結婚はするけれど想い人は他にいます、あなたも?

灯森子

文字の大きさ
43 / 71
第六章

すれ違っていく二人

しおりを挟む

「どうして?どうしてそんなことを言うの?」
他でもないあなたが、レオンのところに行けって言うの?

震えを落ち着かせようと、カイルの腕を掴んでいた両手に力がこもる。けれど、胸の奥から抑えきれない気持ちが込みあげてきて、我慢することができなかった。駄々をこねる子どものようにイヤイヤと左右に首を振ると、今まで言えなかった本音があふれた。

「ずっと、ずっと待ってたの。カイルが戻るのをずっと待ってた。生きてるって信じてた。戦争が終わっても、レオンと結婚しても、ずっと待ってたの!
あなただけが生きる希望だったのに、それなのに‥なのに‥」
またわたしを置いていなくなるの?

カイルに縋りつき泣きじゃくるエレノアの頭を優しく撫でてやる。エレノアへの未練を断ち切ろうとしていたのに決心が揺らぎそうだ。
カイルはエレノアの言葉の意味を推しはかる。

結婚しても待ってたって?
戻って来ないと思ったんじゃないのか?
レオンを好きになったんじゃないのか?
じゃあ、なんで結婚を?

いや、だめだ、エレノアを守るためには、揺れてる場合ではない。気持ちはどうあれ、エレノアは結婚してしまった。
認めたくなかったし、できることなら口にしたくなかったが、言わなくてはいけない。

「君は、ロゼンタールだろう。」

カイルに突き放されたような気がして、エレノアは顔をあげてカイルを見た。

ちがう、違うわ。ロゼンタール夫人なんて言わないで!レオンとは形だけの結婚なの!
心の中で叫ぶ、しかし、その叫びを口に出すことはできなかった。
結局、エレノアはカイルを待てなかったのだから。

「待てなくてごめんなさい‥。」

「エレノア、謝らないで。そんな意味で言ったんじゃないよ。君を責めたりしてない。事情があったんだろう。」

カイルはどこまでも優しい。エレノアの胸は締めつけられるように痛んだ。

「何があっても僕はずっとエレノアの味方だから、ね。」
黙っているエレノアに、カイルは言い聞かせるように話を続ける。
「だから、エレノア。小公爵とちゃんと話し合ってほしいんだ。。」

「‥うん。そうね‥。」

でもそれは出来ないの。
もう手紙を送ってしまったの。


そのあとは、もうこの話はお終いといとばかりに、エレノアは笑顔を作った。
屋敷に戻るまでの間、カイルの兄ケビンに、しばらく会ってないねとか、夕食のデザートにフルーツを買って帰ろうとか、たわいもない話をして幼なじみのエレノアとカイルを演出した。
カイルもそんなエレノアに合わせてくれているようだった。




屋敷に着いて部屋に戻ったエレノアは、丘に持っていった荷物の中からリボンのかかった小箱を見つけた。

けっきょく渡せなかったわね。

エレノアは、それを持って結婚前に使っていた部屋に向かうと、書棚から本の形を模した箱を取り出した。レオンが見てしまった日記の箱だ。
カイルに渡しそびれた小箱を日記の上に載せると箱を閉じた。
エレノアは箱に手をかざしたままぎゅっと目を瞑る。
あの頃の絶望が押し寄せてくる。
父が亡くなった日、兄の遺体が戻った日、カイルの行方不明の知らせを受けた時‥。


もう終わったのよ、エレノア。
カイルは生きて戻ってきた、それだけで充分。

箱の上にぽたりと落ちた涙を指で拭うと、書棚に戻した。
エレノアは書棚を背にして床にうずくまると、夕食に呼ばれるまでずっとそうしていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

契約通り婚約破棄いたしましょう。

satomi
恋愛
契約を重んじるナーヴ家の長女、エレンシア。王太子妃教育を受けていましたが、ある日突然に「ちゃんとした恋愛がしたい」といいだした王太子。王太子とは契約をきちんとしておきます。内容は、 『王太子アレクシス=ダイナブの恋愛を認める。ただし、下記の事案が認められた場合には直ちに婚約破棄とする。  ・恋愛相手がアレクシス王太子の子を身ごもった場合  ・エレンシア=ナーヴを王太子の恋愛相手が侮辱した場合  ・エレンシア=ナーヴが王太子の恋愛相手により心、若しくは体が傷つけられた場合  ・アレクシス王太子が恋愛相手をエレンシア=ナーヴよりも重用した場合    』 です。王太子殿下はよりにもよってエレンシアのモノをなんでも欲しがる義妹に目をつけられたようです。ご愁傷様。 相手が身内だろうとも契約は契約です。

【完結】見えてますよ!

