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4章 最終編
62話 神剣
しおりを挟む「のわぁぁぁぁぁ!!」
迫り来る黒雷、黒炎、黒石の落石。それら全てに狙われる七尾矢は悲鳴をあげながらそれらの攻撃を回避する。
「神威のチャージ中は豊穣の剣が使えないなんて聞いてないですよー!!?」
<言ってなかったかしら?だから七尾矢を守れって言った気がするのだけれど>
「言われてないですよデメテル様!?」
飛んでくる黒炎を回避し、落石をレインが破壊。雷は焔が七尾矢を風で運ぶ事で回避。どれも間一髪。いつ攻撃を喰らっても可笑しくはない。
<危なかったわね。あ、それとワタクシの事は様付けしなくていいし、敬語もやめて頂戴。ワタクシはあなたのおばあちゃんなんだから>
「いきなり神様をお婆ちゃん呼びなんて出来ませんよ!?」
「七尾矢!」
そんな話をしている間にも危機は迫っていた。茜が七尾矢を突き飛ばすと先程まで七尾矢が立っていた場所に鋭い岩が出現し、茜を貫いた。
「茜さん!」
「傷を受けるのが早いです!」
茜が岩に貫かれたのは腕だ。故に致命症にはなっていないが止血は即座に行った方がいい。茜の傷を治療しようとナウラと七尾矢が茜の元へ駆けつける。
「黒雷撃攻」
それこそがロキの狙い。治癒をメインとするナウラは誰かが負傷すれば直ぐに治療をするのが仕事だ。故に誰かが傷付けば近くに来て回復する。そして七尾矢はかなりのお人よしだ。傷ついた仲間を放置する事はない。故に。
「標的三人を一気に始末出来るって寸法さ」
「ええ。そんな事は簡単に想像出来ます」
三人を狙ったこれまでで一番大きな黒雷の一撃がレインの作った氷の壁に防がれる。黒雷撃攻を見事防いだ氷の壁はあっという間に破壊されてしまったが、一撃でも防ぐ事が出来れば御の字だ。
「疾風の加護!ほら!さっさと散れー!」
「くっ、分かってるわよ!七尾矢!あんたがやられたら終わりなんだから私の為なんかにこっちくるんじゃないわよ!?」
「ごめんなさい!でも私なんかって言い方はやめて下さい。茜さんはとっくに俺にとって大切な人何ですから」
予想外過ぎる七尾矢の言葉に茜が顔を真っ赤にする。
「なっ!た、たたた大切な人って!!」
「仲間としてだろ?」
「仲間としてです。勘違いしないでください。ダンナ様が愛しているのは世界で一人。拙ですから」
「わ、分かってるわよ!!いや分かってないわ!!あんたこそ捏造してんじゃないわよ!!七尾矢は私が好きなのよ!?だって上司と部下では考えられないくらい私のこと考えてて」
「はぁ、可哀想に。あまりのショックで頭をやられてしまったんですね。拙とダンナ様は愛し合っているのです。そこにあなたの様な子猫が入る隙間など」
怒りを露わにしながらレインに掴み掛かる茜と正妻の余裕と言わんばかりに茜を煽るレイン。そんな二人はどこからどう見ても隙だらけだったのでまともに黒炎に呑まれる。
「アホなんですか!?七尾矢がどっちのものかとかどうでもいいでしょうが!!さっさと七尾矢を防衛しなさい!!」
「わ、分かってるわよ」
「はーい」
黒炎に触れる前に氷の壁を張っていたお陰で二人とも怪我はなかったが今は喧嘩をしている場合ではない。七尾矢の防衛はかなりの苦戦を強いられた。しかし
<準備が整ったわ。これだけの神威があれば、あの鎧を貫ける!>
「やっとね!」
「割と攻撃組が頑張ってくれたお陰で私らは大変じゃなかったな」
豊穣の剣に神威が溜まりきった。ロキの標的となっていなかった焔は楽だったと笑うが標的だった三人は疲弊しきっていた。出来る事ならもう二度とやりたくない。
「でも、問題はここから何だよな」
<ええ。ここから豊穣の剣に溜まっている神威を使わずにロキの元へ辿り着き、その鎧を打ち砕かなければならない>
武具に溜まった神威は武具から放つ一度目の攻撃に付与される。神威の扱いに慣れればどの攻撃にどの程度の神威を載せるのかを制御出来る様だが、今の七尾矢のその様な該当は出来ない。故に、七尾矢は一度も豊穣の剣を使わずにロキへ攻撃をしなくてはならない。
「出来るものなら、やってみなよ!!」
ロキが貯めていた力を解放し、マントを大きく広げてみせる。
「黒炎撃攻!!黒水撃攻!!黒林撃攻!!黒風撃攻!!黒雷撃攻!!黒氷撃攻!!」
六属性の漆黒の攻撃。それらの攻撃が全て七尾矢へと迫り来る。これを防ぐことも、回避する事も七尾矢には不可能だ。七尾矢が一人なら。
