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袋の鼠
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一進一退の攻防が繰り広げられる一方、王都ロームルスは容易ならない事態に見舞われていた。
「大通りに出現した魔物は、予備軍で対応中──」
「北門周辺にも魔物発生、王都内への侵入を──」
ロームルス城、謁見の間に緊迫した声が響く。
魔物発生の報告を受け、大臣や貴族、そしてエリッサは動揺を隠せない。特に貴族達は取り乱し、不安のあまり膝から崩れ落ちる始末。そんな中ゼノン王だけは、微塵も動じていなかった。
「魔物の種類と数は?」
「はっ……ウフルとサーペント、数はニ十匹前後です!」
「ならば予備軍で対応可能だ、念のため城の警備兵を増援に向かわせよう」
どうやら問題なく撃退可能であると分かり、狼狽えていた貴族達は安堵のあまり膝から崩れ落ちる。まったく情けない体たらくだが、ゼノン王をはじめ誰も気に留めていないよう。
「……ところでルードルフよ、この状況をどう思う?」
「非常に望ましくない状況かと」
「本当にそう思うか?」
「ええもちろん、なぜそのような質問を?」
「ふっ……下手な演技は止せ、魔物の侵入はお前の手引きだろう」
「……は?」
「「「「「?」」」」」
誰しもゼノン王の唐突な発言に困惑する傍ら、エリッサだけは言葉の意味を理解し青ざめていた。
「それってまさか、ルードルフはガレウス邪教団……!?」
「その通りだエリッサ王女、そこのルードルフは魔人だ」
「「「「「!?」」」」」
「いきなり何を言うのです!? 私は魔人ではありません!」
「本気でルードルフの皮を被りたければ、俺のことを“ゼノン王”ではなく“陛下”と呼ぶことだ」
「……っ」
「皮を被る、ということは偽者? まさか以前に私を操っていた、えっと……魔人アソックルの仕業なの?」
「そうだ、ルードルフは魔人アホッツルに操られている」
「く……クフフッ、私の名はラドックスですよ。いやはや、まさか見抜かれていようとは」
ついに正体を現したラドックスは、秘めていた魔力を一気に解き放つ。身震いするほど悍ましい魔力、だが相変わらずゼノン王は動じない。
「エリッサ王女来訪の少し前から、魔人の支配下にあったろう。下手な演技の相手をさせられて、何度も笑いそうになった」
「ほほう、私の侵入を知りながら放置していたと?」
「懐へ飛び込んできた鼠を、利用しない手はないだろう」
最上位魔人を相手に僅かも揺るがない胆力、息苦しさを覚えるほどの威圧感。普段のゼノン王とはまるで別人、ウルリカ様やアンナマリアに引けを取らない凄みである。
「精神侵食の魔法を知った時は、その厄介さに戦慄したものだ。ところが幸いなことに、お前はルードルフを操り俺に近づいてきた」
「私の魔法に戦慄しておきながら幸いとは?」
「どこに潜んでいるか分からないからこそ恐ろしいのだ、正体の知れた侵入者は恐るるに足りん。俺は信頼に足る者達へと協力を仰ぎ、お前の魔法を解析してもらった」
「私の魔法を解析? 私に気づかれることなく? バカな、そんなことは不可能です!」
「そうは言うが気づかなかったろう? 精神侵食の仕組み、防衛手段、解除する方法、支配下にあるらしき人物の特定、いずれも短期間ながら完璧に遂行してくれた。ノイマン学長とクリスティーナには感謝だな」
エリッサ王女の来訪より前、すなわちラドックスの存在を知る以前から、ゼノン王はルードルフに違和感を感じていたという。その上でラドックスを放置、対策を練っていたというのだから驚きである。
「なるほど……クリスティーナ王女に悉く精神侵食を解除された理由、こうも対策されていたと考えれば合点がいきます」
