私の居場所を見つけてください。

葉方萌生

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第四章 友との約束

◾️九月七日日曜日Ⅲ

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ひとみさん

初めまして。突然のメッセージ失礼いたします。
私は、心霊系YouTuberをしているヤミコと申します。
『ヨミの国チャンネル』というチャンネル名で、主に心霊系の動画をアップしています。
普段は自分で心霊スポットを探したり視聴者から寄せられたお便りをもとに、いわくつきの場所を訪れたりする企画をやっております。
八月二十一日にアップした動画「岩手県某市にあった“清葉病院”を知っていますか?」に、ご友人と思われる“シンちゃん”からのお便りを読み上げさせていただきました。
そこで、“シンちゃん”からご紹介にあずかった清葉病院に行ってみたのですが、ちょっとお話するのが憚られるほど強い怨念のこもった場所のように感じます。
実は私もその場所に潜む何かに取り憑かれてるようです。
こんな話、突然されてもお困りのこととは承知ですが、“シンちゃん”のXでのポストが不穏なかたちで途切れているのが気になってしまい、ご友人らしきひとみさんに、メッセージを差し上げました。
不躾な質問で恐縮ですが、“シンちゃん”について何かご存知のことはないでしょうか?
念のため、私のYouTubeチャンネルと八月二十一日の動画のリンクを送っておきます。
ご返信くださいますと幸いです。

ヤミコ
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 正直なところ、返信は来ないと思っていた。
 返信どころか読まれることすらないんじゃないかって。私もよく見ず知らずのアカウントからDMが送られてくることがあるが、大抵は詐欺っぽい内容のものなのでスルーしている。

 が、三十分後。
 予想に反して『ひとみ』さんから返信があった。
 逸る気持ちを抑えて彼女のDMを開く。
 そこに綴られていたのは、信じられない事実だった。

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ヤミコさん

初めまして。
メッセージをくださいまして、ありがとうございます。
シンちゃんは私の高校時代からの友人にあたります。
『ヨミの国チャンネル』は初めて聞きましたが、確かシンちゃんがそういった類の動画にはまっていると教えてくれたことがあります。送ってくださった動画を拝見して、ヤミコさんのことだと分かりました。

それで、本題のシンちゃんの件ですが……。
実は、メッセージを差し上げようか迷いました。
でも、ヤミコさん自身が何かに取り憑かれているとのことで、やはりお伝えしておいたほうがよいかと思い、こうして返信をすることにしました。

シンちゃんですが、先日、八月三十一日に亡くなりました。
お通夜やお葬式には私も参列しました。
シンちゃん——彼女は、病歴など特になく健康なひとでした。
亡くなったのは自宅の部屋で、お腹を抱えるようにして息絶えていたそうです。
直接の原因は心不全のようですが、健康体の彼女がなぜ心不全になってしまったのか、今もまだ分かっていません。
私の見解では……はやり、彼女がヤミコさんに伝えた清葉病院が関係しているのではないかと考えます。
オカルト的な現象を完全に信じているわけではないですが、そうとしか言いようがないのです。彼女の死はあまりにも不自然で、私にとっても受け入れられない現実です。同じ教室の中で青春時代を過ごした彼女がどうしてこんなことに……。

大学生になり、彼女とはしばらく連絡をとっていませんでしたが、九月に入ったら一緒に旅行に行こうと約束までしていました。
だから今でも彼女がいなくなったという現実が、どうしても信じられなくて。

ヤミコさんがシンちゃんの二の舞にならないように、もし可能ならお祓いなど行かれたほうが良いかと思います。

長々とすみません。
ヤミコさんのご無事を祈っております。
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「うそ……」

 自分がいったい何を読んでいるのか、途中から分からなくなるほどの衝撃に目が眩んだ。
 ひとみさんの話によると、“シンちゃん”は女性で、しかもすでに亡くなっていた。
 お便りでは「男性は産婦人科に入れない」と書かれていたし、一人称が「僕」になっていたのでてっきり男性かと思っていたが違ったのだ。身バレを防ぐためだと考えれば分からないことはない。彼女はお便りであえて自分が男性であるかのように表現していた。
 亡くなっていたことだけでも十分衝撃的なのだが、「お腹を抱えるようにして息絶えていた」というところも引っかかる。まるで、そこに何かが棲みついていた・・・・・・・・・・のではないかと疑わせる亡くなり方だ。

「“シンちゃん”も、もしかしたら……」

 妊娠していた……?
 今の私と同じように。
 そんな彼女が、もと産婦人科である清葉病院を訪れて怪異に巻き込まれた。あそこには間違いなく、赤ん坊の霊が漂っている。“シンちゃん”の亡くなり方からして、彼女が妊娠していた可能性は高い。そうでなくとも、お腹を抱えるようにして亡くなっていたということは、やっぱりそこに“何か”が取り憑いていたと考えるべきか。
 だとすれば、私も……。
 自分のお腹に手を当ててさする。子どもができたかもしれないと思い至ってから、何度もしてきた仕草だ。緊張やプレッシャーを感じると鈍く痛み出す。
 今も、ジクジクジクジク、と傷口に塩を塗られたみたいに痛みが増していっている。
 お腹を抱えてうずくまる。痛みが強い。息が苦しい。どうしよう。救急車を呼ぶ? でも、この痛みが本物・・なのか、怪異・・によるものなのか分からなくて、状況をうまく答えられる気がしない。もしかしたらこの痛み自体が私の幻想ではないかという錯覚に陥った。
 額に汗が滲む。生理痛がひどいときと同じ、腹部を締め付けられるような痛みに呻くことしかできない。
 私も……死ぬのかな。
 “シンちゃん”と同じように。
 あの白い顔に取り憑かれて。

 ワタシ……ハ……ドコ……。

 耳元で微かな吐息と共に、あのセリフが聞こえる。自分がどこにいるのかを、自分で分からないなんてどうかしている。ずっとそう思っていた。でもこのセリフは、もしかしたら……。
 テーブルの上のコップを手に取ろうと、震える手を伸ばしかけた時だ。
 バッと、誰かに右手首を掴まれた。自分の手首を掴むその手は小さく、子どもようだ。だが、あまりにも青白く、血が通っていないように見える。口から声にならない悲鳴が漏れる。青白い手は、手首より先が千切れていて、まさに“手”だけしかなかった。確実にこの世のものではないと分かる。頭が混乱する。喉がカラカラで、ひゅうひゅうという乾いた息が口から溢れるばかり。

「タス……ケテ……」
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