いろはにほへと ちりになれ!

藤丸セブン

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六限目 リコーダー

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 兎美味しい かーのーやーまー
 小鮒おーいしい かーのーかーわー
「五教科が終わったらやる事が無くなるだろうって!?残念!学校の授業は五教科だけじゃない!」

  <六限目 リコーダー>

「さて、今回の勉強会はリコーダーの練習です」
「それって勉強なのか?」
 補修部が本日勉強会の会場として使うのはいつもの放課後の教室ではなく、音楽準備室だ。その理由は簡単、リコーダーを吹くのに都合がいいからだ。
「む。別に教室でリコーダー吹いてもいいんじゃない?」
「そうかも知れませんが、隣の教室や他の学年の教室にもリコーダーの声が聞こえてしまうでしょうし」
「それはここでも一緒じゃね?」
 いろはからの図星に六花が戸惑うが、二人は別に六花を否定したい訳では無いのでそれ以上の追求はしない。
「ま、いっか。で、何吹きゃー良いんだ?」
「明日のリコーダーのテストは「ふるさと」です」
「む、まあ無難中の無難なテスト。何が言いたいかと言うと、面白みの欠片もない」
「まあリコーダーの技術のテストですので、面白さは必要ありませんよ」
 六花が苦笑いを浮かべるが二人は顰めっ面を続ける。二人の悪い癖だ。テストという真剣なイベントにでも面白さを求めてしまう。別に真剣なイベントを楽しむなとは言わないが、楽しさの方を優先するのは良くないことだと六花は考えてしまう。
「とにかく!本日はリコーダーでふるさとを吹く練習です!異論は認めませんよ」
「む、仕方がない」
「ろっちゃんがそうしたいならそうすればいいさ」
 いろはの言葉に六花は少し違和感を感じたが、わざわざ指摘する程の事でもないだろう。六花はリコーダーと音楽の教科書を取り出し、練習の為の準備を始めた。
「さて、それじゃあ最初はろっちゃんから行くか」
「む、賛成」
「最初?」
 いろはと波留の言葉に六花は首を傾げた。最初とは一体どういう意味なのか。
「そりゃ一人ずつリコーダー吹くんだろ?テストでは一人で吹くんだぜ?」
「む、練習は本番と同じ様に行う。本番と同じ様に練習する事により緊張しなくなったり、逆に適度な緊張が入る事によってより技術が熟練の域へと達する」
「そ、そうですか。まあ、構いませんが」
 少し気恥ずかしいが、二人の言い分も間違ってはいない。ほらテスト本番では二人だけでなくクラスメイト全員の前でリコーダーを吹くのだから今恥ずかしがっていては本番でリコーダーなど吹けない。
「では、行きます!」
 六花はサッとリコーダーを組み立てると楽譜の書かれた頁を開き、リコーダーに口を付けた。そして、演奏を始めた。
「うん。予想通り、普通だ」
「む、ろーは理数科目以外本当に普通。面白くない」
「吹けたのだからいいのです!面白さなど必要ありません!」
 予想通りの二人の批判に六花は少し頬を膨らませながらプイッとそっぽを向く。俺の娘可愛いかよ。
「おい作者。前回の妄想引きずってんぞ。戻ってこい」
 おっと失敬。兎にも角にも六花は見事演奏を終えた。次のテストの時だ。
「ま!私はオオトリだよな?」
「む、まあそれが一番面白い」
 補修部で順番をつける場合大体の確率で六花が一番、波留が二番で、いろはが最後となる。理由は先程波留が言った様にその方が面白いといろはと波留は考えているからだ。
「こほん。その辺は別に構いませんが、次ははーさんの番ですよ」
「む、残念ながら不可能」
「はい?」
 リコーダーを仕舞いながら六花は首を傾げる。
「いえ、苦手なのかも知れませんが、それを練習する為にここにいる訳で。吹けないからといって不可能というのは」
「む、そうじゃない。リコーダーがない」
 波留はそういって両手を広げて見せる。確かにその手にリコーダーはないが、わざわざその様に見せなくてもいいのだが。
「む、実は昨日家で練習する為に持ち帰った。完璧に引いたらいーもろーも驚くと思って、サプライズだった」
「い!いえいえ、そんな!ええ、無いものは仕方がないですね、あの、そんな、泣かないで下さい!」
