愛され少女は愛されない

藤丸セブン

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13話 少女は支えたい

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「俺と!付き合って下さい!」
 三年前のとある日。中学二年生の奥田蓮は告白の定番とも言える校舎裏で隣のクラスの女の子に告白していた。
「うん、いいよ」
 蓮の告白を聞いた少女は顔を赤らめながら告白に了承する。少女の名前は八乙女菜乃。可愛い系の顔をした美少女だ。
「やったぁ!俺、八乙女さんを一目見た時から好きだったんだ!」
「それって一目惚れってやつ?ふふっ。れん君ってば面白い」
 告白の返事に喜ぶ蓮を八乙女はくすくすと笑う。今にして思えば、初めて話した男の告白を受け入れた時点でこの女はどこか怪しかったのだ。
「ごめーん、待った?」
「いや!全然待ってない!」
 八乙女と付き合っていた約二ヶ月は蓮に取ってこれ以上ない程幸せな時間だった。これまで人を好きになった事がなかった蓮はこの中学の初恋で恋の幸福感を知った。
「ねえ、今度の日曜日暇?もし良かったらお家デートしない?」
「喜んで!」
 事件が起きたのは付き合って二ヶ月となるデートの日。既に何度か蓮は八乙女の家に遊びに行っており新鮮さは無かったがお家デートという単語だけで蓮の脳内は花畑と化していた。
「やべっ。ちょっと早く着き過ぎたかな?」
 デート当日。蓮は楽しみ過ぎて約束の時間よりも三時間も早く八乙女家に着いていた。
「ま、いっか。その分長くデート出来るもんね!」
 事前の連絡でその日は親がいないと言われていた。もしかしたらの可能性も当然お年頃の蓮にはあった。
「なんか、緊張してきた」
 少しぎこちない動きでインターホンを押す。しかし八乙女は一向に出てこない。
「おかしいな。まだ寝てるとか?」
 不思議に思ったが今は約束より三時間も早い午前七時。まだ寝ていても何もおかしくない。
「あれ、開いてる」
 反応がないので念のためドアノブを回してみると鍵がかかっておらず家の扉が開いた。
「今行けば寝顔が見られるかな?」
 不純な理由で蓮は扉を開け家の中へと入っていった。
「え?」
 物音を立てないようにそっと八乙女菜乃の部屋の扉を開けた蓮が目にしたのは信じたくない光景だった。
「あれ?あっ、そっかぁ。れんとデートする日って今日だっけぇ。じゃあそう言う事だから今日帰ってくれるぅ?」
 蓮は目を疑った。何故ならその部屋には八乙女以外に男が二人。しかも三人は服を一才着ていなかった。
「えっと、これはっ」
 更に決定的だったのは床に散らばった丸められたティッシュでも漫画などで見たゴムなどでもなく、八乙女と顔も知らない男が文字通り一つになっていた事だ。
「あー、君が菜乃のカレシ君か。初めましてー、菜乃のトモダチ、でーす。せっかくだしカレシ君も混ざる?」
「あ、それいいかもぉ。そこで寝てる男も起こしてみんなでたのしもぉー?」
 蓮の目の前は真っ白になり、次の瞬間には何も考えずに走り出していた。
「はっ!はっ!はっ!」
 部屋を出て、アスファルトの道をただひたすらに走る。浮気?それ以外なわけが無い。しかし浮気とはバレた時あんなに堂々と出来る行為だっただろうか。
「クソッ!クソッ!」
 走っている内にだんだんと目尻が潤んでいく。考えないようにしていてもどうしても脳裏にあの場面が浮かぶ。八乙女と男が繋がっている場面が。
「消えろ、消えろよっ!!」
 蓮は八乙女を大切にしていた。更にいえば女性との交際など初めてだった。故に交際二ヶ月だというのに未だに手も繋いでいなかった。
「くっ!ァァァァァァァァ!!!」
 蓮は喉が枯れる程叫びながらただ必死に走った。
  ◇
「そっか。そんな事が」
「その後俺は引きこもって、三ヶ月くらい学校に行かなかった。その後姉ちゃんに引きずり出されて無理やり学校に行かされたとき、もう八乙女はいなかった」
 その後は蝉丸から聞いた話だが、八乙女の浮気相手はなんと大学生、もう一人に至っては仕事もしている立派な社会人だった。その事が学校にバレて逃げる様に八乙女は転校していったらしい。それ以降八乙女とは会っておらず、二度と会うこともないと思っていたが。
「親がいない事をいいことに男連れ込んでとか、最低過ぎる」
「いや、親の有無はどうでも良い。元々社会人の方は母親の浮気相手だったらしいし」
「尚更最低じゃん!もう!そんな奴が何しにここに来た訳!!」
