これが運命です!

藤丸セブン

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これが運命です!

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「ねーねー。菜々子は進路希望決めたー?」
「いいえ、まだ決めかねています」
 占い部の部室で、中学からの友人である智子が私に話しかける。私は平凡な高校に通うごく普通の女、浦部菜々子。と言いたい所だが、残念ながら私は普通とは言い難い。
「そっかー。でも菜々子は良いよね。特別な力があるんだもん」
 私には物心ついた時から備わっている力があった。それは他人に触れる事で他人の運命を覗くことが出来るという能力。小さい頃は気味が悪いと言われ少し、ほんの少しだけ苦労したが、今はこの力を使って占いをしている。
「そんな。大した事はありませんよ」
「大した事でしょ!?卒業したらお父さんが作ってくれた占いの館で働くんでしょ!?」
 我が父は少し特殊な人で、私に特別な能力がある事を私以上に喜んでいた。そして高校を卒業後すぐに占い師として世間に出れる様に前々から準備を進めていた。そして今は高校三年の春。もう決断を下さなければならない時期へと来てしまった。
「ああ。そう、なっていますね」
「ん?乗り気じゃないの?」
 智子がキョトンとした顔でこちらを見てくる。
「はい。前の進路指導の時に同じ事を先生に言われたのですが、少し時間を下さいと」
「大丈夫?悩み過ぎないでよ?」
 いかん、余計な心配をさせてしまう。私は心配させない様に笑顔を見せて、その日の部活動を終えた。
「はぁ」
 いつもの帰り道を少しゆっくり歩く。実際の所、迷っている。占いは確かに楽しい。他人の運命を見て、その人に知恵を与え、感謝される。お客さんは占いをしたお陰で不幸から逃れられ、私は感謝されお金を頂く。まさにWin-Winの関係だ。だが、最近疑問に思ってしまった。
「運命を変えるのは、正しい行いなのでしょうか」
 こんな未来は嫌だ。と懸命に努力して、最悪の未来を回避する。その行動は素晴らしい物だと思う。しかし、他人に運命を覗かれて、「これが運命です」と言われた後に自分を変えようとするのは。
「ズルい。というのは少し違いますが、なんかこう。しっくり来ませんよね」
 一人で頭を抱えながらぶつぶつ独り言を言う私を見て周囲を歩いていた人がヒソヒソと私を見てくる。嫌、違う。私が運命を見られると言うのはこの街では有名。故に、ヒソヒソ話をされるなど日常茶飯事だ。
「はぁ」
 考えても考えても結論が出ない。普通の占いならば、胸を張って出来たのだろうか。しかし私の占いは本来人間が持つ筈のない特殊な能力。これを使って占いをするのは、良くない様な気がする。
「うわぁぁぁぁ!」
「へ?」
 突如、聞き馴染みのない悲鳴が私の耳に響いた。その声で我に変える。私は今交差点を左折したが、考え事をしていたせいで周囲を見ていなかった。前には黒い自転車が。
「ぎゃぁぁぁ!?」
「きゃあ!」
 当然回避できる訳もなく衝突。私は地面にお尻を打ちつけ、自転車に乗っていた少年は腕を地面にぶつけた。
「だぁぁぁ!いででででで!」
「す、すみません。考え事をしてて!大丈夫ですか!?」
「お、おう」
 咄嗟に倒れた少年に手を伸ばし、彼は伸ばされた私の手を掴む。
「しまった!」
 触ってしまった。幼少期の頃気味悪がられていた記憶がフラッシュバックする。少年の運命が、来る!