「行くわよ!!あんたら!!!」
「水流の指輪よ!!皆に力を!!」
六属性の漆黒の技達。その一国を破壊できるレベルの攻撃に特異課の面々は茜の合図で渾身の一撃で迎え撃つ。そしてその攻撃にナウラのバフを込める。
「雷光の裁き!!!」
「疾風連撃!!!」
「岩石、一刀!!!」
「迅雷の剣、抜刀!!!」
「ダンナ様好き好き砲ーー!!!」
「蒼炎乱舞!!!」
「絶対零度の、裁き!!!」
皆の最高の一撃が六属性の天災にぶつかる。漆黒の炎を氷と水が包み込み、黒雷を岩の剣が受け止める。黒い風は氷の塊で受け止め、森林の群れを蒼い炎が踊る様に焼き尽くす。実力は互角、ではない。上手く漆黒の攻撃達を受け止められてはいるが、それでも劣勢は変わらない。
「持たない」
ロキの小さな一言と同時に天災に皆の攻撃が敗北する。
「うわぁぁぁ!!」
「くっ!!!」
「がぁぁぁ!!」
六属性の天災に皆が呑まれる。だが、
「後は頼んだよ、七尾矢!!」
「ああ!」
アレグリアの言葉に答え、七尾矢が宙を舞う。七尾矢が空を飛んでいるのは焔の風に乗っているから。つまり。
「風の流れを断ち切れば、君は飛べない!!」
「そんな事分かってるさ!」
漆黒の岩の落石により風向きが変わる。だが途中までで良い。道は既に作られている。
「今までお前が傷付けてきた人達の、報いを受けろ!!!」
「嫌だね!オレはオレのやりたい様にやる!!君たちの裁きなんて、真っ平ごめんだ!!」
目の前で豊穣の剣を振るう七尾矢にロキは六属性の天災を放つ。回避は不可能。それをまともに受けた七尾矢は、水の様に溶けた。
「水?」
そこに違和感を感じた。当然だ。幾ら天災を前にしても人間の体が水の様に溶けるなどあり得ない。ならば今溶けた神谷七尾矢は何だったのか。
「忍法、水分身」
アレグリアが小さく技の名前を唱える。それはアレグリアの弟でここには来られなかったもう一人の仲間の得意技。
「ありがとう、アルカイア」
本物の七尾矢はロキの背後。風向きが変わった焔の風に乗りロキの死角へと潜り込んでいた。
<ロキ、報いの時よ!!>
「ふざけるな。オレが、この邪神ロキが!!!敗れるなぞ!!!」
「神剣!!!豊穣の裁き!!!!!」
七尾矢の放った黄金に輝く剣がロキの写真武装を切り裂き、ロキを貫いた。
「終わりだ、ロキ」
そう呟いた瞬間豊穣の剣に切り裂かれ、大量の血を吹き出したロキが光に包まれる。その光に一同は身構えるが、その必要はなく光は直ぐに収まった。
「ありがとう、七尾矢。ロキの神威の封印が完了したわ」
聞き覚えのある声が神殿の入り口からして七尾矢がそちらを向く。
「貴方が、豊穣の女神デメテル」
「ええ。初めましてね、神谷七尾矢くん」
そこにいたのは美しい緑色の長い髪を揺らし、女神の様に微笑む女性。デメテルだ。
「アレグリア、賢五。そしてロキとその配下と戦ってくれた全ての人々に感謝を。ロキを、ワタクシの同胞を止めてくれてありがとう」
「勿体無いお言葉、感謝致します」
「別に礼なんていらないよ。ボクはボクがやりたいからやったまでだ」
「そうそう!邪神を打ち倒した!これって私達は英雄って事だろ!?」
デメテルの言葉にそれぞれがそれぞれの言葉で返す。その多種多様な言葉にデメテルが微笑む。
「デメ、テル」
「ロキ。数えきれない罪を犯したあなたに、罰を与えます」
デメテルが床に倒れ込んでいるロキを見下ろして言葉を発する。
「あなたが傷付けた人間、その百倍の人間を助けなさい」
「・・・は?」
「ここであなたを殺す事は簡単です。しかし、七尾矢が教えてくれたのです。殺さずして罪を償わせる。これこそが一番の罰であると」
突然言われた言葉にロキだけでなく七尾矢や他のメンバーも驚く。
「いいかしら?」
「ああ。デメテル様がそう決めたのなら」
「ボクはとっくにそこの男に絆された後だ。殺すより酷い目に遭わせるって事ならボクに異論はないよ」
念の為最終確認を行うとアレグリアが丁寧に、ヨゾラが七尾矢を指差しながら首を振りながら了承した。他のメンバーも異論はない様だ。
「あなたの神威は九十八%封印したわ。残りの二%で人々を助けなさい」
「ははっ。敗北したラスボスに人権はない、か」
こうして、異世界からの侵略者との戦いは幕を下ろした。
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