 怒る気力もない蓮の代わりに花梨が頬を膨らませて激怒する。激怒していたとしてもそのあざとい表情なのか。
「安心して!どんな目的だったとしても!私は絶対蓮くんの味方だから!」
「私の目的は、れんとエッチすることだけどぉ?」
「っ!八乙女!?」
 先程聞いた恐ろしく甘ったるい声を発しながら八乙女が保健室に入ってくる。
「なんで、あなた今でもどうせ他の男とよろしくやってるんでしょ!!なのに何で今更蓮くんの所に来たわけ!?」
「んー特に深い意味はないわねぇ」
 八乙女は静かに保健室の扉を閉めながら蓮に近づく。
「私って付き合った男は必ずエッチするの。だってやってみないと体の相性って分からないものね。でもれんとは色々会ってやれてなかったなーって」
「それだけの理由で?それなら結果は出てる!蓮くんとあんたと相性は最悪!ハブとマングースくらいの相性よ!」
「ハブ?とマングース?知らないけどぉ」
 蓮を庇う様に立っていた花梨を八乙女が容易く組み伏せる。
「やってみないと分からないって言ったでしょぉ?幸いここは保健室。最高の場所じゃない」
「くっ!蓮くん逃げて!」
 今八乙女は花梨の手足を抑えるのに精一杯。逃げる隙はある。しかし。
「いや、その必要はない」
 いつまでも逃げるわけにはいかない。トラウマは、いつか乗り越えなければならない。
「八乙女、よく聞いてくれ」
「ええ、何かしら?」
 ベットから立ち上がった蓮は八乙女に視線を合わせて、堂々とした佇まいで話し始めた。
「俺はお前とセックスするつもりは無い。帰れ」
「そうよね。でも、それで黙って帰るわけ無いとは思ってるんじゃ無い?」
 その通りだ。この変態性悪女がこの程度の威嚇で引き下がる筈がない。ならばやる事は一つ。
「分かった。それなら、実力行使だ!」
 蓮は拳を構えてファイティグポーズを取る。そのあまりの展開に八乙女は少し唖然とし、笑い出した。
「アッハッハ!本気?私とやり合って勝てるとでも思ってるの?」
 分かっている。八乙女が空手の経験者だと言うことくらい。それに比べて蓮は格闘技の経験など一切ない。勝ち目は限りなくゼロに等しい。だが。
「やってみなくちゃ、分からないんだろっ!!」
「アハっ!そうねぇ!」
 蓮と八乙女が同時に拳を振るう。その姿勢からして蓮に勝ちの可能性が限りなく低いのが分かる。しかし。
「その勝負待った」
 二人の拳は温かい掌に止められた。
「え?小松先生!?」
「っ!先生!?」
 そこにいたのは蓮の担任教師の小松だった。
「いつの間に。完全に気配がなかったんだけど?」
「あはは、なんかバトル漫画のセリフみたいだね。私は普通に扉を開けて入ってきただけだよ?君ら夢中になってたから気づかなかったみたいだったけど」
 小松は笑いながら八乙女の手を少し強く握る。
「それで、この保健室にはサボリ対策に防犯カメラが3台あるんだ。こんなとこで不純異性交遊しようもんなら退学じゃすまないよ?勿論、暴行もね」
「ちっ!」
 小松に掴まれていた腕を振り解いて八乙女は距離を取る。
「分かった。大人しく引き下がるわよ」
「うん。素直でよろしい。間違っても殴りかかったりなんてしない様に」
 小松の言葉に頷いて八乙女が保健室を出ようと扉に手をかける。
「なんて、大人しく引き下がる訳ねえだろ!!」
 小松の背後を取った八乙女は全力の一撃を叩きつける。
「はっ!?」
「言ったろ?間違っても殴りかかったりしない様にって」
 八乙女のパンチは小松に完全に受け止められた。
「これは、正当防衛って事で!」
 そのまま八乙女の腕を完全に掴んだ小松は勢いよく背負い投げを披露した。
「かっ!は」
「やっべやり過ぎたかな!?死んでないよね?」
 完全に気絶した八乙女に小松が駆け寄る。どうやら生きている様だ。
「もう、何が何だか分かんねえよ」
「おっと、もうこんな時間だ。二人とももう教室に向かった方がいい。彼女は私が送り届けよう」
 有無を言わさない小松がそう言うとタイミングよく放送がかかる。
「校内の皆さん。これにて文化祭を終了します。在校生の皆さんは各々の教室に集まって下さい」
「あ、」
「それじゃあ気をつけて帰りたまえよ」
 色々と聞きたいことがあったが小松はヘラヘラと笑いながら八乙女を連れて保健室を出て行った。あの人帰りのホームルームはどうするつもりなのだろう。
「私達も行こっか」
「あ、ああ。怪我とかないか?」
「うん、平気」
 それから二人は無言で廊下を歩き、静かに別れた。こうして、少女達の文化祭は幕を閉じた。
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