「その口振り、さてはクリスティーナにしてやられたか?」
「見事に踊らされましたよ……しかし私の失態は取るに足らぬ些事、なぜなら既に邪神ガレウス様は復か──」
「ぬぅおおおおっ!!」
どこからともなく轟く雄叫び、と同時に扉を蹴破りアルフレッド登場である。あまりにも衝撃的な登場のせいで、もはや誰もラドックスの話を聞いていない。
「一大事です父上、城内に魔人が侵入しております!」
「落ちつけアルフレッド、魔人は目の前にいる」
「そうでしたか目の前に……まっ、魔人は目の前!? しかし目の前にはルードルフしか、いやこの魔力は……」
大騒ぎしていたかと思いきや、次の瞬間には状況を判断している。ゼノン王の血を引くだけあって、流石の冷静さと判断能力といえよう。
「アルフレッド王子だと!? 早すぎる、どうやって戦場からここまで……」
「この卑しい魔力は、なるほどルードルフを操っているのか。それはそうと魔人、よくぞ聞いてくれた!」
アルフレッドは興奮した様子で、輝く腕輪を自慢気に見せびらかす。学園祭の終わりにウルリカ様から貰った腕輪だ、何やらキラキラと魔力を発散している。
「馬を走らせている途中、突如としてウルウルから授かりし腕輪が輝いたのです! と同時に我が身は、尊き愛の力で満たされたのです!」
「と、尊き愛!?」
「愛の力は留まるところを知らず、私は突き動かされるままに走りました……そして気づけば王都に辿り着いていたのです!」
「まさかアルフレッド、戦場から走ったのか?」
「その通りです、しかしながら一切の疲れを感じない! これこそ愛の力、ウルウルの愛を痛いほど感じるぅ……っ!」
腕輪にはウルリカ様とアンナマリアの魔力が籠められている、その魔力により瞬間的に力を得たということだろう。つまり愛の力は関係ないのだが、それにしても戦場から王都まで走ったとは驚きだ。
「愛の力だと、まったく意味が分からん……」
「それはそうと魔人よ、困惑する前に自分の心配をするべきだ」
ゼノン王は玉座を離れる、と同時にアルフレッドは抜剣しラドックスの退路を塞ぐ。
「袋の鼠だな……さて、ルードルフを解放してもらうぞ」
「大通りに出現した魔物は、予備軍で対応中──」
「北門周辺にも魔物発生、王都内への侵入を──」
ロームルス城、謁見の間に緊迫した声が響く。
魔物発生の報告を受け、大臣や貴族、そしてエリッサは動揺を隠せない。特に貴族達は取り乱し、不安のあまり膝から崩れ落ちる始末。そんな中ゼノン王だけは、微塵も動じていなかった。
「魔物の種類と数は?」
「はっ……ウフルとサーペント、数はニ十匹前後です!」
「ならば予備軍で対応可能だ、念のため城の警備兵を増援に向かわせよう」
どうやら問題なく撃退可能であると分かり、狼狽えていた貴族達は安堵のあまり膝から崩れ落ちる。まったく情けない体たらくだが、ゼノン王をはじめ誰も気に留めていないよう。
「……ところでルードルフよ、この状況をどう思う?」
「非常に望ましくない状況かと」
「本当にそう思うか?」
「ええもちろん、なぜそのような質問を?」
「ふっ……下手な演技は止せ、魔物の侵入はお前の手引きだろう」
「……は?」
「「「「「?」」」」」
誰しもゼノン王の唐突な発言に困惑する傍ら、エリッサだけは言葉の意味を理解し青ざめていた。
「それってまさか、ルードルフはガレウス邪教団……!?」
「その通りだエリッサ王女、そこのルードルフは魔人だ」
「「「「「!?」」」」」
「いきなり何を言うのです!? 私は魔人ではありません!」
「本気でルードルフの皮を被りたければ、俺のことを“ゼノン王”ではなく“陛下”と呼ぶことだ」
「……っ」
「皮を被る、ということは偽者? まさか以前に私を操っていた、えっと……魔人アソックルの仕業なの?」
「そうだ、ルードルフは魔人アホッツルに操られている」
