが並んで見送るなか馬車は出発した。
公爵はアンナとケリーをエレノアの馬車に同乗させた。はじめのうちはボーッとして元気のなかったエレノアだったが、二人のはしゃぎっぷりにつられてすぐに元気を取り戻した。
とにかく、若い女が三人集まればおしゃべりが止まらない。
「エレノア様、今から向かうジルべの街は工芸が盛んで、とても繊細で美しい銀細工が有名だそうですよ」
ケリーが言う。
「銀細工?素敵ね。」
留守番のレオンに何か買っていこうかしら。‥カイルには‥なにかあげたいけど喜んでくれるかしら。
「ケリーは領地のことに詳しいの?」
エレノアは聞いてみた。
「はい、わたしの父は行商をしていたので、いろいろと話を聞くんです。ロゼンタール領で一番のおすすめは、アラメールの街で、丘から望む海の景色は素晴らしいし、なんといってもお魚が美味しいしそうですよ。ま、それも話に聞いただけで、行ったことはないんですけどね」
ケリーが茶目っ気たっぷりにペロリと舌をだす。
「ロゼンタールは広いから、ケリーにはいろいろと教えてもらわなくちゃね」
「そんな、恐れ多いことです‥」
急にケリーはあわあわとした。
「あ、エレノア様。あちらに牧場が見えますよ。」
アンナが指さした方向には、馬が何頭も放たれて自由に駆け回っている。
「エレノア様は乗馬がお上手なんですよね。今度馬に乗っている姿を見せてください」
「わたしも見たいです!」
アンナとケリーに煽てられてエレノアは気をよくした。
「あなたたちも乗れるの?」
「いいえ」
アンナが答える。
「引いてもらって乗ったことはあります」
ケリーも答える。
「それじゃ、わたしが教えてあげなきゃね」
「きゃー」
二人は両手をくちに当てて悲鳴をあげて喜んだ。
「約束ですよー」
エレノアは戦争中、馬で駆けずり回っていたときのことを思い出した。あの時は必死だった。目にはいる景色は鑑賞するものではなく、補給路をどう確保するかという戦略の材料でしかなかった。記憶に残る景色は暗く、色を持たなかった。
それがどうだ、今はぜんぜん違うではないか。
馬車の窓から優雅に景色を眺める。川面にキラキラと光る太陽の輝き、遥か遠くまで続く緑の草原の壮大さ。外の世界は広く、こんなにも美しかったのだ。
宿でも三人は一緒の部屋だった。公爵様から言われたのだろう、普段ならエレノアと一緒の部屋など恐れ多いと言って断固拒否するはずだ。
野宿の夜はさらに楽しかった。ジュリアンをはじめ護衛の騎士や、御者、荷運びの使用人、上下の別なく焚き火を囲んで、飲んだり歌ったり騒いだ。
エレノアは皆の話を聞くのが好きだった。三者三様の人生がある。苦労話だって明るく笑い飛ばす。
ああ、そうか。視察は名目で公爵様はエレノアを気分転換のために連れ出してくれたのだろう。
いつもそうだ。公爵様は本当につらいとき、さりげなく助けてくれる。父を亡くしてから、親代わりのようだった。まめにポリニエールに顔を出し、領地を継いだばかりの兄、エリオットのよき相談役になってくれた。兄が亡くなると、ポリニエールの屋敷に残り、エレノアが前線へ向かう時は必ずついてきてくれた。
無理をするなとか、危ないからと止めたりしなかった。ただ、エレノアのすることをさりげなく支え続けてくれた。
公爵様には、返しきれないくらいの恩がある。
エレノアが寝込んでいる間、公爵とレオンがほとんど処理をしてくれていたので、滞っている仕事はないはずなのに、エレノアはろくに睡眠もとらず執務室にこもるようになったのだ。
見かねた公爵は、エレノアを連れてロゼンタール領の視察に行くことにした。
ちょうどいい、これを機にずっと先送りしていたロゼンタールの仕事に着手しよう。早く恩を返してレオンを自由にしてあげたい。エレノアはそう思った。
屋敷の正面に、ロゼンタールの紋章のついた立派な馬車が二台停まっていた。レオンや執事のジェレミーたちが並んで見送るなか馬車は出発した。
公爵はアンナとケリーをエレノアの馬車に同乗させた。はじめのうちはボーッとして元気のなかったエレノアだったが、二人のはしゃぎっぷりにつられてすぐに元気を取り戻した。
とにかく、若い女が三人集まればおしゃべりが止まらない。
「エレノア様、今から向かうジルべの街は工芸が盛んで、とても繊細で美しい銀細工が有名だそうですよ」
ケリーが言う。
「銀細工?素敵ね。」
留守番のレオンに何か買っていこうかしら。‥カイルには‥なにかあげたいけど喜んでくれるかしら。
「ケリーは領地のことに詳しいの?」
エレノアは聞いてみた。
「はい、わたしの父は行商をしていたので、いろいろと話を聞くんです。ロゼンタール領で一番のおすすめは、アラメールの街で、丘から望む海の景色は素晴らしいし、なんといってもお魚が美味しいしそうですよ。ま、それも話に聞いただけで、行ったことはないんですけどね」
ケリーが茶目っ気たっぷりにペロリと舌をだす。
「ロゼンタールは広いから、ケリーにはいろいろと教えてもらわなくちゃね」
「そんな、恐れ多いことです‥」
急にケリーはあわあわとした。
「あ、エレノア様。あちらに牧場が見えますよ。」
アンナが指さした方向には、馬が何頭も放たれて自由に駆け回っている。
「エレノア様は乗馬がお上手なんですよね。今度馬に乗っている姿を見せてください」
「わたしも見たいです!」
アンナとケリーに煽てられてエレノアは気をよくした。
「あなたたちも乗れるの?」
「いいえ」
アンナが答える。
「引いてもらって乗ったことはあります」
ケリーも答える。
「それじゃ、わたしが教えてあげなきゃね」
「きゃー」
二人は両手をくちに当てて悲鳴をあげて喜んだ。
「約束ですよー」
エレノアは戦争中、馬で駆けずり回っていたときのことを思い出した。あの時は必死だった。目にはいる景色は鑑賞するものではなく、補給路をどう確保するかという戦略の材料でしかなかった。記憶に残る景色は暗く、色を持たなかった。
それがどうだ、今はぜんぜん違うではないか。
馬車の窓から優雅に景色を眺める。川面にキラキラと光る太陽の輝き、遥か遠くまで続く緑の草原の壮大さ。外の世界は広く、こんなにも美しかったのだ。
宿でも三人は一緒の部屋だった。公爵様から言われたのだろう、普段ならエレノアと一緒の部屋など恐れ多いと言って断固拒否するはずだ。
野宿の夜はさらに楽しかった。ジュリアンをはじめ護衛の騎士や、御者、荷運びの使用人、上下の別なく焚き火を囲んで、飲んだり歌ったり騒いだ。
エレノアは皆の話を聞くのが好きだった。三者三様の人生がある。苦労話だって明るく笑い飛ばす。
ああ、そうか。視察は名目で公爵様はエレノアを気分転換のために連れ出してくれたのだろう。
いつもそうだ。公爵様は本当につらいとき、さりげなく助けてくれる。父を亡くしてから、親代わりのようだった。まめにポリニエールに顔を出し、領地を継いだばかりの兄、エリオットのよき相談役になってくれた。兄が亡くなると、ポリニエールの屋敷に残り、エレノアが前線へ向かう時は必ずついてきてくれた。
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公爵様には、返しきれないくらいの恩がある。
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