豊穣の剣

藤丸セブン

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41話 アルカイアという少年

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「・・・」
 あれから二日。様々な事を考えながら七尾矢はじっと検査を受ける。アルカイアが長い眠りについた後七尾矢と六継紀はナウラとヨゾラ。そして負傷した茜とホムラと合流した後無事に元の世界へと帰還した。もし、七尾矢にもっと力があったとしたら。
「これで検査は終わりです。お疲れ様でした」
「あ。は、はい」
 ナウラの声に我に返った七尾矢は慌てて答える。この検査は傷の手当てだけでなくレインに何か仕掛けられていないか、またもう一つの理由で検査を受けていた。
「それで、何か分かりましたか?なんで俺の自然の剣が突然強くなったのか」
 この検査の本命はその調査だ。七尾矢が認められて使用している自然の剣が誘拐された後に突然強くなった理由。その理由が判れば他の武具も強く出来、戦力の強化が出来るかもしれない。
「まあそう焦らないでください。まずは健康状態のチェックです」
 自然の剣の真相も大切だがナウラに取っては七尾矢の体の方が大切だ。いかに武具が強くなろうと使い手が健康でなければならない。その様に言われると何か深刻な問題が見つかったんじゃないかと少し不安になる。
「まあ、身体は健康そのもので傷も完全に塞がってるので何の問題もないんですけどもね」
「何だ、驚かせないで下さいよ」
「ふふ。それはすみません」
 ナウラは楽しそうに笑うと切り替える様に咳払いをして席に座る。
「自然の剣の話ですが、確かに強くなっています。異界武具が持ち主の想いによって強くなるという事例は初めてではありませんが、あなたのは強くなるという言葉では片付けられません」
「と、いうと?」
「急成長、覚醒と言っても過言ではないかも知れませんね。自然の剣の強化は度が過ぎています」
 ナウラが七尾矢の腰に下げられた自然の剣に視線を落とす。見た目には何の変化もないが、確実にこの武具は違う何かへと変化しつつある。それが頼もしくもあり、恐ろしくも感じられる。
「えっと、それでこの成長はまだ続くんですかね?」
「正直な事を言うならば、分かりません。まだ成長を残しているとは感じられますが、確信は一切ありません」
「・・・そうですか。でもまだ強くなれる可能性はあるって事ですよね!?」
「ワタシはそう考えています」
 嬉しそうな顔をする七尾矢にナウラは優しく微笑む。その嬉しそうな顔に悲しげな瞳が浮かんでいたからである。
「それから、その自然の剣ですが。詳しく調べたいので暫くお借りする事は出来ませんか?」
「え?」
「詳しく調べればその急成長の原因が分かるかも知れま」
「やっほー!!!元気かい七尾矢!!話があるから遊びに行こう!!!」
 ナウラの話が終わる前にアレグリアが楽しげに部屋に入ってくる。そして七尾矢の腕を掴んで外へ連れ出そうとする。
「ちょ!ちょっと!?今ナウラさんの検査中で!後で話なら聞くから!!」
「えー?検査が終わったからここにいるんだろ?ナウラもいいよね?」
 身勝手すぎる言動にナウラは深いため息を吐く。
「好きにしなさい」
「やった!じゃあ行こうか」
「え!?いいんですかナウラさん!?というか俺は是非調べて欲しいんですけど」
「いつ奴らが襲撃してくるか分かりませんし、貴方の手元に武具がない状態は避けたいです。恐らく調べた所で何も分かりませんしね」
 ナウラの言葉は最もだ。残念だがここはナウラに従う事にしよう。
「検査ありがとうございましたー!!」
 そう言い残すと七尾矢はアレグリアに連れて行かれた。
「はぁ。やれやれ」
 もう一度大きく深いため息を吐き検査結果の書かれた紙を見る。そこには自然の剣の詳細が書かれており、能力の欄にはunknownと書かれていた。
「先程の登場は何か知っていますと言っている様な物ですよー?」
 アレグリアが自然の剣の何を隠しているのかナウラは知らない。だが、隠していると言うことはとても大切な事なのだろう。少なくとも今はまだ話せない様な。
