現代に帰還した"元"邪悪な魔女は平穏に暮らしたいけど、駄目そうなので周到に準備して立ち回りながら無双します

忘八

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2匹のハエ

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 ビル一軒がほぼ本屋のフロアと言う大きな書店に赴いた正樹は気分が良かった。
 無数の書籍の中から、お高い歴史書を初めとした多数の専門書や推しの漫画や小説を手に入れる事が出来たのだ。
 当然と言えば、当然だろう。
 そんな正樹はホクホクとした良い気分で書店を後にすると、自分の自転車を停めている直ぐ近くにある駐輪場へと歩みを進めた。
 自転車の前カゴに多数の書籍を詰め込んだリュックサックを置くと、正樹は自転車の鍵を解錠。
 それから自転車に乗り、来た道を遡って行く。
 自転車を暢気に漕いで道を素早く滑らかに進んで行く内に、市民プールの建物が見えて来た。
 年中無休で屋内プールを開放している市民プールの敷地内へ入った正樹は、自転車から降りて押し歩いていく。
 そうして、市民プールの隣に在る行政が運営する図書館の前にある駐輪場に赴けば、自転車を停めて施錠した。
 そして、前カゴに入れていたリュックサックを背負い、図書館へと赴いた。
 図書館内は土曜日なのも相まって多数の人々で賑わっていた。
 初夏でありながら外は熱い事も相まって、冷房が効いた図書館は良い時間を潰す為の場所と言えるだろう。
 そんな図書館内を暢気に歩む正樹は各コーナーに赴くと、目ぼしい本を捜していく。
 程無くして何冊かの本を手に取った正樹は多数の人々で埋まる席から空いてる席を見つけると、足下にリュックサックを置いて座った。
 そして、見繕った本の中から1冊を手に取って静かに読み始めた。
 本を読み耽る正樹は本の世界に没頭する中、そんな正樹に視線を強い浴びせる者達が居た。
 その者達は本の世界に没頭する正樹を離れた所から眺めながら、話していた。

 「本当にアイツも帰還者なのか?魔力とか感じないわよ?」

 1人の活発そうな少女が言うと、隣に立つ青年は言葉を返す。

 「情報が確かなら、奴は間違い無く

 とある情報筋から得た情報通りならば、正樹は自分達と同じ異世界からの帰還者だ。
 そう告げると、少女は胡散臭く思ってしまう。

 「そんな風には見えないけど?てか、魔法使えないんなら大した事無いんじゃないの?」

 少女にすれば、視線の先に居る正樹が魔法を使えぬ凡夫にしか見えなかった。
 魔法が使えない上に、自分達の事を完全に気付いていない。
 それ故、正樹の事を雑魚と認識していた。
 だが、青年は違った

 「彼は例の魔女涼子と組んでる。その上、彼は複数の暗殺も実行している……例の魔女のお眼鏡に適い、その上、殺しも出来る奴が雑魚なんて考えは棄てた方が良い」

 どうやら、この2人は正樹が実行した暗殺を知っている様であった。
 だからこそ、油断するな。
 そう青年は相棒の少女を窘める。
 だが、少女は理解しようとせずに訝しむだけであった。

 「偶々でしょ?」

 「兎に角、警戒は怠らない方が良い」

 青年が少女にそう告げる中、件の正樹は2人を他所に2冊目の本を手に取っていた。
 2冊目の本を読み耽る正樹はウンザリとした溜息を漏らすと、心の中でボヤいてしまう。

 何処のバカ共だ?
 素人丸出しの尾行しやがって……
 折角の休日が台無しだ。

 意識を本に集中させながらも、正樹は2人の尾行者にのだ。

 カップルで専門書を見て廻るのは良いとしよう。
 だけどな、同じ建物内に立て続けに入るのは流石に戴けない。
 あからさまに尾行者だって言ってる様なもんだぞ……

 素人丸出しの尾行者達に辟易としながらも正樹は今読んでるページにしおりを挟むと、仕事用のスマートフォンを手に取った。
 それから直ぐに涼子へメッセージを送った。

 『ハエが2匹纏わりついてる。そっちは?』

 そんなメッセージを送ると、正樹はスマートフォンを目の前に置いて再び本を読み始める。
 だが、本を読んでから1分もしない内にスマートフォンが電子音を響かせた。
 涼子からの返信であった。

