Contactlogue〜怪異邂逅奇妙譚〜

冬月日凪

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Reflect〜呪鏡怪異譚編〜

Reflect①

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 亜希は後悔していた。
 この時間に独りで起きてきてしまった事を。いつもは眠る前に欠かさずトイレに行くようにしているのに、今日は何故だか忘れてしまっていたみたいだ。
 月明りだけを頼りに、縁側をお気に入りのぬいぐるみ(ペンギンのペンペン)をお供に歩く。亜希が住んでいるこの家の廊下には電灯が無い。今時にしては珍しい、良く言えば趣のある、悪く言えば古臭いのが、この家の特徴だった。
 亜希は決してこの家が嫌いでは無かった。時代遅れと笑う輩もいたけれど、多くの友人は大正浪漫的な雰囲気が漂うこの家を凄いと褒めて気に入ってくれた。
 亜希にとってこの家は特別だ。
 だから、ちょっとくらい古くたって文句なんか絶対に言わない。

 亜希がそれを見たのは「たまたま」だった。トイレを無事に終えて、来た時と同じ月明りの道を辿って戻る途中、少しだけ扉の開いたままになっている部屋があるのに気づいてしまった。そこは普段ほとんど使われていない物置部屋のはずだった。
(泥棒が入って来てたらどうしよう……)
 物置部屋にはそれなりに値打ちのある骨董品なんかも置いてあるのだという事を、亜希は知っている(ただし、どの品にどんな価値があるのかという事まではよく知らない)。
 その時、部屋の中から亜希のよく知る声が聞こえた。それは亜希が敬愛してやまない祖母の声だった。
「……なさい、…………」
「おばあちゃん……?」
 この時、祖母が何を言っていたのか、亜希には聞き取る事が出来なかった。ただ、亜希は見た。見てしまった。古びた鏡に向かって独り呟き続ける祖母の姿と、その鏡に映る黒髪の人影を。
 亜希はいつの間にか震えていた自分の身体を押さえつけるように、自分で自分の身体を強く抱き締めた。亜希の腕の中で力強く絞められたペンギンが無数の皺を作って苦し気に泣いていた。

 その夜から亜希は夢を見続けた。鏡の中に見えたあの人と目が合ってしまう夢。大好きな祖母が豹変した鬼の形相で自分を見つめる夢。鏡の中から黒髪が這い出そうとしてくる夢。あの日、あの場に置き去りにしてしまって以来、行方不明になってしまったお気に入りのぬいぐるみが暗闇からこちらを見つめ続ける夢。どこまでが夢でどこからが現実だったのか、亜希はしばらくの間、夜に怯え続けた。

 全てを忘れてしまおうと決めた十年後、祖母の遺言によって、亜希はこの鏡を相続する事になるのだ。

**********

「鏡に知らない人が映るの」
 彼がその言葉を耳にしたのは「たまたま」だった。「たまたま」その日に近くで仕事の依頼があり、「たまたま」その仕事帰りに好みの喫茶店を見つけ、立ち寄ってみようかなと思い立ち、「たまたま」テーブル席で話していた少女たちの会話が聞こえてきただけだった。
 「たまたま」聞こえてしまっただけの話にはどんな反応をするのが普通なのだろう。単に興味を持たないでスルーするか、なんか面白そうだなと聞き耳を立てるか、意図的ではないとしても盗み聞きとなってしまっている事実に居心地の悪さを覚えるか。     
 さて、この時の彼はどうしたかというと。彼は何一つ躊躇う事無く 、仲間内での会話で盛り上がる少女たちに近づき声をかけた。
「ねえ、その話詳しく聞かせてもらってもいいかな?」

***********

「それが今回の話を受けることになった経緯」
「いや、待って。ちょっと待って。カウンター席からテーブル席の会話を聞き取る広瀬の地獄耳っぷりにも驚きなんだけど、知り合いでもない相手にいきなり声をかけるってどこの不審者なの?しかも相手女子高生」
「普通に話を聞かせてって頼んだだけだよ?」 
 何が問題なのか分からないと、心底不思議そうに首を傾げる相棒の顔を見て、茅野は「女子ってほんと正直」と呟いた。
 このどこか常識のズレた天然記念物のような青年は、その生まれ持った容姿にかなり助けられているのだが、生憎その自覚がない。声を掛けてきたのが広瀬のような爽やか(ただし、雰囲気のみで中身は珍獣だ) な美青年ではなく、汗まみれの中年男性であったなら、少女たちは問答無用で通報していただろう。世の中は理不尽な偏見の塊で出来ている。

 広瀬と茅野は、世間一般では『便利屋』と呼ばれる仕事をしている。普段は個々で活動する事が主であり、受ける仕事のタイプも異なる二人なのだが、とある変わり者の『雇い主』の意向でこうして度々コンビを組まされていた。
 はじめて二人が組んだ日からもうすぐ三年が経とうとしているが、 茅野は未だに広瀬という生き物の思考回路には慣れないでいた。今回の案件についても「なんとなく困っていそうだったから」という理由だけで、見ず知らずの他人の話に首を突っ込んでしまうあたりが理解できない。広瀬にとって「困っている人を助ける」という行為は、一種の趣味 のようなものなのだろうと考えることにしているが、ならば自分を巻き込まない程度の範囲でやっていて欲しいと思う。茅野は広瀬ほどのお人好しにはどうしたってなれないのだから。
 勿論、正式な依頼となった以上は、手を抜くつもりもないけれど。 

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