転校生とフラグ察知鈍感男

加藤やま

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夏休み

第20話 美人な転校生を待たせて海の家で買い物してると…

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 海で散々遊んでいると、いつの間にか太陽が真上まで登っていた。
―――これは、誰かの腹の音でお昼を知らせるやつだ。こういう時は大体栄一あたりの腹の虫が暴れるはずだ。
 グギュルゴゴゴゴオォォと、鬼のいびきのような腹の音が響き渡る。
「ううむ、腹が減っては戦はできぬ。拙者お腹がペコペコでござる。」
 予想通り栄一がお腹を押さえながら、午前中誰にも触れられてない武士語で空腹を告げた。
「そ、そうだよね。お昼ご飯にしよっか!」
 長名が栄一に賛同するが、なぜか耳まで顔が真っ赤になっている。日焼け対策はきちんとできているのか心配になる。
「それなら、私と只男で行ってくる!食べたいものがあったらリクエストしてよ!」
 アリスが手際良く財布を準備し、2人から注文を聞き出している。
「別に俺と栄一で行くよ。アリスもゆっくりしてれば。」
「今はそういうのはいいのよ!海の家にとっても行きたい気分なの。」
 気を利かせたつもりが一蹴されてしまう。
「では、拙者達はパラソルでも立てて日陰を作って待とうぞ。いざいざ。」
「う、うん。2人ともいってらっしゃい。」
 栄一は放っといて、なんだかみんなよそよそしい感じがするが何かあったのか。
 さっさと歩きだすアリスを追いかけながら海の家に向かう。アリスは無言でずんずん歩き、栄一達からある程度離れたことを確認すると口を開いた。
「さっきのお腹の音って、只男じゃないよね?」
「いや?あれは栄一じゃないか?」
「やっぱり。あれ、清香だったのよ。明らかに栄一君のいる方からじゃなかったもん。」
 たしかに近くから聞こえた気がしたが、側には長名しかいなかった。
「そうなのか?栄一が喋りだしたからてっきり栄一なのかと。」
「それなのよ!栄一君も気付いて咄嗟に庇ったのよ!さりげない優しさってやつよ。」
「なるほどなぁ。それでアリスも2人を残してきたのか。全然気づいてないのは俺だけだったってことか…俺はてっきりアリスが食い意地張ってるものとばかり…」
「こら!そんなわけないでしょ!変なところで鈍感なんだから。その点、栄一君はさっと気付いてフォローもさりげなくて性格はイケメンよね。」
「性格は、てところが引っかかるが。」
「だって…今日の話し方…ずっと変じゃない?」
「やっぱり皆思ってたのか!誰も何も言わないから通常運転かと思いかけてた。」
「清香にもさっき聞いてみたら、変だと思ってたけど、どうしたらいいか分かんないみたいよ。」
 皆考えていることは同じみたいだ。アリスと一緒に理由をひとしきり推理しながら海の家に向かう。
「…いやぁ、今日中に種明かししてほしいよな…あっ、買う物何だったっけ?」
 海の家で買うものリストを受け取り、アリスは日陰で待つように言って買いに行く。
 注文が終わって商品を待つ間、ふとアリスが待っている場所に目を向ける。人ごみの隙間から一瞬アリスを見つけたが、困ったように笑いながら他を向いている。
――買い物をしてアリスを待たせるという状況。同じ状況が前にあったな……これは、文化祭と同じく絡まれているやつだ。美女の引力を甘く見ていた。
 商品を受け取るとすぐにアリスの元に駆け寄る。
「…人を待ってるんで。」
「じゃあその子も一緒でいいからちょっとだけ遊びに行こうよ。穴場を知ってるんだ。」
「いや、そんな…困ります…」
 やっぱりだった。筋骨隆々で色黒のマッチョ2人にナンパされている最中だった。文化祭の時のモブ大学生と違い、鍛え上げられた肉体のマッチョ達を前にして足が止まってしまう。
 その時、困ったように周りを見渡したアリスと目が合う。すると、すぐにほっとした顔になって手を振ってきた。自分を見つけてあんな安心した顔をされておいて、尻込みするなんてことは男として決して許されない。なんとか気持ちを奮い立たせて近付いていく。
「お…お、お待たせ。あの、あっちでみんな…みんなが!待ってるから…行かなきゃ。」
 他力本願だが大人数で来ていることを盾にして連れ出そうと試みる。
「お、兄さんが待ち人なのか?」
 少々の間があり、品定めするかのような視線を感じる。
 もし実力行使されそうになったら、大声を出してアリスだけでも逃がそう。そんなことをぼんやり考えていると、マッチョの1人が右手を振りかぶった。大声を出すために深く息を吸い込む。が、振りかぶった手はこちらの肩を数回叩いただけだった。
「そうかそうか。そりゃお楽しみの途中で邪魔したね!」
 爽やかな笑顔と共にマッチョ達は颯爽と去って行った。筋肉を鍛えるのが趣味なだけの気の良い人達だったみたいだ。良かった…
「じゃ、じゃあ戻ろうか。」
 一気に緊張が緩んだせいか、手足が震えるのを必死で抑えながらアリスの手を取る。
 帰り道はお互い黙ったままだった。沈んだ空気の中歩いていると、突然アリスがぷっと吹き出して笑いだした。
「あははは!めっちゃ怖かったねー!あの人達が悪い人だったらひとたまりもなかったよね!」
「本当にそうだよ…もし襲われたらどうやってアリスだけ逃がそうかずっと考えてた…」
「ふふっ、自分はやられる前提なのね。」
「そりゃあ、あんなのに襲われたら…なぁ。」
「自分を犠牲にしてでも守ってくれるんだ。かっこいー。そういえば、出会った頃も守ってくれるって言ってたもんね。」
 その時、突然アリスがその場に座り込んでしまう。
「ちょっと待ってくれない?ちょっと力が抜けちゃったかな…?」
 笑って明るく振舞ってはいるが、声と体は小刻みに震えていた。そりゃあ美人で声をかけられる機会が多いといっても、あんな威圧感のある人達に絡まれて怖くないわけがない。
 さっき尻込みしてしまった贖罪も兼ねて、少し男らしさを見せなければ。
「ほら、両手は塞がってるけど背中は空いてるから。」
 アリスの前に回り込んでおんぶの姿勢でしゃがむ。
「そんな…悪いよ…」
「別に気にしないでい…」
「じゃあお願いしちゃお!ありがと!」
「切り替えの早さ!」
 かっこつけておんぶしたはいいものの、これは色々とヤバかった。まず薄着なのがヤバい。それでおんぶはくっつくからヤバい。よく分からない良い匂いがするのもヤバい。語彙力が消滅するくらいヤバい。
 と、とにかくどこに意識を向けてもヤバいので、ばあちゃんの笑顔とばあちゃんがいつも作ってくれるおはぎを空に思い描いて何とか乗り切ろうと努力する。そんな中、こちらの気も知らずにアリスは背中で無邪気にはしゃいで、ヤバさを助長しているのだった。
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