となりの京町家書店にはあやかし黒猫がいる!

葉方萌生

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第二話 三つ葉書店の大躍進

ちょうど良い差

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 十五分ほど待って、母が二人分の『湯葉とじそば』を運んできた。途端、周囲に立ちこめる、その場の空気を包み込むような柔らかい出汁の匂いに、詩文さんが息をのんだのが分かった。

「うわあ、美味しそうですね」

『湯葉とじそば』を見た彼が呟く。あんかけベースの出汁を卵でとじて、その上に三つ葉とかまぼこ、湯葉をトッピングしたメニューだ。肌寒い今の季節に特に人気で、女性客からの支持が熱い。もちろん、男性客にも満足してもらえるボリュームだ。

「当店自慢の看板メニューです。どうぞ、召し上がれ~」

 鼻歌混じりの母が詩文さんの目を見つめながら言った。もうお母さん、完全に詩文さんの虜になってるじゃないの。

「はいっ、いただきますっ!」

 左右の長い指を綺麗に重ねるようにして手を合わせ、詩文さんはそばを食べ始めた。私も同じようにそばを啜る。何度食べても飽きないトロトロとした食感に、生姜の効いた出汁が疲れた身に染みる。三つ葉がいいアクセントになっていて、鼻から抜ける独特な香りもまたいい。こしのある湯葉の食感が、京都人である私の大好物だった。

「うわ~美味しいです! これ、生姜が入ってるんですね。出汁も甘くて最高です」

 くうう、と唸り声が聞こえてきそうなぐらいの勢いで、詩文さんがそばを噛み締める。あんまり美味しそうに食べるから、自分がそばを啜るお箸を止めて、しばらく詩文さんに見入ってしまった。
 こんなふうに目の前で、自分が出した(正確には母だけれど)料理を食べてくれるなんて最高だな。
 しかもそれが、誰もが認めるイケメンときた。
 胸が高鳴らないはずがない。

「お口に合って嬉しいです。都会の方には薄味かなって不安になることがあるので」

「いえいえ、とんでもないですよ! この柔らかい出汁の味がたまらなくいいです。優しくて、あったかい気持ちになれます」

 そう言って、詩文さんはみるみるうちにそばを平らげていった。あんかけ汁なのでかなりお腹に溜まるはずだが、そんなことものともせずに平気で出汁まで全部啜っていく。その様子を見ているとこちらまで清々しい気分にさせられた。

「ぷはー! 美味しかった。こんなに美味しいそばを食べたのは、二十八年間生きてきて初めてです」

「ごちそうさまでした」と再びきちんと手を合わせて、ぺこりと頭を下げる詩文さん。私は今日初めて、詩文さんが二十八歳なのだということを知る。
 私より四歳年上かあ……。
 歳の差的にはすごくちょうど良い。年下や同級生の男の子より、年上の男性に憧れがあるし。
 ……って、今私、何考えてた!?

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