「ん?どうかしたか?」
「・・・あれ?」
 覚悟を決め目を閉じていた私が恐る恐る目を開ける。すると既に立ち上がった少年が私を不思議そうに見ていて、当の私は呆然と口を開けた。
「運命が見えない」
 おかしい。いつもなら素手で人に触ると運命が否応無しに襲いかかってくるのに。
「運命?あ、お前浦部じゃんか。占い部の」
「へ?あ、同じクラスの剣持君ではないですか」
 私の名前と占い部である事を言われて私も目の前に立つ少年の名を思い出した。剣持弓弦。剣道部の主将にして剣道の有名大学にスポーツ推薦で受かったと言われていた子だ。そういえば今日は学校に来ていなかった。が、今はそんな事より。
「何故剣持君の運命が見えなかったのでしょう?」
「知らねえけど。あ、死ぬからじゃね?俺」
「なるほど」
 近い未来で死ぬ人ならば、確かに運命が見えない。が。
「いえ、例え近い未来に死ぬとしても、明日などの運命が見える筈」
「見えねえよ。だって俺今から死にに行くんだもん」
 剣持君の言葉に目が丸くなった。今から死にに行く?それはつまり。
「自殺!?ダメですよダメ!何死のうとしてるんですか貴方は!?」
「お、おう!?いや別に浦部に関係ないだろ!?今日初めて話した訳だし」
「ありますよ!?関係大アリです!クラスメイトが自殺なんかしたら大迷惑なんですが!?高校の楽しい思い出が死んだ男に塗りつぶされれとか私御免ですよ!?」
「あー。なんかごめんなさい」
 私の激しい言葉のラッシュに剣持君は冷や汗を流しながら謝る。いつも友達と楽しそうに話す姿しか見ていなかったから、こんな剣持君を見るのは初めてだった。
  ◇
「それで、なんで死のうと思ったんです?」
 近くの自販機でスポーツドリンクを買った私はそれをベンチに座る剣持君に投げつける。
「あー。まあ色々あってさ」
 私の投げたスポーツドリンクをキャッチすると、お礼も言わずにキャップを開けて口をつけ始める。礼儀のなってない奴め。
「話してみて下さいよ。話したら、楽になるかも知れませんよ?」
「・・・そうだな」
 私が笑顔でベンチの横の席に座り剣持君の目を見ながら言うと、剣持君は頬を少し赤くしながら頷く。ふっ。私はこれでも容姿には自信がある。美少女に笑いかけられれば男はすぐに堕ちる!!いや、それは流石に自意識過剰が過ぎる。反省反省。
「俺さ、怪我したんだよ。腕」
 剣持君の腕をよく見るとギプスが巻かれていた。こんな状態で自転車を運転するとは、ぶつかったのは私のせいだけではないのでは?
「そんで、医者にもう剣道は出来ないかもって、言われた」
「・・・そうですか」
「俺、剣道しかやってこなかったんだ。親父が剣道の道場やっててさ。ちっちゃい頃から剣道剣道。いつしか俺も剣道の事しか頭に無かった」
 自分の過去を楽しそうに、しかし何処か寂しそうに話す剣持君の言葉を私は静かに聞く。
「そんで剣道して、大学の推薦も貰って。剣道しててよかったって思った!だけど、車にぶつかられて、腕をやっちまった」
 そういえば新聞で読んだ。この街で酔っ払いが車を運転して事故を起こしたと。被害者は高校生の少年と言われていたが、まさか剣持君だったとは。
「恨んだぜ。なんで酔っ払いなんかのせいで、俺の腕が使いもんにならなくなったのかっ、てな。そんで、恨んで恨んで恨み抜いて!どうでも良くなった」
「だから、死のうと?」
「ああ。俺にとって剣道は全てだった。大学の推薦も、剣道が無かったら消える。勉強時間も剣道に注ぎ込んでたから、真面目に勉強した所で受かる大学もねえしな」
 悲しそうな顔で笑う剣持君は、今にも泣きそうな顔をしていた。
「なんで、なんで俺だったんだよ。あんな酔っ払いのせいで」
「ええ。そうですね。貴方の運命を壊したのはその酔っ払いです」
 泣きそう、ではなく大粒の涙を流し始めた剣持君に、私は優しく言葉を送る。
「しかし、そんな酔っ払いの為に、貴方が命を落とす必要はありません」
「え?」
「だってムカつきませんか!?酔っ払いのせいで人生めちゃくちゃになって死ぬって!!最悪ですよ!私だったら酔っ払いを思い切り殴ってやります!」
 何もない所で「シュッシュ!」と言いながら拳を振るう。シャドウボクシング、と言うやつだろうか。
「いや、腕やったから殴れねえし」
「なら蹴りです!盛大なる回し蹴りをっ!ってうわぁ!」
「あぁ!?こらバカ!」
 足を高く上げて空想上の酔っ払いの顔に蹴りを入れてやった後、バランスを崩して転びそうになる。しかし剣持君がギプスをしていない方の腕で支えてくれたので、なんとか体制を立て直した。
「危なかった。危うく私まで酔っ払いに運命を変えられる所でした」
「っぷ。アハハハハハハハ!!」
 赤面する私を見て剣持君が大声で笑う。人の失敗を見て笑うなど、なんと、なんと礼儀知らずな!