「く……クフフッ、私の名はラドックスですよ。いやはや、まさか見抜かれていようとは」
ついに正体を現したラドックスは、秘めていた魔力を一気に解き放つ。身震いするほど悍ましい魔力、だが相変わらずゼノン王は動じない。
「エリッサ王女来訪の少し前から、魔人の支配下にあったろう。下手な演技の相手をさせられて、何度も笑いそうになった」
「ほほう、私の侵入を知りながら放置していたと?」
「懐へ飛び込んできた鼠を、利用しない手はないだろう」
最上位魔人を相手に僅かも揺るがない胆力、息苦しさを覚えるほどの威圧感。普段のゼノン王とはまるで別人、ウルリカ様やアンナマリアに引けを取らない凄みである。
「精神侵食の魔法を知った時は、その厄介さに戦慄したものだ。ところが幸いなことに、お前はルードルフを操り俺に近づいてきた」
「私の魔法に戦慄しておきながら幸いとは?」
「どこに潜んでいるか分からないからこそ恐ろしいのだ、正体の知れた侵入者は恐るるに足りん。俺は信頼に足る者達へと協力を仰ぎ、お前の魔法を解析してもらった」
「私の魔法を解析? 私に気づかれることなく? バカな、そんなことは不可能です!」
「そうは言うが気づかなかったろう? 精神侵食の仕組み、防衛手段、解除する方法、支配下にあるらしき人物の特定、いずれも短期間ながら完璧に遂行してくれた。ノイマン学長とクリスティーナには感謝だな」
エリッサ王女の来訪より前、すなわちラドックスの存在を知る以前から、ゼノン王はルードルフに違和感を感じていたという。その上でラドックスを放置、対策を練っていたというのだから驚きである。
「なるほど……クリスティーナ王女に悉く精神侵食を解除された理由、こうも対策されていたと考えれば合点がいきます」
「その口振り、さてはクリスティーナにしてやられたか?」
「見事に踊らされましたよ……しかし私の失態は取るに足らぬ些事、なぜなら既に邪神ガレウス様は復か──」
「ぬぅおおおおっ!!」
どこからともなく轟く雄叫び、と同時に扉を蹴破りアルフレッド登場である。あまりにも衝撃的な登場のせいで、もはや誰もラドックスの話を聞いていない。
「一大事です父上、城内に魔人が侵入しております!」
「落ちつけアルフレッド、魔人は目の前にいる」
「そうでしたか目の前に……まっ、魔人は目の前!? しかし目の前にはルードルフしか、いやこの魔力は……」
大騒ぎしていたかと思いきや、次の瞬間には状況を判断している。ゼノン王の血を引くだけあって、流石の冷静さと判断能力といえよう。
「アルフレッド王子だと!? 早すぎる、どうやって戦場からここまで……」
「この卑しい魔力は、なるほどルードルフを操っているのか。それはそうと魔人、よくぞ聞いてくれた!」
アルフレッドは興奮した様子で、輝く腕輪を自慢気に見せびらかす。学園祭の終わりにウルリカ様から貰った腕輪だ、何やらキラキラと魔力を発散している。
「馬を走らせている途中、突如としてウルウルから授かりし腕輪が輝いたのです! と同時に我が身は、尊き愛の力で満たされたのです!」
「と、尊き愛!?」
「愛の力は留まるところを知らず、私は突き動かされるままに走りました……そして気づけば王都に辿り着いていたのです!」
「まさかアルフレッド、戦場から走ったのか?」
「その通りです、しかしながら一切の疲れを感じない! これこそ愛の力、ウルウルの愛を痛いほど感じるぅ……っ!」
腕輪にはウルリカ様とアンナマリアの魔力が籠められている、その魔力により瞬間的に力を得たということだろう。つまり愛の力は関係ないのだが、それにしても戦場から王都まで走ったとは驚きだ。
「愛の力だと、まったく意味が分からん……」
「それはそうと魔人よ、困惑する前に自分の心配をするべきだ」
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