「信頼していない、という訳ではなさそうですし。まあよしとしますか」
  ◇
「あー。今の入りは我ながらバレバレ過ぎたなー」
 部屋から出て落ち着ける場所へ歩く途中にアレグリアは頭を抱える。自分でも驚く程に秘密を抱えている人間の行動である。
「何が?」
「・・・君はそのままでいてくれよ」
 肝心な時には察しがいい癖にこういう時は鈍感な七尾矢にアレグリアは苦笑いを浮かべる。そういう所は七尾矢の愛嬌だと考え、これ以上墓穴を掘らない様に本題へ移る。
「さてと!話というのは、アルカイアの事だ」
 アレグリアの言葉に七尾矢がぴくりと反応する。
「まずはお礼を。アルカイアの、弟の最後を見守ってくれて、ありがとう」
「え」
 深くお辞儀をしてお礼を言うアレグリアに七尾矢は困惑の声をあげる。アルカイアの話と言われた時、七尾矢はてっきり怒られるのだと考えて構えていたからだ。
「なんだいその顔。オレは戦場を君の何倍も経験してる。仲間の戦死を誰かのせいになんてしないよ」
「あ、いや。そうか。うん」
 アレグリアの反応に安堵した。それと同時にアルカイアが死んで間もないと言うのに落ち着き過ぎているとも思えた。
「冷たい男だと思うかい?」
「・・いや」
 自分の考えを見透かされた様で動揺してしまう。しかし、冷たい男とは思わない。いつまでも故人を思うのは良くない。前を向いて歩いて行かねばならないから。
「それからもう一つ。アルカイアの死は、君のせいじゃない」
 本当に七尾矢の考えが見透かされたかと様な言葉をアレグリアが口に出す。もしやアレグリアは心を読む事が出来るのだろうか。
「それは、分かってるつもりだよ。でも、考えずにはいられない」
「気持ちは分かるよ。オレも昔はそうだった。けど」
 分かっている。アルカイアは七尾矢と六継紀を庇って死んだ。それはアルカイアの意思で、七尾矢のせいで死んだ訳ではない。だが、七尾矢の大樹がもっと強ければ、もっと高くまで伸ばせれば。アルカイアが死ぬ事はなかったのではないか。どうしても考えてしまう。
「あ」
 アルカイアの話をして、大切な事を思い出した。アルカイアの遺言だ。元の世界に戻ってから治療や検査などでアレグリアに会わずに過ごしていたのでタイミングを見失っていたが、今はちょうどアレグリアと二人きりだ。
「アレグリア。俺からも伝えたい事がある」
「ん?」
「あの日の事を、恨んだ事はない。アルカイアがアレグリアに伝えて欲しいって言った言葉だ」
「っっ!」
 七尾矢の言葉にアレグリアは驚愕の表情を浮かべて七尾矢を見る。そして、乾いた笑いを浮かべた。
「ハハ、そっか。悪いね、訳の分からない遺言を託させてしまって」
「それは違う。アルカイアから聞いたんだ。アルカイアの両親や、好きな女の子の事」
 七尾矢の言葉にアレグリアは乾いた笑いを止めて口を閉じる。暫くして口を開こうとするが、また口を閉ざす。
「さっきの事を謝らせてよ。確かにアレグリアの事冷たいなって、ほんの少し思った。けど、今はそうは思わないよ」
 七尾矢がそう言った理由は簡単で、アレグリアの瞳には涙が流れていた。
「あ、あれ?今泣いちゃダメだろ。ここで泣いたら自分の事が許された事に安堵して泣いたみたいじゃないか」
「いいんじゃない?ここには俺しかいないし、泣いた方がスッキリするかもよ」
「言ってくれるね」
 少量の涙を流しながらアレグリアは笑う。その笑いには悲しさがあるが、心からの笑いもある。
「でも。ここで大声で泣いたりはしないよ。そういうのは茜とか六継紀にしてあげな」
「なんで茜さんに?六継紀は分かるけど」
「本当に鈍感だなー」
 アレグリアが腹を抱えて笑い出す。その目に涙は無い。
「本当に強いな、アレグリアは」
「慣れてるのさ。良くも悪くもね」
 死に慣れる。それは決していいことでは無いが、直ぐに前を向いて立ち直れるというのは少し羨ましい。今だけは、そう思う。
「七尾矢は、慣れちゃダメだよ」
「勿論俺は慣れないよ。これからは誰も死なないんだから」
「七尾矢、それ死亡フラグじゃない?」
「え?まじ!?」
 人のいない何の変哲もないただの通路で、二人は笑い合った。
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