「いや、悪りぃ悪りぃ!浦部って面白えんだな!!」
 涙を拭きながらも剣持君はまだ笑っている。そんなに、そんなに可笑しかったか剣持よ。
「おほん!まぁ、それは一旦置いておいて。運命は変わります。人の些細な行いで人の運命は容易く変わってしまうのです」
 運命は変わる。故に私の占いを受けたからと言って必ずしも幸せになるとは限らない。しかし。
「でも、だからと言って人生を諦める必要などありません。一つの幸福を失ったとしても、数えきれない程の幸福が人生にはあるのですから」
「数えきれない、幸福」
「はい!」
 私の言葉を復唱して剣持君が何かを考え込む。そして数秒後に口を開いた。
「俺、甘いものが好きなんだ。でも今までは体重キープの為に控えてて」
「いっぱい食べましょう!私もコンビニスイーツとか新作が出る度に買っちゃいます!」
「恋愛って、あんまり出来なくて。初めての彼女も剣道優先し過ぎてて一週間で振られたし」
「最高の彼女を見つけましょう!それで前の彼女より幸せになって、俺は幸せだぞ!って所を見せつけてやりましょうよ!」
 剣持君はまだまだ話した。読みたい本。行ってみたかった場所。食べたかったお店。それはもう数え切れない程の「幸福」を感じる為の出来事を、彼は話した。
「はぁ、はぁ、はぁ!話疲れた!こんなに話したの初めてだぜ」
「ふぅ、ふう。それは、良かったですね!これも幸福の一種ですよ?」
 気がつけばもう時刻は六時。かれこれ二時間近く剣持君とやりたい事の話で盛り上がってしまっていた。
「なぁ、浦部」
「なんです?」
「俺、自殺するの辞めるわ。本気でリハビリに取り組んで、それでもダメなら。大学入試の為に勉強する」
 そう語った剣持君の顔は、数時間前とは打って変わって実に生き生きとしていた。
「ええ、応援していますよ」
「おう!そういえば浦部はなんかやりたい事あんの?やっぱ占い?」
「え?いや、そうですね。父が占い屋敷を用意してくれたのですが、ぶっちゃけ悩んでいまして。なんか人の運命を覗き見るとか、失礼というか、ズルくないですか!?」
 突然の自分の話題に少しキョドリながら私は剣持君に問いを投げかける。その答えは。
「何で?それがお前の生まれ持つ才能なんだろ?それを使う事のどこかズルいんだよ」
 剣持君は、真っ直ぐな曇りのない瞳でこちらを見ていた。
「あ」
 そうだ。剣持君の言う通りだ。誰にでも出来る事ではない。だからズルいのではなく、だからこそ、私がやらなければならないのだ。更に言えば、誰かの運命を変える、という事に。私は充実感と達成感を今までにない程に感じていた。
  ◇
「じゃあ、高校を卒業したらお父様の作ってくれた占い屋で働くんだね?」
 翌日。進路指導にして担任の小林先生に私は時間を作ってもらった。
「はい」
「自分で決めた事、なんだね?お父様とか、友達に言われた事じゃないんだね?」
「勿論です。自分で考え、自分で導き出した答えです!」
 私の答えを聞くと小松先生は嬉しそうに微笑んだ。
「その言葉が聞きたかった。もし占い屋がうまくいかなかった時後悔しない様には、自分で選んだ道ってのが大切になってくるもんね」
「そうですね。まあ、他人に影響は受けましたが」
「いいのいいの!最後に自分で選んだなら!人は生きてる以上誰かに影響を受ける生き物なんだから!」
 小林先生は楽しそうに笑い、缶コーヒーを飲み干す。
「じゃこれで決定。で、いいんだね?」
「はい」
 そうだ。これは私が選んだ道。私のこの能力で、人の運命を覗き、今を生きる人々の力になる。
「これが運命です!」
 
 完
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