 そう言う波留の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。その事に慌てた六花が必死に慰める。
「んで?練習したのか?」
「む?昨日は帰って、お風呂入って、ご飯食べて、スマホ弄って、ポケットポケットでいーと対戦して、寝た」
「練習していないではないですか!!?」
 先程までの涙は何処へやら。波留はいつも通りの無表情で答えた。ちなみにポケットポケットとは大人気ゲームのカードゲーム、のスマホゲームである。戦歴は五戦五勝。もちろん五勝したのは波留である。五連敗したいろはは「やなかんじー!」と叫んでいた。
「む!聞いて欲しい!実は夜に笛を吹くと蛇が出るから止めろとママ上とチチさんに言われた!ので仕方ない!」
「ママ上とチチさん!?」
 波留が必死に弁明しようと試みるが、六花はそれより両親の呼び名の方が気になってしまった。ママと呼ぶのは理解できるし、母上という呼び方も畏ってはいるが、まあ理解できる。しかしママ上とは普通言わないのではないだろうか。父親の方も同様で、まず中々自分の父親のことをチチとは呼ばないだろう。そんなものスパイ家族のエスパー娘くらいのものだろう。だが極めつけはそこではない。何故チチという呼び名にさんをつけてしまったのか。父さん呼びを引き継いでいるのであろうが、どうしても違和感が拭えない。
「で、その言い訳はいつ考えんだ?」
「む、五秒前」
「嘘なんですか!?」
 嘘である。波留はリコーダーを持ち帰り、机に置いたはいいもののやる気が起きずにお風呂へ入った。その結果、完全にリコーダーの存在を忘れていたのだった。
「これほお説教ですね」
 六花が静かに席を立ち上がる。こうなったら場合のお説教は長い。下手すればこの説教の時間だけで下校時間になってしまう程に。
「む!裁判長!プリンあげるから何とかして」
「無罪!」
「いーさんは黙ってて下さい!」
「っっっ!!!!」
「む!裁判長!黙らないで!」
 これ以上六花を怒らせるといろはにまで被害が及びかねない。ならばここは落ち着いて波留のみに被害を留めるのが一番の選択肢だろう。いろははバカだがアホではない。下手に被害を広げない為の手段程度は心得ているのだ。
「む!いー!いーの演奏がまだ終わってない!いーの演奏が終わってからでもお説教は間に合う筈!」
「うむむ、まあ、確かにいーさんの演奏は一度は聞いておかなければ。きっとド下手でしょうし」
「ひっでえな!私がめちゃくちゃ演奏が上手いって事は考えられないのかよ!!」
「「うん」」
 即座に二人が頷く。リコーダーは勉強と一切関係はないが、いろはがリコーダーが上手いとは到底思えない。
「いいだろう。二人がそのつもりなら私の演奏テクニックを魅せてやるよ」
 いろはが妙に色っぽい(本人はそのつもり)姿勢を取ってリコーダーを取り出す。そして素早くリコーダーを組み立てる。
「あれ?入らない」
「む、逆」
 いつも通りうまく行く事なくリコーダーの設置場所を間違えた。しかし問題はない。ちゃんと組み立て直せばいいだけの話だ。
「ではお願いします、できる事なら普通の演奏を」
「む、できる事なら私のミスを帳消しに出来る程狂った演奏をして」
「任せろ!完璧な演奏をして見せるぜ」
 三者三様の心境の中、いろはは自信満々に前に立ち、リコーダーをくるくると回し、落とした。
「おほん、聞いて下さい。ミスターレッドアポーで、「ハイラック」です」
「何を演奏しようとしているんですか!!?」
 しかしいろはの演奏は始まる事なく中止を宣言された。
「だってこっちの方が盛り上がるだろ?ふるさとなんて眠くなっちまうよ。それにふるさとの良さってのは故郷を離れた後で気づくもんだ。私達はまだ故郷に思いっきり住んでんじゃん」
「それはそうかも知れませんが、演奏曲を変えるのはダメでしょう」
「む、さすがいー。期待を裏切らない女」
 その後いろはは渋々ふるさとを演奏した。が、そのふるさとは音が外れすぎていてとても聞いていられないものとなっていた。
「こ、これは」
「盛り上がらねえ曲だからだよ。盛り上がる曲ならプロレベルだぜ?いろは嘘つかない」
「その言葉は嘘つきのセリフですよ」
 こうしてリコーダーの練習回は引き続き進められた。
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