 『私の方にもハエが纏わりついてる』

 涼子の返信に正樹は2度目の溜息を漏らすと、指示を下す。

 『面だけ押さえたら放置。尾行には気付いてない感じで。間違えても手は出すな』

 尾行者の顔だけ押さえたら、気付いてないフリをして手を出すな。
 穏便過ぎる内容の指示を送れば、涼子から質問が返された。

 『向こうから手を出されたら?』

 『その時は上手く穏便に片付けろ』

 正樹の答えは目立たない様に殺せ。
 そう言っていた。
 そんな返信を受け取った涼子は笑みを浮かべ、返信する。

 『そう言うのは得意分野よ』

 涼子の返信に正樹は「おっかねぇ」と、他人事の様にボヤいてしまう。
 それからスマートフォンをポケットにしまうと、正樹は続きを読み始めた。
 図書館での正樹は2人から見ると、大層な読書家に思えた。
 多数の本を静かに読み耽り、時には上の本棚に届かずに困っている小さな子供や背の低い老婆の為に本を取って渡す姿は優しい文学青年にも感じた。
 だからこそ、2人の若き尾行者は正樹が実は危険な人間では無いのではないか?
 そんな思い込みまでしてしまう。
 しかし、2人の若き尾行者は知らない。
 正樹が非道な極悪人で、必要ならば2人を殺害する事も辞さぬ容赦も情けも持たぬ鬼である事を……
 2人は未だ知らない。
 静寂に満ち、静かながらもつまらない時間が刻一刻と過ぎていく。
 そんな中、2人の尾行者の視線の先で読んでいた多数の本を元の場所に戻していく、リュックサックを背負った正樹の姿があった。
 正樹は多数の本を元の場所へキチンと片付けると、2人の方へと歩みを進める。
 2人は慌てて別の本棚に移そうとする。
 だが、正樹は気にする事無く2人の顔を然りげ無く一瞥してから図書館を後にした。
 2人は正樹の後を追った。
 正樹は暢気にリュックサックを前カゴにいれると、暢気に鼻歌を歌いながら自転車に乗って走り出す。
 2人は、そんな正樹の後を自転車で追った。
 数分後。
 正樹は通学等で何時も利用する最寄り駅から少し離れたサイゼリヤに来ていた。
 店員に人数は自分だけと告げ、席に案内された正樹はリュックサックを降ろして席に座る。
 それからスマートフォンを取り出し、ランチメニューとドリンクバーを注文した。

 「何も動きが無いわね。本当に情報は正しいの?」

 「何か自信が無くなって来た」

 2人は正樹の姿が見える位置に座り、正樹と同じ様にランチメニューとドリンクバーを注文していた。
 そんな2人を気にする事無く、正樹はコーラを飲みながら本屋で買った本を読み始める。
 正樹が読んでいたのはイブン・バットゥータの記したリフラとも呼ばれる『旅行記』。
 それのアラビア語版であった。

 「何読んでるのかしら?」

 飽きる事無く本を読み耽る正樹の姿に首を傾げると、青年は「カバー掛かってるから解らないよ」と、暢気に返す。
 正樹は壮大な冒険とも言えるイブン・バットゥータの旅行記を読み耽る。
 だが、実際は脳内にあるナノマシンを用いて、2人に対して目に見えぬ行動を既に起こしていた。

 2人の端末スマートフォンへの侵入完了。
 このまま内部の情報を吸い出しつつ、内部のGPS情報を1時間毎に送られる様にセット。
 内部の電話番号からメルアド、多数のアプリのアカウント情報を抜き出せば……
 あっという間に丸裸だ。

 2人に関する情報を2人の持つスマートフォンをハッキングし、余すこと無く抜き取ってクラウドに保存する事に成功した正樹。
 その後、ハッキングの足跡を処理し終えた正樹は旅行記に意識を戻すと共にナノマシンを経由してスマートフォンにデータを送る。

 一先ず、連中は敵に回らない限りは放置で良い。
 つうか、俺達が連中に気付いたら警戒レベルが上がっちまう。
 だったら、俺達は尾行に気付かないバカ2人って事にして油断を誘う方が殺しやすい。

 敢えて気付いてない振る舞いを見せ、相手の油断を誘う。
 そんな振る舞いを迷う事なく選び、実行する正樹は筋金入りのプロのロクデナシであろう。
 その上で相手の情報も抜き取る手腕は、凄腕のプロと言っても過言ではない。
 悪辣な思惑が籠もった正樹の行動に気付かぬ2人は、マヌケと謗られても文句は言えないだろう。
 だが、ノーモーションで瞬時に端末をハッキング出来る。
 そんなデタラメ、普通は誰も想定していない。

 向こう異世界で腕が千切れたから一部分だけ義体化せざる得なくなった際、ついでに電脳化処置もさせられたけど……
 まさか、此方地球でも電脳化の恩恵に預かれるとは思わんかった。
 どうやってるのか?
 サッパリ原理が解らんけど……

 正樹は電脳化処置を受けていた。
 そして、正樹が最も殺したい存在である怨敵たる魔女はソレすらも再現してのけた。
 まさにデタラメ過ぎる所業と言えるだろう。

 俺だけ攻殻機動隊とか、寺沢武一先生のゴクウ染みた事が出来るのはマジでチートだわ。
 まぁ、その御蔭で色々と便利なんだけどな……

 自分の持つデタラメな能力チートを便利に感じている正樹であったが、そのデタラメな能力を

 射撃や狙撃。
 それに格闘とかも電脳処理すれば、簡単なんだろうけど……
 ソレを使ったら、俺の負けな気がするんだよな。
 何か、今まで培って来た技術を全否定する様で嫌なんだよね。
 単なる自己満足でしかないけどな……

 そんな事を想う正樹は溜息を漏らすと、旅行記に意識を集中させる。
 既にビジネスマンへ尾行者に関する情報は送った。
 送った以上は、ビジネスマンの仕事である。
 ならば、自分と涼子はビジネスマンが尾行者の飼い主と穏便に話し合い、結果を齎すのをノンビリと待つだけで良い。
 要するに向こうから仕掛けられない限り、大人しく過ごせば良いだけの話なのだ。
 それ故に正樹は2人を狩る殺す気は無く、暢気に読書に勤しんで休日を満喫しているのであった。



 後書き的なモノ
正樹は基本的に読書家でもあり、
本を読むのが大好きな一面が有ったりする

アラビア語に関しては帰還してから向こう…異世界で言葉は力でもあると学んだが故に多数の言語を独学ながら学んで習得してる最中である
それでも大概の言葉を日常会話レベルでなら喋れるし、書けるけど
コレも電脳化の恩恵を利用せずに自力で学んでたりする…本人曰く、滅茶苦茶便利だけど使ったら敗けかな?って自己満足の理由から戦闘時やキナ臭くなった時に電子機器をハッキングして状況確認や状況を回天させる時以外では電脳化の恩恵は使わなかったりする

なので何時だったかの狙撃は自前の脳味噌でやってたりする(それでもデタラメ枠な事に変わり無いんだけどね←


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