ユユ
恋愛
“何故” 私の婚約者が彼だと分かると、第一声はソレだった。 美少女でもなければ醜くもなく。 優秀でもなければ出来損ないでもなく。 高貴でも無ければ下位貴族でもない。 富豪でなければ貧乏でもない。 中の中。 自己主張も存在感もない私は貴族達の中では透明人間のようだった。 唯一認識されるのは婚約者と社交に出る時。 そしてあの言葉が聞こえてくる。 見目麗しく優秀な彼の横に並ぶ私を蔑む令嬢達。 私はずっと願っていた。彼に婚約を解消して欲しいと。 ある日いき過ぎた嫌がらせがきっかけで、見えるようになる。 ★注意★ ・閑話にはR18要素を含みます。  読まなくても大丈夫です。 ・作り話です。 ・合わない方はご退出願います。 ・完結しています。

愛しておりますわ、“婚約者”様[完]

ラララキヲ
恋愛
「リゼオン様、愛しておりますわ」 それはマリーナの口癖だった。  伯爵令嬢マリーナは婚約者である侯爵令息のリゼオンにいつも愛の言葉を伝える。  しかしリゼオンは伯爵家へと婿入りする事に最初から不満だった。だからマリーナなんかを愛していない。  リゼオンは学園で出会ったカレナ男爵令嬢と恋仲になり、自分に心酔しているマリーナを婚約破棄で脅してカレナを第2夫人として認めさせようと考えつく。  しかしその企みは婚約破棄をあっさりと受け入れたマリーナによって失敗に終わった。  焦ったリゼオンはマリーナに「俺を愛していると言っていただろう!?」と詰め寄るが…… ◇テンプレ婚約破棄モノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

殿下、毒殺はお断りいたします

石里 唯
恋愛
公爵令嬢エリザベスは、王太子エドワードから幼いころから熱烈に求婚され続けているが、頑なに断り続けている。 彼女には、前世、心から愛した相手と結ばれ、毒殺された記憶があり、今生の目標は、ただ穏やかな結婚と人生を全うすることなのだ。 容姿端麗、文武両道、加えて王太子という立場で国中の令嬢たちの憧れであるエドワードと結婚するなどとんでもない選択なのだ。 彼女の拒絶を全く意に介しない王太子、彼女を溺愛し生涯手元に置くと公言する兄を振り切って彼女は人生の目標を達成できるのだろうか。 「小説家になろう」サイトで完結済みです。大まかな流れに変更はありません。 「小説家になろう」サイトで番外編を投稿しています。

記憶喪失の婚約者は私を侍女だと思ってる

きまま
恋愛
王家に仕える名門ラングフォード家の令嬢セレナは王太子サフィルと婚約を結んだばかりだった。 穏やかで優しい彼との未来を疑いもしなかった。 ——あの日までは。 突如として王都を揺るがした 「王太子サフィル、重傷」の報せ。 駆けつけた医務室でセレナを待っていたのは、彼女を“知らない”婚約者の姿だった。

王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜

矢野りと
恋愛
理不尽な理由を掲げて大国に攻め入った母国は、数カ月後には敗戦国となった。 王政を廃するか、それとも王妃を人質として差し出すかと大国は選択を迫ってくる。 『…本当にすまない、ジュンリヤ』 『謝らないで、覚悟はできています』 敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。 ――たった三年間の別れ…。 三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。 『王妃様、シャンナアンナと申します』 もう私の居場所はなくなっていた…。 ※設定はゆるいです。

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。 婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。 「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」 サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。 それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。 サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。 一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。 若きバラクロフ侯爵レジナルド。 「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」 フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。 「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」 互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。 その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは…… (予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

役立たずの聖女はいらないと他国に追いやられましたが、色々あっても今のほうが幸せです

風見ゆうみ
恋愛
リーニ・ラーラルは男爵令嬢であり、ノーンコル王国の聖女だ。 聖なる力が使えることで、王太子殿下であるフワエル様の婚約者になったわたしは、幼い頃から精一杯、国に尽くそうとしていた。 わたしは他の国の聖女に比べると落ちこぼれで、フワエル様に愛想を尽かされてしまう。 そして、隣国であるソーンウェル王国の優秀な聖女、ルルミー様と落ちこぼれのわたしを交換すると言われ、わたしはソーンウェル王国に向かうことになる。 ソーンウェル王国に迎えられたことにより、わたしが落ちこぼれだった理由やルルミー様の真実を知ることになる。 ※「小説家になろう」さんでも公開しています。 ※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

処理中です...